1974年11月リリースの4作目" Man of Miracles (邦題: ミラクルズ)"は大きなヒットに恵まれなかったものの、シングルとしてこのアルバムから選ばず、あえて1973年の2作目" Styx?U(邦題: スティクス?U)"から" Lady(邦題: 憧れのレディ)"をシングルに選んだところ、まさかのTop10入りする大ヒット(Billboard HOT100シングルチャート6位)で、Styxは突如人気グループとなり、アルバム"Styx?U"はBillboard200アルバムチャート20位を記録する大成功を収めたのです。
Styxは、大手レーベルであった A&M Records(現在のUniversal Music Group。UMG。もとMCA Records)との契約後に今回の移籍第1弾アルバムである" Equinox"をリリースすることになるのですが、実は、A&Mとの契約は、シングル"Lady"とアルバム"Styx?U"がリバイバルして契約にこぎつけたものではなく、"Man of Miracles"の活動を終えた1975年の早い時期に契約することが決まっておりました。"Man of Miracles"から新曲をシングル・カットせず、既発表の Best Thing (邦題:ベスト・シング)"を選んだのも、"Man of Miracles"のリリース後、早めにA&Mとの契約との契約を考えていたからなのかどうかは不明ですが、"Lady"および"Styx?U"のヒットは、当時のメンバーである John Panozzo( ジョン・パノッツォ。drums)、 Chuck Panozzo( チャック・パノッツォ。Bass,vo)、 Dennis DeYoung( デニス・デヤング。vo,key)、 John[ JC] Curulewski( ジョン・クルルウスキー。gtr,vo)、 James[ JY] Young( ジェームズ・ヤング。gtr,vo)の5人からすればレーベル移籍時に舞い降りてきた予期せぬ幸運であったらしく、シカゴ市のDJがジュークボックスで偶然"Lady"を発見しこれを気に入ってエアプレイを試みたところ、数多くのラジオ・ステーションがエアプレイ率を上げてこの曲が知られていき、ヒットに結びついたものだったそうです。"Lady"とこの曲を収録したアルバム"Styx?U"の大ヒットで出世の足がかりをつかんだStyxは、メジャー・レーベル移籍に加えて、既発表曲の突然のヒットが飛び込み、移籍第一弾作品である"Equinox"の制作に弾みが付きました(異なった見解では、"Lady","Best Thing"といった過去の栄光ばかりにすがりつき、"Man of Miracles"を強くプロモートしなかった当時のWooden Nickelレーベルに嫌気が差し、移籍願望が強まったという説もあります)。
4作目の"Man of Miracles"の時はレコーディング・スタジオを初めて変更しましたが、"Styx?U"のヒットで験を担いだのか、3作目の" The Serpent Is Rising(邦題: サーペント・イズ・ライジング。1973)"まで使用していたParagon Recording Studiosでの制作となりました。Styxのセルフ・プロデュースですが、デビューからエンジニアや共同プロデュースとしてStyxサウンドを支えたBarry Mrazがプロデュースのサポート兼エンジニアリングを行いました。
Barry Mrazは"Equinox"制作の直前に、Paragon Recording Studiosでアメリカのファンクグループ、 Ohio Players( オハイオ・プレイヤーズ)の、後にプラチナ・アルバムに輝いた7枚目スタジオ・アルバム" Honey(邦題: ハニー)"のエンジニアをつとめており、この時"Honey"のテープ・オペレーション・スタッフをつとめた Rob Kingslandも"Equinox"制作に携わることになり、Barryのアシスタント・エンジニアを担当することになりました。Rob Kingslandはその後Styxが全盛期を迎える有力なヒット・アルバムのエンジニアリングに尽力し、 Gary Loizzo (ゲイリー・ロワイツォ。1945-2016。"Equinox"には不参加)とともに名エンジニアとして名を馳せました。
マスタリングはThe Doors(ドアーズ)やThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)など、多くのヒット・アルバムを手掛けたマスタリングの名匠、 Doug Sax( ダグ・サックス。1936-2015)が担当しました。
