Change the world

August 5, 2010
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私はその一族の人の隠し子らしくて、特に説明もされないまま昨日一族に引き取られたばかり。

よく分かんないまま厳しい事ばっかり言われて、皆からは冷たい目を向けられる。
私が宗家でやってる仕事と言えばお手伝いさんと同じような事だらけ。


一族は最近この地に広すぎる家を建てた。
5階建ての宿舎のようなドデカイ建物が敷地に2棟も建っている。
今日のお仕事はこの新しい家に一族の皆さんをお迎えして、部屋を案内することだ。
要するに引っ越しの手伝い。


昨日の今日で、まだ新しい家の中も良く分かっていないまま、私は皆さんを部屋へと案内していった。

数えただけでざっと20はあって、もう1棟建物があるんだから、その倍くらい。

時々間違えたりしたけど、娘さんたちに色々嫌味を言われながら仕事をしていった。



次は若い衆の息子さんたち。
3人部屋とかモノトーンでシックに決めたお部屋、色々案内していった。

最後に同い年の息子さんの部屋を案内した。
5階の奥まった、2つあるうちの1つ。
「ここです」
って開けたらそこはただの広いトイレだった。

「あれ?」
試しに隣の部屋を開けたら、もう少し狭いトイレだった。

「あれ…?」


確かにここで間違いないんだけど…。

息子さんが私の持っているメモを覗きこむ。
「うん、ここだねぇ俺の部屋。」

5、6畳はある広いトイレを2人で見つめる。
「…」



「お前の部屋こんな所なのかよー。」
「5階まで持ってくるの大変だったぜ」
「ってか、トイレじゃん!うははは、トイレ付きの個室ってか!」

息子さんは困ったような笑いを浮かべながら、
「とりあえずここが俺の部屋らしいから荷物運んどいてよ」
と言って指図した。



あっという間に荷物が運ばれた。ベッド・棚・温冷蔵庫。

なんだか不安になってきて…
「私、もう一度確認してきます!」
と言って、狭い階段を駆けだした。


部屋をひとつひとつ確かめる。
あれだけ部屋数があるというのに、それは全部埋まっていた。
娘さんや息子さん、奥様方がそれぞれの荷物を広げている。
確認するたびに、あの冷たい目で見られる。だけどそんなの気にしてる暇なくて…

-ドンッ!

「失礼しますっっ!」
と言って開けた息子さん達の3人部屋。
その真中のベッドだけが空いていた。

「あの、ここ、誰か居ますか?」

「さぁ、知らねぇ」
「そのうち誰か来るんじゃないの」

「…失礼しました!」

多分、私が案内し間違えたんだ。あの3人部屋が正解だ、
そう思ってお手伝い長さんの所に急いで行った。



広すぎる家の半分は衣裳部屋だ。紋付の着物や正式な場面で着る着物などがずらりと並んでいる。
その中でお手伝い長さんはせわしなく、たくさんのお手伝いさん達に指示を与えていた。
「すいません!」
皆さんの部屋が描かれたメモを見せながら、
「ここの息子さんの部屋が分からないんです!もしかして、この3人部屋ですか?」
「あなたって本当に要領悪いわね!ここ以外のどこがあるの!!」
上から大きな声を出されて思わず顔を伏せてしまった。
「す、すいません!」

そう言って、私はまた5階へと駆け上がった。



5階へ行く途中の3階、中階段にある狭いドアを開けると、実はそこが私の部屋だ。
3階と4階の間にあって、隠れ家みたいになっている。
見晴らしの良い大きな窓に、日よけのグレーのカーテン、ふかふかベッド。
とても隠し子である私が持っていいような部屋ではないのだ。

これは家元が、私に気を使って
「隠し子であろうとうちの一族の子には間違いない」と言って差し出してくれた部屋だ。

だけど、とてももったいない部屋で、私は居心地が悪かった。


もし息子さんの部屋が無かったら私の部屋を差し出そうと思っていた。

トイレの個室、なんてお手伝い同然の私の方がピッタリだと思っていたし。



「失礼します」

ドアを開けると、息子さんはベッドに横になっていた。
かったるそうに私を手招きする。

「で?」
「はい。お部屋は3階の3人部屋でした…。間違えてご案内してしまいすみません…。」
「まぁ、だよね」

「でも俺、この部屋が良いなぁ」
突然わけのわからない事を言いだす息子さんに、私はとまどいの眼を向けた。

「トイレあるけど。まだ1回も使ってないから臭わないし、何かこの狭い感じが好き」

私も、この狭い感じが好きだけど。

「貴方はここに居てはいけない人です。あの、私の個室があるのでそちらを使ってください」
「へぇ、アンタ個室持ってるんだ…」

少し驚いたような顔で息子さんが私を見る。

「案内してくれる?」
「あ、はい!」



私の部屋があるということは一応伏せられている。
だから周りをキョロキョロ見まわしながら、私と息子さんは部屋に入って行った。

「へぇ…、隠れ部屋みたいで良いね」
部屋を一通り見ると、息子さんはそう言った。

この部屋の窓を開けると、こっそりと庭へ続く階段がある。
自由の少ない私に、家元が付けてくれた隠れ階段だそうだ。
階段の存在に気付いた息子さんが、ちょっと庭に出てみない?と誘ってくれた。


庭に出てみると、広い空が迎えてくれた。
近くに高架線があって、電車が走っている。
そういえば私は、ここがどこなのかを知らない。昨日いきなり連れてこられたばかりだから。

「あのぉ…、ここってどこなんですか?」
空を見上げながら私は質問した。
「は?!アンタ、ここがどこかも知らないで連れてこられたの?」
「はい…。って、うわわわ!」
坂になっている庭は私の足元をすくってしまった。
「…っぶね」

目の前に息子さんの顔がある。

「ハッ!!すすすす、すいません!!」

どうやら転びそうになっていた私の体を息子さんが支えてくれたみたいだ。
慌てて体を離す。

「面白いね」
そう言って息子さんはふふっと笑った。

その時、笑い声と共に一族の子どもたちがはしゃぎながらやってきた。
私はこの一族の隠し子。恥の存在。直血の息子さんや娘さんとは親しくなってはいけないのだ。
当然、今この空間も、本当ならあってはいけないこと。

「戻ろっか」
息子さんは、私の心に気付いたのか、人目を気にしながら部屋へと戻る階段を昇って行った。



5階の息子さんの部屋に戻った私たちは、窓を開けてまどろんでいた。
私は仕事もしないで呆けていた。

このトイレ付きのちょっと意味が分からない部屋と、
私の事を冷たい目で見ない息子さんと居る空気が妙に心地よくて、
私はいつの間にか息子さんのベッドの中で眠ってしまっていた。





爽やかな風が私の頬をくすぐる。

-ハッ

目を開けるとそこには息子さんの寝顔が。

しかもなぜか抱き合っている。


追い打ちをかけるように、日付は変わっていて、朝。
私の仕事がもうとっくに始まっている時間。


「う…」


「ウソーーーーーーーーーー?!」



5階に響き渡る私の声。

息子さんもびっくりして起きてしまったようだ。


「あ、おはよ… 何か気持ちよさそうに寝てたから起こさなかったよ」

「あああああのぉ!そそそそ、そういう問題じゃなくてですね!!!」

後ずさりしながら私は混乱していた。

「ああもう!し、失礼しました!」


私はねぼけ顔のまま駆け出して3階と4階の間にある隠れ部屋に向かった。












多分、そこで起きた。


すごい鮮明に覚えてるなー。

夢を説明するというより小説みたいになっちゃった。。。





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最終更新日  August 5, 2010 03:29:13 PM


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