波と戯れるように  風に揺れるように

波と戯れるように 風に揺れるように

2006年03月11日
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テーマ: 寂寞の中で(1008)


冬が終わり 春ま近かの山を歩いていた玄爺が林道の脇でうずくまっていた
若者を見つけた。

玄爺はこの辺りの山の世話をしている山師で春を告げるうぐいすが鳴き出すと
山に入り、冬の間に枯れた立ち木などを抜き切りしたり もやになるような
下草の刈入れなどをしていた。

「おい 大丈夫かい なんだか足を怪我しているようだが。」

うずくまっていた若者は驚いたように目の前の老人を見た。
そして ひどく怯えた様子で首を横に振るだけだった。

人のいい玄爺はそんな若者の様子などお構いなく 若者の足首を掴むと
ズボンの裾をめくりむこうずねを見た。

「おや これは。」

慌てた若者は玄爺の手を振り解こうとしたが、山師を長年やっている玄爺の
握力はそんな若者の力には負けず 若者のむこうずねの怪我の様子を
真剣に見て

「これは 何かに挟まれた傷だね、もう だいぶ良くなっているようだけど
まだ 完全に治っていない。 このまま ほおっておくとこの傷跡からバイキンが
入ってしまうから ほら この イシャイラズを貼り付けて 。」

と 玄爺は若者のむこうずねの傷の手当てを始めた。
その間 若者は一言も喋らずに黙って玄爺のすることを見ていた。

「この辺りはイノシシとかマムシが出るから 気をつけるんだよ。」

玄爺が話し始めると急に若者が怒ったように立ち上がり

「人間は自分勝手だ 動物達の山を勝手に切り開き自然の恵みを独り占めにする。
動物達の食べ物をどんどん盗って・・・
仕方が無いから山を下りて 人間の作っている畑の物を食べるんだ。
しかし 人間は動物が悪いといってワナを仕掛け、また 動物達を傷つける。
本当に身勝手だ。」

若者はわなわな震えながら こう叫んだ。

そして

「でも ここに こんな山の中に畑がある、なぜこんなところにあるんだろう
ここで畑を耕していたお婆さんがいた。

イノシシの子どもがワナに掛かり それを見つけたそのお婆さんが側に来たんだ、
その時にウリ坊の母親イノシシがお婆さんからウリ坊を助けるために
突進していったんだ。
そのお婆さんはどうしているのだろう、そのあとから見なくなったけど。」

玄爺さんは一つ大きなため息をすると、

「その婆さんはもういないよ。
その時 イノシシの牙で太ももを切り裂かれ そこからバイキンが入り
高熱を出して・・・
あの婆さんはこの山の動物達が飢えて 里に下りてくるからここに畑を作って
おけば食べるのに不自由ないだろうって 耕していたのさ。
動物の心は人間が読むことが出来ないのと同じ様に人間の心も動物には
読めないんだ。
いや 読むことが出来るかもしれないが

婆さんは最後までイノシシが悪いんじゃないって言っていたよ
あのウリ坊を助けようとしたんだがね・・・。」

「え」

若者は小さな声をあげ 驚いたように玄爺の顔を見た。

そして 暫らくの時が経って玄爺の家の裏口に山芋の種芋がそっと置いてあった。
その周りにはイノシシの足跡が幾つも いくつも 





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最終更新日  2006年04月01日 23時20分52秒
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