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横書き日本語の普及に伴い,句読点をどうするかについて,お役所が指針やガイドラインを出したのは,たぶんワープロの普及以後でしょう.しかし,もっと以前に,横書き日本語を採用することで,たぶん句読点について悩んだのでは? と思う分野がある.理系の学術論文だ.
古い大学の図書館に行けば,古い学術誌を見ることができる.私が調べたのは「動物学雑誌」と,「電気化学」だ.
「動物学雑誌」は 36 巻( 1924 年)まではタテ書きだ.しかし第 37 巻( 1925 年)から横書きになる.句読点はテンとマル.これが第 43 巻( 1931 年)まで続く.そして第 44 巻( 1932 年)以後はコンマとマルになっている.この雑誌は 1984 年以後は「 Zoological Science 」と名称を変えて,英語のみの雑誌となった.
「電気化学」は最初から横書きだったらしい.私が調べた範囲では,第9巻( 1941 年)まではコンマとマルが採用されている.そして第 10 巻( 1942 年)以後はコンマとピリオドになっている.
「動物学雑誌」はタテ書き主体でも,あまり困らなかった.しかし,やはり横書きのほうが良いということになった.それに伴ってテンを廃止し,コンマを採用した.しかしマルのほうは昔のまま維持した.と解釈できます.
「電気化学」のほうは,この分野で頻出する外国語や数式に対応するために,当初から横書きを採用し,コンマを採用.しかし 1942 年以後は,マルを廃止してピリオドに変えた.この変更の理由はわからないけれど,マルよりもピリオドのほうが良いという判断があったのでないでしょうか.
お役所の指針に話をもどすと,今はコンマとマルが指示されている.つまり 1932 年以後の「動物学雑誌」や, 1941 年までの「電気化学」と同じ判断がされている.時代が進めば,お役所も 1942 年の「電気化学」と同じ判断を採用するかもしれません.
手元の横書き本を調べてみてください.テンとマルを採用しているものが多いでしょう.しかしコンマとマルになっているものも,けっこう多い.コンマとピリオドを採用しているものは少ないけれど,非常に稀な例外というわけではないし,「普通ではない」とも思えない.
ある右翼系の人によると,コンマとピリオドを使うのは,「 WGIP に染まり,日本の伝統文化を否定する東大の左巻き系輩」だそうです.しかし,学術誌がコンマやピリオドを採用したのは戦後ではないし,採用した人たちは「 戦後 WGIP 」とは無関係です.むしろマルとテンを「日本の伝統文化」と呼んでそれに理由もなく固執する右翼の内向き思考こそが,日本語の表記法を束縛し,ひいては日本文化の発展を妨げているのでないでしょうか.
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