インディー(43)



サイフォン式で高温の湯で淹れたコーヒーは、香りが損なわれるのはもちろんのこと、味わいがピンとして、まろみ、深み、こくの点でペーパードリップ式には、はるかに及ばない。


深み、こくを出そうと思えば、なんと言ってもネルドリップ式、ということになる。

だが、一杯ずつネルで淹れるなんて喫茶店では不可能に近い。
まとめて淹れざるを得ない。


ということで、喫茶店においてもベストの淹れ方は、ペーパードリップ式ということになる。


更に望むらくは、オーダーが入ってから、客の鼻の先で、手動式ミルで挽いてやることである。

コーヒーを淹れる楽しみは、豆を挽くときに立ち上る香りを楽しむことにもある。


そんなこんなの蘊蓄をママに対して、くどくどと語り続けたものだ。


そのおかげで(と、言ってしまって良いのだろうか?)
半年もしないうちに喫茶ルーンのコーヒーは、見違えるほど、味わいが安定し、うるさいオヤジどもが来ても、臆することなくサーブできる代物に育って行った。


大阪の街人の間では、ごく常識的な話だが
「お好み焼き屋は、常連客が育てる」

という言い伝えがある。


コーヒーも同じで、喫茶店のコーヒーの味は、うるさい常連が育てるものである。


やたらと渋いコーヒー、雑味だらけのコーヒーを淹れる店は、残念ながら、うるさい客の言うことを聞き入れる耳を店主が持っていなかったと推測することができる。


よほど立地条件が良くない限り、そういう店は、消えてなくなる運命を免れることはできない。

(つづく)




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