テレビ・新聞が報じないお役に立つ話

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2022.02.20
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下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

「お恥ずかしながら、私、この年になって出社拒否になってしまって。だらしないですよね」

こう切りだした岡田さん(仮名)は某大手企業の元常務。63歳で定年となり8カ月後に再就職。これまでのキャリアを買われての就職だったそうだ。

半年で出社拒否になった元常務

定年になったらやる ことがなくなって、定年うつになるって脅されていたんですが、私の場合は幸い次が決まっていたので大丈夫でした。妻も8カ月ですからギリギリ我慢してくれたんでしょう。再就職先は関連会社です。数年前から積極的に同じ業界からシニア採用をしていましてね。昔の上司が呼んでくれたんです。

受け入れ態勢はきちんとしていました。研修期間も あるし、シニアも戦力として見てくれる。給料は下がりますが、本人の能力次第では70歳までいられるんです。私は気力と仕事の質には自信があったし、今までのキャリアを生かしてがんばろうと張り切っていました。

ところが……半年後に出社拒否です。完全にメンタルをやられて しまったんです。

原因はいろいろあります。期待に応えようとすればするほど空回り したし、上司ともうまくいかなかった。パワハラみたいなこともあったりで。やっぱり人間関係は大きいですね。家では心配させないように振る舞わなきゃだし、疲れてしまったんです。

あと……せこい話なんですけど、前の会社のときはタクシーも自由に使えたし、周り も私のことをそれなりに扱ってくれました。ところが、再就職先では私はシニア社員の1人でしかない。飲み屋ひとつとっても扱いが変わります。そんなのはわかっていたことだし、大したことじゃないって思っていました。なのに、実際に経験すると結構、プライドが傷つくわけです。私みたいなのを〝塩が抜けない〟って言い方をするらしいです(苦笑)。

私は社外とも人間関係があるし、趣味だってある。タコつぼ人間になっているなんて自覚は皆無でした。で も、実際は長年過ごした組織で、しっかり塩漬けになっていたんです。私を引っ張ってくれた元上司が、いろいろと気にかけてくれるのも情けなくてね。結局、1年もたずに辞めてしまった。周りに迷惑をかけるからそれだけは避けたかったんですが……、情けないですよね。

某大手企業元常務 岡田さん(仮名) 64歳

張り切って再就職したのに〝塩〟が抜けずに退職とは、なんともやるせないお話だ。拙著

『定年後からの孤独入門』

でも詳しく解説しているが、塩漬けは「手あかがついている」と表現されることもある明文化されることのない、暗黙のルールだ。1日の3分の1以上を過ごすルーティンだらけの職場環境が個人に及ぼす影響は想像以上に大きい。

「話し掛ける前に『話し掛けてよろしいでしょうか?』と聞かなくてはいけない」

「上司と廊下で擦れ違うときは直立不動であいさつしなければならない」

「食事は上司より遅めに取り、上司より先に戻ってなければならない」

といった軍隊式ルールや、

「年下には命令口調で話して当たり前」

「部下は上司に報告するのが当たり前」

「雑用は若手がやって当たり前」

といった年功絶対ルールは比較的わかりやすい塩だし、

「暴力的なノルマ」や「異常な長時間労働」などは、ブラックペッパーならぬブラックソルト塩だ。

私は自分の仕事に100%集中 することが当たり前だと思っていました。ところが新しい会社では「自分の仕事以外の仕事」をしないと評価されないんです。一生懸命自分の仕事をしてるだけなのに評価が下がる。ワケがわかりません

情報サービス系勤務 相田さん(仮名) 62歳

こういった会社の職場風土の違いに、前職の塩が邪魔をして適応を妨げる場合もある。

いずれにせよ会社の数だけ塩の種類があり、きゅうりの塩漬けなら沸騰したお湯でゆでれば簡単に塩抜きできるが、長年1つの会社で塩漬けされた思考回路はそう簡単に抜けるものではない。忠実に仕事をやってきた人ほど骨の髄まで染み込んだ塩を抜くのにてこずり、解けないパズルに苦悩し、自信喪失する。

組織の最上階にはびこる「塩の化石」

とりわけ運命共同体的な面が強い日本の職場では、会社組織特有の思考パターン=塩を理解し、実践する人ほど重宝され、役職やら権力やらを手に入れることができる。企業の不祥事が発覚したときに明かされる組織の最上階にはびこる教条主義や前例至上主義は、塩が年月をかけて結晶した、いわば「塩の化石」だ。

しかも、職場で偉くなればなるほど「塩の恩恵」を受けるようになる。「役員以上はカード支給」「役員以上は役員専用エレベーターを利用」「役員以上の家族のみ使える会員制宿泊施設」などの特別塩だ。そのうえ、周りがヨイショ、ドッコイショの先回りコミュニケーションをしてくれるので、アウェー耐性は脆弱化する。

