音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2016年09月17日
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テーマ: 洋楽(3407)




唐突だけれども、ミュージシャンというのは、今風に言うならば、何とも“不安定な”職業だと言えるように思う。ヒットを飛ばせば億万長者になり得るが、一生場末のバーで歌い続けるかもしれない(いやそれそらできないかもしれない)…。“非正規雇用”なんて言葉が躍る今時分の世の中であるけれど、昔っからミュージシャンというのは不安定な職業の代表格に違いない。

 さて、1976年はトム・ウェイツ(Tom Waits)が注目されるきっかけとなった年だった。初めてのヨーロッパ・ツアーを行い、本盤『スモール・チェンジ(Small Change)』をリリースした。1973年のデビュー作(収録曲の「オール・’55」がイーグルスによってカバーされるという出来事はあったものの)とその翌年のセカンド作は、商業的には成功しなかった。とはいえ、本作は初めて全米100位以内にチャート・アクションを起こし、彼にとっては売れ始めるきっかけになった。

 つまるところ、本盤を吹き込んだ時点で、レコーディングでLPを出している身分とはいえ、トム・ウェイツはまだまだ“売れないミュージシャン”でもあった。将来を心配するならば、いろんなことに二の足も踏むだろうし、さまざまな場面で慎重にもなるかもしれない。ところが、本盤を聴くと、そんなことはみじんも感じない。それどころか、スタジオ作としてはこれの前作に当たる『土曜日の夜』で示した路線を一層深め、ジャジーでブルージ―な世界を一層マニアックに推し進めたている。一言でまとめるならば、やりたい音楽を楽しくやりたいようにやったのだろうと想像できてしまう。

 聴きどころをいくつか挙げておきたい。まずは、彼の代表曲の一つにもなった1.「トム・トルバーツ・ブルース」。ジャジーでブルージ―な路線を推し進め、重たさいっぱいであるが、この重さがトム・ウェイツのよさでもあることを再認識させられる。3.「のってる奴」は、マリリン・モンローやルイ・アームストロングなど実在の人物が次々と現れる。ある意味、“ボキャブラリーが得意な楽器”という、トム・ウェイツの本領が透けて見える1曲である。

 5.「ピアノが酔っちまった」は、表題に反して本人が酔ってそうなヴォーカルで展開されるが、面白いのは、表題(筆者手持ちの日本語ライナーには転記されていないが、ジャケにはちゃんと記載されている)には副題がついていて、“Not Me”と付け加われていること。つまり、“(俺ではなくて)ピアノが酔っちまった”となっていて、なかなか遊び心が感じられる。ちなみに、他の曲にも、( )付きで副題が記されている曲が多い(下記の曲目データにはその情報も記載)。

 アルバム後半(LP時代にはB面)もジャジーやブルージ―な面で重たい曲が続く。6.「ブルースへようこそ」や8.「身も心も疲れはてて」はその典型で、筆者もお気に入りのナンバーである。あと、本盤では“ライヴ感”が前面に出ている曲も耳につくが、表題曲の10.「スモール・チェンジ」(字義通りの“小さな変化”以外に、“(釣り銭などの)小銭”、さらには“ちっぽけな奴”の意味がある)のように、ライヴっぽい雰囲気も本盤では強要されている。

 余談ながら、本盤には、シェリー・マン(有名ジャズ・ドラマー)が参加していて、この人物は次作『異国の出来事』にも引き継がれていくことになる。聴衆無視というわけで決してないが、やりたいことをやっている感じは強い。売れ始めのきっかけと冒頭に書いたが、決して聴衆の受けを狙ったのではなく、やりたいことを追求していく、そんな過程の1枚なのだと思う。そして、そうした本盤に筆者もどっぷり嵌って抜け出せなくなってしまっているわけだけれど(笑)。


[収録曲]

1. Tom Traubert's Blues (Four Sheets to the Wind in Copenhagen)
2. Step Right Up
3. Jitterbug Boy (Sharing a Curbstone With Chuck E. Weiss, Robert Marchese, Paul Body and The Mug and Artie)
4. I Wish I Was in New Orleans (in the Ninth Ward)
5. The Piano Has Been Drinking (Not Me) (an Evening with Pete King)
6. Invitation to the Blues
7. Pasties and a G-String (at the Two O'Clock Club)
8. Bad Liver and a Broken Heart (in Lowell)
9. The One That Got Away
10. Small Change (Got Rained on with His Own .38)
11. I Can't Wait to Get Off Work (and See My Baby on Montgomery Avenue)

1976年リリース。






Tom Waits / Small Change (180 Gram Vinyl)【輸入盤LPレコード】(トム・ウェイツ)
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【CD】スモール・チェンジトム・ウェイツ [WPCR-75574]



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Last updated  2016年09月17日 21時59分26秒
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