——著書『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)が大ヒット中の経営戦略コンサルタント・鈴木貴博が徹底未来予想!
昔からあった物で、それが生活の中にあるのが当たり前だと思っていた物がいらない時代がやってきた。 すでにネクタイはサラリーマンの生活には必要がない時代になって久しい 。これから先の10年で、さらに色々なものが次々となくなっていくはずだ。では早速、筆者が予想した「なくなってしまうと予測されているもの11のリスト」をご覧いただこう。まずは前編。
まず最近の個人的な話から始めよう。スマホの支払いが高いので格安スマホに代えようかと思って乗り換えを考えてみた。損得を計算しながらふと気づいたのだが、スマホは割高なキャリアのままでいいからそのまま据え置いて、固定電話を解約したほうが安くなるのではないのか?
● なくなってしまうもの1、固定電話
無くなってしまうもののリストの筆頭にあるのが固定電話だ。いや、我が家以外ではもうすでにかなり無くなってしまっているらしい。なにしろピーク時には6,322万回線あった固定電話は、今は2,100万回線にまで減っているのだ。いまだに自宅に固定電話のある家庭は世の中の少数派というのが現実だ。
考えて見ればここ1カ月でかかってきた固定電話は「不動産を買いませんか?」というようなセールス電話や、自動音声で「選挙についての簡単なアンケートにお答えください」というような問い合わせばかり。意味のある連絡は親戚のおばちゃんから「どうしてる?」という電話一件だけ。
以前は「固定電話がない家庭では口座を開くことができない」というような金融機関があったが、今ではそんなこともない。
それで早速固定電話は解約することに決めようとしたのだが、ふと思うと電話を解約してしまうとひとつだけ困ることがある。ファックスをどうしたらいいのだろうか?
● なくなってしまうもの2、ファックス
ファックスも、普段着信があるのは勝手に広告が送られてくるようなものばかり。ただ筆者のように文筆業も行う場合、なぜか取引先が「ファックスで送ってください」という場合が結構ある。赤ペンで校正した手書き修正原稿を送る場合にそう指定されるので、疑問ももたずにファックスを使っていた。
それでふと思って、ファックスの代わりに手書き原稿をPDFに読み込んで、メールで送ってみたら、それで全然良いらしい。というか、聞いてみたらその方が担当者としても楽だという。だったらファックスも要らないということがわかった。
しかし、ファックスを使わなくても、結局はPDFを作成するのにコピー複合機は必要だ。だから機械本体は無くならないのではないだろうか?
● なくなってしまうもの3、コピー複合機
複合機が必要な理由はファックスを使うからではなく、コピーやスキャナーの機能も利用するからだ。「でも待てよ」である。昔はコピーやスキャナーが必須だった仕事の現場でも、続々とコピーマシンが消え始めている。
先日、携帯を買い替えた際に、身分確認のために運転免許証を手渡したときのことだ。店員さんは免許証をコピーする代わりに、スマホでパシャリと写していた。スマホで免許証を撮影するとナナメな台形の写真になるのだが、そこで店員さんが何やらボタンを押したら、申込書にはきちんと長方形に補正された免許証が印刷されていた。コンピューターにとっては適当に写真で撮ったものをきちんと四角い書類に変換するのは簡単な仕事なのだ。
そう考えればコピーマシンでアームが一往復する手間よりも、スマホでパシャリとやってそれを長方形に画像補正する方が人間側も手間としては楽である。本をコピーするのにはコピーマシンのガラスにぴったりと押し付ける必要があったのだが、その作業も、最新の技術を使えば、曲面のまま撮影した本の画像を自動補正すれば元の長方形の本になる。見開きでコピーした本もページごとにファイル保存も簡単にできる。
つまりフラットヘッドのコピーマシンの読み取り装置は実はもう不要の産物で、コピーやスキャニングしたいものはすべてスマホの高画質カメラに置き換えることができるのだ。そう考えると、家庭や事務所に必要なものは一番安くて小さなプリンターがひとつあれば、電話もファックスもコピーマシンも要らないということになる。
● なくなってしまうもの4、シーリングライト
震災の原発事故がきっかけの電気料金値上げのせいで、古い家電製品は買い替えたほうが電気代が目に見えて節約できるようになってきた。それで自宅では白熱電球や蛍光灯をLED電球に取り替えるようにしてみた。
