しばらく顔見なかったな
まあまあ上がれ
何がだ?
いや、飯(まんま)をあがれって
そうじゃない
こっちに上がれ
そですか
陽気な上がろうか、陰気に上がろうか?
陰気は嫌いだ陽気に上がれよ
よっこらどっこいしょ
さぁ殺すなら殺せ!
誰が殺すか
お前を殺しても罪になる
人が来たら茶くらい出るけどな・・
催促するな
今出そうとしたところだ
ほら粗茶だ
どうも、、
うん、いい祖茶だ
お前が粗茶って言うな
まぁお前に言われて腹が立たないのがおもしろいな
まぁゆっくりと遊べ
あんた退屈せんか?
退屈もあるけど、
わしにも道楽が一つあって書画で楽しんでる
どうだ後ろの屏風
うわぁ汚い屏風だな
なんか古い絵をベタベタはって
お前に見せたら適わないな
これは名人が描いた絵ばっかりだぞ
そうか、値も高いな
値のことは言うな
銭金で買えないものがここに描いてある
左様か、じゃちょっと見直そうか
変わった絵が書いてるな
どこが変わってる?
侍がなんか唐人傘みたいなのを持って、虎の革の股引はいて。その下で女の子がペコペコ謝ってるな
これが有名な太田持資(おおたもちすけ)じゃ
後に太田道灌となる人だ
あぁあの
知ってるか?
おおた事もなければ、どうかも知らん
洒落を言うな
太田道灌はなかなか名将でな
遠出したところにわかの村雨だ
雨宿りするところがない
ふと見たら向こうにあばら家があったな
いや売れないだろ
油屋
油屋じゃないあばら家
壊れかかった家のことだ
そこに立ち寄って雨具の借用を願った
するとそこから出てきたのは賤の女(しずのめ)だ
・
盆の上に山吹の枝を乗せて
お恥ずかしゅうと言って出した
分からない人間だな
分からないか
道灌は傘を借りたいんだろ
山吹の枝なんか出されてもな
そこだ!
太田道灌程の人間もわからなかった
名将だけども乱世に育ち、歌道(かどう)に暗かった
家来に意味がわかる人がいた
恐れながら申し上げます
兼明親王の古歌に
「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき」と言うのがございます。
実のと蓑(みの)をかけた雨具の無い断りでございましょう
・
それを聞いた道灌は赤面をして家来と一緒にお城にお戻りになった。
侍の文武両道は車の両輪のごとし
わしは文に暗い、その他めに若い女子から恥辱を受けた
これは文を学ばないといけないと、一心不乱に勉強して日本一の歌人になった
どのくらい焼けたんだ?
なに、、?
日本一の火事になったんだろ
いや、歌の人と書いて歌人だ
そのお陰で前の歌の返しができた
「急がずば ぬれざらましを 旅人の あとよりはるる 野路の村雨」
雨具の断りは何て言うんでしたっけ?
七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき
それをあなたの持っている扇に書いてくれるか?
わしの扇にか?
まぁ良いだろう
ひらがなでな
・
・
・
ありがとうございます
これを持って帰り友達が雨具を借りたときの断りをするんだ
あいつ等、借りるだけ借りて返さないんだ
面白いこと考えたな
まぁお茶でも飲で行くか?
いや、だいぶ曇ってきましたので
雨が降る前に帰ります
さようなら
なんでも知ってるなぁ
一つ利口になった
それにしても雨が降る前に帰ってきて正解だった
居るか?
来たな道灌め
なんだどうかん?
こっちの事とだ
お前はモノを借りに来たな
おっ良くわかったな
傘だろ?
いや、傘は持ってる
提灯を借りに来た
へ?
提灯なんかどうするんだ?
提灯どうするって、暗いから足元照らすに決まってるだろ
提灯貸して
提灯は無い
無いって後ろにつってあるだろ
しようがない
雨具を貸せって言ったら貸す
いや、雨具は持ってる
持ってても言え
雨具貸せって言ったら提灯を貸す
どうかしてるな
傘貸して
傘じゃない、雨具
面倒くさいやつだな
雨具貸して
お恥ずかしゅう
なんて、声を出してるんだ
え?扇を見ろって?
「ななへやへ はなはさけども やまぶきの みのひとつだに なきぞかなしき」
なんだこれは都々逸(どどいつ)か?
これを知らないなんてお前は歌道(かどう)に暗いな
角(かど)が暗いから提灯を借りに来たんだ
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