売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2026.05.12
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カテゴリ: ファッション
日頃からファッションデザイン系のネット検索をしているからでしょうか、ここ数日私のFacebookや Instagramには今年のMET(メトロポリタン美術館)コスチューム・インスティテュート(服飾研究所)のガラパーティー関連情報が嫌と言うほど大量に頻繁に入ってきます。正直、ちょっとお腹いっぱい。


メトロポリタン美術館

有名な音楽界、映画界、スポーツ界のスターたちが主にビッグメゾンの特別仕様ドレスとラグジュアリー宝飾ブランドの高価なジュエリーを身につけて登場、エントランスでは多数のカメラマンが撮影、写真や映像と共に絶賛する記事、皮肉る記事が世界各国に配信されます。それを受けて一般のネットユーザーがそれぞれSNSに勝手にアップしますから、広告換算すればとんでもない価値あるファッションイベントと言えます。

今年が例年とちょっと違うのは、アマゾン創業者のジェフ・ペゾス、ローレン・サンチェス夫妻が多額の寄付をして「名誉共同議長」に名を連ねたこと、それによって生じた波風ではないでしょうか。「文化、芸術の領域に莫大な資本力で介入している」という論調がかなり多いように感じます。ペゾス氏が離婚後にテレビなどで名をなしたローレン夫人と5千万ドル(70億円余)かけて大規模結婚式をイタリアで挙げたことも批判の背景にあるのかもしれません。多額寄付をする名誉共同議長夫人なのに彼女のドレス姿をアップするメディアは非常に少ないように感じます。


ローレン・サンチェスさん

公式共同議長は、このイベントの顔とも言うべきアメリカンヴォーグ元編集長で映画「プラダを着た悪魔」のモデルとされるアナ・ウィンターのほかに、映画界からニコール・キッドマン、音楽界からビヨンセ、スポーツ界からはテニスのヴィーナス・ウィリアムズの4人、バランスをとった人選なのでしょう。ほかにも名誉職として共同委員長が数人いるようですが、みなさんそれぞれ華麗なドレスでカメラにおさまりネットに次々アップされています。

ニューヨークのファッション界を象徴する美の祭典のはずなんですが、近年ネットを見る限り仮装大会のような印象、中には単なる露出狂のお披露目パーティーなのかと言いたくなる有名人も過去何人もいました。が、今年のドレスコードが「Fashion Is Art」だったからか例年より露出姿は少なかったかもしれません。

そもそもMETガラは服飾研究所の活動資金集めのため第2次世界大戦後1948年に始まりました。音頭をとったのはファッション関係のパブリックリレーションズの草分けエレノア・ランバート女史です。当初のチケット料金は50ドル、いくら貨幣価値が違うと言っても現在の3万ドルと比較すればかなり格安でした。


ダイアン・ヴリーランドさん

そして、ヴォーグ誌やハーパーズバザー誌で編集長として活躍したダイアン・ヴリーランド女史がMET服飾研究所のコンサルタントに就任した1972年、METガラはニューヨーク社交界を代表する華麗なイベントになりました。研究所がたくさんの収集物をオークションで購入したり、ファッションデザインを顕彰する大規模展覧会を開催するための資金集めが開催趣旨でした。この頃からガラの社会的注目度は上がり、ニューヨーク社交界の頂点となりました。

1995年にアナ・ウィンター編集長が服飾研究所の所長に就任してからはよりセレブ感が増し、映画界のアカデミー賞授賞式並みに華やかな衣裳を纏ってセレブがレッドカーペットを歩く全世界注目イベントになりました。寄付金も2億ドルを超えているそうですから、ウィンター女史の果たした役割はかなり大きいと言えます。

ダイアン・ヴィリーランド女史が監修した「インベンティブクローズ 1909〜1939展」が開催されたのが就任の翌年1973年でした。おそらくMET服飾研究所の歴史に残る内容が充実した展覧会だったと思います。

同展を現地で視察して感動した三宅一生さんは京都商工会議所の副会頭兼ファッション委員会委員長に就任したワコール創業者塚本幸一さん(のちに会頭)に京都開催を提案、ヴリーランド女史らMET側と交渉を開始しました。2年後の1975年、日本語タイトル「現代衣服の源流展」が京都国立近代美術館で開催されました。「三宅さんが素晴らしい展覧会だからやれやれと言うのでやったんだよ」、後年塚本さんから直接伺った話です。

この京都開催展覧会は私の人生を変えました。1930年代に創作された「ドレープの女王」マドレーヌ・ヴィオネのドレス、接近して見れば高価なオートクチュールなのにステッチが歪んでる。生地は劣化して悪く言えば美しいとは言えない代物。だが、展示室を出るとき遠くから見れば彫刻作品のような美しさと力強さがありました。大袈裟に言えばヴィオネのドレスは私を呼び止めました。


現代衣服の源流展ポスター

接近してドレスを見ると古びた服、離れて見ると彫刻作品、この落差の中にファッションデザインの奥の深さがあるのかもしれない、男子一生の仕事としてファッションやってみるか、とここで腹が決まりました。三宅さんと塚本さんの尽力で開催された展覧会が大学生だった私の人生を決めたのです。わが人生の転機となった展覧会はMETガラで集める資金があるから実現し、京都でも開催されたから学生の私は見ることができました。


京都開催の後、ワコールは京都服飾文化研究財団を設立、各国のオークションで多くの歴史的衣裳を購入、当時フランスのルーブル美術館でさえできなかった「華麗な革命展」(1989年開催。ナポレオンのフランス革命以前と以後の衣生活の大きな変化を顕彰)や「モードのジャポニスム展」(1996年開催。日本のキモノがパリオートクチュール黄金期のデザインにいかに影響を及ぼしていたかを顕彰)などファッション界には重要な展覧会を開きました。とりわけ「華麗な革命展」は視察したルーブル美術館キュレーターがルーブルでの開催を要請、パリ市民は日本側が監修したフランス衣生活変化を見ることができたのです。


マイケルコースを着たアン・ハサウェイ

話は戻って今年のMETガラ。カメラにおさまった有名ゲストの多くはサンローラン、ディオール、シャネル、グッチなど人気ヨーロッパブランドに提供された服を纏っていましたが、その中で個人的に品があって素敵だなあと思ったのは映画「プラダを着た悪魔2」が公開されたばかりの女優アン・ハサウェイ。彼女は米国デザイナーのマイケルコースの黒いドレスを着ていました。ニューヨークで開催されるファッションの祭典でゲストのほとんどがパリ、ミラノのブランドではあまりに情けないと思います。

GAPの仕事をしているザック・ポーセンの特注ドレス(GAPスタジオ制作)を着たトップモデルのケンダル・ジェンナーやラルフローレン、マークジェイコブスを着用したゲストも中にはいましたが、ニューヨークコレクションで毎回新作発表している米国デザイナーにはMETガラでそのデザインが話題になるようもっと頑張って欲しいですね。





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Last updated  2026.05.13 02:23:56


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