アラスカを旅するには、通常ツアー会社を使うほかない。
デナリ:ネイチャー・センターからの眺め
限られた時間でできること
日系ツアー会社を使うメリットは、交渉の仕方によっては空港や、町の中心から離れた鉄道駅への送迎を無料で付けてもらえたり、アンカレッジ中心部の地図や日本レストランの場所に関する情報など、申し分のない対応を期待できることだ。
バウチャー1枚見せるだけでバスや宿泊施設にチェックインでき、切符を買うために長蛇の列に並んだり面倒なネットや電話での予約手続きをしなくて済むのは、移動に次ぐ移動で心身共に疲れ果てた私には大枚をはたいてではあっても、ありがたかった。
私が予約したのは アンカレッジ〜デナリ間の交通及び2泊分の宿(往路は鉄道の予定だったが飛行機が遅れたため、翌日のバスの切符を新たに追加する羽目になった)、 デナリでのワイルダネス・ツアー、そしてアンカレッジから日帰りで行く 氷河クルーズだった。
アンカレッジでの宿は、ホステルを自分で予約していた。
あぁ、憧れのアラスカ鉄道…どこまでも広がる平原と彼方に聳える青白い山々という地球の原風景の中、心地よい車輪の音を体に感じながらアラスカを北上する列車…乗りたかったな〜(泣)
高校生に間違われる…
デナリでの2日目は、 バスでデナリ国立公園の深奥部へ行き野生動物に出会う、という
ワイルダネス・ツアー に参加。
バカンス・シーズン真っ盛りでバスは満員。
そんな中、かなり高齢と見受けられるおじいさんが出発直前に乗り込んできて、唯一空いていた私の横に座るなり尋ねた。
「学生が一人、こんなところで何をしてるんだ」
私が学生ではなく38歳で、世界一周旅行の最中だと言うと「何、そんなはずはない。だってまだ10代だろう?」と ベンという名のそのおじいさんは周囲に聞こえるような大声で言った。
若く見られるのには慣れていても10代はかなり無理があるだろう…と引いた私だが、彼は真剣な顔で「16歳くらいだと思った」としきりに目を丸くしていた。
もちろんツアーに一人で参加していたのは私とベンだけで、しかもこんなに幼くか弱く(???)見える容貌も手伝い、他のバスツアー参加者からも何かと面倒を見ていただいた。
降車して立ち寄った ネイチャー・センターでは写真を撮ってもらったり、ベンにはソフトクリームまでご馳走になってしまった。ありがとう〜
ネイチャー・センターからの雄大な眺め。あまりに大きすぎて言葉がない。
トレッカーの夢、デナリ国立公園
デナリ国立公園内には夏の間 トレッキングを楽しむ人々のためのルートが整備されており、彼らの情報源となるのがこのネイチャー・センターなのだ。
こんな驚異的な大自然の中を自分の足で歩けたら…と惹かれるが、一人では許可されないだろうし第一まともな装備もない。野生動物が多く生息していて危険なため、公園内を歩くには許可がいるという。レスキュー隊が出動することも少なくないとか。
広大な デナリ国立公園内には様々な野生動物が暮らしている。
鹿やウサギなどの慣れ親しんだ動物からキツネ、グリズリー・ベア、カモシカそして狼、エルクといった滅多に見ることのできない貴重な動物たち。
立派な角を持つカリブー(ヘラジカ)。大きい!
それらを見つけると、ガイドがマイクで案内する。バスはスピードを落としたり止まったりしてガイドの望遠カメラによる映像が車内の小さなスクリーンに映し出される。乗客はその映像を元に、バスの窓に貼りついて肉眼で彼らを捉える。
時にはすぐ近くで、時には肉眼では点にしか見えないほど遠くに、貴重な動物たちを目にするたび車内は興奮にどよめく。
ガイドが「シーっ、静かに!彼は音に敏感なので逃げてしまう!」とマイクで牽制することもあった。
ほとんどの行程がバスの車内、というこのツアーは私には少し、いや、かなり不満だった。
もちろん山肌を縫うようにしてバスが走るたびに現れる壮大な景色は、地球という星の驚異的なパワーを目の当たりにさせてくれたが、アラスカの中央に位置するデナリくんだりまで来てバスの窓を通してしか本物の狼を見られないなんて…。
グリズリーベア。歩いていてこんなでっかいのに会ってしまったら、間違いなく固まるなぁ…
何だか笑える。
きっと動物たちも、カメラ片手にバスに満載されて訪れる人間たちを見て笑っているだろう。
私は、目と目が合って体が固まってしまうほどに野生動物に近付いてみたかった。
狼の姿に弱肉強食の世界を見る
一度バスの真ん前の舗装された道に一匹の 狼 が現れた。
狼がこんなにバスに近付くことは珍しいと訝るガイド。狼が動くのを、皆が息を潜めて待つ。
やがて歩き出したその青白い小さな狼は、どうやら足を怪我しているらしくびっこを引きながらしばらく車道を歩いていたが、やがて向きを変え、草原の中へと消えて行った。
背後をゆっくりと付いてくるバスに気付きながらも足をひきずってひたすら歩き続けたその狼の姿に、アラスカの厳しい自然を思わずにいられなかった。時に自然は人間に優しいけれど、その内部には 弱肉強食という揺るぎない掟を内包している。
気ままな旅を楽しむ私のような人間が目にすることは許されない世界のような気がした。
人間が踏み込み、木々をなぎ倒してアスファルトの道を作り、観光客を満載したバスが押し寄せるなんて 間違っている。
そんな罪悪感に打たれたワイルダネス・ツアーだった。
タグ: アラスカ