ホンハイはiPhoneやiPadなどのアップル製品の製造を手がけるなど、受託製造の世界トップ企業。
垂直統合から水平分業へのビジネスモデルの転換、という世界的な産業の変化にうまく乗ってホンハイは成長してきました。
ニュースなどでは「ホンハイの支援を受けて、シャープは再建を目指す」などと報道されています。
えっ、買収されるのに、支援?、再生?、記者さんはどのような意図で記事を書いてるのでしょうかね。
★10年後、生き残る理系の条件
ホンハイがシャープを手に入れたいのは、いつまでもアップルの下請けばかりでは成長に限りがある、商品を自分で企画し、自社のブランドで商品を売りたいからではないでしょうか。
いわば、アップルの下請けからの脱皮で、ホンハイにとってもシャープ買収は大きな賭けでしょう。
そう考えると、なぜ日本メーカーはシャープに手を出さず、ホンハイが買収するのかも理解できます。
ブランドが確立している日本メーカーがシャープを買う理由はさほどないでしょう。
パナソニックが三洋電機を買収した時も、三洋のブランドは消え、製品ブランドはパナソニックに統一されました。
一方、ホンハイは受託生産の世界では巨大企業ですが、一般消費者へのブランドの浸透はこれからでしょう。
シャープを買収し、ホンハイの製品自体もシャープのブランドで消費者に商品を売ることができたら良い戦略に思えます。
レノボがIBMのパソコン事業を買収した後も、自社のブランドではなく、かつてのIBMのThinkPadブランドでパソコンを売り続けているのと同じです。
インスタントカメラで一世を風靡したポラロイドが、経営破綻後に買収され、ブランドを維持したまま全く別の会社として再生したのも同様です。
ですから、シャープがホンハイに対して「技術を盗まないよう、組織温存を交渉」という報道も意味が良くわかりません。
買収ですからホンハイがシャープの技術を事業に使い尽くす、ホンハイの従来の事業にもシャープの技術を移転するのは当然でしょうし、シャープの現在の組織のまま経営するとも思えませんない。
40歳以下の雇用は守る、とホンハイのトップは発言していますから、逆に言うと40歳以上の雇用は厳しいことになるのでしょうね。
65歳の今でも5時間しか寝ないで精力的に働き続ける、とも言われるホンハイの郭会長が、シャープの組織をそのままにするとは、とても思えません。
結局、ホンハイに買収されるのならば、シャープの社員の方はホンハイ・グループの一員として、いかにホンハイに貢献できるかを考えて仕事をしなければいけない。
支援とか再建という、情緒的な言葉はミスリードに感じます。
DRAM事業を手掛けるエルピーダメモリをマイクロン・テクノロジーが買収した時も、再建・救済などと報道されましたが、いつの間にかエルピーダの名前は消滅し、エルピーダの人たちは完全にマイクロンの中に組み込まれました。
買収とはそういうもので、ホンハイがシャープを買収したら、ブランドや雇用は残っても、全く違う会社になるのでしょう。
そして、シャープのエンジニアの方々はホンハイ内で生き残るために、厳しい競争にさらされるでしょう。
競争はおそらく組織だけでなく、エンジニア同士の一対一の勝負になることもあるでしょう。
技術領域が重複すれば2つやる必要はないわけで、良い方だけを採用する、技術者も一方だけで良いというわけです。
ホンハイのエンジニアにとってはシャープのエンジニアは、突然現れたライバルでしょう。
買収した側のホンハイのエンジニアの方が強い立場でしょうが、下手をするとホンハイのエンジニアの方がレイオフされかねないので、彼らも必死でしょうか。
実力のあるシャープのエンジニアであれば、ホンハイグループ内部の競争に勝ち残って、開発した技術が今まで以上に多くの製品に使われることを信じてます。