それで気づいたのだが、ここ数年でLED電球の性能がずいぶん上がっている。LED電球では明るさをルーメン(lm)という単位で示すのだが、以前は一番明るくても500ルーメンぐらいの電球が上限だったのが、現在では100w相当の1520ルーメンまでLED電球の明るさが上がってきた。中には120w相当と書かれた1890ルーメンの電球も販売されている。
一方で、6畳間を照らすための大きなシーリングライト(天井照明)だが、その明るさはだいたい3000ルーメン程度である。いままでは円形の蛍光灯を3つぐらい組み合わせないと部屋がその明るさにはなかったので天井にはシーリングライトを設置するのが当たり前だったのだが、実は今、天井に一番明るいLED電球を2個、二又ソケットで設置するとシーリングライトと同じ明るさになる。
たぶん来年あたりには電球をひとつ設置すれば部屋中が明るくなるようなひとつで3000ルーメン級のLED電球も登場するだろう。そうなると天井には小さな電球ひとつと、ソケットの部分を隠すお洒落なカバーがあれば十分になる。部屋の天井に大きな灯りを設置する時代はもうすぐ終わりになるだろう。
● なくなってしまうもの5、キーホルダー
東京の丸の内にあるような大企業のオフィスで勤務をしている人はご存知ないかもしれないが、つい20年前ぐらいまではどんな大企業でも社員は会社の鍵を持ち歩いていたものだ。定時になるとオフィス正面のガラス扉に鍵がかけられて、残業する社員は通用口から帰る。一番最後に退社する社員は忘れずに通用口に鍵をかけて帰るのが日常だった。
今、大企業の社員は社員証で電子錠を開錠してオフィスを出入りする。その方が、いつ誰が出入りしたかも管理できるし便利なのだ。それでこれから先、自宅の鍵も徐々に電子錠に変わっていくらしい。家に帰るとスマホで鍵を開錠して自宅に入るのが普通になる。
自宅がスマートキーになったほうが何かと便利である。スマートキーは見知らぬ人を中に入れないだけでなく、承認した人は勝手に入ってもらうこともできる。だから宅配便も再配達なしに電子錠を開けて家の中に届けてもらうようになる。賃貸マンションでは入居者が代わるたびに、鍵を取り替えなくても番号を変えれば新しい人にすぐに対応できる。
もうすぐ世の中から鍵がなくなってしまうのだが、実はそれよりも早く、キーホルダーが街角で売られなくなってきた。ガラケーに必要だったケータイストラップともども、鍵のいらない世界ではキーホルダーも世の中から姿を消してしまうだろう。
● なくなってしまうもの6、自家用車
都会に住んでいて自家用車を所有するのは、経済的にはかなり無駄だ。毎日乗っている人でも維持費を加えて割り算すると毎日車に3,000円ずつお金を払っている計算になる。それでも多くの人が自家用車を持つのは、タクシー代がそれよりもちょっとだけ高いからだ。「ショッピングモールに買い物に出かけるのにタクシー代往復で6,000円は無駄だ」という理由で、自家用車を買うわけだ。
さてアメリカの話をしよう。サンフランシスコで配車ソフトのウーバーが登場してから、サンフランシスコ市民はタクシーの5倍もウーバーを利用するようになったそうだ。料金は需給で決まるとはいえ大半のケースでウーバーならタクシーの半額以下だから当然だろう。
2022年になると全自動の完全自動運転車が登場する。この時代になると、自宅のガレージに車を停めておくぐらいなら、自動運転でウーバーで稼がせた方がずっといいと考える人が激増する。そうなると街中はウーバー車だらけになり、需給によってウーバーの料金はタクシーの4分の1以下に下がることが予測されている。
さて、今われわれが自家用車を買っている理由は「タクシー代が高い」というものだとすれが、ウーバーで往復1500円あればどこでも遠出に出られる時代になる。そうなれば、維持費込み一日3000円で自家用車を所有する人はいなくなるだろう。
● なくなってしまうもの7、海外旅行
VRが流行し始めた。海外旅行の楽しみといえば買い物と、食事と、現地の観光だ。このうち食事は東京であれば世界のどこの国の料理でも簡単に楽しめるようになっている。買い物もバブルの頃のように香港が安いとかパリに行くとヴィトンのバックが3割安いということはもうなくなった。世界中で日本が一番買い物が安いうえに、日本では買えないようなかなり変わった商品でもアマゾンで簡単に海外から購入できる。
なので今では海外旅行の唯一の楽しみは観光になっている。その観光だが、パリまで片道12時間、市内のホテルから観光バスでさらに片道6時間ゆられてあこがれの世界遺産モン・サン・ミッシェルに出かける意味があるのは今年ぐらいまでかもしれない。
