「ハイユニ発売前の58年に、当社は1本50円の高級鉛筆『ユニ』を発売しています。これは当時の数原(すはら)洋二技術部長(現・相談役)がヨーロッパの展示会で『日本の鉛筆は模造品』と評されたことに奮起し、『最高品質の国産鉛筆を送り出す』と陣頭指揮を執って開発したもの。
やはり当初は『売れるのか?』と不安もあったそうですが、ふたを開けてみると岩戸景気(58〜61年)の波にも乗って好調に推移。良いものが受け入れられる土壌は確実にあると判断し、作り上げたのがハイユニでした」
そう語るのは、同社広報の神崎由依子さん。それにしても、1本100円の鉛筆はどうやって社会に根づいたのか?
「開発時に予想していた購入者像は、やはり製図や設計などの専門職の方たち。ところが売り出してみると、裕福な家庭のお子さんたちの間にも広まっていったんです。実際、今の50代、60代の方で、『クラスにひとりかふたり持っている子がいて、憧れの鉛筆だった』と語ってくださる方は多いです」
その“憧れた世代”が親になり、自分の子供に買い与えることで、高級鉛筆としての地位は揺るがぬものとなっていった。
「塗料やニスを9層に重ね塗りした独自のハイユニ色、製造課に所属するその道十数年の職人たちが、黒鉛と粘土を丁寧にブレンドして作り上げる芯の仕上がりなど、品質には圧倒的な自信を持っています。また、発売当時からデザインを変えなかったこともブランドイメージを守る要因になったと思います」
確かに、ひとたび「親から子へ受け継がれるアイテム」の座を勝ち得たら、そのデザインは“昔と同じく厳(おごそ)か”であったほうがよい。もちろん、芯が折れにくく、先が丸くなりにくいハイユニは、「鉛筆のみ可」という条件で試験に臨む受験生や、設計士や画家といった専門職の人々からも支持され続けている。そして三菱鉛筆も国内生産にこだわり続けている。
「当社にとってユニ、ハイユニは最も重要な商品。今後、鉛筆の需要が落ちようとも生産をやめることはありません」
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