Accel

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February 2, 2013
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 アモは、やや、袋から後ずさりしたが、少しだけ呼吸を整えた。
「だ、大丈夫か?
 ええと、安心しろ、まずは口のその紐を切るから・・」
 アモは、袋から少しはみ出た女の子の髪の毛が手に触れるのを感じた。

 少女の口には、黒くて、なんだか蛇みたいな感じの、ぐにゃりとした紐が、巻かれている・・・
 かなりきつく縛ってあるようだ。
 アモは、自らの剣で、その紐を切った。
 紐は、ノタリと両脇に垂れ下がり、なんだか震えているように見えた・・・

 アモは、袋を更に切り裂こうと、切り裂き口に剣を当てた。

 少女が叫んだ!
 アモは、驚いて、少女の顔をまともに見てしまった。
 自分と同じ位の年頃で・・・赤茶色の髪に囲まれた顔は、泣きじゃくって赤くなっていた。
 アモは、ちょっと肩をすくめながら、少女をなだめた。

「大丈夫だってば・・
 袋を切るだけだから・・」
 そう言いつつ、剣を袋になぞらせる・・・

「ま!待って!お願い!!!!」
 また少女が叫んだ!
 アモの手が再び止まった。
「あ、あたし、その・・・」

 そこで、ようやくアモは、少女が言いたかった事に気が付いた・・・
 やや切り裂かれた袋から、少女の白い肩が覗いている・・・
 服を、着ていない、ようだ・・


「・・・ご、ごめん」
 やっと剣を袋から抜いたアモは、赤くなって、目を逸らしたが・・・

 夜もかなりふけてきている・・・
 あまりアモの帰りが遅ければ、ヘプター夫婦も心配するだろう。
 それに、この少女だって、誰か家族がいるかもしれない・・・

「あ、あのさ、ええと、俺は、ヘプターさんっていう人の所に遊びに来ていたんだよ。
 その家に、ヘプターさんの奥さんがいるんだ。
 きっと、服を貸してくれると思うよ・・・
 一緒に行くかい・・・」
 アモは、少女が返事をしないうちに、彼女の入った袋を担ぎ上げた。
 少女は、小さな悲鳴を上げたが、抵抗はしてこない・・・・
 まだ、泣いているようだった。


 ・・・なんだろう・・・
 あの、黒いのは・・・・。
 剣で切れないどころか、二つに増えるなんて・・・
 それに、あの弓と矢は、どこから・・・


 アモは、少女を担ぎながら、大きな屋敷へと、向かって行った。
 少女は、他に方法がないからだろうか、観念しているらしく、静かだった・・・



「あら、あら・・・アモったら・・・」
 案の定、ヘプターの妻シーヤは、かなり呆れていた。
 どうも、アモが少女を拾ってきたと勘違いしているようだ。
 まあ、そう思われた方が、都合がいいのだが・・・

「まあ、可哀想に・・・こんな格好になって・・
 さあ、奥に。
 私の服は少し大きいかもしれないけれど、好きなのを選んでいいわよ・・・」
 シーヤが、足の部分を切られて袋からやっと足を出した少女を、奥に連れて行った。
 ヘプターは、かなり深く眠りについていた。
 アモは、なにがそんなに疲れたのかな~などと、布張りの椅子に横になるヘプターの顔を覗き込んでいた・・・

 少女は、シーヤの服を着ると、自分の家に戻ると言い出した。
 まあ、まっとうな要望である・・・
 家の者に、こんなに遅くまで帰って来ないのを、心配されているに違いない・・・
「じゃあ、俺送るよ」
 アモは弓の筒を背負った。
「でも・・・」
 少女は、アモとシーヤを見比べた。

 シーヤが優しげに言った。
「お嬢さん・・・
 このアモは、私も今日会ったばかりだけれど、なかなかしっかりしていると思うわよ。
 うちの夫と一緒に城に仕えているの。
 きちんと送り届けてくれるわ、きっと」
 弓の貼り具合を見ているアモの姿を、少女が計るように何度も見つめる・・・
「さ、行くなら早く行こう。
 家の人が待っているんだろう?」
 アモが、少女に笑いかけた。



 月のない夜だった・・・
 風はやや温かい。
 少年と少女が歩いていくと、木々から、夜鳥が鳴き交わす声が聞こえた・・・
「やっぱり、俺は弓なのかなあ・・・」
 少女から少し離れて並んで歩くアモが、独り言のようにつぶやいた。
 あの素晴らしい弓の感覚が、まだ忘れられなかった・・・

「ところで君、あの黒いヤツ!
 あいつのこと知っている・・・?」
 アモは、少女にさりげなくそう聞いた。
 すると、いきなり少女の足が止まる。

「・・?」
 アモも、足を止めた。
 少女が、なにか怖いものを見るような目で、アモを見ている・・・

「あ?あれ?
 なんか、変なこと言った?俺・・・
 あの黒いの・・・
 あんな変なの、俺初めて見たよ」
 と、少女は、口に手を当てて言った。
「あ・・・あなた、誰なの・・・」

「は?」
 今度はアモが驚く番である。
 誰、と言われても・・・
「だ、誰って・・・
 ええと、俺は、アモだよ・・・」
 アモは、急に、恐ろしい思いがこみ上げてきた。
 まさか、ハーギーであることを、この少女に教えなくてはならなくなるのか・・?

