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生涯の師、“太”と出会う?@

7月。
広島から小倉へ転勤し、そこで生涯の師、“太”と出会う。
釣りするんか?いっしょに行くか ?”
ぱっと見の印象は、細身で眼鏡の似合うインテリ風。
スマートな風貌なのだが、野太い声で男っぽく、ガニ股でどかどかと歩くその男は、
名を 太(ふとし) といった。
転勤したばかりの自分に、太は声をかけてくれた。

「フカセ釣りってなんですか?渡船使うんですか?チヌ(黒鯛)って夜行性じゃあ・・・」
親父が投げ釣りをやっていて、子供時分はカレイやキス、ベラなんかを狙ってよく釣行した。
なので、趣味は釣りと公言していたのだが、太は渡船を使ってフカセ釣りをやる、という。
わからないことだらけで、不安に感じたのだが、
よしとりあえず行こう、渡船代と昼飯以外はこっちで用意するけえ
と満面の笑みで半ば強引に誘われ、これが太との初釣行となった。

次の土曜日、朝4時。
太が車で迎えに来た。
“おー、短パンかー。かっこええのう”と太。
車には太の親父さんもいた。

真っ暗闇の中、車は新門司港のフェリー乗り場に着いた。
ライトを灯した一艘の小型船が停泊しており、そばには先客が数人いる。
太に渡されたライフジャケットと磯長靴をもたもた着ていると、
船長、今日は3人じゃけえ。で、調子はどうなん?昨日40cmオーバーが6枚!じゃあ、2番かねえ・・・
と船のエンジン音に負けない野太い声で、太が話している。
渡船代をいつ払うのか気になったが、どうやら後払い(帰港後)のようだった。
竿ケース、クーラー、そしてバッカン?なる重い荷物を船に積み込み、いよいよ出船となった。

風を切って進む暗闇の船上は、7月でも肌寒かったように思う。
10分もたたないうちに 恒見(つねみ)切れ波止2番 に着いた。
船首のスロープを波止に押し付け、“着いたよ〜”と拡声器ごしの船長の声が響くと、大半の釣人が一斉に動き出した。
頭に洞窟探検家を思わせるヘッドライトを装着した釣人達。
自分の荷物をもって船首のスロープから波止へよじ上る者。
他者の荷物を、波止に上がった釣人へ渡す者。
何も言わずに皆が協力してきびきびと動く光景を、ただぼんやりと眺めていた。

いくど。
自分達もこの波止にあがるという。
太と親父さんにつづき、自分も波止へよじ上った。

見渡す限り広がる、黒い海。
海と空の境がわからない。
足元には、月明かりにぼやりと照らされた青黒い水面がぶきみに光り、粘性の高い生き物のように、ゆっくりとうねっている。
ただ、波の轟音だけが、絶え間なくあたりに響き渡っていた。
ぶきみな闇の中に、ポツンと置き去りに去れた心地がして、妙なプレッシャーを感じたのを覚えている。
(?Aへつづく)


出典)「福岡の海釣り」(西日本新聞)

いざ、出陣!

静かだった。
昨日までの風が嘘のように、目覚めた朝は静寂に包まれていた。
早朝3時半、口を半開く妻の愛しい寝顔に目もくれず、しかし物音に細心の注意を払いながら、海の荒武者は漁の準備にとりかかる。
装備は昨日何度も点検した、ぬかりはない。
これならいかな大物が相手でも万全である。
必要具を補充したベストを荒くつかみながら、もう一方では獲物を収めるクーラーを高くかかげ、家から目前の駐車場へ小走り、そしてまた家の中へ。
頭には視線が見え隠れするちょっと深めのとっつあん帽、今日は暑くなりそうだ。
磯長靴や防寒着は既に車の中、エサは“かめや”に予約済み。
よし、ちょっと一息つこう。
我が家の漁具置きスペースにぼんやり目をやりながら“これから”を想像する・・・

荒々しい波の音、朝もやのかかる薄暗い磯、荒武者の洞窟探検家を思わせるヘッドライトが周囲を照らせば、徐々に、徐々にその漁場の全容が明らかになってきて・・・
 —期待感に震えるこの瞬間がたまらないのだ—
そして思い浮かぶは釣りまくる姿ばかり。
足裏サイズ(30cm弱)はキープ、小物はリリースしようと心に誓う。
さて漁場の観察だ、潮は流れているか、海の色は濁っていないか、風を味方にできるか。
釣り座を決めたら実釣の準備。
海水を汲みマキエをこね、竿に糸を通し、ウキやハリをセットし、そして海へ向かい大きく竿をふって・・・。
よし、シミュレーションに問題はない。

最後に必釣の祈りこもった竿ケースを肩にかついで玄関へ・・・。
居間に飾ったチヌ(黒鯛)の魚拓を仰ぎ見つつ、ふと懐具合を確認する。
昨日“かめや”で買ったのは新しいウキ1700円、補充した1.25号のハリス1500円、技術修練の一助となる書籍“山陰の釣り”1000円・・・で残金4000円。
渡船代には十分、昼飯ぬきは仕方ない。

ちらと妻に目をやる。
大丈夫、いまだ夢の中、そーっとそーっと・・・
「ガサッ!」室内干しの洗濯物に竿ケースを当ててしまった。
そして妻は目を覚ます・・・。

「・・・ん、その格好どうしたん・・・?あれ、釣り?・・・(怒)釣り!?今日、スタッドレスタイヤ買いに行くって言ったじゃん!電球も取り替えるって約束よ!“笑の○学”見に行くのはどうなったん?釣りに行っちゃ駄目って言ったよね?何で?何で?何でー!!!(怒)」

パニックである。
いや、落ち着け、この暴れるお魚も落ち着けば何とかさばけるはずだ。
・・・いや何、昼には帰還する予定なんやけどね、ちゅうか“笑の○学”よりあんたの怒った顔の方がよっぽど、しかし何だね、今日は天気いいのかね、そういやお義父さんの誕生日そろそろじゃない、あっ、大山に初雪が・・・
「・・・うん、そういやお父さん再来週が誕生日やった・・・」。
よし喰い付いた。
バレ(逃がさ)ないように細心の注意を払いながら・・・
・・・来週にでも実家お邪魔しようか?プレゼント用意しとこうかね・・・
「うん、わかった・・・そうやね、うん・・・行ってらっひゃい・・・むにゃ」

最大の難関を華麗にさばいたのは、胸に“九州爆釣会”の文字を刻む海の荒武者。
大物の予感に胸ふくらませ・・・いざ、出陣! 
プロフィール

chiku
広島市在住の40歳男性、chikuと申します。  釣行できないストレスをブログで発散中!?  初心者ですが、どうぞよろしくお願いします。
    <ようこそ!> パワーストーン
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感想(8件)

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