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テナー・タイタンの晩年作にしてテテ・モントリューとの共演盤 3大テナーに数えられるベン・ウェブスター(Ben Webster)は、1973年に63歳でその生涯に幕を閉じた。その亡くなる前年、ヨーロッパでの演奏が収められたのが、この『ライヴ・アット・ハーレムゼ・ジャズ・クラブ(Live at the Harlemse Jazz Club)』である。オランダでの録音で、ウェブスター没後にタイムレス・レーベルから発売された。 演奏が行われたのはオランダ北部のハールレムで、米ニューヨークのハーレムの語源になった街である。当時、ヨーロッパに演奏旅行に来る米国人ミュージシャンは、しばしば現地で演奏者を調達していた。ケニー・ドリュー(米国出身だが1960年代から移住した)と並んで、欧州でのピアニストとして人気が高かったのが、本盤で共演しているテテ・モントリュー(Tete Montoliu)だった。もっとも、バルセロナ出身の盲目のピアニストであるテテと、ウェブスターとの共演はこれが初めてではなかった。1968年のドン・バイアスとの吹き込みなど少なくとも何度かの機会があったようだ。というのも、ウェブスターは1964年のロンドン公演を機に、アムステルダムやコペンハーゲンなどヨーロッパに拠点を移し、結局、1973年に亡くなるまでヨーロッパに居ついたからである。 さて、演奏内容に目を向けると、スタンダード曲がずらりと並んでいる。上記のテテ以外の面子は、オランダ人ベーシストのロブ・ラングレイス、欧州に渡った米国人ドラマーのトニー・インザラコである。筆者的におすすめなのは、まずは2.「サンデイ」の盛り上がり(笑)。それから、ウェブスターの代表曲の一つと言ってもいい4.「イン・ア・メロウ・トーン」。ミッド・テンポでスウィングした感じの演奏というだけでなく、テテ・モントリューのソロでのピアノが実に冴えたプレイを見せているところに注目したい。それから、これまたウェブスターの定番である5.「スターダスト」。個人的な思い入れと言ってしまえばその通りなのだろうが、この人によるこの曲の演奏は、音源がある限り、ありったけ異なる演奏を聴いてみたいと思うほど、このサブ・トーンにはまってしまっている。[収録曲]1. For All We Know2. Sunday3. How Long Has This Been Going On?4. In A Mellowtone5. Stardust6. Perdido[パーソネル、録音]Ben Webster(ts), Tete Montoliu(p), Rob Langereis(b), Tony Inzalaco(ds)1972年5月9日録音。 ライヴ・アット・ザ・ハーレムゼ・ジャズクラブ [ ベン・ウェブスター ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年12月14日
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リラックス&ストレートな円熟テナー アル・コーン(Al Cohn)は1925年生まれの米国出身のジャズ・サックス奏者。1940年代にウディ・ハーマン楽団での活動に始まり、1950年代以降はそこで一緒だったズート・シムズとの双頭クインテット、さらにはソロ以外にも、ボブ・ブルックマイヤーとのコンボなどで活躍した。 そんなアル・コーンは1988年、62歳の時に肝癌で亡くなっているが、その前年に吹き込まれたのが、本盤『リフタイド(Rifftide)』。1987年にヨーロッパを訪れ、その際にオランダでピアノトリオと録音したという作品である。ちなみにレーベルのタイムレス(Timeless)とは、1970年代にオランダで立ち上げられたレーベルで、米国人ジャズ・ミュージシャンの吹込みを多く行っているほか、本盤に参加のレイン・デ・グラーフは同レーベルを代表するピアノ奏者でもある。 そのようなわけで、オランダのトリオをバックにワン・ホーンのテナーという演奏で、選曲も有名スタンダード曲を中心としたものになっている。録音時期を考えると、晩年作ということで必ずしもアル・コーンの全盛期作とは言えるわけではない。けれども、独特のスウィンギーさ、どこか硬質な感じのするテナーの音色といった特色は、まぎれもなくアル・コーンの演奏そのものである。個人的には演奏中に時折みられる、あの“引っ張った感じ”が好きだったりする。個人的な好みは、1.「スピーク・ロウ」、表題曲の6.「リフタイド」、8.「シークレット・ラヴ」といったところだろうか。年齢や吹き込み時期、さらにはその状況など様々な要素が絡み合っているのだろうけれど、アル・コーンの特徴を素直に残しつつ、どこか余裕をもってリラックスした演奏というのが心地いい。その意味では、この奏者のベストではないかもしれないが、聴き逃がすのはもったいないなかなかに心地よい盤でもあるように思う。[収録曲]1. Speak Low2. Blue Monk3. Hot House4. The Thing5. We’ll Be Together Again6. Rifftide7. Do Nothing Till You’re True8. Secret Love[パーソネル、録音]Al Cohn (ts)Rein de Graaff (p)Koos Serierse (b)Eric Ineke (ds)1987年6月録音。 Al Cohn / Rifftide 【CD】 下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、バナーを クリックお願いします! ↓ ↓
2018年12月11日
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B・ホリデイに捧げられたウィズ・ストリングス盤 ジョニー・グリフィン(Johnny Griffin)が1961年に吹き込み、リリースされたのが本盤『ホワイト・ガーデニア(White Gardenia』である。表題に掲げた通り、本盤には二つの大きな特徴がある。 一つは、1959年に44歳で亡くなったビリー・ホリデイのトリビュート盤であるという点である。この大シンガーに捧げた作品というと、マル・ウォルドロンの『レフト・アローン』が有名だが、同盤は生前(亡くなる数か月前)の録音である。対してこちらは死の2年後に企画され、表題曲(3.「ホワイト・ガーデニア」)などは異なるが、基本的にはビリー・ホリデイが生前に歌っていた楽曲から選曲されている。 もう一つの特徴は、いわゆるウィズ・ストリングス盤であるという点である。ジャケットにもあるように、“ジョニー・グリフィン・ウィズ・ストリングス・アンド・ブラス”という演奏形態で、メルバ・リストンとノーマン・シモンズが編曲を担当している。 ウィズ・ストリングス盤ということで避ける向きもあるかもしれないが、個人的にはこの手の盤も好きなので、少し擁護しておきたい。グリフィンの名からイメージされる豪快なブロウは確かに鳴りを潜めている。しかし、“愛(ラヴ)”や“尊敬の念(リスペクト)”に溢れた盤でもある(その意味では、10.「レフト・アローン」も聴き逃がせない)。つまるところ、グリフィンの代表盤ではあり得ないのだけれど、こういうこともグリフィンはできたのだという証でもあって、“代表的”なグリフィンのイメージしかない人には、一度試してもらいたい盤ということになる。ちなみに、筆者のお薦めとしては、1.「グルーミー・サンデイ」と上記の10.「レフト・アローン」がベスト2といったところ。[収録曲]1. Gloomy Sunday2. That Old Devil Called Love3. White Gardenia4. God Bless the Child5. Detour Ahead6. Good Morning Heartache7. Don't Explain8. Travelin' Light9. No More10. Left Alone[パーソネル、録音]Johnny Griffin (ts), Nat Adderley (cor; 1., 7., 9.を除く), Ernie Royal (tp; 1., 7., 9.を除く), Clark Terry (fh; 1., 7., 9.を除く), Ray Alonge (French horn), Jimmy Cleveland (tb), Paul Faulise (tb), Urbie Green (tb) Jimmy Jones (p; 2., 5., 8.を除く), Barry Harris (p; 2., 5., 8.), Barry Galbraith (g), Ron Carter (b), Ben Riley (ds), Alfred Brown (vln), Harry Lookofsky (vln), David Schwartz (vln), Charles McCracken (cello; 2., 5., 8.を除く), Lucient Schmit (cello, 1., 5., 7.–9.), Maurice Bialkin (cello), Ray Schweitzer (cello), Edgardo Sodero (cello; 2., 5., 8.), Abe Kessler, Peter Makas (cello; 3., 4., 6., 10.)Melba Liston (arr; 4.–6., 8. を除く), Norman Simmons (arr; 4.–6., 8.) 1961年7月13日(1., 7., 9.)、14日(2., 5., 8.)、17日(3., 4., 6., 10.)録音。 ↓この盤そのものがなかなか見つかりませんでした。以下の4枚組編集盤にはどうやら含まれている模様。↓ Johnny Griffin / Riverside Collection 1958-1962 (輸入盤CD)【K2017/3/10発売】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年12月08日
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安定と安心の1枚 セロニアス・モンク(Thelonious Monk)は、ブルーノート、プレスティジ、リバーサイドと異なるレーベルに録音を残しているが、1960年代に入ってコロンビアと契約した。このコロンビア・レーベルから出された一連の作品群は、演奏面で安定した時期だったと言えるように思う。 本盤『モンク.(Monk.)』は1964年に吹き込まれたもので、コロンビア移籍後の4枚目(実況盤も入れると7枚目)の作品にあたる。ちなみに、ほぼ同じ表題の『Monk』(邦題は『セロニアス・モンク・クインテット』)があるが、そちらは10年前のプレスティジ録音盤で、別物である。よく見ると、本コロンビア盤の方には“ピリオド”がついていて、紛らわしいが、表記が微妙に違うということになる。 プロデュースは同時期の『イッツ・モンクス・タイム』と同様にテオ・マセロが担当。サックス奏者のチャーリー・ラウズは1950年代末からモンクのバンドに参加していて、1960年代にはモンク・サウンドのテナーによる体現者となった。結局のところ、この時期のモンクは、コロンビアで安定してアルバムを作ることができ、なおかつ自身のバンドで安定した演奏していたということになるだろうか。 スタンダード4曲とオリジナル3曲が収められているが、再演の曲も多い。その理由もまた、上に述べたようにバンドとしての安定した演奏を楽しめたことによるではないだろうか。前者では、『ザ・ユニーク』でも演じられた5.「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」、ブルーノート時代の『ジニアス・オブ・モダン・ミュージックVol. 1』にも収録されている2.「パリの4月」といった具合である。後者では、『ブリリアント・コーナーズ』が初演だった6.「パノニカ」がある。この曲の演奏なんかは、本当に安定したメンバーという本盤での演奏スタイルがよくわかるように思う。ちなみに、オリジナル曲の7.「テオ」は、その表題の通り、プロデューサーのテオ・マセロに捧げられた曲。彼は長年、マイルス・デイヴィスのプロデュースも行ったが、マイルスもまた「テオ」という楽曲を作っている。[収録曲]1. Liza (All the Clouds'll Roll Away)2. April in Paris -take 6-3. Children's Song (That Old Man)4. I Love You (Sweetheart Of All My Dreams)5. Just You, Just Me6. Pannonica -retake 2-7. Teo~以下、CD追加曲~8. April in Paris -take 1-9. Pannonica -take 2-10. Medley: Just You, Just Me / Liza (All The Clouds'll Roll Away)[パーソネル、録音]Thelonious Monk(p), Charlie Rouse(ts), Larry Gales(b), Ben Riley(ds)1964年3~10月録音。 [期間限定][限定盤]モンク. +3/セロニアス・モンク[CD]【返品種別A】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年12月05日