実は、私はかつてシャープ、エルピーダメモリと抵抗変化型メモリ(ReRAM)を共同で開発していました。
2002年12月のIEDM(International Electron Devices Meeting)でシャープとヒューストン大学が、金属酸化物に電流を流すだけで抵抗が不揮発に変化することを世界で初めて示し、世界をあっと言わせました。
ReRAMはメモリスタとも呼ばれますが、高速・低電力・大容量の「夢のメモリ」。
ReRAMを世界で最初に発表したのはシャープで、シャープの夢を製品として実用化しようとしたのがエルピーダ、ReRAMを使ったコンピュータ・システムを作るのが私という共同開発のチームでした。
新しい技術はそれが画期的であるほど立ち上げるには、10年単位の長い時間がかかります。
夢が実現する前にシャープもエルピーダメモリも倒れてしまいました。
共同研究をしていた私も無念です。
世界ではReRAMの研究は盛んです。共同開発チームでは私だけ取り残されましたが、現在は100年を超える長い間、デジタルデータを記憶するメモリの実現を目標として、JST CRESTの支援を頂きながら、「デジタルデータの長期保管を実現する高信頼メモリシステム」として研究開発を続けています。
買収の話に戻ると、ホンハイによるシャープ買収は、考えようによっては、シャープのエンジニアにはチャンスかもしれません。
資金繰りが苦しい状態が続いたシャープでは研究資金もままならなかったでしょう。これからは要求は厳しいでしょうが、ホンハイの中に入ることで資金面では良くなるでしょう。
ホンハイがReRAMを開発することは無いでしょうが、マイクロンの中でエルピーダ出身のエンジニアが活躍するように、シャープのエンジニアのみなさんがホンハイの中で活躍されることを願ってやみません。
そして、またいつの日か、一緒に研究できる時が来ることを楽しみにしています。
大学も生き残りに必死ですが、またご一緒できる日まで、お互いに頑張りましょう。
Good luck!!
意見をつなぐ、日本が変わる。BLOGOS引用
10年後、生き残る理系の条件 ★楽天
竹内健
★10年後、生き残る理系の条件
商品基本情報
発売日: 2016年01月20日頃
著者/編集: 竹内健
出版社: 朝日新聞出版
サイズ: 単行本
ページ数: 214p
ISBNコード: 9784022511379
商品説明
【社会科学/社会科学総記】技術バカでは生き残れない。東芝やシャープなど製造業が窮地に立たされている今、生き残っていく人材の条件とは? フラッシュメモリーの開発で知られる東芝出身の著者が全てのエンジニアにおくる一生食いっぱぐれない仕事の創り方。
【内容情報】(出版社より)
【社会科学/社会科学総記】技術バカでは生き残れない。東芝やシャープなど製造業が窮地に立たされている今、生き残っていく人材の条件とは? フラッシュメモリーの開発で知られる東芝出身の著者が全てのエンジニアにおくる一生食いっぱぐれない仕事の創り方。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
「絶頂期にあえて飛び出す」「文系力を磨く」「エンジニアリングデザインの思考法」…東芝OBが実践する常識を疑う仕事術!エンジニアの逆張り行動戦略。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 生き残るためには、常識を疑う/第2章 苦境にあえぐエレクトロニクス業界/第3章 新たに必要なのは文系力/第4章 日本のものづくり復活のカギ/第5章 エンジニア人生は逆張りでいこう/対談 城繁幸×竹内健ー会社を飛び出した先に道はあるのか?
