The meaning of walking with someone【4.2011】
4月21日(巡礼21日目)El Burgo Ranero エル・ブルゴ・ラネーロ 〜 Villarente ヴィヤレンテ (26km)
「紳士アニセト A gentleman Aniseto」
翌朝7時半頃、やっと顔を洗いに階下のシャワールームへ降りていくと、なんと暖炉の前にいたアニセトが「昨日のバルで一緒に朝食を食べていこう」と言うではないか。
私はてっきり今日は別行動だと思っていたのでびっくりして慌てて出立準備をすることに。
アニセトは早く起きながらも私を待っていてくれたのだ。だったら起こしてくれればいいものを、朝が苦手という私の言葉を覚えていてくれて起こせなかったのだろう。そんなところにも彼の優しさを感じる。
とはいえずっと一人で歩いてきた私にとって、アニセトのような頑健な男性と共に歩くのは無謀に等しい。彼の速さに合わせて必死に歩くので、昨日から靴擦れができて痛みを感じていた左足首をかばって途中躓いたときに、アニセトに異変を気付かれてしまった。
大丈夫だと言ったのだが、彼は見せてみろと半ば強引に私を近くの石に座らせた。靴下を下げてみると、左足くるぶしの内側が靴に当たって擦り剥けていた。
アニセトにとっては当たり前の行為だったのだろうが、ずっと一人で歩いてきた私には、照れくさい以上に、心にしみた優しさだった。そんな彼に申し訳なくて、道々何度先に行ってくれるよう言ったかわからない。
私が今日行く予定の宿までは26キロだが、アニセトはレオンまでその先更に13キロもあるのだから、足を庇いながら歩く私が一緒では彼の予定は遅れるばかりだ。
しかし彼は、じゃぁ、と私を見捨てることはしなかった。夜まではたっぷり時間があるから大丈夫だと、私に合わせて速度を落として歩いた。私の足に気を遣って途中バルで二回の小休憩を取り、励まされながら何とか予定のヴィヤレンテの宿に着いた時には、すでに3時半になっていた。
にもかかわらず、彼はそこのレストランで昨日と同じようにコースの食事をご馳走してくれた。近くにバルやスーパーが全く見当たらなかったので、私の夕食を心配してのことだろう。
「君と歩いたこの二日間、本当に楽しかったから別れ難いんだ」
彼はそう言ってくれたが、空模様は次第に怪しくなっていたし、本当は先を急ぎたかったに違いない。
結局何度も何度も私をハグし、頬にジョリジョリと髭が当たって痛いほどキスを浴びせた彼がヴィラレンテを後にしたのは4時半。すでに雨がぽつぽつと降り始めていた。
「アニセトが私に思い出させたこと What Aniseto reminded me」
その後夕立のような激しい雨が降ったので、アニセトはさぞ苦労してレオンの街へたどり着いたに違いない。
13キロなど彼の足では一時間半程度だろうが、雨の中傘なしのポンチョだけで歩く厳しさを、私はすでに経験していた。
アニセトがポンチョを被るのを手伝いながら、本当に心から彼の親切に感謝した。昨日の夜から途中休憩を含む今日のバルとレストランでの食事、計5回を通して私は一銭も払わせてもらえなかった。
初めて誰かと一緒に歩いて、人に合わせて歩くことの難しさを思い知ったけれど、それに勝る安心感があったことは確かだ。
それは相手がアニセトという成熟した大人の男性だったからかもしれないが、一人になった後の「あー、気がラク」という思いの反面、一抹の寂しさも残した。
ゴーイング・マイ・ウェイのヤンとずっと一緒に歩いていた赤ジャージの女の子、大変だろうなぁ、と同情しつつも、きっとヤンのことが好きなんだろうな、と思う。
カミーノは恋人とは歩きたくない道だ。
一日中歩いていると汗まみれ、埃まみれになり、日焼けして肌もボロボロになる。好きな人にそんな姿は見せたくないし、男女となればペースを合わせるのにお互いが譲歩しなければならない。そして宿も常に一緒だ。疲れや上手くいかないことが起きたりして、必ず相手のイヤなところが見えてしまう。だからこそ真の愛を確かめるには最適かもしれないのだが。
この5日間で何度もヤンと顔を合わせて嬉しかったけれど、彼はやっぱり女好きなんだなー、という軽さを感じていたのも確かで、なぜあんなにも恋する十代の女の子のような気持になっていたのかわからなくなった。ヤンのことばかり考えていたから、サアグン以降激しい雨に打たれるという警告を与えられたような気がした。
この橋を渡るとヴィヤレンテの町へ入る
レオンまであと13キロ。レオンで自分の中の第2ステージが終わる。ヤンに遅れないように先を急ごうとも考えたが、やはりレオンに2泊し休みを取って、気持ちも新たに第3ステージを歩き始めようと思った。アニセトとの出会いが、今自分がここを歩いている意味を思い出させてくれた。
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