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2022年07月11日

中断中のお詫び



楽しみにしていただいていた読者の皆様に対しては本当に申し訳なく思っています。

この件以外にもこの約二十年間が、

思い出したくもないことと、その後始末と、その付帯事項で過ぎたようなものなので、

記録のためとはいえ、決して嬉しくない記憶を起こすことは心身にきびしい作業ゆえ、

昨今の急激な日常の変化に対処するだけでいっぱいいっぱいだったのです。

また、ゆっくりになりますが、続きを書いていきます。

どうぞよろしくお願いいたします。


2021年11月14日

<第1話> 滞納太郎の、その夏・5



今年は「ガチャ」が流行った。親ガチャ、上司ガチャ、部下ガチャ、などなど。

世間の閉塞感がよくでていると思うが、ラジオであるアーティストが、

「でもな、僕ら、国ガチャと時代ガチャはレインボーやで」と言った。

わたしは秀逸だと思った。

それぞれ意見は異なるのだろうが、なんだかんだアドバンテージは確かで大きいと思っている。

誰かの金が財源の失業保険に救われたわたしは、誰かに助けられたということだ。

ありがたかった。守られている実感があった。だから助けられるときに誰かを助けようとすることは自然だろ?

支払い能力はともかく、納税しないことは毛頭考えていなかったし、督促を無視したこともない。

どのように支払っていくか。

わたしは、現状を説明するために発信元の納税課を訪ねることにした。



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2021年11月11日

<第1話> 滞納太郎の、その夏・4


公平で客観的な表現をめざすことは、家族を語る場合、冷たいことなのか。あるいは、冷たく伝わってしまうのか。


勤め人の父が亡くなり、のちに就職でわたしが家を出た。以来、専業主婦の母は県外の実家にひとりでいた。

父が遺した実家を、事業に失敗した(させられた)わたしが抵当でとばすまでは。

二十余年の孤独ののち、愚息のせいで家財をうばわれ知人係累一切ない土地への転居。心中察するにあまりある。

だが共に連帯保証人であった以上は果たすべき責任がある。

その夏のさらにもっと以前、それらのために心を病んだわたしは、投薬に加えた治療の一環として、

徹底した部屋の整理整頓を行うことで、症状を飼いならせた。そのことは母にも伝えた。

モノを処分することは記憶の整理、経験の総括。部屋の状態は多くの場合、頭の中の状態と連動する。

内部がゴミ屋敷に近い状態の4LDKのモノの処分。1Kへの引越し作業は、母はいうまでもなく、業者にも頼めず、わたしが行った。苛烈だった。だが、元はといえばわたしなのだ。

