LIVING_DEAD

未知



 「道の次は未知かよ」自分でそう思った。

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 世の中には目に見えない物は信じないってヒトは多く居るだろう。自分しか信用していないのだ。簡単な世界だ。ヒトを信じることがどれだけ困難でどれだけ輝いているか存じないのだろう。
 そして、目に見えないものはココに存在している。重力、磁力だって目に見えない。その未知の力によってこの地面にだって立っているんじゃないか?
 そして、目に見えない力はそんな科学的な事だけじゃない。ヒトを信じて、ヒトを好きになって、ヒトと仲良くなって親友になってその人の言葉に動かされるとするならば、それは見えない力に動かされている正にそれである。

 目に見えないものは大きい。

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春だった。今日も俺は川沿いを入った。
 行きは河口からの強風が昨日と同じように吹く。やたらと高級そうな毛皮のコートを着たおばはんがその娘らしい人と歩いていた。他にも河口に向い歩いている人が昨日と違い多かった。
 何をしに何処へ向っているのかは知らない。俺は道の終点で方向を家の方へ変えた。さっきの人が河口へ向っている。
 来た時とは何か世界が違っていた。
 春だった。来る時には気付かなかったが、確かに春だった。この温かい風は確かに、3年前の小学校の卒業式の時と同じ風だ。俺は家に走った。
 春になっていたのか。気付かなかったもんだ。こんな陽気で悲しい雰囲気は3年前の春と同じだ。空の雲が影を作っていた。その影は雲の移動と共に俺から前へ前へ離れて行く。俺はそれに追いつくがごとく自転車のスピードを上げた。そして何となく影の中に入った感じがした。
 するとそこは冬だった。さきほどまでの春風そよ風は北風の様に俺を襲った。さっきは俺の顔を心地よく下から舐めていたのに。俺は後ろを振り返ると光と影のラインを見つけた。あのラインの後ろは雲の陰になっていない。俺はスピードを落とし、その陽気な場所に出た。
 春だった。確かに春だが、風は影の中に居た時と同じ風だ。でも確実にそれは春風だった。
 俺は思った。春を作り出すのは太陽だ。太陽が季節を変える。雲の中に見た冬はきっとその太陽が一時的に見えなくなったからだろう。試しに俺はもう一度影の中に入った。春だった。そこは春だった。俺は確実に何処に春があるかを知った上で、春をあらゆるところで感じられるようになった。
 きっと今ごろ、虫や草木や蛙や蛇が冬眠から目覚める準備をし、今か今かと出番を待っている。
 春だった。

 傾きかけた太陽(まだ13時だが、季節が冬なので)が汚い川を輝かせていた。

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