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最晩年のスタン・ゲッツ、渾身の力作(後編)(前編からの続き) さて、スタン・ゲッツの死の3か月前という本盤の録音内容を少しばかり見ていきたい。場所はコペンハーゲンのジャズクラブでの実況録音、演奏者はスタン・ゲッツ(テナー)とケニー・バロン(ピアノ)のデュオである。 冒頭の1.「イースト・オブ・ザ・サン(アンド・ウェスト・オブ・ザ・ムーン)」の演奏からして、やはりこのトーンはスタン・ゲッツといった安心感があるものの、演奏は次第に激しいものへと変わっていく。よく“死を覚悟したスタン・ゲッツの魂の演奏”などと評されたりするが、情感を込めて激しい音を混ぜながら演奏している緊張感は、若い頃のテンポよい緊張感とは少し別種のものと言ってもいいように思う。 それからもう一点、本盤に関して作品全体として顕著なのは、音の厚みだという気がする。上記の通り、ピアノにテナー・サックスというデュオ演奏なわけだけれど、ケニー・バロンのピアノは2人きりの演奏とは思えない厚みを出している。その上にのるスタン・ゲッツのテナーも、デュオを意識しての音を奏でている。 2枚組全14曲中で、1枚目のお気に入りは、既に上で触れた1.のほか、2.「ナイト・アンド・デイ」、名演に数えてよいであろう6.「アイ・リメンバー・クリフォード(クリフォードの想い出)」。2枚目は、何と言っても聴き逃がせない1.「ファースト・ソング」から始まる。それから5.「朝日のようにさわやかに」、6.「ハッシャバイ」を経て、最後の7.「ソウル・アイズ」の名演で締めくくられる。上にも書いた通り、デュオ演奏であるにもかかわらず、2時間弱にわたって聴き手を飽きさせることがない。 前編・後編の2回にわたる長文になってしまったけれど、結論として思うところは、純粋に音楽を聴くという観点からすると、人生ストーリーはフレーバーでよい。まず第一に演奏内容がどうなのか、ということがやはり大事なのだろう。それがよくて初めて背後にあるストーリーは意味を持ちうるわけで、決して背後のストーリーが音楽そのものを食ってしまうことがあってはならない。この作品を初めて聴いた時にはそんなことまで考えたりすることはできなかった。けれども、今となっては、スタン・ゲッツの遺作を聴きながら、そんな風に音楽の聴き方を考えるようになってしまっていたりする。[収録曲](Disc 1)1. East of the Sun (and West of the Moon)2. Night and Day3. I'm O. K.4. Like Someone in Love5. Stablemates6. I Remember Clifford7. Gone with the Wind(Disc 2)1. First Song (for Ruth)2. (There Is) No Greater Love3. The Surrey with the Fringe on Top4. People Time5. Softly, as in a Morning Sunrise6. Hush-a-Bye7. Soul Eyes[パーソネル、録音]Stan Getz (ts), Kenny Barron (p)1991年3月3日~6日、コペンハーゲンでの実況録音。 【輸入盤】People Time [ Stan Getz / Kenny Barron ] 下記ランキングに参加しています。お時間のある方、応援くださる方 は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2018年11月30日
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最晩年のスタン・ゲッツ、渾身の力作(前編) 音楽に人生ストーリーを重ねるのは、個人的にはあまり好きではない。つまるところ、一義的には“音楽は音楽そのものとして聴かれる”のがいちばん重要だと、どこか心の底ではそう思っている。 人生ストーリーが過剰に組み込まれるとおかしなことになるというのも分かっている。いつぞやの佐村河内何某(もはや忘れ去られている?)の事件でもそうだったけれど、マスコミ関係者には、全く分かっていない人も多いと見えて、報道する際の焦点が“ゴーストライター”や“本人の病状の真偽”に逸れていった。本当は、音楽そのもの以外の要素で音楽に付加価値を付けよう(付け過ぎよう)としたNHKほかマスコミにそもそもの問題があるように思うのだけれど、あの騒動の際、そこはまったく反省に付されなかった。これでは、音楽そのものを味わったり楽しんだりしようという姿勢は、人々の間に根づかないとすら言えてしまうかもしれない。 さらに話を広げるならば、先の件と前後したころに、最近復帰を果たしているASKAの騒ぎもあった。その時にも見られたように、事件を起こした人とその作品の関係というのも微妙な問題だと思う。“素晴らしい曲”を作った作者が、もしも犯罪者となってしまったとしても、その曲まで発禁・回収する必要があるのだろうか。聴き手にそれを買う買わないという選択権はないものだろうか。それから、もしも仮にベートーヴェンやショパンが晩年に国家反逆罪か殺人罪か何かで死刑判決を受けた人物だったとしたら、彼らの残した音楽は葬り去られるというのだろうか。このことを問い返さずに、ただ“禁じて当然”という暗黙の前提のもとに発禁・回収の進む社会というのは、ある種、気持ち悪いとしか言いようがない。 はて、のっけから話がそれてしまった。何が言いたかったかというと、そうは言えども、今回の盤は、背後にあるストーリーがあまりに重く、ストーリーを伴って聴かない人はほとんどいなさそうな盤だったりするのである。 スタン・ゲッツ(Stan Getz)は、1927年生まれのサックス奏者で、クール・ジャズ、ボサノヴァを取り入れた演奏などで名を馳せた。そんな彼が肝臓癌で余命1年半という告知を受けたのは、1987年のこと。ちょうど60歳になる年のことだった。しかし、その後、彼は精力的な活動をこなし、余命宣告をはるかに超えて1991年6月まで生きた。本盤『ピープル・タイム(People Time)』は、この間に一緒に活動をしてきたケニー・バロン(ピアノ)とのデュオで、亡くなる3か月前、1991年3月の実況録音盤である。 こんな話を聞かされると、きっと聴き手はそのストーリーから逃れ得なくなってしまう。でも、この盤だけは例外的にそれでもいいのかな、といくぶん思わなくもない。若い頃はそんなことは考えなかったが、身の回りの人が亡くなると、ついつい生前の話をして盛り上がろうとする。亡き人の死を悲しむこととその人を回顧することが重なり合うことに実感がわくようになる。 なんだかまとまりなく話が長くなってしまった。アルバム内容については、あらためて後編で(曲目等のデータは後編に掲載)。 【輸入盤】People Time [ Stan Getz / Kenny Barron ] 下記ランキングに参加しています。お時間のある方、応援くださる方 は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2018年11月28日
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ラテン・ジャズの巨匠が解釈するマンサネーロ曲集 パキート・デリベーラ(Paquito D’Rivera, パキート・デリベラやパキート・デリヴェラと表記されることもあり)は、1948年キューバはハバナ生まれのサックス、クラリネット奏者。父もサックス奏者(ティト・デリベラ)で、パキートは7歳の頃から神童とされ音楽活動を行ってきた。1979年にグラミー賞を受賞し、その後まもなくキューバを捨てて拠点を海外に移し、現在に至るまで活動している。 一口で言うと、彼らしさが発揮されて、ノリのよさや独特の情緒感のある演奏が展開されている。ただ一つ、いつもと大きく違っているのは、ラテン音楽界の大御所、アルマンド・マンサネーロ(アルマンド・マンサネロ)の曲を取り上げていて、ゲスト(パキートのクインテットが基本で、バンドネオン奏者がゲストになっているが、さらに上の“スペシャル・ゲスト”がマンサネーロ本人)として、いくつかの曲でヴォーカル参加している点である。 マンサネーロが参加していない曲は、文字通りデリベーラによる解釈として楽しむことができる。例えば、6.「ソモス・ノビオス」(プレスリーのカバーでも知られる曲、参考過去記事)なんかはその典型であるように思う。他方、一般論として、本人が出てくると原曲らしさが強くなってしまうのは否めない。けれども、本盤では、4.「ジェバテラ」のように、聴き逃がせない大成功に仕上がっている曲もある。思えば、マンサネーロはこの録音時には79歳(本記事執筆の2018年現在は82歳)。それでいて、ジャズ・ミュージシャンのアルバムに参加してこのパフォーマンスというのは、驚くべきことなのかもしれない。円熟のパキートに、さらに円熟のマンサネーロ。若さや勢いに任せるのとは全く違う次元の完成度を楽しむ、そんなアルバムと言ってもいいかもしれないように思う。[収録曲]1. Amanecer2. Esta tarde vi llover3. Voy a apagar la luz4. Llévatela5. Contigo aprendí6. Somos novios7. Por debajo de la mesa8. Mía9. Te extraño10. Parece que fue ayer[パーソネル、録音]Paquito D’Rivera (as, ss, cl, tarogato)Diego Urcola (tp, flh, vtb)Alex Brown (p)Carlos Henriquez (b)Antonio Sánchez (ds)Ariel Lud (bandneon)Armando Manzanero (vo)2014年8月26~28日、NY(Freiberg Music Studios)録音。 ↓ベスト盤です(マンサネーロとの本共演盤ではありません)↓ 【メール便送料無料】パキート・デリヴェラ / ザ・ベスト・オブ・パキート・デリヴェラ[CD] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年10月28日