ジャケット写真は当時A&M所属アーチストの多くのアルバム・デザインを手掛けたアート・ディレクターのRoland Young、女性デザイナーのJunie Osaki、グラフィック・デザイナーのChuck Beesonらによる製作で、砂浜で大きな氷が燃えているというメタンハイドレートのような物質がシンボルとなっています。個人的にも非常に気に入っているスリーヴ・デザインです。
では、オリジナル・ラインナップにおける最後のスタジオ・アルバムの曲目リストです。全8曲です。
A面(アナログ盤)
- " Light Up(邦題: ライト・アップ)"・・・DeYoung作
- " Lorelei(邦題: ローレライ)"・・・DeYoung,JY作
- " Mother Dear(邦題: マザー・ディア)"・・・JC, DeYoung作
- " Lonely Child(邦題: ロンリー・チャイルド)"・・・DeYoung作
B面
- " Midnight Ride(邦題: ミッドナイト・ライド)"・・・JY作
- " Born for Adventure(邦題: アドヴェンチャー野郎)"・・・DeYoung,JC,JY作
- " Prelude 12(邦題: プレリュード12)"・・・JC作
- " Suite Madame Blue(邦題: スィート・マダム・ブルー)"・・・DeYoung作
収録された全楽曲ともお奨めのクォリティの高いナンバーだらけです。A-1は"Equinox"でのファースト・シングル(B面はB-2)に選ばれたDennisがヴォーカルをとるポップな作品です。イントロのシンセサイザーといい、思わず体を動かしてしまう軽やかな間奏といい、インディー時代にはまず見られなかった、ソフトなStyxサウンドです。HOT100にはランクインしませんでしたが、新しいStyxのサウンドを堪能できる作品です。過去全4作では、アルバムのトップを飾るA−1はJYのリード・ヴォーカルによる作品で、スピード感のあるハードなロック・ナンバーで勢いを付けてきましたが、今回は初めてDennisのリード・ヴォーカルをA-1に持って来ました。
A-2の" Lorelei"はその後にリリースされたベスト盤には必ず収録されるStyxの代表曲で、A-1に次いでシングル・カットされた作品です(B面はB-1)。おそらくStyxのファンでこの曲を嫌う人はいないだろうと思います。個人的にもStyxの楽曲の中では一番繰り返して聴いていると思います。Dennisが奏でるキーボードのイントロで始まり、Dennisが愛を込めて"When I think of Lorelei, my head turns all around〜"と歌い上げるポップなラブ・ソングですが、後半にたたみかける"Lorelei, let's live together"のコーラスがまさにイリュージョンで、苦心して下積みを続けた彼らならではのなせる技です。美しいコーラスを聴かせるStyxの真骨頂ともいうべき作品です。さらにはコーラスのバックで奏でられるJYのリード・ギターも絶品です。
"Lorelei"のシングル・カットはHOT100のチャート・インに成功し、1976年2月14日付で90位にエントリーし、この週から5週連続で80位→70位→60位→50位と10ランクアップで上昇、次は40位かなと思えば44位でしたが、続いて39位とチャート・インから7週目でTop40入りを果たしました。その後は35位→31位→28位と順調に上がり、次の4月24日付で27位を記録、これが最高位となり下降し、結果14週間チャートインを果たしました。前にTop40入りした"Lady"の最高位6位、チャートイン17週間には及びませんでしたが、移籍して初めてのTop40ヒットが誕生したのです。一方カナダでは大きく躍進して、RPMシングルチャートでは"Lady"の記録(19位)を大きく塗り替える最高位6位を記録、カナダにおける初のTop10ヒットとなり、カナダのYear-Endチャートでも77位を記録するなど、"Lady"をはるかにしのぐ大ヒットとなりました。
前述の通り、"Lorelei"はその後にリリースされるベスト盤には必ずと言って良いほど収録されましたが、Dennis脱退後の2010年にリリースされたベスト盤(EP盤)の" Regeneration: Volume I"では共作者のJYがリード・ヴォーカルをとっています。