六畳間に大人二人。可能なかぎり絞り、残したが、不相応な量のモノ。それを猶予とは受けとめず、母はものをため続ける。変えないとの宣言のもとに。

人はやさしくありたい。はずだ。とくに家族に対しては。

毎晩ドアを開けると見える光景は、確実にわたしの心を蝕み、追いつめていった。



そんな夜、郵便受けに確認したのは、市県民税の督促と差押えの警告だった。



※売出しから数年後にやっと実家は売れた。土地神話の崩壊ひさしく、負債の補填にはとても足りなかった。


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2021年11月09日

<第1話> 滞納太郎の、その夏・3


公平で客観的な表現をめざすことは、家族を語る場合、冷たいことなのか。あるいは、冷たく伝わってしまうのか。


人は、老いる。老い方はそれぞれだ。

同居の母は後期高齢者。介護等級は要介助1、生活行動はほぼ単独で可能。時に言動に論理性を欠く。

年齢なりの視力や聴力の衰えがあり、日常生活での支障は明らかだが、認めない。矯正しようともしない。

知覚の不正確は周囲・状況の認知を不正確にし、それゆえ判断や言動も不正確になる。とくに、時間と空間の価値に対して。

元来、独自性の強い家庭で育ち、別の独自性が強い家庭へ嫁いだため、価値観や論理性に偏りがつよい。

加えて世情の常識の変遷をふまえた情報更新がなされていない。

親子であれ共同生活には段取り、約束ごとがあるものだが、全て崩れた。自らの合理性でのみ行動するためだ。

こわされた約束ごとを再確認し、だが後日またこわされる、このサイクルが繰り返された。

職場の状況に加えて、毎晩帰宅するとなにかが起きていることに、わたしの心は蝕まれていった。

たとえるなら、わたしの知らない私をわたしが責め、わたしの知らない私にわたしが責められている、ような奇妙な感覚。

会社なら、解雇できる。婚姻関係なら、離婚できる。しかし、血縁関係は。

人はやさしくありたい。はずだ。とくに家族に対しては。

だが、わたしは安全地帯であるはずの自宅で緊張を解くことがまったくできなくなっていた。



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2021年11月07日

<第1話> 滞納太郎の、その夏・2



人脈もなく、手に職があるタイプではないので同業種で求職し、

別の大手IT企業のグループ会社であるコールセンターに再就職した。

月度の途中入社であったため、給与が満額支給となったのは入社翌々月から。

マルチスキル化奨励(一人足を異なる複数の業務に対応できるよう教育すること)とのことで、

2か月ほどで募集とは異なる部門の研修をうけることとなったが、事前説明と異なり単に異動となっており、

元々希望していない業務に無理に適応しようとすることから強いストレスを感じ、心身ともにおかしくなり始めた。

人間50も過ぎれば向き不向きはある程度わかる。能力に無限の伸びしろを期待する・されることを現実的とは思わない。

健康上の理由で元の部門へ戻りたい旨依願するも、スキルを取得する以外の選択肢はないと上司は譲らず。

こちらに辞職の選択肢がない以上、役に立たないと認められるか、心身がこわれるか、どちらが早いか待つしかない不毛な毎日が始まる。

指導者ごとに指示が異なる現場にあって、健康は急速に損なわれていったが、医者に通うカネはなかった。



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2021年11月04日

<第1話> 滞納太郎の、その夏・1



この街には、二十年ほど前の首長さんだかの肝いりで最初のコールセンターが誘致され、

それを皮切りに多数のコールセンターが展開、稼動している。そのひとつに勤めていた。

前年の夏、契約社員の契約継続が4年11ヶ月で停止し、失業。

年齢のせいか、再就職までに9ヶ月を要した。もちろん失業保険は途中で途絶えた。

前年年収240万円ではクレジットカードのキャッシング枠も知れており、

そもそも返済計画がたたないのだから、借りるわけにはいかない。

貯金とか車とか、資産価値のあるものはとうの昔に処分済みだ。月3万の賃貸住宅住まいは伊達じゃない。

最低限度のものを残して、金目のものは鍋釜も処分。金属供出よろしく。

年金があるとはいえ母も医者通いの身、わたしの医者通いは中断していた。



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2021年10月28日

プロローグ 滞納太郎の絶望 3




ITリテラシー上の配慮もあるが、それよりも報復におびえている。

なので、「特定」につながりそうな固有名詞などの情報は極力ぼかして書くが、これから記事に残す内容は、すべて実際にわたしの身に起こったことだ。

正しかるべき正義も時としてめしいることがある。

国民の健康で文化的な最低限度の生活とやらは、職権あるお役人様の手違いとやらで簡単にただの最低な生活になる。

狙い撃たれる覚えはない。なのでわたしだけではないのだろう。同じことがこれまでもあり、今日も、これからも、起こるのだろう。

この小さな情報が、いま、あるいは近日中、困っているだれかの役に立ってくれれるならそれで報われる思いだ。なので、多くの人に知ってほしい。知っておいてもらいたい。

結果としては間違えたお役人様方を責めたい気持ちがないわけじゃない。

だが、もうかかわりたくない。ほんとうに疲れた。



※なお、出展:
「正しかるべき正義も時としてめしいることがある」は「逃亡者」(60年代)OPから。
「国民の健康で文化的な最低限度の生活」は日本国憲法、第25条から。


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2021年10月20日

プロローグ 滞納太郎の絶望 2




「ご結婚は?同居の家族はいますか?」

「独身です。子供もいません。母を引き取って、一緒に暮らしてます。八十ごえの。無職です。年金は出てます。」

「代わりに払ってもらえませんか?」

「母は、わたしのせいで財産をすべてなくしまして。今は年金だけで。わたしも先日仕事が決まるまではずっと収入がなく・・・これまでにもいろいろ迷惑をかけていて・・・。」

「親戚とか、友人、知人、ほかに誰か代わりに払ってくれる人はいませんか?」

「わたしは地元民ではないので、そこまで付き合いの深い方はいません。親戚とも付き合いは途絶えてます。友人や、以前の街の人々とも、同じです。」

「では、支払期限までに払っていただけないと差押えとなります。既に過ぎているものも含めて、いつまでにいくら、払っていただけますか?」

「ですので、先ほどから申し上げておりますように(以下略)」

市の収税課のカウンター。最初は既視感かといぶかったが、先日同じようなやり取りをした記憶があった。

すぐには思い出せなかったが、役所の窓口でなかったことは確かだった。



※なお、前回の出展:「ケツの毛の最後の一本までむしられた気がした」は「ソムリエ」原作より。同じような気がしたから。


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2021年10月10日

プロローグ 滞納太郎の絶望 1




「12万円の月は2万円を。13万円の月は3万円を。10万円以上は差押えします。」

「え? ここから家賃払って、食べて、病院も行くんですが・・・。分納の相談のために給料明細をもって来いということではなかったでしたか?」

「10万以上は差押さえます。10万円で生きて下さい。」

「・・・。」

市の収税課のカウンター。わたしは言葉がでなかった。

ケツの毛の最後の一本までむしられた気がした。




※出展は次回に記載。


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