そこまで劇的ではないにせよ、シカゴ(Chicago)もまた大きく作風を変えたバンドの一つである。シカゴは、1982年発表の『シカゴ16』でデビッド・フォスターをプロデューサーに迎え、「素直になれなくて(Hard To Say I’m Sorry)」のシングル・ヒットで、70年代のブラス・ロックというイメージとは異なるバンド像を定着させた。以降、90年代にかけてシカゴはこの路線を高めていった。そんな中、80年代半ばにピーター・セテラの脱退という事態が起こる。歌を聴かせる点にも重点があるバラード路線という状況で、リード・ヴォーカリストの交代は一大事だっただろう。ソロ活動を開始したピーター・セテラに代えて1985年、ジェイソン・シェフが加入する。
これを受けてバンド自体も、不安はあったのかもしれないけれど、やる気満々だった。1.「ナイアガラ・フォールス」からして意気込みのある。同じくバンドの意気込みが強く感じられるのは4.「長い夜(25 or 6 to 4)」。言わずもがな、シカゴの第2弾アルバム(『シカゴと23の誓い』、1970年)に収録され、彼らにとって最初のTop 5入りしたシングルヒット曲である。これを大胆にリメイクし、(70年代のファン受けするかどうかはともかく)奥行きのあるサウンドに仕立てた。手薄だったギターに関して、スティーヴ・ルカサーやマイケル・ランドウといった大物ギタリストのサポートを加えているのも、不安と同時に意気込みの裏返しでもあったのだろう。
ポップでメロウなラヴ・バラード路線では、5.「スティウ・ラヴ・ミー(Will You Still Love Me?)」と3.「フェイスフル(If She Would Have Been Faithful)」が傑出している。前者は全米3位、後者は17位のシングル・ヒットとなった。さらに、アルバム後半の収録曲で、バラード路線という意味で興味深いのは、8.「ふたりの絆(Nothing’s Gonna Stop Us Now)」と9.「アイ・ビリーヴ」。これらの曲だけ単独で聴くと、ただのバラード路線の曲と思われるかもしれないが、本盤の中では、クレジットされていない小品(「フリー・フライト(Free Flight)」、筆者の手持ちの盤ではTrack 8の中に組み込まれて前奏となっている)が配されている。“ブラス・ロック”と称されていた頃を思い起こさせるブラスの前奏があって、その後にいかにもバラード路線の曲が続く。70年代に積み上げてきたバンドの遺産を否定するのではなく、その上に積み重ねられたバラード路線なのだという意気が伝わってくるというと言い過ぎだろうか。
1. Niagara Falls 2. Forever 3. If She Would Have Been Faithful... 4. 25 or 6 to 4 5.Will You Still Love Me? 6. Over and Over 7. It's Alright 8. Nothin's Gonna Stop Us Now 9. I Believe 10. One More Day