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posted by fanblog
2018年04月15日
猿後家(さるごけ)
何不自由なく暮らしております。
なんの因果か女将さんの顔が猿にそっくりという
表に出ると
おい、あの女を見て見ろよ
あれが猿後家って言われてる人だよ
え?でもいい女だぜ
それは後ろから見てるからだよ
前に回って見てご覧よ、ひどいから
へぇあれが猿後家かい
猿後家、猿後家・・・って言葉が耳に届くのでだんだん表に出なくなりました。
ここに勤めているの奉公人は猿という言葉が言えない
ああしなさる、こうしなさるって言えない
もしこんなことを言う者ならすぐにお暇が出てしまいます。
出入りの者が口を滑らしたら即座に出入り止めになる
定吉や
番頭さん御用ですか?
お前なちょっと悪いがさっきの所にもう一回使いを頼まれてくれ
へい
あっちょっと待ちな。お前はお使いが遅くって困るよ
この前遅いから様子を見に行ったら本を読みながら歩いてたな
なんでそんな事をするんだ?
お使いはさっと行って来て、さっと帰ってこないと意味がないんだよ
何の本を読んでいたんだ?
あれはですね、猿飛佐助って言うんですけど
お前!ちょっとこっちに来なさい
とんでもない事を言うんだな
何がですか?
何がじゃないよ
良かったよ女将さんが居なくって
ここの家は猿という言葉を言ってはいけないんだ
知っているだろ?
えぇ知ってますよ
じゃなんだい猿飛佐助って
あ!!!
お前はねぇ、うっかりでもお暇が出るんだから気を付けないと駄目だよ
あの本を捨てたんだろ?
え、まだとってあるのかい?
読み残しなんてどうでもいいから捨ててしまいなさい
他の本を読みなさい
分かりました
一緒に買ったヒヒ退治を読みます
馬鹿やろう
ヒヒは猿の親玉みたいな奴だろ
それを退治するって馬鹿だね
お前みたいな奴とかかわっていたらこっちが痩せる思いだよ
でも番頭さん世間で女将さんの事を猿に似ているって言うけど違いますよね
そうだな
お前も良い所もあるんだな
そうだよ、女将さんは猿になんか似てるものか
そうですよね
猿が女将さんに似てるんですよね
そうだよ
猿の方が女将さんに・・・
もういいから早く使いに行ってこい!
・
・
あぁあいつは駄目だな
とても長く奉公は勤まらないぞ
どうも、おはようございます
なんだい
善さんじゃないか
こっちに上がっておくれ
暫く来なかったけどどうした?
どうもご無沙汰しております。
お前が来ないから偉い目にあったんだぞ
何かありましたか?
聞いておくれよ
お前も知っての通り私は世辞が言えないたちなんだ
家の女将さんの顔があれだよ
表に出ないで家に閉じこもったまま
女将さんの楽しみはお前みたいな口達者な人にいい心持ちさせてくれる
それだけが楽しみなんだ
・
お前は三、四日来なかっただろ
機嫌が悪くってさ
昨日の事だよ喧嘩したよ
奥さん喧嘩したんですか?
だれと?
植木屋が庭の手入れをしていたんだけどさ
昨日、女将さんも退屈だったんだろ
自分で座布団と煙草盆をもって縁側に座って世間話をしていたんだ
「植木屋さんこの辺に木が欲しいんだけど何か無いかい?」って聞いたんだ
そしたらうっかりしていたのか「さるすべりの良いやつが在るからここに植えましょう」
さるすべりはまずいですね
あぁまずいさ
そこから芝居を見ているようだったよ
出ていけ恩知らず!!出入り止めだ!!って
植木屋も気が付いて始めは謝っていたけど、
女将さんが煙管(キセル)でもって頭を殴ったものだから
・
植木屋もふざけるなって、こっちは謝ってるじゃないか
なにも頭を殴ることないだろ!こうなったらここは出入りでもなんでもない
そんなにさるすべりが嫌なら柿の木を植えてやるから
それに登って渋柿でもかじっていろ!
また思い切ったことを言ったものですね
それから女将さんはおいおい、悔しい悔しいって泣いてね。
植木屋さんはそのまま帰ってしまったから未だに庭は散らかりっぱなし
ようやく今朝がた泣き止んだのは
そうですか
お前さんが来て機嫌を直してくれたら有り難いと思っていたんだよ
早速奥に行って機嫌を直しておくれよ
頼んだよ
おはようございます
善公で御座います
・・・あれ?
女将さん留守ですか?
また後程伺います
なんだい?善さんもう帰るのかい?
あの、どちら様ですか?
やだよ。私じゃないか
あの・・
やだよ
私の顔を忘れたのかい?
