お盆になると思い出す話を投下。夏休みのラジオ体操見てたら思い出した。
とある仏教系の大学に通ってたんだが、お寺の息子さんがけっこういる。元々は跡取りが資格とるためにあったような大学だが、今はそんなでもない。
2、3ヶ月に1回くらい数日お寺に入ったりするくらいで、普通の学生と講義も受けるし、サークルもある。
そんな跡取りの一人と友達だったんだけど、その人がしてくれた話というかその人の体験。
お盆が終わると、1年で一番長いお寺に入る期間があるらしい。3週間くらいだったかな?20歳前後の若者が毎日精進料理で正座しっぱなしなんて、3日でも無理。
中でもその修行中一番つらいのが、礼拝というものらしい。個人的には座禅を組んだり、延々とお経をあげるものだと思ってたけど、かなり肉体を使う。
これは一度やってみてほしいが、正座の状態から手を合わせ、足のつま先を立てて体重を乗せる。上半身は一切動かさないまま、右足を少し前に出し、つま先だけで立ち上がる。
同じ姿勢でゆっくり元に戻り、腰だけ曲げて土下座みたいなポーズをとる。これをたっぷり30秒くらいかけて行うんだが、回数が半端ない。一度に300回やる。
何時間かかるのか、と聞いてみたが、本人にも分からない。時間の感覚が飛んで、意識が朦朧とするらしい。
単純に考えて3時間弱か?と思うけど、昼過ぎに始めて気がついたら夜9時になってて、先輩から風呂に入った者から早く寝ろと言われるそれがほぼ毎日腹筋やら太ももやら筋肉痛を超えて痙攣までするし、膝が内出血する者、足首捻挫する者が出てくる。
足首やら足の指やら疲労骨折する人も珍しくないらしい。
その修行に入って10日くらいたった頃、その友達はコツを覚えたのかそれとも脳内麻薬が出てきたのか、やってる最中に少し余裕が出てきた。
口では喉がとっくにつぶれてるのにひたすら念仏はりあげてるし、隣では姿勢崩した同級生が怒鳴られ先輩に襟首つかまれて床の上で礼拝させられてるし、普通じゃない状況なんだけど「ああ、俺修行してるなぁ」みたいな達観した心境になってたらしい。
お寺の本堂っていうのか、メインの一番広い部屋ではなく、離れにある柔道の道場みたいな部屋でやってたそうだがそこの隅っこに、おっさんが座ってるのに気づいた。
指導してくれる大学の先輩と、大学の僧侶、修行に使ってる寺の住職そんな人達の顔はみんな知ってるが、その人だけは見たことがない。しかも格好が白衣で、体育座りをしてる。
ぱっと見は子供っぽいというか、自分達と同じ修行僧なのかと思ったけど、ありえない。
どんなに体力の限界がきても先輩は休ませてくれないし、倒れたら救急車呼ぶと言われてる上に修行の続行が不可能とされたらお寺から追い出されて来年やりなおしとなっている。
白衣でいるのも、おかしい。僧侶にとって下着姿でいるようなものなんだと。あれが誰であれ、人前ではありえない。
薄暗いロウソクの灯りの向こうにいるその人をじっと見ると、顔が黒っぽいことしか分からない。
酒やけしたおっさんにしか見えないから、どっかの僧侶が偉そうに見てんのかなぁ、くらいにしか思わなかった。
いよいよ礼拝が終わって、残りのお勤めが終わったあとみんなでお堂を出る時に探したら、もういなかった。あとで同級生に聞いても誰も見てないみたいで納得がいかない。
長い3週間が終わりかけの頃、また礼拝の最中にその男を発見した。
お堂での並び順は毎日変わるので、友達はその男と一番近い位置で出くわした。やっぱり白衣で、体育座りをしてこっちを見てる。
周りのみんなと動きがずれないように気をつけながら、チラチラ盗み見てたら気づいてしまった。
その男、首にぼろい縄をぐるぐる巻きにして、こっちを笑いながら見ている。顔も酒やけどころじゃなく、ドス黒く変色してる。目は細くつぶれるほど顔がむくんで膨らみ、口だけは歯を見せて笑ってる。
友達は怖くなってただでさえ喉がつぶれてるのに声を張り上げてひたすら礼拝をした。
その日のお勤めの最後、礼拝の指揮をとっていた先輩は戒名を読み上げて回向(えこう)をした。
先輩はこの修行中に昔、志なかばで亡くなった僧侶がいることを教えてくれた。修行をしたくてもできない僧侶がいるのだから、お前らもあきらめずにがんばれみたいなはげましをした。
同級生の中にこの事情に関してよく知ってるやつがいて、そいつが言うには修行が嫌になってこのお寺で首を吊った人がいたらしい。その人と同期だった僧侶から聞いた話だそうだ。
友達は喉の使いすぎで3日くらい血吐いたが、最終的に家の跡継ぎになれた。
うちの大学は夏休み長くて超ラッキー、みたいな話してる俺に半ギレで教えてくれた話。
タグ: 寺
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