“やおっち”的電脳広場

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第一部第6話



ついに彼は電話の着信ボタンを押し、彼女からの電話に出ました。

彼「もしもし」

彼女「もしもし・・・」

彼女からの声は、しばらく音沙汰がなかったことへの怒りなのか、それとも寂しさなのかは分からないけど、明らかにいつもと声のトーンが違ってました。

彼女「こんばんは。元気だった?」

彼「うん、まぁ。」

彼女「最近どうしてたの?すっかりメール来ないから心配で、メールだけだと返事来そうにないから心配になって電話しちゃった・・・今話しても大丈夫?」

彼「あぁ、別に大丈夫。」

彼女「どうしたの?なんか元気なさそうだけど?」

彼「うん、ちょっとここしばらくいろいろあってさ。」

彼女「何かあったの?仕事忙しいとか?」

彼「まぁちょっと帰りが遅くなりすぎて寝る時間もあまりないし。それより返事しなくてごめん。こんな訳でドタバタしてて、遅くにメールするのも悪いと思ってさ・・・。」

と言いながらも彼は心の中で「仕事はそうだけど夜は遅くない。メールできないのはそれが理由じゃないのに、何その場を取り繕うとしてるんだ・・・。」と自分にため息をついてしまいそうになりました。

彼女「そうなんだ。ごめんね。わがままなメール送って。なかなかメール来ないし、あんなこと言ったからてっきり嫌われたかな、と思ったの。だけど、そういうの曖昧なままにしておくのは好きじゃないし、そうでないならはっきり言って欲しかったから・・・。嫌いなんじゃないよね?」

彼「そんなんじゃないよ。ただ疲れてたし、さっきも言ったとおりだよ。」

彼女「よかった~。うれしぃ。てっきり嫌われてたらどうしようかと思っ て。ホント、よかった。」

そんな彼女の声は明るく、いつものトーンを取り戻していました。彼女の話は続きます。

彼女「本当に心配したんだよ。メール来なかったから不安になって、こんな時、男の人って何考えてるんだろう?って思ったらいてもたってもいられなくなって、他の男友達に相談したんだよ。でも結局本人に聞くのが一番、って話になったから。でも、本当、心配したんだよ。あなたに嫌われたらどうしよう、会えなくなったら、一緒に遊べなくなったらどうしよう、って本当に心配したんだから・・・。」

彼女の声は感極まり始めました。しかし、彼はそんな彼女を愛おしく思いつつも、冷静な部分、というよりあまりにも唐突な言葉をここで聞いたのです。

「他の男友達」という言葉を。

彼「男友達って、他にもいるの?」

彼女「うん、いつも相談に乗ってもらってる友達が何人かいるの。みんな私にすごく優しく接してくれる人達で、すごく暖かい人達なんだ。週に何回かよく電話していろいろ話するんだ。」

この瞬間、彼の声に疑惑の音色が入りました。

彼「そうなんだ。他にも僕みたいな人が何人もいるんだ。知らなかったよ。」

彼女「ごめんね話さなくて。でも、ただの友達で、あなたとは違うから。友達だから、いいでしょ。」

彼は思わず「こいつ、俺のことも友達って言ったじゃないか!」と腹の中で何かが煮え始めたのを感じました。
彼女の話は続きます。

彼女「でも、心配しないで、あなたみたいな優しくて、温かくて、とてもいい人はいないから。私の周りにいる人はみんな優しく接してくれる人ばかりだけど、あなたは別。何言っても怒りそうにないし。私、怒る人嫌いなの。」

彼「ふ~ん、なるほど。」

彼の頭は冷静に「なんだ、この女は」という計算を始めました。が、その計算も彼女の次の言葉で狂い始めます。

彼女「それよりも、また遊べるかな?こんどの休み、ヒマなの。会いたいよ・・・。」

彼「・・・(おいおい、頼むよ)」

彼の心は乱れ始めます。疑惑の目は向けられますが、やはり彼女を好き、という気持ちはなかなか変わるものではありません。
しばらく他愛のない会話を繰り返しながら、彼はこう、自分に結論づけます。

「彼女に会いたいのは自分も同じ。であれば、彼女にあって直接いろいろ話してみるべきなのかも。そこで、彼女の姿を見つめ直した上で、自分に「本当に俺は彼女を好きでいられるか」を問いかけるべきなのかもしれないな」

そして、彼は言いました。

彼「今度、会おうよ。メシぐらいは一緒に食おう。」

彼女は無邪気に応えます。

彼女「嬉しい~。ありがとう。」

彼「また車で迎えに行くよ。連絡するから。今日はもう遅いから、近くになったらメールするよ。」

彼女「うん、ありがとう。メール待ってるから絶対送ってね。」

彼「分かった。じゃぁ、今日はもう寝よう。」

彼女「うん分かった。今日は無理言ってゴメンね。でもありがとう。話せて良かった。」

彼「俺もだよ。メールできなくてゴメンな。ありがとう。じゃぁ、また」

彼女「うん、お仕事頑張ってね。おやすみ。」

彼「おやすみ」

こうして二人の会話は終わりました。

そして数分後、彼が「さて、寝るか」と布団に入った瞬間、メールが着信しました。

その送信元は・・・彼女からでした。

「遅くにメールしてゴメンね。今日はワガママばかり言ってごめんなさい。あなたの事をあまり考えずに・・・でも、ありがとう。あなたの声が聞けてとても嬉しかったよ。あなたって本当に優しくて、いい人だよね。今度会えるのを楽しみにしてるね。おやすみ」

「やれやれ・・・あいつはいったい、何考えてるんだろう。ますます分からん」

彼の悩みはさらに深くなりました。(続く)

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