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名ピアニストを迎えてのヴァイブの名演 デイヴ・パイク(Dave Pike)は1938年生まれのヴィブラフォン奏者で、2015年に77歳で没している。1960年代にとりわけ多くの作品を残したが、本盤『パイクス・ピーク(Pike’s Peak)』は1961年と、彼の作品群の中では、初期の1枚に当たる。1970年代へ向けて、彼はヨーロッパに基盤を置いて成功したジャズ演奏者の一人となり、多ジャンルな志向を見せていくのだけれど、彼がシーンへ登場したころの状況は少し違っていたのだろうと思う。 ヴァイブ(ヴィブラフォン)といえば、ミルト・ジャクソンがすべてのイメージと言ってよかっただろう。世間は(そして、おそらくは演奏者側の多くも)、ミルト・ジャクソンのイメージから離れられなかった。それゆえ、ほとんどの奏者はミルト・ジャクソンのスタイルの範疇に収まるなり、彼の強い影響のもとに見られていた。そんな中で、少し違う一歩への前進を歩みだしたのが、この頃のデイヴ・パイクだったと言えるのではないだろうか。 さて、本盤の特徴はもう一つ別の点にもある。それは、名ピアニスト、ビル・エヴァンスの参加である。エヴァンスと言えば、スコット・ラファロを含めたトリオ演奏が有名であるが、そのラファロは1961年7月に交通事故が原因で急死した。本盤の録音は1962年2月で、ちょうどエヴァンスが相棒を失ったわずか半年ほど後、新しいトリオを編成して次のステップへ移ろうという過渡期にあたる時期に録音されたものであった。 ハービー・ルイスの粘っこいベースと、控えめなエヴァンスの演奏の組み合わせの上で、パイクの演奏が繰り広げられるのだが、表題(“ピーク”=頂点)通りに、彼のヴァイブ演奏は最初のピークにあったと言えそう。軽快なだけではなく、時にエヴァンスと重なり合う知的なフレージングが実に印象的だったりもする。 個人的な話だけれど、実は、この盤は他の盤と一緒に“ついでに”購入した。なんとなく目に留まったので“あと1枚ついでに”という感じで手にしたのだけれど、自宅に戻って聴くと、私的にはその日に買ったアルバムの中で最大のヒットだった。“確信買い”から“印象買い”(その典型が“ジャケ買い)まで、いろんなアルバムとの出会い方があるけれど、時々起こるパターンの、なんとなく買ったものが大当たりという思い出のある1枚だったりもする。[収録曲]1. Why Not2. In a Sentimental Mood3. Vierd Blues4. Bésame Mucho5. Wild Is the Wind[パーソネル、録音]Dave Pike (vib), Bill Evans (p), Herbie Lewis (b), Walter Perkins (ds)1962年2月6日(3.と5.)、2月8日(1.、2.、4.)録音。 パイクス・ピーク [ デイヴ・パイク・カルテット ] 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2018年10月03日
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300万アクセス記念~いま聴きたいあのナンバー(其の21) 今回もジャズ・ナンバーを続けます。2回ばかり前にスタン・ゲッツの演奏(過去記事)を取り上げましたが、今回は、そのスタン・ゲッツが参加して、ギター奏者ジョニー・スミス(Johnny Smith)のクインテットによる演奏の「ヴァーモントの月(Moonlight in Vermont)」です。 ジョニー・スミスという人は多才なギタリストだったようで、異なる様態の演奏もこなせる奏者だったようです。軍では楽隊に入りたいがために2週間(!?)でコルネットを身につけたとかいう、本当か嘘かわからないような話もあったりします。 ちなみに、この曲は1952年に録音され、シングルとして好評を得たのち、10インチ盤に収録されましたが、1956年に編集され直した12インチ盤で表題曲となりました。スミス自身が作曲した「急がば廻れ」(ベンチャーズで知られるあの曲)と合わせて、有名な演奏曲と言えるでしょうか。[収録アルバム]Johnny Smith Quintet / Moonlight in Vermont(1952~53年録音) ヴァーモントの月 [ ジョニー・スミス ] ヴァーモントの月 [ ジョニー・スミス〜スタン・ゲッツ〜ズート・シムズ ] 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年09月15日
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好みは分かれるかもしれないが、これこそ本領発揮盤 ブッカー・アーヴィン(Booker Ervin)は、1963~64年にかけて、プレスティジにいわゆる“ブック・シリーズ”と呼ばれる4部作を残している。『ザ・フリーダム・ブック』、『ザ・ソング・ブック』、『ザ・ブルース・ブック』、『ザ・スペース・ブック』というのがそのタイトルで、いずれも“××・ブック”なる表題である。 本盤『ザ・ブルース・ブック(The Blues Book)』はこれら4部作のうちの1つで、タイトルからも内容からも本領発揮の1枚と言える。他の3枚と大きく異なる特徴としては、トランぺット(奏者はカーメル・ジョーンズ)が入っている点が挙げられ、4枚中で唯一トランぺッターとの共演作となっている。“ブルース”が表題となっているが、これら4作のうち、良くも悪くも最もべったりとブルージーな香りがする仕上がりなのが本盤ではないかと思う。 収録されているのはいずれもブッカー・アーヴィン自身のペンによる全4曲。マイナー調の1.「イーリー・ディアリー」は15分近い長尺で、上記の通り、ブルージーなフレーズを吹きまくる彼のテナーを堪能できる。2.「ワン・フォー・モート」では、カーメル・ジョーンズのトランペットとギルド・マホーネスのピアノが奏でる疾走感の上で、やはりべったりとした(もちろんいい意味で)アーヴィンのサックスが全開になる。3.「ノー・ブーズ・ブルース」は、テンポを落としたスタンダード調で、15分越えの長尺ゆえに“垂れ流し”と言われそうな部分もなくはないが、アルバム全体としては“吹きまくり”一辺倒ではなく、こういう演奏が挟まっていてちょうどよい良いようにも思う。最後の4.「トゥルー・ブルー」は、再び本領発揮のブルースで、冒頭の1.と並ぶ聴きどころになっていると思う。[収録曲]1. Eerie Dearie2. One for Mort3. No Booze Blooze4. True Blue[パーソネル、録音]Booker Ervin (ts)Carmell Jones (tp)Gildo Mahones (p)Richard Davis (b)Alan Dawson (ds)1964年6月30日録音。 輸入盤 BOOKER ERVIN / BLUES BOOK [CD] 【メール便送料無料】Booker Ervin / Blues Book (輸入盤CD) 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年07月07日
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美しいオーケストラとサックスの“予定調和” マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)は、1949年生まれ、2007年没のフィラデルフィア出身のサックス奏者。一方のクラウス・オガーマン(Claus Ogerman)は、1930年ポーランド生まれの作曲家・編曲家で、2016年に亡くなっている。 この2人は1970年代にも共演の経験があったが、1980年代に入ってトミー・リピューマを介して共演作の話が進むこととなった。このプロデューサーが抱いていた作品の計画とは、オガーマンのアレンジしたオーケストラの上で、ブレッカーがテナー演奏を披露するというものだった。1982年、この計画が実現に移され、ニューヨークで録音された。 その成果が本盤『シティスケイプ(Cityscape)』ということになる。当時のブレッカーは体調がよくなかった(実際、レコーディングの直前まで入院していた)が、それにもかかわらず、見事な演奏を披露している。とはいえ、この作品の好き嫌いは分かれるかもしれないようにも思う。というのも、オガーマンのクラシック寄りの発想は、結果的にこの作品がジャズに分類されてよいものなのかどうかという疑問を生み出しかねないからだ。けれども、筆者の個人的見解としては、それも含めて秀作だと思う。 綿密に練られたアレンジ、オーケストレーションが準備されていたことを考え合わせれば、ブレッカーのプレイ面での自由度はさほど多くなかったのかもしれない。こういう言い方をすると、“予定調和?”と言われてしまいそうだが、ある程度そうだったのだろうと思う。予定もしくは予想された流れの中で演奏が繰り広げられていることは事実なのである。 総勢60人を超えるオーケストラを用意したとのことで、ところどころ“やり過ぎ”と感じるところはなくはないものの、ひとまずは表題曲の1.「シティスケイプ」に本盤のコンセプトはよく表れている(かつ本盤中で筆者が最も気に入っている曲である)。この曲を含めてすべてオガーマンの作曲した楽曲である。加えて、聴き逃がせないと思うのは、アナログではB面となっていた組曲風の4.~6.「神々の出現そして不在」(原題の直訳は「各々の存在と不在」でパート1~3と題されている)。連続しているが曲調や雰囲気が変化していき、個人的にはもう少しブレッカーをまとめて聴きたいという場面もなくはないのだけれど、明瞭に本盤の意図が表現されているように思う。[収録曲]1. Cityscape2. Habanera3. Nightwings4. In the Presence and Absence of Each Other (Part 1)5. In the Presence and Absence of Each Other (Part 2)6. In the Presence and Absence of Each Other (Part 3)[パーソネル、録音]Claus Ogerman (arrg), Michael Brecker (ts), Warren Bernhardt (kb), Steve Gadd (ds), Eddie Gomez (b., 1. & 3.), Marcus Miller (b, 2. & 4.-6.), John Tropea (g, 2.), Buzz Feiten (g, 4.), Paulinho da Costa (perc, 2. & 4.)1982年1月4日~8日録音。 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年07月04日
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いかにもハードバップ好きにはお薦め盤の一つ ホレス・シルヴァーのクインテットからリーダーの抜けた盤、というと、“船頭のいない船”のようでいかにも間抜けに聞こえるかもしれない。けれども、その“船頭”色が影を潜め、異なる色彩を放つこともあるというと、少々大げさだろうか。ジュニア・クック(Junior Cook)がリーダーとなったクインテットで、ジャケットの表示に従えば、“フィーチャリング・ブルー・ミッチェル(Blue Mitchell)”というメンバーで録音されたのが、本盤『ジュニアズ・クッキン(Junior's Cookin')』ということになる。 録音は、半分が西海岸(1.~3.および7.がカリフォルニアのロング・ビーチ)で、もう半分が東海岸(4.~6.がニューヨーク)で半年強の間をあけて行われた。上述の通り、全体的には“船頭”がいないことで急速にラテン色が薄まり、典型的ハードバップ色が強くなったと言えると思う。 筆者の個人的好みは、どこかべったりとした“垢抜けない”感じのジュニア・クックのテナーにある。一方で、そこに絡むのは、どちらかというと“垢抜けた”感じのするブルー・ミッチェルのトランペットというのが、ツボにはまる組み合わせなのかもしれない。ドロ・コッカーのピアノが好みであるとか、他の理由もあるのだけれど、ともかくでき上った演奏は、いかにもハードバップな演奏と言える。 初めから終わりまでどの演奏も、上記のようなべったりハードバップ好みの向きにはお薦めなのだけれど、少しだけ個人的好みを書いておこうと思う。1.「マイザー」は、ある種ベタベタに典型的なジュニア・クックのテナーが特によい。ブルー・ミッチェルによる4.「ブルー・ファローク」は、こちらの盤を想起させるような演奏。6.「フィールド・デイ」は作曲者ドロ・コッカーの短いイントロが印象的に始まり、その後の展開でも彼のピアノがいい味を出している。ある種、お決まりの展開や演奏を含め、ハードバップ中毒症の向きにはお薦めの盤と言えると思う。そうでない場合は、ジュニア・クックという人の演奏を気に入るかどうかで評価が分かれそうな気はする。無論、上で述べたように、個人的にはお気に入りの一枚である。[収録曲]1. Myzar2. Turbo Village3. Easy Living4. Blue Farouq5. Sweet Cakes6. Field Day7. Pleasure Bent[パーソネル、録音]Junior Cook (ts), Blue Mitchell (tp), Dolo Coker (p), Gene Taylor (b), Roy Brooks (ds)1961年4月10日(4.~6.)、12月4日(1.~3.、7.)録音。 Junior Cook / Junior's Cookin 輸入盤 【CD】 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年06月30日
