yuuの一人芝居

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おはなし 星に願いを 1



     ラルのお父さんとお母さんは隣の国との戦争で亡くなったのでした。

     ラルは羊飼いのお爺さんと暮らしていました。

     ラルはお父さん、お母さんがいなくても淋しいと思ったことがありませんでした。

     それは、優しいお爺さんがいたからでした。

     毎日毎日、ラルはお爺さんと羊を追って草の茂る野原に出掛けたのです。

     ある日、ラルが野原に出ると、そこには花がいっぱい咲いていました。

     羊達は喜んでその中を走り回り、食べはじめました。

     「花が可哀相だ」とラルは思いました。

     そのことをお爺さんに言いました。

     「ラルよ、花が美しく咲くのは、蜂や蝶々や鳥に食べられるためなんだよ。そして、羊に食べられふみにじられるために咲いているんだよ」

     とお爺さんは言いました。

     「美しい花はほんのひとときでほろびるものなんだよ。だけど、花はそれで終わることはないんだよ。毎年毎年この季節になれば、また、美しく花を咲かせるんだから、そのことは神様と約束をしているんだから・・・」

     そう、お爺さんに言われて、ラルはそうなんだ毎年毎年花を咲かせるのはそのような神様との約束があるからなのかと思いました。

     ラルはお爺さんの話を思い出しながら、堅いベッドに横になり一日の疲れをとるのでした。

     「トントン、トントン」と戸をたたく音でラルは目をさましました。

     ラルは起き上がり戸をあけると、ひとりの少女が立っていました。

     「どなたですか、道を間違われたのですか」

     とラルはその少女に声をかけました。

     「いいえ、星を見にきたのです。この家は丘の上にあるでしょう、だから、星に手が届くのでないかと思って」少女はやわらかな声で言いました。

     「星を・・・」

     「はい・・・一緒にどうですか」

     「ぼくとですか・・・。こんなに夜遅くでは恐くありませんか」

     「いいえ、星があんなに輝いているのですもの。・・・あなたの、お父さまお母さまもあの星の一つ一つなのですよ」

     「ええ、あの星がお父さんお母さんなのですか」

     「ええ、そうよ」

     「お爺さんは、星は花の精だと言っていましたよ」

     「いいえ、あの星は、戦争でなくなった人の、平和へのともしびなのですわ」

     「平和への燈・・・」

     「そう、辛いとき、悲しいとき、淋しいとき、苦しいとき、じっと見守ってくれているのですわ」

     「それで、君はあの星をどうしようと・・・」

     「ええ、もっと高いところから星を見つめて祈るのですわ、淋しい事もあるけれど、このように元気でいますとみてもらうのですわ」

     「君のお父さんお母さんは・・・」

     「この前の戦争で・・・」

     「ぼくの、お父さんやお母さんも・・・」

     「さあ、ラルもっと上に登って星をさがしましょう」

     ラルはベッドより起き上がろうとしました。

     その時、

     「ラル、行ってはならん」

     お爺さんの大きな声がしました。

     「星は、辛いとき、悲しいとき、淋しいとき、苦しいとき、以外に見るものではないんだょ」

     とお爺さんは続けて言いました。

     「幸せなときには見てはいけないの」

     ラルはお爺さんに問いました。

     「そうじゃ」

     「だったら、この少女は・・・」

     と言って、戸口を見ると少女はいなくなっていました。                               

     「ラル、今日、花が可愛そうじゃと言ったろう、だから、ラルの優しさに花の精が人間となって、ラルに恩返しにきたのじゃろう」

     お爺さんの声は風の音のように消えました。

     次の日、戸口の外にはたくさんの花びらが落ちていました。

     ラルは星を眺めることもなくすくすくと育ちました だけど、少しだけ星を見上げることがありました。





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