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2005年12月05日
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そのオープン間もない2月8日、悪夢のような大事件、ホテルニュージャパンの火災が起こりました。店の前は通行止めとなり、消防車、救急車、パトカーなどが入り乱れて未曾有の大惨事となってしまいました。
本当に年明けから陰惨なニュースでした。

そして委員長は新しいゲームセンターの生活が始まり、道楽者のお調子者から少しだけ実社会へのリハビリが始まりました。
なんといってもチャラチャラした仕事で楽してきた身ですから、きちんと拘束時間が決められた仕事をすること自体十代の頃のアルバイト以来でもあり、すでにこの年27歳を迎えようという良い大人が満足な常識も知らず、まさに社会復帰にかけた新たな挑戦とでも云えました。

まあしかし、遅番を選んだ委員長の不幸は、身から出たサビ、どーらくのツケとは云うものの中々に厳しいものでありました。
かつての常連が時々顔を出してくれるのは良いのですが、セガのジャンパーを着てゲーム機の掃除などをしている委員長を見て言葉に詰まった様子が見て取れました。
元ジャパニーズのトミーとか後輩なんぞも時々やってきましたが、顔を合わせるのが申し訳ないような態度でもありました。
時には相変わらず夢見ているのか、慰めてくれているのかわかりませんでしたが、

などと声をかけてくれたりする後輩もいたりしました。
何言ってんだよ、見ての通りのしがないゲーム屋のにーちゃんだよと言っても、まだ彼等は委員長に何かを期待しているようでもありました。
考えてみれば彼等も同様に、自分達の時代の終わりを真正面から受け入れたくない気持ちがあったのでしょう。過去の快楽の余韻を誰かに託しているようなものです。

これも全てはどーらくのツケと割り切って試練に耐える様、毎日を淡々と過ごす委員長でしたが最後の最後で自分の原点復帰を決めた以上、何かひとつは自分の音楽を形にすることが当面の目標でした。
仕事が終われば赤坂港荘にこもって曲作りに励み、メンバーが揃えばスタジオを借りて練習という具合に、どこにでもあるフツーのアマチュアバンドがやるような、フツーの音楽活動を開始しました。
ちょうどこのころ、赤坂港荘の近くにモッズ・スタジオという新しい練習スタジオがオープンし、しかも24時間営業だったので委員長たちにとってはまさにうってつけ、深夜の練習にはもってこいでした。深夜は4時間単位で貸し出ししていましたから昼間の練習に比べてかなり割安だったのです。

オリジナルソングも10曲程度作りましたかね。
今にして思えば本当に良い想い出です。スタジオで一発録りしたテープやTEAC144で編集したテープしか残っていませんが、ほのぼのとした自分達らしい素直な音楽です。
ただ、相変わらずデタラメなこともやってましたね。
深夜営業のはずのゲームセンターなのですが午前2時頃には勝手に閉店してしまい、皆で楽器を運び込んで朝まで練習なんてこともしょっちゅうやったりしてました。

結局バンドに夢を託して残ったメンバーは5人で、ドラムのモンチは新宿シンデレラ、ユウジはギゼ、ナオはユウジの紹介で六本木ウィズに入り、シンジは相変わらず立川エモンと、委員長を除く全員が現役ディスコDJの傍らバンド修行に精進していました。

なぜマグロ船だったかというと、さすがにクレージーな息子に見かねたニックの親父さんが、性根を叩き直すにはマグロ漁船に乗せるしかないと決断したそうで、ニック本人は最後の別れに港荘にやってきて、来年マグロを一本土産に担いでやってくることを皆に胸を張って約束してくれました。
これが彼との最後でした。
本当にマグロ船に乗ったかどうか定かではありませんが、今でも上野あたりをウロウロしていてもちっとも不思議ではないようなキャラクターだったことは間違いありません。

バンドというのは不思議な力というか魅力というか、皆で音楽を奏でる快感は体験した者にしかわからないある種麻薬のような効力があります。
今までディスコだダンスだ花だ提灯だと騒いでいたアホタレ達も、自分達の手で音楽を作るという面白さを知った途端に自分達の生活の全てがそこに集約されていきます。


そしてそんなバンド熱に浮かされた道楽者たちは夜毎赤坂港荘に集まり、興奮の日々を繰り返していました。
そんなある週末、ユウジ、ナオ、モンチの面々が港荘にやってきてこれからのバンド談義に花開きました。すでに酒も入っており、勢い夢の話はどんどん膨らんでいきます。
更にシンジが立川からコジャを連れて来て、往年のロニー軍団が久々に顔を合わせました。