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パワー炸裂の1枚 ペーター・ブロッツマン(Peter Brötzmann)は、1941年生まれのドイツ人で、フリー・ジャズのサックス、クラリネット奏者。1960年代にフルクサスと呼ばれる前衛芸術運動に関わった後、現在に至るまでフリー・ジャズに分類される様々な吹込みや演奏活動を展開している。一方のポール・ニールセン=ラヴ(Paal Nilssen-Love)は、1974年ノルウェー生まれのドラム奏者。アトミック(Atomic)というバンドでの活動経験のほか、ブロッツマンとの共演歴も多い。個人的には、いわゆる“フリー・ジャズ”はあんまり得意な分野ではないのだけれど、これら2人のお陰で(もう少し具体的に言うと、ある時にこれら2人を含むライヴを見たことがきっかけで)こういう音楽も聴くようになったということで、今回は彼らの共演アルバムの1つを取り上げてみたい。 本盤『ウッド・カッツ(Wood Cuts)』は、2009年の盤で、その前年(2008年)にノルウェーの首都オスロで収められたライヴ音源によるものである。演奏者は上記の二人(つまりはサックス/クラリネットとドラムス/パーカッション)のみ。けれども、2人で演奏しているとは思えないほどの熱気と音の塊が飛んでくる盤である。 上にも述べたように、実際のところ、フリー・ジャズはあまり聴かないし、それをちゃんと語る能力もないとも思う。けれども、ブロッツマンの破天荒な一方で異様なまでのひたむきさ、ニールセン=ラヴの超絶なテクニックには、文字通り“降参”である。 都合6曲が収められているが、聴きどころはと言われると、曲単位ではなく、“メロディを吹いていない箇所”と言えばよいだろうか。もう少し正確に言うと、“いかにもメロディではない演奏をしている箇所”といってもいいだろう。やや突飛かも知れないけれど、半世紀もしくはもう少し前、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンで興奮を感じた演奏に実は似ている部分が結構あるのかもしれないと思ってみたりもする。 ちなみに本盤のジャケットの版画はブロッツマン自身の作とのこと。上記の芸術運動に係る以前は芸術家(アーティスト)としての活動をしていたそうで、現在に至るまで絵画なども続けているという。ブロッツマンは本盤の録音時点で既に60歳代後半(2018年現在は77歳!)ということを考えると、立ち振る舞いは静かながらも演奏に創作活動となると何とも活動的な人である。[収録曲]1. Wood Cuts2. Glasgow Kiss3. Strong and Thin4. Rode Hard and Put Up Wet5. Ye Gods and Little Fishes6. Knucklin[パーソネル、録音]Peter Brötzmann (B-flat cl, bass cl, as, ts)Paal Nilssen-Love (ds, perc)2008年10月19日オスロでの実況録音。 【メール便送料無料】Peter Brotzmann/Paal Nilssen-Love / Woodcuts (輸入盤CD)【K2016/11/11発売】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年06月04日
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J・マクリーンを聴くか、S・クラークを聴くか 名義はジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)、よく言われるのは“ソニー・クラーク(Sonny Clark)のブルーノート復帰作”。それが1961年録音の『ア・フィックル・ソーナンス(A Fickle Sonance)』である。 それぞれの奏者の文脈で整理しておくと、まず、マクリーンについては、60年代の実験的な方向性への幕開け=純ハードバップの最後となる作品という風に評される。確かに、1.「ファイヴ・ウィル・ゲット・ユー・テン」や表題曲の4.「ア・フィックル・ソーナンス」なんかを聴くと、これまでと違う方向性を目指しているようにも見える部分がある。でも、その一方で、3.「サンドゥ」や5.「エニトレナット」(タレンタインのつづりを逆順に書いただけのヘンテコ表題)なんかに典型的なように、従来型のハードバップ然とした演奏も随所に見られる。 一方、ソニー・クラークの方はというと、録音年月日的には本盤が先だけれども、発表順(発売日)としては、翌月に録音された彼名義の『リーピン・アンド・ローピン』が先に出されている。つまりは、商業的には『リーピン~』を復帰作扱いに見せたものの、実際の録音時期としては、本盤の演奏(リズム隊が同じメンツでタレンタインも両方に参加)が先で、同盤の録音への助走にもなっているということになる。ともあれ、ドラッグによる体調の悪さでレコーディングから遠ざかっていたことを考えると、『クール・ストラッティン』の安定感は望めないものの、やっぱり安定しているし、新たな試みもしようという心意気が感じられる。 以上のことを考え合わせると、確かにこの『ア・フィックル・ソーナンス』は、マクリーンの代表的な盤ではないし、ソニー・クラークの側から見ても決して一押し盤というわけではない。その意味では、マニア向けと言われても仕方ない部分があるのかもしれない。けれども、個人的には、妙に安心して聴けてしまう盤でもある。個人的好みで特に推したいのは、1.「ファイヴ・ウィル・ゲット・ユー・テン」と3.「サンドゥ」で、いずれもソニー・クラークのペンによる曲。[収録曲]1. Five Will Get You Ten2. Subdued3. Sundu4. A Fickle Sonance5. Enitnerrut6. Lost[パーソネル、録音]Jackie McLean (as)Tommy Turrentine (tp)Sonny Clark (p)Butch Warren (b)Billy Higgins (ds)1961年10月26日録音。 【メール便送料無料】ジャッキー・マクリーン / ア・フィックル・ソーナンス[CD][初回出荷限定盤(生産限定盤(生産枚数終了,または7月末までの限定出荷商品))] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年05月28日
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超絶技巧トランぺッターによるブラウニー曲集 アルトゥーロ・サンドバル(Arturo Sandoval, サンドヴァル、サンドヴァールとも表記される)は、1949年キューバ出身のトランぺット奏者。生まれは首都ハバナ近郊で、当初はキューバで活動をしていたが、1990年に米国に亡命してマイアミを拠点に活動するようになった。 この人の最大の特徴は(それだけが特徴ではないにせよ)何といってもその技巧にある。特に高音域でのスピードにのって流れるようなプレイは、初めて聴いた者を一瞬で虜にすると言っていいだろう。言葉だけでは説得力に欠けるかもしれないが、グラミーを何回も受賞した経歴が伊達でないことは、その演奏をちょっと聴いてみればすぐにわかるほどのものである。 そんな彼が相応にキャリアも積み重ね、アメリカに拠点を移した少し後、1992年に亡命後の第2作として発表したのが、この『アイ・リメンバー・クリフォード(I Remember Clifford)』だった。“大物”であるブラウニーに関わる楽曲群に挑んだ理由としては、「人としてもアーティストとしても」突出していたと本人が語るクリフォード・ブラウンにチャレンジしてみたくなった、といったところであろうか。 実際に本盤を聴くと、多くのリスナーは2つの点で感動を覚えるのではなかろうか。一つめは、上にも書いた通り、そのテクニックの凄さである。サンドバル自身、「ブラウニーは完璧だった」というものの、同等のレベルで完璧なのである。史上No.1のトランぺッターは、クリフォード・ブラウンか、マイルス・デイヴィスか。はたまたこのサンドバルかと言われたりするのも納得である。 技巧に耳を奪われがちな一方、もう一点の方も聴き逃してはならない。それは“静かな”方の演奏である。特にフリューゲルホルンに持ち替えた時がそうなのだけれど、この柔らかい演奏は聴き逃せないと個人的には強く思う。その他には、時折フレーズがやはりラテン(キューバン)なのだと思わせられる部分があるのも面白い。 全編が聴きどころだとは思うが、あえていくつかの曲名を挙げておきたい。技巧という点では、4.「チェロキー」がなかなか印象的。他方、柔らかさという観点からは、ゴルソン作曲の5.「アイ・リメンバー・クリフォード」やサンドバル自作の11.「アイ・レフト・ディス・スペース・フォー・ユー」がいい。とか何とか言いながら、やっぱり聴きどころを挙げるまでもなく、結局は全編聴くことをお勧めするのだけれど。[収録曲]1. Daahoud2. Joy Spring3. Parisian Thoroughfare4. Cherokee5. I Remember Clifford6. The Blues Walk7. Sandu8. I Get a Kick Out of You9. Jordu10. Caravan11. I Left This Space For You[パーソネル、録音]Arturo Sandoval (tp), Kenny Kirkland (p), Charnett Moffett (b), Kenny Washington (ds), Ernie Watts (ts: 1., 4., 7., 9., 10.), David Sánchez(ts: 3., 6., 8.), Ed Calle (ts: 2.), Félix Gómez (key: 5.), Gary Lindsay (arr: 9.以外), Alberto Naranjo (arr: 9.)1992年リリース(録音年月不明)。↓こちらはベスト盤↓ 【メール便送料無料】Arturo Sandoval / Very Best Of (輸入盤CD) (アルトゥーロ・サンドヴァール)↓こちらが本盤↓ 【中古】アイ・リメンバー・クリフォード / アルトゥーロ・サンドヴァール 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年05月26日