【著者情報】(「BOOK」データベースより)
竹内健(タケウチケン)
中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授。半導体メモリ、SSD、コンピュータシステムの研究・開発で世界的に知られる。1967年東京都生まれ。1993年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。同年、株式会社東芝に入社し、フラッシュメモリの研究・開発に携わる。2003年、スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。帰国後、フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティング等に従事。2006年、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士取得(工学博士)。2007年、東芝を退職。東京大学大学院工学系研究科准教授を経て、2012年から現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
日本の半導体はソニーのイメージセンサー、東芝のフラッシュメモリなど数少ない勝ち組を除いては、総崩れになりました。
特に酷い状態なのがシステムLSI。日立、三菱電機、NECのシステムLSIを主力とする半導体をスピンオフして作られたルネサスエレクトロニクスは業績悪化によって、社内の半数近くもがリストラされる状況に追い込まれました。
東芝でもシステムLSIが不適切会計の舞台になったように、システムLSI事業は不採算だったようで、これからリストラが行われます。
車も電気自動車・自動運転など、コンピュータ化が進んでいます。社会のあらゆる機器に組み込まれる半導体はこれからも重要です。
実際、「アマゾンが半導体製造 米ネット企業の垂直統合戦略」にも書かれているように、サービス事業者であるアマゾンが自社のサービスを差別化するために半導体に参入しているのです。
アップルはiPhoneに搭載される半導体を自社で設計しています。半導体の外販はしていませんが、実はアップルは世界有数の規模の半導体メーカーなのです。
先ほどの記事にも書かれているように、ソフトウエア企業であるグーグル、マイクロソフト、オラクルも半導体に参入しています。
ああ本当に、日本の半導体は勝手に一人でずっこけたんだな、と思いました。
日本の半導体の不振の理由として、円高、新興国企業の台頭、垂直統合から水平分業へのビジネスモデルの転換の遅れ、などが言われています。
これら環境は経営も重要な問題点でしょうが、本当にそれだけなのでしょうか。
もし経営が問題だとしても、他人事のように言っていて良いのか。
同じような文脈で、日本は技術では負けていない、とも言われています。
日本は技術至上主義、技術で上なのは尊いことだ、と思われがちではないでしょうか。
本当に技術で負けてなかったか?と私は思っていますが、もし仮に技術では負けていなかったとしても、なぜ素晴らしい技術を開発した優秀な技術者が、技術開発だけに留まってしまったのか。
もし経営で負けたのならば、優秀な技術者は弱点である経営を助ける仕事になぜ転換しなかったのか。
日本は技術では負けていない、と言った瞬間に、思考が停止してしまって、もう技術者の責任ではない、というニュアンスを感じてしまうのです。
古くはインテル、アップル、マイクロソフトを創業したアンディ・グローブ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツは技術者から経営者になりましたし、最近でもアマゾンを創業したジェフ・ベゾスも元々は技術者です。
私自身も含めて技術者は、技術という狭い世界に閉じこもっていたことを、反省しなければいけないのではないでしょうか。
もちろん、技術者として優秀な人が、経営に向いているとは限りませんし、優秀な技術者の全てが経営を行うべきでもありません。
求められる技能・特性が全然違いますから。
ただ経営でITをはじめとする技術が重要になっている時代ですから、技術者の中の何人かは、経営の道に進むべきではなかったか。
技術者出身で経営をされている方の多くは、技術関係の課長・部長・事業部長・・・と勤め上げた上で、経営者になっているのではないでしょうか。
終身雇用の中で「出世した成れの果て」に結果的に経営者になっている。
これで経営者の重責を担え、と言われても本人も困ってしまうでしょう。
経営の専門家として鍛えられ、経営者として評価されて経営者になっていないからです。
技術者が経営者として十分な訓練がされていないのは、企業自体が技術者は専門領域を深堀して欲しい、という人事システムだったから、というのもあるでしょう。
技術者が経営の仕事にかかわるためには、韓国の三星電子のように、技術者としてひと仕事したら、30代半ばには商品企画・マーケティングに異動させ、経営者になるためのキャリアパスを歩ませる、ということも必要でしょう。