「ヤスオも今日は公休取って来るって電話があったから、今日は久しぶりに昔の仲間が全員集まるよ」

そう嬉しそうに話すシンジはすでに出来上がっていました。
赤坂シンデレラ崩壊後、こうして皆でゆっくりと話す機会のなかった面々ですから、昔話も混ざり延々とバカ話は続いていきます。
バカ騒ぎで盛り上がる港荘もいつの間にか夜が明け、スズメの声に一同の目もまどろみ始めた頃、突然ゴンっという地響きと共に部屋が大きく揺れました。

「おっ、地震かぁ」

「お前ヨッパッラってんだろ」

「今揺れましたよね」

外で人の騒ぐ声が聞こえます。
ユウジが窓のガラス戸を開け、皆で外を覗き込むと港荘の角に乗用車が一台頭を突っ込んだ形で止まっています。回りで運転手らしいオッサンと自転車に乗ったおっさんが何やら大声で言い争いをしているようです。

「何だ、事故かぁ。しかしこんなトコにブツけるたぁ、間抜けな野郎だな」

「アパートが崩れ落ちなくて良かったですよね」

一同で大笑いしてガラス戸を閉めました。
しかし、大通りに面しているとはいえ、この港荘の周辺は細い路地に囲まれた比較的見通しの良いところです。
それがよりによってコーナーからはみ出してアパートに激突するなんて、普通は考えられない事故でした。幸い怪我人もなかったようでしたから、大騒ぎにもならずそのまま車は走り去って行きました。
すでに外は朝、そろそろ回りの家でも起き出す時間になってきたので、ゴミ野郎達も就寝時刻です。
と、ここで外から叫び声が聞こえました。

「火事だー!火事だー!」

急いで再び窓のガラス戸を勢いよく開けると、道路を隔てた対面のアパート、ちょうど委員長達のいる部屋の真正面の二階の部屋から煙が出ています。

「おいっ!火事だよ、どーする」

何を間抜けなこと言っているのでしょうか。
委員長の問いかけに一同はまるで他人事のようです。

「皆で消しに行きますか?」

「消防車呼ばなきゃ」

何がなんだかわかりませんでしたが、とりあえず部屋を飛び出した委員長は港荘の階段の隅に備え付けられていた消火器を手に取って火事の現場へ駆け込みました。
部屋には委員長と同じ年くらいのあんちゃんがひとり、ナベに水を汲んでオロオロしていましたが、幸いタバコの不始末で畳が燃えた程度の小火でした。
委員長が手にした消火器は相当の年季モノで、結局、消化泡がシュっと一瞬出ただけで使い物にはならず、委員長同様駆けつけた近所の人たちのナベや薬缶の水で無事消火しました。

「なんか変な日だね、今日は」

呑気な道楽者ですから夜通しバカ話をし疲れたか、皆そこら辺に転がったまま寝入ってしまいました。
気持ちよくウトウトしたのもつかの間、今度は部屋のドアをどんどんと勢い欲叩く音で眼が覚めました。
ドアを開けるとゲームセンターで一緒に働く○間主任が暗い顔をして立っていました。

「どうしたの、こんな朝早く?」

「今、千葉の警察から電話があって、ヤスオが事故で死んだらしいんですよ」

「えっ!」

何を突然言っているのか状況がつかめませんでした。

「警察の話では、京葉道路で事故に遭って死んだみたいですよ」

港荘で転寝をしていた全員が起きて来て、今朝方の一連の事故との符合に一同は青ざめました。
委員長は早速店に行って、○間主任がメモしてくれていた千葉県警の担当者に電話をして、状況を尋ねました。
担当官の話によると、職場の同僚が運転する車で東京に向かう途中、京葉道路で路肩に駐車して休憩しているところへ暴走車が突っ込んできて炎上、ヤスオは焼死したとのことでした。
それを聞いた委員長は愕然としました。
今朝方港荘で起こった小事故が見事なほど符合したからです。

「ヤスオが来たんだよ」

「来たけど誰も相手にしてくれなかったから、騒ぎを起こしてオレらに知らせたんだよ」

「衝突、炎上って、偶然過ぎるよな」

車の持ち主で運転していた同僚は二人、ともにトイレに行っている間の事故だったようで幸い無事でした。
身寄りのないヤスオでしたので、職場の同僚が訪問予定であった委員長の連絡先を探して店に連絡してくれたというような経緯でした。
暴れん坊のアウトロー、根性なしの不良少年でしたが、あまりにも突然で壮絶な死に様はゴミ仲間全員にとって大きな衝撃でした。
そして港荘で起きた衝突事故と小火は、とても偶然の出来事とは片付けられない本当に不思議な体験でした。





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最終更新日  2005年12月05日 06時52分14秒
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