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代表的地味盤の真価 ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の『ソングス・フォー・マイ・ファーザー』と言えばピンとくる人がいても、ほぼ同じ時期に吹き込まれた『シルヴァーズ・セレナーデ(Silver’s Serenade)』は必ずしもそうではないかもしれない。私的にはホレス・シルヴァーは比較的お気に入りのピアノ奏者なのだけれど、この盤はあまり話題に上らないマイナーな地味盤と言ってよいだろう。ちなみに、ジャケットもまた地味で、にやりと笑ったホレス本人の写真が、なんとも控えめなサイズで配されている。 1963年5月の吹込みで、そのおよそ2か月後に吹き込まれた(ただし発売は先となった)『ザ・トーキョー・ブルース』とメンツは似通っている。具体的には、トランペットがブルー・ミッチェル、テナーがジュニア・クック、ベースがジーン・テイラーといったところだ(なお、ドラムスは『トーキョー~』ではジョン・ハリス・Jr.、本作ではロイ・ブルックスと異なる)。 でもって、この“地味さ”はどこに由来するのか。おそらくは楽曲の派手さとか聴き手にとっての覚えやすさ(インパクト)みたいなものがいま一つ目立たない点にあるのだろうと個人的には思っている。落ち着いて聴けば必ずしもそうは言えない部分もあるものの、一聴した印象では淡々とし過ぎているのかもしれない。 ところが、何回か繰り返して聴けば、きっとその印象は多少変ってくるんじゃないかとも思う。ブルー・ミッチェルとジュニア・クックは、おそらくは故意にわかりやすい演奏を意図しており、奇をてらうことはしていないように見える。その結果だと思うのだけれど、全体の演奏のまとまり具合のレベルが高い。 特にお気に入りの演奏を少し上げておきたい。まずは、表題曲の1.「シルヴァーズ・セレナーデ」の妙なまったり感は、繰り返し聴けば聴くほど中毒症を起こす。さらに、ジュニア・クックのソロがなかなかいい。もう一つ挙げておくと、やはりまったり感がどこか漂う4.「ザ・ドラゴン・レディ」は、東洋風と言われたりするが、1.に通ずるものをどこかに感じる。こちらの方はクックのソロも悪くはないのだけれど、シルヴァーのピアノに加え、個人的にはブルー・ミッチェルのさりげない、変に凝らない演奏が案外気に入っている。[収録曲]1. Silver's Serenade2. Let's Get to the Nitty Gritty3. Sweet Sweetie Dee4. The Dragon Lady5. Nineteen Bars[パーソネル、録音]Horace Silver (p), Blue Mitchell (tp), Junior Cook (ts), Gene Taylor (b), Roy Brooks (ds)1963年5月7日(1.と5.)、同8日(2.~4.)録音。 【メール便送料無料】Horace Silver / Silver's Serenade (リマスター盤) (輸入盤CD) (ホレス・シルヴァー) 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、ひとつでも“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2018年05月08日
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美しく抒情性に溢れたトランペットのワン・ホーン名盤 トランペット奏者アート・ファーマー(Art Farmer,1928年生まれ、1999年没)には『モダン・アート』という名盤が存在するが、それだけでは絶対にもったいない。何が何でももう1枚は同等かそれ以上に代表盤扱いされるべきだと思っているものがある。それが、1960年録音の『アート(Art)』という盤である(余談ながら、実物よりもちょっとハンサムめ(!?)に描かれた絵画風ジャケットも初めて手に取った人にもとっつきやすいものとなっている)。 ひとことで言うと“ワン・ホーンのバラード集”ということになるのだろう。メディアム・テンポ中心にバラードを美しく奏でている。けれども、アート・ファーマーのトランペットは単なる甘いバラードを抒情的に演奏しているというだけではない。抒情性は全編を通して失わない。けれども、しばしば流れるように美しく、しかも、矜持を持った“でしゃばらない”演奏が、その個性として挙げられるべきなのかもしれない。ブラウニーのような閃きでもなく、何か革新的なものをめざすでもなく、余分な音を使わずに美しく感情を表現するというこの人のワザは名人のそれと言ってよいだろう。 さて、そのワン・ホーンを支えるのは、トミー・フラナガン(ピアノ)、トミー・ウィリアムス(ベース)、アルバート・ヒース(ドラム)のトリオ。静かで安定した演奏で、ところどころでトミー・フラナガンのピアノが目立つものの、全体としては、淡々と演奏している感じがする。“淡々と”というのは、別に単調だとか退屈だとか言う意味ではなくて、アート・ファーマーのトランペットを生かすために、敢えて選択された雰囲気作りだったのではないかと思う。 どの曲も極上の仕上がりだけれど、聴き手がベストの曲に選びそうなものを何曲かあげておきたい。静寂の中の美といった風情の1.「ソー・ビーツ・マイ・ハート・フォー・ユー」は、個人的には本盤に収録された中で、一、二を争う出来だと思っている。3.「フー・ケアーズ」は、メリハリがありつつも滑らかに流れるトランペットに知らぬうちに耳を奪われていく。7.「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」は、美しい演奏が発揮されたこの盤の中でも“美の極致”と言ってよいと思う。[収録曲]1. So Beats My Heart For You 2. Goodbye, Old Girl 3. Who Cares? 4. Out Of The Past 5. Younger Than Spring 6. The Best Thing For You Is Me 7. I'm A Fool To Want You 8. That Old Devil Moon[パーソネル・録音]Art Farmer (tp)Tommy Flanagan (p)Tommy Williams (b) Albert Heath (ds).1960年9月21・22・23日録音。 ジ・アート・ファーマー・カルテット/ART AND PERCEPTION(CD) 下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、 バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年05月05日
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2人のマエストロによる、半世紀以上前のトロンボーン革命 ジェイ・ジェイ(もしくはJ・J)・ジョンソン(J. J. Johnson)は1924年生まれの米国のジャズ・トロンボーン奏者(2001年没)。カイ・ウインディング(Kai Winding)もほぼ同世代で、1922年にデンマークで生まれ、アメリカへ移住したトロンボーン奏者(1983年没)。これら2人は、本盤だけでなく、その後も多くの録音をこの2人の組み合わせで残していくことになった。本盤の録音は1954年だから、60数年前、もう半世紀を優に超える昔のものということになる。そうした盤のうちでも、名演の一つに数えられるのが、この共演盤『ジェイ・アンド・カイ(Jay & Kai)』である。 トロンボーンは、モダン・ジャズの発展とともに、そうした演奏に向かない楽器と思われた。バルブやキーで操作するのではなく、管の一部をスライドさせるという扱いにくさから、スピード感溢れる演奏や急激な音程変化に対応しにくい楽器だったからである。ところが、“エミネント”(秀でた、抜きんでた)と形容されるジェイ・ジェイの登場によってこの“常識”は覆される。ブルーノートの最初の吹き込み(参考過去記事)の少し後、同じくトロンボーン奏者であるカイ・ウィンディング(上記の“エミネント”に対し、彼は“インクレディブル”と形容される)とともにサヴォイに吹き込んだのが、本盤ということになる。ちなみにこれら2人は、それぞれにビバップの潮流の中で活躍経験があり、またマイルス・デイヴィスの吹き込みにも参加した経験を持っていた(カイとJ・Jは『クールの誕生』に参加し、J・Jは『ウォーキン』の演奏も有名)。 上述のような楽器の“欠点”を補うのは何よりも“技”であった。本盤の2人の演奏は、まさしくそうした“技”を持つ2人の職人芸によって生まれたものだと言える。同楽器の奏者が2人いるからと言って、決して“バトル”といった風情ではない。あくまでコラボレーション、コンビネーションの結果といった演奏内容である。冒頭の1.「バーニーズ・チューン」の軽快な演奏はこのことを代表するものだと言える。もちろん軽快さだけが売りではなく、7.「リフレクションズ」のようにスリリングさが実に印象的な演奏もある。様々に異なるテンポや曲調のものを聴かせられるのがこの2人の組み合わせの魅力でもあると言えるのかもしれない。 さらに面白いと思えるのは、ピアノレスの編成での演奏が含まれている点。2.、3.、4.、9.(1954年8月24日録音)がこれに該当するのだけれど、ジェリー・マリガンのカルテット(参考過去記事)よろしくピアノはなしで、さらにはギターが加わっている。結果的に、J・Jとカイの双頭コンボはピアノ入りを基本としていくけれども、当初はこうした試みもあったということなのだろうか。なお、5.はカイ・ウィンディングは参加しておらず、J・J・ジョンソンの少し古い音源(1947年のもの)。11.と12.はSPとして発売されたものが追加曲として収められたものである。[収録曲]1. Bernie's Tune2. Lament3. Blues for Trombones4. The Major5. Yesterdays6. Co-Op7. Reflections8. Blues in Twos9. What Is This Thing Called Love?10. The Boy Next Door11. I Could Wright a Book12. Carioca[パーソネル・録音]J.J.Johnson (tb: 1-9), Kai Winding (tb: 1-4, 6-12)Leo Parker (bs: 5)Billy Bauer (g: 2, 4)Wally Cirillo (p: 1, 6-8), Hank Jones (p: 5), Lou Stein (p: 10-12), Charles Mingus (b: 1-4, 6-9), Al Lucas (b: 5), Eddie Safranski (b: 10-12)Kenny Clarke (ds: 1-4, 6-9), Shadow Wilson (ds: 5), Tiny Kahn (ds: 10-12)Al Young (bongos, timbales: 10-12)Tommy Talbert (arr: 10-12)1947年12月24日(5)、1952年3月4日(10-12)、1954年8月24日(2-4, 9)、1954年8月26日(1, 6-8)。 【メール便送料無料】J.J.ジョンソン&カイ・ウインディング / ジェイ・アンド・カイ[CD][初回出荷限定盤] ブログランキングに参加しています。応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年04月05日
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流暢に流れるサックスを堪能 “スコット・フィッツジェラルドこそが小説(the Novel)であり、スタン・ゲッツこそがジャズ(the Jazz)であった”とは、村上春樹の言である。英語で定冠詞のtheをつけるわけだから、ニュアンス的には“これぞ小説、これぞジャズ”といった感じだろうか。さて、そんなわけで、今回はスタン・ゲッツの神髄とはどこにあるのだろうかを考えるための1枚(と筆者が思う盤)を取り上げてみたい。 少々突き詰めてスタン・ゲッツの本質を考えてみるならば、“クール”という語で簡単に済ましてしまうのではどうも不十分なように感じる。ボサ・ノヴァのブーム(参考過去記事)とかにも変に振り回されないようにする方がいいかもしれないと思ったりする。そんなわけで、今回取り上げてみたいのは、時代をさかのぼった1956年録音の作品『ザ・スティーマー(The Steamer)』である。 本盤は、彼の愛称であった“蒸気機関(スティーマー)”を表題としている。1940年代から演奏活動に従事し、1950年頃からはリーダーとして活躍する中、彼は“クール・ジャズ”を代表するテナー奏者となる。そこでの“クール”というのは、“ジャズ=黒人が演る音楽”という図式を崩したものとしてはともかく、“黒人じゃない=熱くない”ということにはならないことを証明していたように思う。実際、本盤のゲッツの演奏は、明らかに“クールな顔をした熱さ”を持っていると形容するに相応しい。滑らかでありながらも、タイトルに違わずスティーム(蒸気)でポンポンと楽器から音が押し出されてくるようなのが、何より印象に残るのである。 おすすめの演奏として、個人的な好みでいくつか挙げておきたい。1.「ブルーズ・フォー・メリー・ジェーン」は、わずかに陰を湛えつつも、この滑らかさがよい。けれども、本盤の本領は、同じく滑らかでありながら、スタン・ゲッツがより饒舌に一音一音を投げかけてくる部分にあるという気がする。この観点からのベスト曲は、2.「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」と6.「ハウ・アバウト・ユー」ではないだろうか。ちなみに、リロイ・ビネガーのベースとスタン・レヴィ―(リーヴィー)のドラムは安定感抜群で、ルー・レヴィのピアノはなかなか日本人受けしそうな間合いのピアノ演奏(例えば1.のピアノ・ソロなんかはその典型のように思える)を随所で見せてくれる。[収録曲]1. Blues For Mary Jane2. There Will Never Be Another You3. You're Blase4. Too Close For Comfort5. Like Someone In Love6. How About You?[パーソネル、録音]Stan Getz (ts)Lou Levy (p)LeRoy Vinnegar (b)Stan Levey (ds)1956年11月24日録音。 下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓ ザ・スティーマー [ スタン・ゲッツ・カルテット ]
