敷島隊出撃
(左)出撃に際し、上官に別れの挨拶を告げる関大尉(左から二人目)と敷島隊員たち。
(右)敵空母に突撃すべくマバラカット基地を蹴る敷島隊の零戦。
神風特攻隊のうち、最初の戦果を飾ったのがこの敷島隊です。
１９４４年１０月２０日、フィリピンの第一航空艦隊指令長官大西瀧治郎中将は、米機動部隊との戦闘により激減した在基地軍用機３９機のうち、第二〇一航空隊の零戦２６機をもって、神風特別攻撃隊を編成しました。特攻隊員の人選には第二〇一航空隊副長の玉井浅一中佐があたり、２３名の特攻隊員を選出しました。２４人目の指揮官選出の際は艦隊参謀の猪口力平大佐と協議し、海軍兵学校第７０期の関行男大尉に白羽の矢が立てられました。二人は深夜、関大尉を起こし「体当たり部隊の指揮官はどうか」と尋ねたところ、関大尉は驚き、しばらく考え込んで「一晩考えさせて下さい」と答えたといいます(つい最近まで『関大尉は「私にやらせて下さい」と即答した』と、美談調に語られてきました)。その夜、彼はどのような心境だったのでしょうか。彼は結婚して半年足らず、２３歳の若い士官でした。特攻隊の指揮官となって出撃すれば、妻と両親をこの世に置いて逝くことになります。しかも、艦上爆撃機の操縦士である関大尉は、艦上戦闘機である零戦しか配備されていない二○一航空隊に転属になってから今まで「零戦でもよいから実戦に配備して欲しい」と懇願してきましたが航空隊幕僚の返事はいつも「艦爆と艦戦は違う」というものでした。それが、突然「零戦で敵空母に体当たりしてくれ」と言われたのです。さぞ理不尽に感じた事でしょう。しかし翌日、彼は決心をして「承知しました」と、特攻隊の指揮官を引き受けたのでした。彼のように身を賭して国を護らんとする堅実で勇敢な青年が、果たして現代の日本に何人存在するでしょうか。
神風特攻隊は敷島隊、大和隊、朝日隊、山桜隊に分けられ、早速１０月２１日、久納好孚中尉の指揮する大和隊がセブ基地より出撃しました。大和隊は途中、悪天候のため指揮官機以外の２機が基地に帰投しましたが、その後、久納中尉機が帰ってくることはついにありませんでした。久納中尉は出撃前に「敵機動部隊を発見できなければレイテ湾の敵輸送船団に体当たりをする」と話しており、単機でレイテ湾に向かった可能性が高いのですが、詳細はいまだ謎のままです。
その後、特攻隊は連日出撃しましたが、敵空母に遭遇できず、引き返してきたのでした。
そしてついに敷島隊にとって運命の日、１０月２５日がやってきたのでした。この日の先陣を切って出撃したのは朝日隊・山桜隊・菊水隊で、６時半頃、ダバオ基地から次々と発進してゆきました。これとほぼ同時刻、セブ基地からも大和隊が出撃しました。この４隊計８機の特攻機のうち、２機が見事米護衛空母サンチー・同スワニーに突入を果たし、これらを大破炎上させ、さらに２機が至近弾となって米護衛空母サンガモンと同ペトロフ・ベイに損害を与えました。
先の４隊出撃から約１時間の後、関大尉の指揮する敷島隊の５機がついにマバラカット基地を蹴り、大空へと飛び立っていったのでした。整備兵は涙を流して見送ったといいます。
それから３時間、敷島隊はついに探し求めた敵空母を発見したのでした。敷島隊５機は次々に急降下態勢に入り、今朝栗田艦隊から大打撃を受けたばかりの護衛空母部隊に突っ込んでゆきました。米護衛空母キトカン・ベイには１機が突入。この機は飛行甲板に命中し、同艦に大被害を及ぼしました。護衛空母ファンショウ・ベイに突入した２機は残念ながら対空砲火で撃墜されてしまいました。関大尉機とこれに従う１機は護衛空母ホワイトプレーンズの方向に向かいましたが猛烈な対空砲火を受け、関大尉機は向きを変え、護衛空母セント・ローに突撃し、その飛行甲板に見事命中したのでした。関大尉機の抱いていた爆弾が飛行機格納庫内で爆発し、同艦は爆弾・機銃弾などの弾薬庫に８回もの誘爆を起こした末、１１時すぎに艦体を真っ二つにして海中に没しました(一説には、関大尉機は護衛空母カリニン・ベイに突入し、損害を与えたとも言われています)。
かくして大戦果を挙げた敷島隊の功績は連合艦隊司令長官豊田副武大将の名で全軍に布告され、各メディアで報じられました。
妻や両親に先立ち、国の為に出撃し、散華した関大尉(戦死後二階級特進中佐)は今もフィリピン沖合の深海底に、そして靖国神社に眠っています。しかし、特攻指揮官を引き受けてから出撃するまで、彼はどのような気持ちで毎日を過ごしたのでしょうか。それを考え、この事実を後世に伝えてゆく事こそ、彼への一番の供養になるのではないでしょうか。
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