音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2011年01月05日
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テーマ: Jazz(1978)
カテゴリ: ジャズ

クラシックかラテンか~スティーヴ・キューンの力量(その1)


 スティーヴ・キューン(Steve Kuhn)は、1938年ニューヨーク生まれで現在も活動し続けるジャズ・ピアニスト。若い頃からケニー・ドーハム、ジョン・コルトレーン、スタン・ゲッツ、アート・ファーマーといった名だたるジャズ・ミュージシャンと共演してきた。白人ピアニストと言う意味では、ビル・エヴァンスに続くと目された奏者である。かつては孤高のミュージシャンというべき近づき難さを持っていたが、年齢を重ね、大衆的なテーマを取り上げて日本のヴィーナス・レーベルに多く作品を残すことで、親しみやすいミュージシャンへと変貌してきた。これまでに彼が残した数多いアルバムのうち、筆者が聴いた枚数はしれているが、ひとまずは意外な組み合わせの2枚を今回と次回の2項に分けて取り上げてみたい。

 本盤『亡き王女のためのパヴァーヌ(Pavane For A Dead Princess)』は、2005年に日本のレーベル(ヴィーナス)によって吹き込まれた。収録曲を見ると、ショパン、ラヴェル、チャイコフスキー、ブラームス…と、クラシック音楽の大作曲家たちの名が並んでいる。つまり、本盤はクラシックの小品集という企画である。押し並べて言うと、個人的にはクラシック曲のジャズ化作品はあまり好きではない。なぜかと言うと、演奏者(ジャズ側)の、演奏曲(クラシック側)に対する敬意や気後れが演奏に反映されてしまうということが起こりやすいからだ。“敬意”というのは、聞こえはいいが、早い話、クラシック演奏の枠から抜けられない演奏になってしまうということである。“気後れ”の方も、クラシックよりも歴史が短い(すなわち、後進の)大衆音楽であるジャズ側が、伝統あるクラシック音楽に追いつこうという気概が空振りするケースのことをここでは言っている。その結果、ジャズをジャズたらしめている自由さが損なわれてしまうという事態を引き起こしやすい。

 そこで本盤なのだが、ここでは、そうしたリスペクトが強すぎたり、コンプレックスが表に出てきたりするというマイナス効果が生じていない。しかも演奏曲の中には、表題曲2.「亡き王女のためのパヴァーヌ」や7.「リベリイ」のようにジャズ・ナンバーとしての解釈のイメージがある程度伴うものもあるが、他方で、5.「白鳥の湖」や11.「ララバイ」のように、“誰でも知っているクラシック曲”も含まれる。

 本盤は、ジャズらしさと原曲のよさの微妙なバランスの上に成立している。ジャジーさやスイング感が満載ではなく、微妙なバランスで登場するところに、その成功の要因があるように思う。ぐぐっと惹きつけてジャズらしく盛り上がったところで、ふっと原曲のテーマに戻り、“ああ、クラシック曲だったのだ”と聴き手に思い出させる。そのバランス感覚がいい。曲によってはベースがやや暴走気味だけれども、そこは御愛嬌。トータルでは、やはり上記のバランスの妙の勝利である。この見方からすると、1.、3.、5.、8.、9.といったあたりが特によく出来ていると感じる。いずれにせよ、クラシック曲のジャズ解釈が難しい中、これだけの解釈・演奏が提示できるというのは、スティーヴ・キューンの才能・力量の高さを反映しているということなのだろう。



[収録曲]

1. I'm Always Chasing Rainbows
  ~Fantasy Impromptu (F. Chopin)
2. Pavane For A Dead Princess (M. Ravel)
3. Moon Love
  ~Symphony#5 2nd Movement (P. Tchaikovsky)
4. One Red Rose Forever
  ~Ich Lieve Dich (E. Grieg)
5. Swan Lake (P. Tchaikovsky)
6. Nocturne In E♭Major Op.9, No.2 (F. Chopin)
7. Reverie(C. Debussy)
8. Prelude In E Minor Op.28, No.4 (F. Chopin)
9. Full Moon And Empty Arms
  ~Piano Concerto#2 3rd Movement (S. Rachmaninov)
10. Pavane (G. Faure)
11. Lullaby (J. Brahms)


[パーソネル・録音]

Steve Kuhn(pf)
David Finck(b)
Billy Drummond(d)

録音:2005年8月18~19日


[関連記事]

クラシックかラテンか~スティーヴ・キューンの力量 その2(スティーヴ・キューン・トリオ『キエレメ・ムーチョ』)







[CD] スティーヴ・キューン・トリオ/亡き王女のためのパヴァーヌ







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Last updated  2013年07月23日 20時50分06秒
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