A-3はJCとDennisの共作で、Dennisのシンセサイザーが縦横無尽に活躍するプログレ・ナンバーです。メイン・ヴォーカルはJCで、Dennisもサポートで一緒に歌っていますが、JCがメインのヴォーカル・ナンバーはStyxのキャリアではこれがラストになります。JCは声域が広く曲調に合わせて歌声を使い分けており、たとえば各曲のバック・コーラスでは高いキーで軽やかに歌い、リード・ヴォーカルになると非常にエネルギッシュな歌声で歌います。この"Mother Dear"では、"Styx?U"収録の"You Better Ask"や1973年の3作目"The Serpent Is Rising(邦題:サーペント・イズ・ライジング)"収録のタイトル曲や"As Bad as This"、"Krakatoa"のような凄味のある歌声というよりは、"Styx?U"収録の"A Day"のような柔らかみのある歌声で、バック・ヴォーカルでの高いキーで歌っているのが特徴で、Dennisと歌っているので非常に軽やかに感じます。次作より参加する Tommy Shaw( トミー・ショウ。gtr,vo)のメンバー加入の条件の一つに「高音を出せる」というのがあり、Styxはヴォーカル/コーラスのセンスを大きくとらえていたことがわかります。
A-4はDennisがヴォーカルのロック・ナンバーで、イントロはA-3と同じくシンセサイザーで始まります。後半での、魂が乗り移ったかのような"Come spend your life with me"のフレーズを何度も歌い上げるパートが印象的です。
B-1はStyx風のドライブ感あるメタル・サウンドで、アルバム収録中もっともヘビーな作品であり、JYが唯一リード・ヴォーカルをとる作品です。A&M移籍前は各アルバムの半分、またはそれ以上はJYが歌っていましたが、移籍後は各アルバムに1〜2曲のペースになり、JYはほぼこうしたヘビーなロック・ナンバーを中心に歌っていきます。シングル化された"Lorelei"のB面に収録された作品で、2003年のハード・ロック・ナンバー中心のベスト盤" Rockers "の1曲目に収録されました。それにしても、サビの部分のタイトルを叫ぶ高音コーラスはマネできないぐらいの美しさがあります。
B-2はChuck Panozzoのスリリングなベース・ソロで始まるミステリアスなロック・ナンバーです。ファースト・シングルのA-1のB面に抜擢された、Dennisがリード・ヴォーカルをとる楽曲です。後半にDennisがシャウトする声にディレイをかけているパートも心地良いです。
B-3はJCの美しいアコースティック・ギター・インストで、単独のインストゥルメンタル・ナンバーは"Styx?U"でDennisが見せたバッハの"Little Fugue in G"によるパイプ・オルガン・インスト以来と言うことになりますが、このアルバム発売後にJCが脱退することを考えると、非常に切なさ、もの悲しさが感じられるインストゥルメンタル・ナンバーです。しっとりとした、いたってシンプルなギター・インストですが、次に収録された、このアルバムのハイライトであるB-4に繋がる重要な作品です。
B-4は、来たるアメリカ合衆国独立(1776年)の200年記念についてDennisが作ったナンバーとされ、ライブでの定番曲で観客が最も盛り上がるアメリカン・ソングです。B-3のギターに続いてここでもJCのギターをバックにバラード調で始まり、Dennisの"Time after time 〜"と熱唱していきます。サビの部分でドラマティックな展開になり、間奏は幻想的なシンセサイザー・ソロのあと、ヘビーでスリリングなギター・ソロが始まり、Dennis、JC、JY、そしてChuckも入っての"America"を連呼する美しいコーラスで大きな山場となります。ギター・サウンドとシンセサイザーをバックにDennisが最後に" 〜 And lead us away from here...."と歌い上げて締めのエンディングに入るところが本当に素晴らしく、まさにプログレッシブ・ロックの醍醐味です。6分半のナンバーですが、どこを取っても隙のない不朽の名曲というべきでしょう。この曲も"Lorelei"同様、多くのStyxのベスト盤で収録される名曲です。
"Equinox"は1975年12月20日付のBillboard200アルバムチャートで124位にエントリー、15週目での1976年の3月27日付で58位が最高位となりました。"Styx?U"の20位には及びませんでしたが、その後も長く売れ続け、時折チャートにリエントリーするなどし、通算50週チャートインするロング・セラーとなったのです。2年後の1977年にはアメリカRIAAではゴールド・アルバムに輝き、カナダCRIAにいたってはプラチナ・アルバムに認定されるヒット・アルバムとなりました。
しかしJCはアルバム・リリース後に諸事情の理由で脱退し、Equinoxツアーを敢行する前に早急に新たなメンバー探さなければならないという騒動もありました。結果的には Tommy Shawが加入することで落ち着きましたが、この一連の騒動については こちら で詳しく紹介させていただいております。
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