2013年01月19日
生涯の師、“太”と出会う?@
7月。
広島から小倉へ転勤し、そこで生涯の師、“太”と出会う。
“ 釣りするんか?いっしょに行くか ?”
ぱっと見の印象は、細身で眼鏡の似合うインテリ風。
スマートな風貌なのだが、野太い声で男っぽく、ガニ股でどかどかと歩くその男は、
名を 太(ふとし) といった。
転勤したばかりの自分に、太は声をかけてくれた。
「フカセ釣りってなんですか?渡船使うんですか?チヌ(黒鯛)って夜行性じゃあ・・・」
親父が投げ釣りをやっていて、子供時分はカレイやキス、ベラなんかを狙ってよく釣行した。
なので、趣味は釣りと公言していたのだが、太は渡船を使ってフカセ釣りをやる、という。
わからないことだらけで、不安に感じたのだが、
“ よしとりあえず行こう、渡船代と昼飯以外はこっちで用意するけえ ”
と満面の笑みで半ば強引に誘われ、これが太との初釣行となった。
次の土曜日、朝4時。
太が車で迎えに来た。
“おー、短パンかー。かっこええのう”と太。
車には太の親父さんもいた。
真っ暗闇の中、車は新門司港のフェリー乗り場に着いた。
ライトを灯した一艘の小型船が停泊しており、そばには先客が数人いる。
太に渡されたライフジャケットと磯長靴をもたもた着ていると、
“ 船長、今日は3人じゃけえ。で、調子はどうなん?昨日40cmオーバーが6枚!じゃあ、2番かねえ・・・ ”
と船のエンジン音に負けない野太い声で、太が話している。
渡船代をいつ払うのか気になったが、どうやら後払い(帰港後)のようだった。
竿ケース、クーラー、そしてバッカン?なる重い荷物を船に積み込み、いよいよ出船となった。
風を切って進む暗闇の船上は、7月でも肌寒かったように思う。
10分もたたないうちに 恒見(つねみ)切れ波止2番 に着いた。
船首のスロープを波止に押し付け、“着いたよ〜”と拡声器ごしの船長の声が響くと、大半の釣人が一斉に動き出した。
頭に洞窟探検家を思わせるヘッドライトを装着した釣人達。
自分の荷物をもって船首のスロープから波止へよじ上る者。
他者の荷物を、波止に上がった釣人へ渡す者。
何も言わずに皆が協力してきびきびと動く光景を、ただぼんやりと眺めていた。
“ いくど。 ”
自分達もこの波止にあがるという。
太と親父さんにつづき、自分も波止へよじ上った。
見渡す限り広がる、黒い海。
海と空の境がわからない。
足元には、月明かりにぼやりと照らされた青黒い水面がぶきみに光り、粘性の高い生き物のように、ゆっくりとうねっている。
ただ、波の轟音だけが、絶え間なくあたりに響き渡っていた。
ぶきみな闇の中に、ポツンと置き去りに去れた心地がして、妙なプレッシャーを感じたのを覚えている。
広島から小倉へ転勤し、そこで生涯の師、“太”と出会う。
“ 釣りするんか?いっしょに行くか ?”
ぱっと見の印象は、細身で眼鏡の似合うインテリ風。
スマートな風貌なのだが、野太い声で男っぽく、ガニ股でどかどかと歩くその男は、
名を 太(ふとし) といった。
転勤したばかりの自分に、太は声をかけてくれた。
「フカセ釣りってなんですか?渡船使うんですか?チヌ(黒鯛)って夜行性じゃあ・・・」
親父が投げ釣りをやっていて、子供時分はカレイやキス、ベラなんかを狙ってよく釣行した。
なので、趣味は釣りと公言していたのだが、太は渡船を使ってフカセ釣りをやる、という。
わからないことだらけで、不安に感じたのだが、
“ よしとりあえず行こう、渡船代と昼飯以外はこっちで用意するけえ ”
と満面の笑みで半ば強引に誘われ、これが太との初釣行となった。
次の土曜日、朝4時。
太が車で迎えに来た。
“おー、短パンかー。かっこええのう”と太。
車には太の親父さんもいた。
真っ暗闇の中、車は新門司港のフェリー乗り場に着いた。
ライトを灯した一艘の小型船が停泊しており、そばには先客が数人いる。
太に渡されたライフジャケットと磯長靴をもたもた着ていると、
“ 船長、今日は3人じゃけえ。で、調子はどうなん?昨日40cmオーバーが6枚!じゃあ、2番かねえ・・・ ”
と船のエンジン音に負けない野太い声で、太が話している。
渡船代をいつ払うのか気になったが、どうやら後払い(帰港後)のようだった。
竿ケース、クーラー、そしてバッカン?なる重い荷物を船に積み込み、いよいよ出船となった。
風を切って進む暗闇の船上は、7月でも肌寒かったように思う。
10分もたたないうちに 恒見(つねみ)切れ波止2番 に着いた。
船首のスロープを波止に押し付け、“着いたよ〜”と拡声器ごしの船長の声が響くと、大半の釣人が一斉に動き出した。
頭に洞窟探検家を思わせるヘッドライトを装着した釣人達。
自分の荷物をもって船首のスロープから波止へよじ上る者。
他者の荷物を、波止に上がった釣人へ渡す者。
何も言わずに皆が協力してきびきびと動く光景を、ただぼんやりと眺めていた。
“ いくど。 ”
自分達もこの波止にあがるという。
太と親父さんにつづき、自分も波止へよじ上った。
見渡す限り広がる、黒い海。
海と空の境がわからない。
足元には、月明かりにぼやりと照らされた青黒い水面がぶきみに光り、粘性の高い生き物のように、ゆっくりとうねっている。
ただ、波の轟音だけが、絶え間なくあたりに響き渡っていた。
ぶきみな闇の中に、ポツンと置き去りに去れた心地がして、妙なプレッシャーを感じたのを覚えている。
(?Aへつづく)
出典)「福岡の海釣り」(西日本新聞)