2018年03月22日
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インペリアル第1弾 ソニー・クリス(Sonny Criss)は、テネシー生まれだが、ロサンゼルスを拠点に活躍したアルト・サックス奏者。パーカー・スタイルと言われるが、その独特のサックスの音色が特徴である。少々わかりやすく言うならば、良くも悪くもべったりしていて、さらには独特の泣きが入る彼のサックスで、筆者は特に気に入っている。 さて、彼がリーダーとして作品を録音し始めたのは1956年のことだった。インペリアル・レコードと契約し、ロスで吹込みを行なった。こうして最初に制作されたのが、この『ジャズU.S.A.(Jazz-U.S.A.)』という盤である。 収録された演奏のうち、特に聴き逃せないと思う曲をいくつか挙げておきたい。1.「柳よ泣いておくれ」と2.「ディーズ・フーリッシュ・シングス」は、のっけからソニー・クリス節が全開である。正直言って、人によって好みはあるだろうけれど、このわざとらしいとすら言われかねないベタな感じが個人的には中毒症を引き起こし病みつきにさせる原因だと思っている。他方、4.「サンデイ」に代表されるあっけらかんとした爽快なアルトもまた、彼の魅力である。それから、10.「クリス・クロス」は、この曲自体が筆者のお気に入りで、緊張感ある展開がいい。 この後、本盤を含めていわゆる“インペリアル三部作”と呼ばれる残り2枚の盤が出揃うことになる。その1枚は本ブログではずっと前に取り上げた『ゴー・マン』。そして、もう1枚は『プレイズ・コール・ポーター』である。後者の方も機会を見て取り上げることにしたいと思っている。[収録曲]1. Willow Weep For Me2. These Foolish Things3. Blue Friday4. Sunday5. More Than You Know6. Easy Living7. Alabamy Bound8. Something's Gotta Give9. West Coast Blues10. Criss-Cross11. Ham's Blues12. Sweet Georgia Brown[パーソネル・録音]Sonny Criss (as), Kenny Drew (p), Barney Kessel (g), Bill Woodson (b), Chuck Thompson (ds)1956年1月26日、2月24日、3月23日録音。【中古】 Sonny Criss ソニークリス / Go Man! 【CD】 【中古】 ゴー・マン! /ソニー・クリス,ソニー・クラーク,リロイ・ヴィネガー,ローレンス・マラブル 【中古】afb 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2018年03月20日
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70年代初頭、スリー・サウンズのピアニストによる過去・現在・未来(後編) (前編からの続き) ザ・スリー・サウンズで一世を風靡したピアノ奏者ジーン・ハリス(Gene Harris)の1973年の録音盤『イエスタデイ・トゥデイ&トゥモロー』は、前述のように、2枚組の作品だが、CDでは『Vol.1』と『Vol.2』の2枚に分けてリイシューされている。 さて、2枚目の内容を見ていくことにするが、こちらの方は“現在(今日)から未来(明日)”がテーマとなっている。1.「ハウ・インセンシティヴ」はのっけからスペイシーでフリーな即興演奏で聴き手は何事かと思うかもしれない。こういうジーン・ハリスのイメージにはそぐわない部分は意図的に“未来”志向が出ていると言えるが、16分を超える長尺のこの演奏を聴き続けると、ピアノ演奏自体は案外彼らしい演奏が繰り広げられ、温かな音色が存分に活かされている。 その後に続く2.「ジュディ・ジュディ・ジュディ」、3.「アフター・アワーズ」、4.「ソーイン・ウッド」、5.「リル・ダーリン」、そしてラストの6.「モンクス・チューン」(うち2.と4.はジーン・ハリス自身の曲、かつ5.はスリー・サウンズで取り上げたナンバーの再演)へと至る流れを一聴すると、今度は“過去”へ戻っていくのかと感じる人もいるかもしれない。けれども、細部に耳を傾ければ、スタンダードな演奏で終わろうとしない部分が気になり始める。何よりも4.の演奏は、プログレッシヴさとスタンダードな演奏が意図的に組み合わされた印象がする。さらに、6.はファンキーなベースに、ピアノ演奏もエキサイティングな雰囲気を醸し出す。 結局のところ、“未来”という要素にはベースのジョン・ハットンがかなり大きな役割を果たしているように思える。1970年代のジーン・ハリスはあまり評価されないようだけれど、これはこれで、前半(1枚目)だけでも楽しめるし、前半と後半を通して2枚組分でも楽しめるという、面白い作品になっていると思う。[収録曲](1枚目=Vol.1)1. On Green Dolphin Street2. Hymn to Freedom3. Trieste4. Love for Sale5. Something(2枚目=Vol.2)1. How Insensitive2. Judy, Judy, Judy3. After Hours4. Sawin' Wood5. Lil' Darling6. Monk's Tune[パーソネル、録音]Gene Harris (p, arr), John Hatton (b, elb), Carl Burnett (ds, per)1973年6月14~15日録音。 CD/ジーン・ハリス/イエスタデイ・トゥデイ&トゥモローVol.2 (期間限定盤)/TOCJ-50570 CD/ジーン・ハリス/イエスタデイ・トゥデイ&トゥモローVol.1 (期間限定盤)/TOCJ-50569下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年03月17日
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70年代初頭、スリー・サウンズのピアニストによる過去・現在・未来(前編) ジーン・ハリス(Gene Harris)は、1933年ミシガン州出身のジャズ・ピアニストで、2000年に66歳で没している。1950年代後半、ザ・スリー・サウンズというピアノトリオを結成し、人気を博した。スリー・サウンズとしての活動期間は長く、様々な奏者との共演も吹き込んでいるが、代表的な作品は1959~60年前後に特に集中している。 本盤『イエスタデイ・トゥデイ&トゥモロー(Yesterday, Today & Tomorrow)』はだいぶ後の1973年に吹き込まれたもの。ブルーノートへの吹込みだが、かつてのブルーノートではなく、アルフレッド・ライオンが引退し、フランシス・ウルフも死去後のリバティ傘下(さらにリバティはUAに吸収された)でのブルーノート(それゆえBNLAと呼ばれる)の作品である。現行CDではVol.1とVol.2として分売されているものの、本来はLP2枚組として発表されたものだった。ジャケット写真は10歳前後の子供の写真(Vol.2として分割された方では20歳ぐらいの若い兵士の写真)で、いずれも本人の若い頃ということなのだろうか。 作品の表題は“昨日、今日、明日”という意味になっているが、これは2枚組の内容そのままがこのコンセプトに沿ったものである。まず、1枚目は“過去(昨日)から現在(今日)”に該当すると言えそうである。1.「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」は、スリー・サウンズの有名盤『ムーズ』にも収められていたナンバーの再演。個人的にはこの曲がお気に入りなので、どんな解釈もたいてい気に入ってしまうのだけれど、この演奏と2.「自由への讃歌(ヒム・トゥ・フリーダム)」は、比較的スタンダードに演奏され、ジーン・ハリスにとっての“過去”を想起させるものである。 少し雰囲気が変わってくるのは、カルロス・ジョビンの曲の3.「トリステ」辺りではないかと思う。特に、4.「ラヴ・フォー・セール」は上記1.と同じく過去にも演奏した曲の再演だが、少々やり過ぎな感じもするジョン・ハットンのベースも含め、“現在”を意識したものになっている。さらに、5.「サムシング」は、言うまでもなくビートルズの1969年のヒット曲で、こうしたモチーフも録音当時の“今”を感じさせる選曲と言えるような気がする。 長くなってしまいそうなので、2枚目については次回更新の後編で続きを書くことにしたい(曲目等のデータも次回更新します)。 CD/ジーン・ハリス/イエスタデイ・トゥデイ&トゥモローVol.1 (期間限定盤) CD/ジーン・ハリス/イエスタデイ・トゥデイ&トゥモローVol.2 (期間限定盤) 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年03月16日
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偉大なる“指揮者”のラスト作 オリヴァー・ネルソン(Oliver Nelson)は、1932年にミズーリ州で生まれ、1975年に心臓発作で43歳の若さで亡くなっている。サックスやクラリネットを演奏したが、何よりも作編曲家としての才能を生かして活躍した。結果的に、上述の死によって最終作となってしまったのが、本盤『ストールン・モーメンツ(Stolen Moments)』である。 彼がリーダーとして吹き込みを始めたのは1959年のことだったが、1950年代のその経歴は興味深い。1952年に兵役で海兵隊に入り、日本や朝鮮で演奏したというから、ちょうど日本は戦後復興、朝鮮半島では朝鮮戦争の時期に来て、軍の音楽隊にいたということになる。日本で東京フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴く機会があり(本人曰く、故郷のセント・ルイスでは黒人がこうしたコンサートに行くことはできなかったので、これが初めてだった)、作曲家になろうと目覚めたという。帰国後は大学・大学院で音楽理論を学び、その後に一連のレコーディングが始まったというわけだ。 最後の吹込みとなった本盤『ストールン・モーメンツ(Stolen Moments)』も、自らのアルト・サックスの演奏に加え、アレンジャーもしくは全体の“指揮者”としての才能が余すところなく披露されている。ジェローム・リチャードソン(ソプラノ・サックスほか)やシェリー・マン(ドラム)を含む9人編成での演奏で、管楽器のアンサンブルを巧みにまとめていて、さながらオーケストラを率いているかのような迫力すら感じさせる。 注目の演奏としては、代表曲として名があげられることも多い1.「ストールン・モーメンツ」が冒頭に収められている。この演奏は『ブルースの真実(Blues And The Abstract Truth)』で披露されたものの再演だけれども、本盤の演奏ではテンポがやや軽快になり、音の面ではオーケストレーション的な比重を高めた演奏になっている。これ以外で個人的に注目したいのは、2.「セント・トーマス」と7.「ストレート・ノー・チェイサー」。前者はソニー・ロリンズ(参考過去記事)、後者はセロニアス・モンクの有名なナンバー。7.の方はモンク自身の盤でもアレンジの経験(過去記事)があるが、本盤ではさらに高速でかつあっという間(収録時間はたった39秒!)に終わるという、なかなか面白い収められ方をしている。[収録曲]1. Stolen Moments2. St. Thomas3. Three Seconds4. Mission Accomplished5. Midnight Blue6. Yearnin'7. Straight, No Chaser[パーソネル、録音]Oliver Nelson (as, arr, conductor)Bobby Bryant (tp, flh)Jerome Richardson (ss, piccolo, fl)Bobby Bryant Jr., Buddy Collette (ts, fl)Jack Nimitz (bs)Mike Wofford (elp, p)Chuck Domanico (elb)Shelly Manne (ds)1975年3月6日録音。 CD/ストールン・モーメンツ (完全生産限定盤)/オリヴァー・ネルソン/UCCJ-9144 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年03月09日
