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2019年02月23日

願いが叶う神社【怖い話】






母方の祖母が信心深い人だった。



よく子供だった自分の手を引いて山裾の神社に連れて行った。

群馬は視界に山が入らないところが無い。

母方の家は、すぐ裏がもう山だ。

近隣の墓はほとんど山中にあって、
蜘蛛の巣みたいに細かな路が入り組んでいる。

金比羅様と祖母が呼んでいた神社というのは、
丸太の鳥居、破れた障子、抜けた濡縁。

管理されているとはとても言えぬ有様。



でも祖母は、何度となく私をそこに連れて行った。

細い山路を私は付いて行った。

祖母は神社をすごく有難がっていた。

7つか8つぐらいの時だと思う。

「今日は特別」

そう言った祖母は、荒れ神社の裏手に私を連れて行った。

初めて見る神社の裏は、昼なのに暗い。夕暮れのようだった。

そしてそこには、人ひとりがようやく通れそうなくらいの、
すごく細い路が続いていた。


路を登り、下り、けっこう進んだ先は開けた場所だった。

明るくて、不思議な場所だった。

ローマのコロッセウムを半分にしたような、
大掛かりな雛壇のような石積み。

段には小さい位牌のようなものがたくさん並び、
短冊のついた笹、折り紙飾り、仏花で彩られ、
そよぐ風で風車が回転していた。

私は嬉しくなった。


手を合わせようとすると、祖母は私を叱った。

「ここは強い神様が居る。
 だからお願いごとをしてはいけない。

 きっとそれは叶うけど、
 ここの神様は見返りを要求する神様だから」

そう言った。


そこにはそのあとも、
もう一回だけ連れて行ってもらった。

やはり変わらず、鮮やかに飾られた、
とても綺麗な場所だった。


私が中学校に上がってすぐ、祖母は亡くなった。

事故だった。

とても悲しかったが、
突然だったので実感が持てなかった。

さらに時は過ぎて、私も大きくなり、
母から漏れる情報から、母の実家の状況が分かってきた。


祖母の死の前。母の兄は、
自動車整備の会社を辞めて独立していた。

だが不況が重なり、相当苦労していたらしかった。

驚いた。叔父は高校に進んだ私に、

「誰にも言うな」

とポンと10万円くれたこともある。

事業だって順調そのものだ。

母によると、祖母の死を前後して、
赤字続きだった叔父の工場はグッと持ち直したそうだった。

私は例の不思議な場所を思い出していた。

もしかして祖母は、
あの場所でお願いしたんじゃないだろうか。

『わたしはどうなっても構いません。
 倅の会社を救ってやってください』

って。

きっとそうだと思った私は、
もう何年も行っていないあの神社に、
もう一度行きたいと思うようになった。

次に群馬に行く事になったとき、
一人で神社に向かった。

久々で少し迷ったが、
どうにかあの神社に辿り着いた。

でも、私の行きたい場所は此処ではない。

『あの場所』だ。

私は裏手に回った。あの日と同じように。


だが、そこに路は無かった。あった形跡も無かった。

信じられなくて、何度も神社の周りを回った。

それでも無かった。


信じられなかった私は、
上記のような『あの場所』の様子を、
母に、叔父に、祖父に、叔父の子どもたちに
聞きまくった。

でも、答えは同じ。

「そんな場所知らない」

私は怖くなった。

すごく、すごく、怖くなった。

今、思い出しながら書いていてもスゴク怖い。

それ以来神社はおろか、
裏の山自体にも近寄らなくなった。


いや、それどころではない。

あらゆる山道に恐怖を覚えるようになった。

『あの場所』が、
あの群馬の山中の何処かにだけあるとは
思えなくなっていた。

いつか何処かで、
突然あの場所に行ってしまうような気がするのだ。

あの頃は、
自分の命を引き替えにしなければならないのなら、
どんな願いも叶わなくていいと思った。


でも、今は必ずしもそうではない。

もしそんな切羽詰ったときに、またあの場所に行ったなら。

そう考えると恐ろしいのです。





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