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運営管理という科目の学習は、単に公式や手法を頭に詰め込むだけでは、真の理解には到達しません。製造ラインの稼働率、在庫回転日数、レイアウト設計、IE(Industrial Engineering)手法──これらはすべて“現場の問題を解決するための言語”です。中小企業診断士として企業訪問し、経営者や現場を相手に提案を行う際には、理論的な説明に加えて、「なぜこの手法が最適なのか」を現場の声や状況と結びつけて伝えなければ、現実の改善にはつながりません。
そこで本稿では、運営管理を「自分の武器」として使いこなすために欠かせない二冊を選びました。一冊は、日本のものづくり革新を牽引したトヨタ生産方式の原点を知る名著。もう一冊は、そのトヨタ方式を組織運営と人材育成の視点から体系化し、“なぜ現場改善は継続するのか”を示す教科書的ドキュメントです。両書を読み込むことで、製造現場のムダ排除から、組織文化としての改善活動の定着まで、運営管理の全体像を物語として、肌感覚で理解できるようになります。
トヨタ生産方式が示す「現地現物」の徹底
トヨタ生産方式──それは単に「かんばん方式を導入し、在庫を減らす」という話ではありません。戦後間もない資材不足の中で、品質と納期の両立を迫られたトヨタが、如何にして“ムダ”を定義し、一つずつ取り除いていったのか。そのプロセスこそが、本当の運営管理を学ぶ出発点です。
本書に描かれるのは、組立ラインの一角で発生したわずかな段取り時間のロスを巡る物語です。ある日、出荷予定の車体がラインを離れず、完成車ヤードに山積みになった事実が発覚します。単なる故障かと思いきや、原因は旋盤工程のわずか数ミリの刃物摩耗にありました。通常の工場では、その原因究明に数日を要し、原因が特定されても、同様のロスは再発しがちです。しかし、トヨタでは現地現物の原則に従い、作業者と現場リーダー、品質管理担当者が即座に現場に集結。工具の摩耗状況を目の当たりにし、刃物交換のタイミングを「定期的なメーター制」から「摩耗限界の手触り確認制」へと変える判断を下します。その判断は、一切の書類手続きを待たず、現場の声と視覚情報だけを根拠に行われました。
このエピソードが示すのは、IE手法やQC七つ道具といった統計的手法を用いる以前に、まず「現地現物」の徹底があってこそ、初めて数値に裏付けられた改善が可能になるという真実です。運営管理の試験対策として、単に「工程能力指数の公式を覚える」段階を超え、自分の働く現場や想定企業の工程で、どこにわずかな“ズレ”や“ムラ”が潜んでいるかを、五感で探し出すトレーニングを積むことが肝要です。
The Toyota Wayが明かす「人を動かす改善サイクル」
一方、『The Toyota Way』は、トヨタ方式を単なる生産技術の集積ではなく、「組織と人を動かし続ける文化」として解明した骨太の一冊です。著者ジェフリー・ライカー博士は、トヨタ社内の14原則を「哲学」「プロセス」「人材・パートナー」「問題解決」という四つの視点に分類し、その一つ一つに意味を与えています。
中でも重要なのは、「哲学としての継続的改善(カイゼン)」と「現地現物による問題解決の徹底」です。本書では、あるモデル工場での1枚のボルト緩み事故を巡る一週間の記録が詳細に追われます。問題発生当日、班長はまずラインを止め、全員を集めて現場を確認し、班員からの聞き取りを開始。緩みの原因は作業手順の曖昧さではなく、使用されていたレンチの微妙な適合不良にあったことが判明します。そこから班長は、週明けには新品の工具導入だけでなく、工具管理台帳のデジタル化、さらには全作業員を対象に月次の工具点検会議を恒例化する提案を行い、経営層に承認させました。
このように、「一つの小さな問題」を見逃さず、原因究明から対策実行、そしてさらにその対策効果を検証し、次なる改善に繋げるカイゼンの流れは、QCサークルやPDCAサイクルだけでは語り尽くせません。ライカー博士は、本書で「問題解決はトップダウンとボトムアップの両輪で回すべき」と指摘します。つまり、現場の気づきを経営層に直結させる“双方向コミュニケーション”が、運営管理の最終ゴールなのです。
二冊を読み解くことで見えてくる学習の構図
『トヨタ生産方式』と『The Toyota Way』──この二冊を連続して読み込むと、運営管理の学習は次のような構図を描き始めます。まず、トヨタ生産方式で「ムダの本質」を掴み取り、『The Toyota Way』で「人と組織を巻き込む仕組み」を理解することで、あなたの運営管理は単なる出題パターンの暗記から、企業の課題解決そのものへとステージが上がります。
試験対策としては、まず両書の事例を自分のノートで物語として書き写し、そこから「自社で同じ課題が起きたらどう動くか」を具体的に書き出してください。次に、その提案を友人や学習仲間に説明し、彼らの視点や反論を取り入れてブラッシュアップする。この過程を繰り返すことで、言葉に説得力が生まれ、自分自身の改善案が磨かれていきます。
運営管理は、中小企業診断士試験の中でも特に「実務力の下地」が問われる科目です。本稿でご紹介した二冊は、いずれも“現場のリアル”を語る力強い証言であり、単なる理論書や問題集では味わえない知恵と気づきを与えてくれます。試験当日には、公式や手順を書くことはもちろん必要ですが、もっと大切なのは「その手法が生まれた背景」「現場の誰がどんな気持ちで動いているのか」を理解し、自分の言葉で語る力です。
ぜひ二冊をじっくり読み込み、現場感覚を自らの血肉としてください。その先には、合格というゴールだけでなく、中小企業を支援するプロフェッショナルとしての本当のスタートラインが待っています。
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