あれ?奥様ですか
すっかり見間違いをしました
なぜって会う度にどんどん若くなっているからね
てっきり私は京都の親戚のお千代さんと思ってましてね
やだよぉ〜
お千代は京都の水で洗いあげた本当の京美人じゃないか
あたしは五十近いおばあちゃんになってさ
そのおばあちゃんと十八の娘を間違えるなんてそそっかしいね
いえ、間違えますよ
いつ見ても美しいですからね
それに今日はことのほかにお化粧が上手く出来上がりましたからね
やだよぉ〜
まだ化粧前じゃないか
え?素顔なんですか?
それじゃお化粧をしたら後光がさすようでございましょうな
もうぉ〜やだよぉ
竹や!善さんが来たから鰻特上を頼んでおくれ、お酒もね
・
善さん暇なんだろ?
ゆっくりしておくれよ
それにしても暫く来なかったじゃないか
どうしてんだ?
実はですね
家の嬶(かかあ)の里から三人出て来まして
久しぶりに東京見学をしてい見たいって言うものですから方々を付き合いをしておりました。
その後田舎へ送って来ましてね
・
東京見物も田舎の人は足が丈夫なんですね
やたら歩くんですよ
もうへとへとになりまして、どうもすみません
すっかりご無沙汰になりまして
そうかい、それなら良いんだよ
お前さんが来なくなったから風邪を引いて寝てるんじゃないかって心配したんだよ
善さん、東京見物の話を聞かせておくれよ
まず東京って言うと二重橋を拝みました
足を延ばして日比谷公園に行って、年寄りのいく所じゃありませんね
若い者たちが仲良くやっているのを見て早々に退散いたしました
銀座通りを歩いて、新橋に行って大きな天ぷら屋がございますので
そこでもって皆さんにごちそうしました
まぁそれじゃお前さんが旦那になったのかい?
えぇ旦那になりました
まぁ偉いんだね
所ですがね、みなさん良く食べるんで一人あたり三人前くらいぺろぺろいくものですから
懐がさみしいものでどうのなるか心配で
なんだい
ここへちょっと寄ってくれればお小遣いをあげたのに
お前さんは皆さんにご馳走したから食べられなかったのかい?
いえ、私はちゃんと五人前食べました
なんだい、お前さんが一番良く食べたじゃないか(笑)
面白いねぇ
それからですね泉岳寺にお参りに行きましたがここへも歩きでしたので
もうそこへ行っただけでもヘトヘトになりました。
それでもなん百年もたったのか知りませんが大したものですね。
お線香の煙が煙ってましてねぇ
それから嫌がるのを無理やり電車に乗せて明治神宮にお参りして、
そこから新宿に出て靖国神社に行きました。
・
そうしたら歩いて上野公園まで行くって言うんですよ
歩いてってこっちは御免こうむりたいんですけどねぇ
でも何事も向こう様のお相手ですからね、上野公園にたどり着いたら足が棒みたいになりまして、
西郷様の銅像の所に茶店が在りまして腰を下ろすと脇の所に
江戸時代の俳諧で宝井其角の弟子で秋色(しゅうしき)っていう女の子が作った俳句ですかね。
・
その俳句の碑が立ってまして詳しくは覚えていませんが井戸端の 桜あぶなし 酒の酔とかなんとか
これがまだ子供のころに作ったって言うんだから大した物だなって思いましたね
脇に桜が立っておりまして、まぁこれはその頃のものではありませんがね
・
秋色の歳をとった時に作った俳句も御座いまして、
秋色もなんとかなりて姥桜(うばさくら) ・・ぁんてものも御座いまして、、
えっとここまで来たんだから上野動物・・・動物園はよそうなって、、、
それから、そうだ浅草の観音様にお参り致しまして、あそこはいつ行っても賑やかですね。
鳩に豆をやったりしましてね
それから裏手に行きますと大勢の黒山の人だかりになっておりまして
何だろうと思ってみて見ますと今に珍しい猿回しで芸が上手い物で私も奮発しまして三千円ばかり
お帰りよ
恩知らず
ちょっと待ってください
私何かまずい事を申し上げましたか?
おとぼけじゃないよ
観音様の裏手に大勢人がいたんだろ
えぇそうです。
その中に何が居たんだ?!
なにって今時珍しい猿まわ・・・あぁっとええっと
出ていけ!!
お前の顔なんか二度と見たくも無い、出入り止めだ!
帰らないのか!煮え湯を浴びせる!
番頭さん!!!!
なんだ騒がしいね
お願いが御座います。
どうしたんだい?
しくじっちゃたんです。
ですから奥に行ってお詫びしてくださいな
お前さんがかい?
なんでそんなことになったんだ?
それがですね東京見物の話をしているときにうっかり夢中になって
上野の動物園を上手く避けたんですが、安心しているすきに
観音様の裏手で人が大勢いたので、中を見てみると猿回しって
猿回し!!!