「・・そうじゃないわ・・・」
 少女は、やや落ち着いたような顔つきになった。
「”ここらへん”の人なら、みんな知っているわ、黒の者よ、あいつは・・・
 アモは、ここらへんに住んでいるわけじゃないのね・・・」

 そう言われて、ようやくアモも、やや肩をなでおろした。
 そうだったのか。
 この近隣に、あのような物が徘徊していたのか・・・


「って、黒の者って、あいつだけじゃないって事?
 みんなが知っているっていうことは、そういう事だよね・・・」
 アモは、首を捻ってそう言った。
「そうよ・・・」
 少女は、北に歩み始めた。

「どんな奴なの、その黒の者って・・・
 なんだかずいぶん酷い奴じゃないか。
 君をあんな目にあわせて。
 他の人たちも、ああいうふうに、連れ去られているのかい・・・?」
 少女は頷いて言った。
「それだけじゃないわ・・・
 色々な物を盗んだり、人を騙したり、恐ろしい病気にしたり・・・
 とにかくありとあらゆる災難を招くのよ・・・」

 俯き加減の少女の背に、アモはなんと言っていいか、わからなかった・・・
「俺、あいつに切りつけたら、二人に増えた・・・」
「まあ・・・」
 少女が、少しこちらを振り向いた。

「そ・・そういえば・・
 あ、あの、ありがとう・・・」
 少女は、立ち止まると、小さな声でそう言った。
 アモも立ち止まって、頭を掻いた。
「いや?俺は困っている人を助けただけだ・・
 さあ、早く君の家に戻ろう」


 アモが歩き出そうとすると、少女が追いすがるように言った。
「あ、あの、どうやって、あいつをやつけたの・・・」

 アモは、左側の少女を振り向いた。
 少女と視線が合った・・・

 やや、恥ずかしくなって、少し目をそらすと、アモは右手の弓を少し上に上げた。
「俺の力じゃないよ。
 とても素晴らしい、どなたかのお力が、俺の近くにあったんだ・・・」

 アモは歩き出した。
 少女もその後に付いていく・・・

 暫く歩くと、家が数軒建つ広間になった。
「ここで、いいわ・・・」
 少女は、頭を下げて言った。
 アモは、軽く手を振った。
「でも、大丈夫?家の人に怒られない?」
 少女は、軽く笑った。
「時々、この位の時間まで、働くこともあるから・・・」

 少女が背を向けた時、アモは、ついこう言った。
「あ、あの・・
 もしなにか大変な事があったら、俺に言って・・・
 俺はその黒の者と直接渡り合えないかもしれないけれど、もしかしたら少しは・・・」
 少女は、立ち止まった。


「無理よ・・・
 あいつらを、どうこうできないの・・
 あいつらのいいようにされていくのが私達の定めなの・・・」
「定め?」
 アモが思わず大きな声になった!
 少年は、一歩少女の方へと歩んだ。

「定めだって!?」
 アモは、険しい表情になった。
 少女が、恐れるように黒い瞳の少年を見つめた。
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「定めだなんて、そんな馬鹿な話があるか!
 俺らは、自分達で、道を作ったぞ!
 たとえ、どのような大きな者に対してでも、どのような恐ろしい者に対してでも・・
 おかしいと思ったから、俺らは、協力して、あいつを」

 ハッ、とアモは口を噤んだ。
 ハーギーの・・・あの、ハーギーでの事は、”普通の”人に言っては恐れられてしまう・・・
 そう、この近隣では、ハーギーの者は、好んで人を殺し、好んで略奪すると思われている・・・

 アモは、震える手を握った・・・
 そうだ・・・
 今の自分は、この少女にとって、”黒の者”と同じく、恐れるべき対象なのだ・・


 「・・・と、とにかく、なにかあったら教えてね」
 アモは、首を振ってそれだけを言うと・・・
 身を翻して来た道を辿った。
 少女は、黙って少年を見送った。


 赤茶色の髪の少女は、古ぼけた自宅へと戻った。
 父が、戸口に立っていた・・・
「お父さん・・・」
 少女は、なんと言ってごまかそうかと、必死になって考えた。
 が、その時間は無用であった。
「あの少年は?」
 父が、アモの去っていった方に頭を向けてそう言っていた。
「・・・?」
 少女は、父の視線を見た。
「・・・お父さん・・・・」

 少女の父は、再び言った。
「レシア・・・
 会話が聞こえたよ。
 ここまで、な・・・
 あの少年は、ここの少年でなないのだな・・・」

 父が、視線を、娘に・・・落とした・・・
「お父さん・・・目が・・・」
 娘・・・レシアは、父と目を合わせた!

「あの少年。
 なかなかいい事をいうな、レシア・・・」
 父は、娘の肩に、大きな手を置いた・・・・



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Last updated  February 9, 2013 01:02:02 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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