新たな職場=完全なアウェーで、わからないことを聞くこともできず知ったかぶりしてしまったり、年下上司に自分からあいさつをすることにも抵抗を感じてしまったり。自分が長年築いてきた経験と自負心と「キャリアを買われての再雇用」という事実が「なめられたくない」という厄介な感情に置き換わり、自分を自分で追い詰めてしまうのだ。

この塩漬け度を測ってみよう。

次の15個の質問に「○」か「×」で答え、終わったら「○」の数を数えてください。

1)他人からあれこれ指摘されるのが嫌い

(2)つい自分の自慢話をしてしまう

(3)年下に自分からあいさつはあまりしない

(4)部下に任せることができない

(5)成功している同級生や同僚に嫉妬してしまうことがある

(6)タクシー運転手やコンビニ店員にイラつくことがある

(7)妻や子供に命令口調で話してしまいがちだ

(8)近所付き合いがほとんどない

(9)妻に弱音を吐けない

(10)他人の意見や行動につい否定的なことを言ってしまう

(11)人に頭を下げるのが苦手だ

(12)どちらかというとルールに厳格である

(13)人のうわさ話はすべきではないと思う

(14)知ったかぶりをしてるヤツに腹が立つ

(15)結論がない話は嫌いだ

ひがみっぽいおじさんは嫌われる

「塩漬け濃度チェックリスト」は私が行った700人超のインタビューをベースに、質問項目を作成した(ソーシャルスキル、セルフエスティーム、ストレス対処力の知見を生かし、日本の会社組織の基本構造に即した文言で作成)。「○」の数が多いほど塩濃度が高い。

・10個以上の激辛群は、塩抜きに相当の時間と絶え間ない努力が必 要になる。塩抜き経験のある先輩社員に、フォローしてもらうのが望ましい。

・5〜9個の辛口群は、時折ストレス発散しながら3カ月ほど辛抱すればなんとかなる

・2〜4個の甘口群は「塩を抜くぞ!」と決意するだけで、次第に抜ける

・2個未満は塩漬けの影響ではなく、ただ単に年を取っただけなので気にすることはない

塩漬けのいちばんの問題はその濃さよりも、自己認識のなさだ。塩漬けに気づきさえすれば、たとえ一時戦線離脱する事態になっても、必ず塩抜きできるので恐れる必要はない。

一方、塩にどっぷり漬かっていることに気づけない人は、年下上司の足を引っ張ったり、周りを否定するだけの人に成り下がったり、時にはよかれと独断で仕事を進めてしまい、取引先とのトラブルに発展したりと、老害になる。長年会社の一員として慣れ親しんだ経験が、セカンドキャリアの足かせになるとは理不尽極まりないのだけど、塩は長い時間かけてじわじわと擦り込まれていくので、簡単には知覚できないのである。

まず驚いたのが、初日に前職の会社の名刺を配ったこと。うちの会社の親会社の人事部長だった人なんです。でも、見かけは気のいいおじちゃん風だったので、歓迎会とかやったりしていたんです。ところが、1週間もしないうちに私たちを見下すようになった。「そんなやり方をやっていたのか」とか、「意識が低すぎる」とかバカにし、ちょっとでも反論すると、「立場をわきまえろ!」って怒鳴られる。さすがの私もへこみました。

美春さん(仮名)45歳

うちのマンションに〇〇会社 の元専務がいるんですが、ボランティアでゴミの清掃に毎週、参加してて、初対面の人に必ず「どこの大学? どこに勤めてる?」と聞くんです。ルールにものすごく厳格で、ちょっとでも分別を間違えてると、ゴミの中をあさって犯人を突き止めて、その人の玄関先に返す。トラブルになって管理人が注意したら「ルールを守れない人は共同生活する資格なし」と逆ギレしたらしくて……。 わがマンションの〝正論おじさん〟です

恵さん(仮名)48歳

私、テニスをやってるんですけど、そこにも正論おじさん がいます。東大卒、元商社マンのバリバリエリートで、若い子を見つけると「テニスに向き合う態度がなってない」 とか怒る。部下と勘違いしてるんでしょうか

正子さん(仮名)39歳

「過去の肩書」にしがみつく

少々しんどいエピソードだが、このように塩抜きができないと実に残念な事態が起こる。人間の心は実に複雑で、輝いていた過去と混沌とする未来のギャップに耐えきれず、時として「過去の肩書」にしがみつき心の安寧を得ようとしてしまうのだ。

また、脳の老化は得意分野以外から進む習性があるため「過去の栄光」は最後まで残り続けるという困ったメカニズムも存在する。老化した脳は前頭葉の機能が低下しているので 感情コントロールも苦手だ。

自分より低い属性の人に「俺のことをバカにするな!」と言わんばかりに横柄な態度をとったり、怒鳴りつけることが増えたり、否定されようものならますます意固地になる。

横暴な言動の裏側には、社会的な立場がなくなっていくことへの寂しさと、過去の黄金期への執着が存在する。「俺はそんなにダメじゃない!」と言いたいのだ。

河合 薫






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最終更新日  2022.02.20 15:30:06
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