おいおいおい、それはまた一段ときつい事を言ったね
まぁとりあえず帰っておくれ
いえ、帰れません
今日はどうしても奥様のご機嫌を伺ってお小遣いを頂かないとお米買えないんです。
なんだい?お米が買えないって?
自分の商売をしたらいいだろ
商売って私は昔やっていた古本屋をやめて今は何もしていないんですよ
どうやってご飯を食べているんだ?
いえ、毎日こちらに伺って奥様のご機嫌を取ってお小遣いで
なにかい?ご機嫌取りを商売にしているのかい?
それだったらもう少し上手くやってもらわないと困るよ
お前さんがしくじると後は誰もいないよ
まぁ今日は帰っておくれ、日を改めて
いえ、、駄目なんです
そこの所を何とかしてください
番頭さんお願いです
困ったねぇ
それに比べると以前お出入りしていた仕立て屋の太平はお詫びの仕方が上手かったねぇ
仕立て屋の太平ってそんな人がいたんですか
いたよ
どんな人ですか?
どんなって、仕立て屋だよ
お前と同じようにご機嫌を取ってお小遣いをもらっていたよ
そういえば女の子がいたね
その子にねお師匠さんの方はお礼をするからって言って踊りを習わせていた
可愛がっていたんだよ
・
暫くするとね、踊りの方はって聞くと筋が良いと褒められております
今度のおさらいには靭猿(うつぼざる)をやりますって言ってしくじった
靭猿ですかぁ
それはうっかり出ますね
三ケ月ぐらい来なかったね
ある日、表でボロボロの汚い乞食が立っていたんだ
女将さんがそれを見て幾らかやってくれって
心が優しい方なんだ
・
私が小銭をもって渡そうとすると、実は太平で御座います。
とても伺えた義理では御座いませんが、あれからどこに行ってもあそこをしくじる様では
付き合えないと方々から断られてしまい今では仕事がなくなってしまいました。
親子三人首をくくって死のうと思っておりましたが、それを思いとどまりまして
四国巡礼の旅に出ようという事になりました。
・
在りもしない道具を売ろうとすると道具屋の前で娘が、
ここにお店のおばちゃんの絵が売っているから買ってちょうだい
言われて中を見ると瓜二つ。
それを買い求めまして、つきまして巡礼の守り本尊にしたくこの錦絵に魂をお入れ下さい
と言って見て私も驚いた
いやぁ水もたれる良い女さぁ
お詫びの仕方が上手いですね
それ錦絵が奥様に似ていたんですか?
馬鹿、、、似るわけないだろ
それでも女将さんの機嫌が直った
なんだい太平やそんな旅に出なくてもいいんだよ
これは私が買ってあげますからって言って上がらせて
お湯を沸かして風呂に入れたり、床呂屋を呼んで頭をきれいにして
着ている物も亡くなった旦那の着物や帯を着させて瞬く間に太平は見違えるようになった
女将さんは、錦絵を見て太平にご機嫌を取ってもらっている
いくらしたのか知らないけど随分な額でその錦絵を買っていたよ
上手くやりやがったなぁ
これだけ上手く言ったんだからお礼を言って早く帰ればよかったんだ
またしくじったんですか?
太平は本当に知恵が在るねって言ったら
ほんの猿知恵だって・・・それっきり来ないね
他人事じゃないな
番頭さんお願いですからお知恵を拝借
お知恵って言ってもな
昔に居た美女に例えたらどうだい?
小野小町や静御前、常盤御前、袈裟(けさ)御前なんか美人だったって言うだろ
そうですか
有難う御座います。
上手くやっておくれよ
善公ご機嫌伺い・・・
まだいるのかい?!
出ていけ!!
いったい何が気に入らなかったんです?
観音様の裏手に大勢人がいたんだろ
えぇそうです
その中に何が居たんだい?
ですから・・回しです。
もっとはっきり言い
ですから棒の先にお皿をまわしてくるくる回す「皿回し」です
話の途中でお皿回しって言いにくいから皿回しって言ったんです
その何がいけないんですか?
なんだい?
皿回しって言ったんのかい?
そうですよ
そうかい
それならいいんだよ
お前がはっきり言わないから聞き間違えるんだよ
竹や!早く鰻をお願いね
ゆっくり遊んでくれよ
えぇ有難う御座います。
でもね、番頭さんと話をしていたんですが日本に奥様程の美人はいませんねぇ
いやだよぉ
綺麗な人は沢山いるだろ
えぇ綺麗な人はいますけど奥様のように心に錦を着ている人はそういませんよ
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花なんて奥様の為にできた言葉です
昔で言えば静御前、常盤御前、今朝御前に晩の御前なんていう位のものでしょう
いやだよぉもう
お前さん生涯家に遊びに来ておくれよ
でもね、私の気になることは言っておくれでないよ
えぇそれは大丈夫です。
お宅様をしくじったら親子三人木から落ちた猿同様です・・・