大学も反省しなければいけません。手に職をつけさせるために、専門技術だけ教えていれば良かった時代は終わりました。
学部の学生に技術と経営の両方を学ばせるのは当然、難しい。学部・修士課程の間はまずは技術を身に付けるので良いと思います。
就職して企業の実践の場で技術を磨いた後、30代前半くらいで経営を学ぶ再教育の場として、本当は大学が機能しなければいけないのだと思います。
私も留学したアメリカの大学のMBAはまさに、そのようなひと仕事した後の再教育の場となっているのです。
大学の側の勝手な事情と言うと、少子化で大学に入ってくる人の数は減っていくので、市場は縮小します。
再教育の場という新しい市場を開拓しないと、大学が生き残ることも難しくなっていくでしょう。
このように、なぜ日本の電機メーカー・半導体が総崩れになったかを総括すると、企業、大学、技術者個人の誰もが反省しなければいけないのではないか。
自分たちは技術力があるから、と過信、油断していなかったか。
創業期のインテルに入社し、1980年代、DRAM事業で日本メーカーに敗北したインテルをCPUメーカーに転換させたアンディ・グローブは名著「Only the Paranoid Survive(インテル戦略転換)」の中で、いかに自分が油断していたか、優柔不断だったか、自分に不都合な現実から目をそらしていたか、を反省しています。
この本はいわゆる「成功本」ではなく、自分の失敗を赤裸々に懺悔する「失敗本」なのです。
世間では名経営者と思われているグローブが、結果的に大成功したのは、自分の功績ではないと語っています。
果敢な戦略転換を実行し、経営危機のインテルを復活に導いたアンディ・グローブでさえも、「パラノイド(病的なほど心配性)でなければ生き残れない」と考えています。
ましてや、我々が油断・過信していたら、ひとたまりも無い。だから負けたのではないか。
日本の電機メーカーは家電や半導体、B2Cからインフラ、車載、B2Bなどに事業を転換させています。
日本は技術力はあったのに、経営者がダメだったから負けたのだ、などと思っていては、同じ失敗を繰り返してしまうのではないでしょうか。
まずは失敗した現実を直視することから。
10年後、生き残る理系の条件 ★楽天
竹内健
★10年後、生き残る理系の条件
商品基本情報
発売日: 2016年01月20日頃
著者/編集: 竹内健
出版社: 朝日新聞出版
サイズ: 単行本
ページ数: 214p
ISBNコード: 9784022511379
商品説明
【社会科学/社会科学総記】技術バカでは生き残れない。東芝やシャープなど製造業が窮地に立たされている今、生き残っていく人材の条件とは? フラッシュメモリーの開発で知られる東芝出身の著者が全てのエンジニアにおくる一生食いっぱぐれない仕事の創り方。
【内容情報】(出版社より)
【社会科学/社会科学総記】技術バカでは生き残れない。東芝やシャープなど製造業が窮地に立たされている今、生き残っていく人材の条件とは? フラッシュメモリーの開発で知られる東芝出身の著者が全てのエンジニアにおくる一生食いっぱぐれない仕事の創り方。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
「絶頂期にあえて飛び出す」「文系力を磨く」「エンジニアリングデザインの思考法」…東芝OBが実践する常識を疑う仕事術!エンジニアの逆張り行動戦略。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 生き残るためには、常識を疑う/第2章 苦境にあえぐエレクトロニクス業界/第3章 新たに必要なのは文系力/第4章 日本のものづくり復活のカギ/第5章 エンジニア人生は逆張りでいこう/対談 城繁幸×竹内健ー会社を飛び出した先に道はあるのか?
【著者情報】(「BOOK」データベースより)
竹内健(タケウチケン)
中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授。半導体メモリ、SSD、コンピュータシステムの研究・開発で世界的に知られる。1967年東京都生まれ。1993年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。同年、株式会社東芝に入社し、フラッシュメモリの研究・開発に携わる。2003年、スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。帰国後、フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティング等に従事。2006年、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士取得(工学博士)。2007年、東芝を退職。東京大学大学院工学系研究科准教授を経て、2012年から現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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