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1作目を聴くか、本盤を聴くか ザ・ポール・ウィナーズ(The Poll Winners)というのは、人気投票1位獲得者のことで、当時、人気を集めていた3名の奏者を集めて1957年に吹き込みが行われた。その成果が、『ザ・ポール・ウィナーズ』だったわけだけれど、その3人とは、ギターのバーニー・ケッセル(Barney Kessel)、ドラムのシェリー・マン(Shelly Manne)、ベースのレイ・ブラウン(Ray Brown)という面々だった。 案の定とでも言えばよいのだろうか、この企画は大成功に終わった。そうなると、商売としては、“2匹目のドジョウ”である(実際には、2匹目で終わることなく、4枚のアルバム+後年に再会盤と合わせて5枚が録音された)。翌年に2作目が録音されることとなったが、それが本盤『ザ・ポール・ウィナーズ・ライド・アゲイン(The Poll Winners Ride Again!)』であった。 でもって、普通は“2匹目のドジョウ”は当たらないものなのだけれど、本盤は1枚目と比肩する好盤に仕上がった。実際、ポール・ウィナーズを聴いたことがないという人にどの盤を勧めるかと尋ねられたとすれば、正直、1枚目かこの2枚目かで迷ってしまう。1枚目の「ジョードゥ」も、「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」も(ついでに「ナガサキ」も)、捨てがたいのだけれど、本作も劣らぬ秀逸な演奏が繰り広げられている。 いちばんの注目曲としては、2.「ボラーレ」が挙げられる。後に(1989年)、ジプシー・キングスが取り上げたことで知っているという人も多いかもしれないこの曲は、1958年に発表されたイタリア人アーティスト(ドメニコ・モドゥーニョ)によるナンバーで、当時としては意外性のある選曲だったと言えるだろうか。あと、この面々が素晴らしいと改めて感嘆してしまうのは、様々な曲を取り上げながら、心地よく引き込まれる彼ら独自の演奏の世界へ聴き手を引き込んでしまうところだ。ジャズ・スタンダードとなったミュージカル曲の4.「飾りのついた四輪馬車」、レイ・ブラウン作のブルースの5.「カスタード・パフ」、マット・デニス作のバラード曲の8.「エンジェル・アイズ」なんかの演奏からはそのことが存分に感じられる。 時にポール・ウィナーズの演奏は、バーニー・ケッセルが主役のように扱われたり評されたりするけれども、やはり、レイ・ブラウンのベースの牽引力と、シェリー・マンの繊細なドラムのプレイで色づけられていると思う。そして、もちろん、この3人の演奏は単に技術的に高度だとか、単に聴きやすいというのではなくて、聴けば聴くほど、予定調和には終わらない緊張感の上に繰り広げられているプレイだというのは、前作と同様であると思う。上に書いたように、1作目と2作目とどちらも甲乙つけがたい。“両方とも聴く”というのがひとまずの結論ということになるだろうか。[収録曲]1. Be Deedle Dee Do2. Volare (Nel Blu, Dipinto di Blu)3. Spring Is Here4. The Surrey with the Fringe on Top5. Custard Puff6. When the Red, Red Robin (Comes Bob, Bob, Bobbin' Along)7. Foreign Intrigue8. Angel Eyes9. The Merry-Go-Round Broke Down[パーソネル・録音]Barney Kessel (g), Ray Brown (b), Shelly Manne (ds)1958年8月19・21日録音。 【メール便送料無料】BARNEY KESSEL/SHELLY MANNE/RAY BROWN / POLL WINNERS RIDE AGAIN (輸入盤CD)(バーニー・ケッセル) ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年03月06日
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アルト4人のプレスティッジ企画盤 プレスティッジの企画でアルト奏者を4人集めての競演盤として吹き込まれたのが、この『フォー・アルトス(Four Altos)』という盤である。集った4人のアルト・サックス奏者とは、フィル・ウッズ(Phil Woods)、ジーン・クイル(Gene Quill)、サヒブ・シハブ(Sahib Shihab)、ハル・ステイン(Hal Stein)という面々である。当時の彼らはいちばん若いウッズが25歳、最年長のシハブは31歳という年齢であった。リズム隊には、プレスティッジのハウスピアニストだったマル・ウォルドロン、チャーリー・パーカーのもとでも演奏したベーシストのトミー・ポッター、そして当時まだ19歳だったルイス・ヘイズがドラムを担当した。 サックス4人だからといって激しいバトルなのかというと決してそうではない。どの曲もアンサンブルあり、その後にソロありで入れ代わり立ち代わり演奏するのだけれど、4人はある種、正統派の、チャーリー・パーカー(愛称はバード)の切り開いた、スウィング感いっぱいの流れるような演奏を披露している。そんなわけで、聴いていてもどれがだれだかわからないほど、4人のスタイルが似ている。このことは、本盤のジャケットにも表現されている。一見すると、横に複数の線が走っているだけのように見えるが、これらは電線で、いちばん上の電線には4羽の鳥がいる。つまりは“今まさに飛び立たんとする4羽のバード(鳥)”というのが本盤のテーマというわけである。 そのようなわけで、激しいバトルやスタイルの違いを期待してはいけない。全体の、4人もいるにもかかわらず調和しているこの感覚が演奏の要となっている。その中でも特に注目曲を挙げるとすれば、ウォルドロンのペンによる1.「ペダル・アイズ」と6.「スタッガーズ」。前者はゆったりとした感じ、後者は少々スピード感のある感じで上述の特徴がよく出ているように思う。 この録音の後、フィル・ウッズが4人の中では出世頭となったと言っていいだろう(個人的にはジーン・クイルも好きだけれど)。サヒブ・シハブとジーン・クイルは1980年代末に、ハル・スタインは2008年に、そしてフィル・ウッズは2015年にそれぞれ鬼籍に入った。今となっては、いずれも亡き奏者たちの若き日の1ページとなってしまったわけだけれど、ジャズ演奏の楽しさを伝える好盤に変わりはないと思う。[収録曲]1. Pedal Eyes2. Kokochee3. No More Nights4. Kinda Kanonic5. Don't Blame Me6. Staggers[パーソネル、録音]Phil Woods, Gene Quill, Sahib Shihab, Hal Stein (as)Mal Waldron (p)Tommy Potter (b)Louis Hayes (ds)1957年2月9日録音。 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年03月03日
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リーダーに関わらずローランド・カークが注目されてしまう盤 ロイ・ヘインズ(Roy Haynes)率いるカルテットの名義ながらも、ローランド・カーク(Roland Kirk)ばかりについつい注目が集まってしまう(無論、そっちを目当てに聴くというのも一つだとは思うのだけれど)…。そんな盤が1962年吹き込みの『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン(Out of the Afternoon)』である。メンバーは、リーダーのロイ・ヘインズとそのローランド・カークに加えて、トミー・フラナガン(ピアノ)、ヘンリー・グライムス(ベース)のカルテットの演奏である。 ご多分に漏れず、ここでもローランド・カークのことから書き始めるが、この人は1935年生まれで盲目のミュージシャンで、1977年に亡くなっている。サックスやトランペットのほかフルートやオーボエ、マンツェロ(マンゼロ)やストリッチなど様々な楽器を扱い(しかも複数を同時に吹くという離れ業をやってのける)、ジャズの枠にとどまらない黒人音楽に根ざした演奏をする人物だった。本盤での彼の演奏は、わかりやすさと複雑さの同居という特徴がある。1回聴いたら忘れなさそうなシンプルかつ親しみやすそうなフレーズに、抽象的な演奏(さらには複数楽器を使いこなす器用さ)が加わり、しかもその演奏を楽しんでそうな姿が目に浮かぶ。 上に書いたとおり、本盤のリーダーはロイ・ヘインズである。そのようなわけで、ローランド・カークだけ聴いて過ごすわけにはいかない。ヘインズは、1925年生まれ(御年92歳!)のドラマーで、リーダー作がそれなりにあるにしてはあまり取り上げられない。その意味ではもっと評価されていいと思ったりもする。実際、本盤をドラム中心に聴いてみると、立体的なドラミングに耳を奪われる(そもそもこの盤に限ったことではなく、それがロイ・ヘインズの特徴ということなのだけれど)。それでもって、いま述べたような“立体性”という観点から聴くと、ドラミングだけでなく、実はこの作品の演奏全体が“立体的”に仕上がっているように思う。つまりは、注目を集めやすいローランド・カークの演奏も実際のところはその“立体性”を構成している一部でもあるということだ。そう考えると、やはりロイ・ヘインズのリーダー作ということが明瞭に出ている気がする。 そんなことを考えながら聴くとすれば、必ずしもローランド・カークの見せ場が大きな比重を占めるわけではないかもしれないが3.「ラウル」なんかが興味深い。同じように“立体性”の中で、トミー・フラナガンが機能している点(例えば4.「スナップ・クラックル」の冒頭のピアノ)に注目するのもいいかもしれない。ついでながら、5.「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」におけるローランド・カークの哀愁あるフレーズは個人的にお気に入りだったりする。[収録曲]1. Moon Ray2. Fly Me to the Moon3. Raoul4. Snap Crackle5. If I Should Lose You6. Long Wharf7. Some Other Spring[パーソネル、録音]Roy Haynes (ds)Roland Kirk (ts, manzello, strich, nose-fl)Tommy Flanagan (p)Henry Grimes (b)1962年5月16日、5月23日録音。 アウト・オブ・ジ・アフタヌーン/ロイ・ヘインズ[SHM-CD]【返品種別A】 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2018年03月01日