来年になればかなりの高解像度の画像で、モン・サン・ミッシェルをくまなく観光できるVR海外旅行ソフトが自宅で楽しめるようになるからだ。
● なくなってしまうもの8、フィットネスクラブ
大手のフィットネスクラブの経営が年々苦しくなってきているらしい。それと比べてワンコイン、500円でトレーニングできる「カーブス」のような「ただフィットネスマシンを利用するだけ」という施設の方が手軽だからだ。
とはいえフィットネスクラブでないとできないことがある。大きなスタジオでトレーナーに教えてもらいながら行うエアロビクスやヨガなどの最新トレーニングプログラムだ。いや、今のところそうなのだが、これもVRで1980円で購入できるソフトが登場すると、自宅の四畳半のスペースでリラックスしながらヨガが楽しめる。景色もスタジオどころか、波の音が聞こえる砂浜、木漏れ日が目にやさしい森の中、雄大な山の頂上、どこでも好きな場所を選んでヨガを行うことができる。
朝起きたらVRでヨガを、器械体操はワンコインでカーブスで。そんな時代になれば月会費9000円のリアルなフィットネススタジオは世の中から必要なくなるだろう。
● なくなってしまうもの9、書店
さて、VRの応用範囲で意外と有望なのは小売店である。中でも「これがあるといい」筆頭がVR書店だ。
スマホで買うだけの場合アマゾンは便利だが、自分の欲しい本をぶらりと書店を訪れて探すのには今のアマゾンはあまり向いていない。リアルな書店に行った方が自分のお目当てのコーナーで、思いがけず面白い本と出合うことができる。それがリアルな書店の強みである。少なくとも今日までは。
あと数年でアマゾンがVRでリアルな書店風のサービスを始めるだろう。ゴーグルを覗いて見えるのはまるでリアルな書店のように書籍が陳列された光景だ。リアルな書店との違いは、書棚に並べられているのはアマゾンがビッグデータで解析した「あなたにぴったり」のおすすめの本ばかりが並んでいるという点である。
どこまで売り場を歩いてもなんとなく自分が興味を持ちそうな本ばかりが置かれている。気になった本はぱらぱらと立ち読みも自由だ。キンドルアンリミテッドで0円の本なら、その場でじっと読み続けることもできる。
このようにリアルな書店を覗くよりもよほど快適なアマゾンのVR書店。これが誕生した段階で、リアルな書店はいよいよ街角から消えてしまうだろう。
● なくなってしまうもの10、コンビニ
インターネット通販の需要が急増している。その一方で「宅配クライシス」のように、増えすぎた需要に宅配業者が対応できないことが問題になっている。少なくとも今の段階では。
この急増する需要がある一定のクリティカルマス(限界規模)を超えた場合、宅配クライシスは急激に解消される。届ける物があったりなかったり、配達しても届ける相手がいたりいなかったりという状態だからクライシスは起きる。これが毎日、かならずいくつも届ける商品があって、スマートキーのおかげで再配達なしに毎日確実に届けることができるようになれば、宅配の生産性は逆に大幅に上がり、宅配のコストは今よりも数分の1に下がる。
昭和の時代に毎日新聞屋さんが新聞を届けてくれていたように、近い未来には毎日三時間ごとに宅配屋さんがいろいろな商品を自宅まで届けてくれるようになる。
そうなるとコンビニに出かける必要はなくなってくる。おなかがすいたらVRコンビニで弁当とドリンクを選んで買えば、定時には玄関に頼んだ商品が届く。コンビニで扱っているような商品ならすべて三時間で自宅に届く時代がやってくる。
VRアプリでまるでコンビニを歩くように仮想店内を回りながら、雑誌もお菓子もビールもチーカマも簡単にショッピングカートに入れて支払いもできる。そして少し待つ間に送料無料で宅配業者が自宅に届けてくれるようになる。このようなインターネットコンビニの取り扱いが急増する時代には、街角からは無用の長物となったコンビニがつぎつぎと消えていくだろう。
こうしてVRが浸透してくると、基本的に生活のすべてがスマホとVRで完結するようになる。コンビニに行く必要がない。書店にも、ユニクロにも、ゲームセンターにも、フィットネスクラブにも行く必要がない未来。そこにはもうひとつなくなってしまうものが登場する。
● なくなってしまうもの11、外出
やがてそういう日がわれわれの日常になるだろう。
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