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ブルース・シンガーと王道ジャズ・テナーの邂逅 ジミー・ウィザースプーン(Jimmy Witherspoon, 1920~97年)は、アーカンソー出身のブルース・シンガー。アップテンポのいわゆるジャンプ・ブルースを得意とし、「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」のヒットでも知られる。他方、共演者のベン・ウェブスター(Ben Webster, 1909~73年)は“3大テナー”の一人に数えられる、ジャズ・サックスの王道を行く巨人である。この2人が1962年に共演して吹き込まれたのが、本盤『ルーツ(Roots)』ということになる。 1959年にモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルで共演して以来、クラブなどで2人はしばしば共演していたという。力強いウィザースプーンのヴォーカルと暖かみのあるベン・ウェブスターのテナーというのは確かに絶妙な組み合わせだと思う。とはいえ、ジャズの中での通常の歌もの(ありがちなジャズ・ヴォーカル盤)とは一線を画している。 “ルーツ”という表題は、もちろんブルースを指しているわけだけれど、ジャズ化したブルースと本来のブルースには一定の隔たりがある。本盤が面白いのは、その狭間を埋めるような作品になっているからだと思う。ヴォーカルを中心に耳を傾けるとなるほど本来のブルースの延長線上にある音楽との印象を受ける。その一方で、サックスを中心に楽器演奏の側はしばしばジャズの聴き手に受け入れられやすい雰囲気に仕上がっている。つまるところ、本盤は“ジャズ・ヴォーカル盤”ではなく、ジャズ演奏を含んだ“ブルース盤”と言っていいのかもしれない。全編にわたって弛みがなく、わざわざ聴きどころを絞る必要もないとは思うが、ウィザースプーンのヴォーカルが特に気に入っているのは、2.「アイム・ゴナ・ムーヴ・トゥ・ジ・アウトスカーツ・オブ・タウン」や5.「コンフェッシン・ザ・ブルース」、ウェブスターのサックスが特に好みなのは、9.「チェリー・レッド」や12.「プリーズ、ミスター・ウェブスター」といったところ。[収録曲]1. I'd Rather Drink Muddy Water 2. I'm Gonna Move To The Outskirts Of Town 3. Key To The Highway 4. Did You Ever 5. Confessin' The Blues 6. Nobody Knows You When You're Down And Out 7. Your Red Wagon 8. Rain Is Such A Lonesome Sound 9. Cherry Red 10. It's A Low Down Dirty Shame 11. Just A Dream 12. Please, Mr. Webster[パーソネル・録音]Jimmy Witherspoon (v)Gerald Wilson (tp)Ben Webster (ts)Ernie Freeman (p)Herman Mitchell (g)Ralph Hamilton (b)Jim Miller (ds)1962年5月23日録音。 ジミー・ウィザースプーン/ルーツ+ジミー・ウィザースプーン +3(CD) 【メール便送料無料】JIMMY WITHERSPOON / ROOTS (輸入盤CD)(ジミー・ウィザースプーン) 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年02月16日
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デスモンドとマリガン(その2) ポール・デスモンド(Paul Desmond)とジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)の『ブルース・イン・タイム』は1957年の吹込みだったが、そのアイデア自体は1954年には生まれていたという。そしてその1957年の録音からおよそ5年後に、二人の共演が再び実現した。その結果がこの『デスモンド・ミーツ・マリガン(Two of a Mind)』という盤である。 先の盤と同様にピアノレスでの演奏であるが、前回との違いは、それぞれの自作曲よりもスタンダードが優先されていて(本来収録の6曲のうち、デスモンドとマリガンそれぞれの曲は、3.と4.のみ)、聴きやすさ、とっつきやすさという点では、本盤の方が上だと言える点だろう。また、演奏面についても、聴き手を楽しませようという意図が前作よりも強いように思う。マリガンのアレンジというのもあるのだろうけれど、安心して聴ける理由としては、5年の歳月を経ての再会というせいか、二人の演奏にいっそう余裕が感じられる。ユニゾンもハーモニーも、他の絡み方の部分も、いっそう息が合っているように思われる。 聴きどころと言えそうなのは、1.「君はわがすべて(オール・ザ・シングズ・ユー・アー)」、表題曲でデスモンド作の3.「トゥー・オブ・ア・マインド」、そして、6.「アウト・オブ・ノーホエア」。ちなみに、この盤は、現行CDでの追加曲も興味深い。本編の別テイクがいくつか入っているほか、7.「イージー・リヴィング」が入っているのが有難いし、何よりジム・ホールが参加した表題未定曲(10.,11.)が興味深い。 以上、2回にわたってジェリー・マリガンとポール・デスモンドの共演盤を見たけれど、特に後者についてはデイヴ・ブルーベックと組んでいる印象が一般に強いかもしれない。けれども、マリガンとのこれらのコラボレーションを聴くと、特にデスモンドについては、そのイメージが変わるに違いない。蛇足ながら、そんな観点からも推奨盤と言えそうな気がする。[収録曲]1. All the Things You Are2. Stardust3. Two of a Mind4. Blight of the Fumble Bee5. The Way You Look Tonight6. Out of Nowhere~以下、CD追加曲~7. Easy Living8. All the Things You Are [alternate take]9. The Way You Look Tonight [alternate take]10. Untitled Blues Waltz 111. Untitled Blues Waltz 2[パーソネル、録音]Paul Desmond (as) Gerry Mulligan (bs)Jim Hall (g, 10., 11.) John Beal (b, 4., 5., 7., 10., 11.)Joe Benjamin (b, 3., 6., 9.)Wendell Marshall (b., 1, 2, 8)Connie Kay (ds, 1., 2., 4., 5., 8.)Mel Lewis (ds, 3., 6., 9.)Ed Shaughnessy (ds, 10., 11.)1962年6月8日(10., 11.)、6月26日(4., 5., 7.)、7月3日(1., 2., 8.)、8月13日(3., 6., 9.)録音。 CD/ポール・デスモンド/デズモンド・ミーツ・マリガン +5 (解説付) (期間生産限定スペシャルプライス盤) 【輸入盤】Two Of A Mind [ Paul Desmond / Gerry Mulligan ] 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年01月22日
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デスモンドとマリガン(その1) ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)と言えば、『ジェリー・マリガン・カルテット』、すなわち西海岸(ウエスト・コースト)ジャズを代表するピアノレス・カルテット盤を思い浮かべるという人も多いかもしれない。同盤はチェット・ベイカー(トランペット)と組んだものだったが、その5年ほど後に吹き込まれたアルト奏者とのピアノレス・カルテット盤が、この『ブルース・イン・タイム(Blues in Time)』(元々の表題は『ジェリー・マリガン-ポール・デスモンド・カルテット(Gerry Mulligan-Paul Desmond Quartet)』)である。 アルト・サックスのポール・デスモンド(Paul Desmond)は、デイヴ・ブルーベックとの演奏、とりわけ「テイク・ファイヴ」を思い起こす人も多いだろう。けれども、本盤では上述の通り、ピアノ抜きのカルテット編成の中で演奏していて、柔らかさが実に心地よい仕上がりになっている。 その心地よい柔らかさの理由は何なのか。デスモンドのアルトの優しい音(時にのってくるものの、全体的に甲高く吹くという風ではなく、抒情性があるアルトは彼の身上である)に、マリガンのバリトン・サックスが組み合わされていることは、もちろんその理由なのだろう。けれども、実際に聴いていて、それだけではないように思う。 上記に加えて、両者の組み合わされ方にその妙があるのだろうと思う。アレンジャーとしてのマリガンの才能が活かされているというのと、後は両者の音が重なり合う部分、特にアルトが前面に出てバリトンが背後から聞こえてくる部分に注目すると、ピアノレスだけあってピアノの代わりにバリトンが後ろで支える役割を巧妙に果たしているのがわかる。元々、ピアノレスは得意だとはいえ、マリガンの巧さが光るデスモンドとの共演だとも言えるだろう。 ちなみに、個人的に特に好みの曲は、デスモンド作の表題曲1.「ブルース・イン・タイム」、スタンダード曲の2.「ボディ・アンド・ソウル」。さらには、そもそも贔屓のマリガン曲である4.「ライン・フォー・ライオンズ」、デスモンドのペンによる5.「ウィンターソング」あたりが挙げられる。[収録曲]1. Blues in Time2. Body and Soul3. Stand Still4. Line for Lyons5. Wintersong6. Battle Hymn of the Republican7. Fall Out[パーソネル、録音]Paul Desmond (as)Gerry Mulligan (bs)Joe Benjamin (b)Dave Bailey (ds)1957年8月2日・27日録音。 [枚数限定][限定盤]ブルース・イン・タイム/ジェリー・マリガン[SHM-CD]【返品種別A】 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2018年01月20日
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新年始動のジャズ・ナンバー(後編) 新年スタートのジャズ曲選の第2弾です。今回は、まずはジャック・ウィルソンのリーダー作『イースタリー・ウィンズ』所収のナンバーです。同盤はトランペットがリー・モーガン、サックスがジャッキー・マクリーンで、録音時期は少々遅いのですが、私的お気に入り盤の一つです。その冒頭のテンポ良い「ドー・イット」というナンバーをどうぞ。 続いては、お気に入りの名盤『スティット、パウエル&JJ』からの有名なナンバーです。表題の通り、ソニー・スティット(本盤ではテナー・サックス)、バド・パウエル(ピアノ)、J・J・ジョンソン(トロンボーン)が参加した盤ですが、実際には、スティットを中心にアルバム前半がパウエルとの共演、後半がジョンソンとの共演で、今回の曲は前半に該当(ジョンソンは参加していない)します。好調のパウエルのプレイに注目してどうぞ。 さらにもう1曲は、一気に新しい時代のもので、1990年代のミシェル・カミーロ(ミッシェル・カミロ)の演奏です。これまた気が引き締まる緊張感に満ちたピアノ演奏だと思います。『ランデヴー』というお気に入り盤に収録の「フロム・ウィズイン」というナンバーです。 あらためまして今年も本ブログをよろしくお願いします。[収録アルバム]Jack Wilson / Easterly Winds(1967年録音)Sonny Stitt / Sonny Stitt, Bud Powell and J.J.Johnson(1949~50年録音)Michel Camilo / Rendezvous(1993年リリース) スティット、パウエル&J.J.+3/ソニー・スティット[SHM-CD]【返品種別A】 【輸入盤】Rendezvous [ Michel Camilo ] 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年01月03日
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新年始動のジャズ・ナンバー(前編) 新しい年(2018年)を迎え、新年の始動に相応しい、元気をくれたり、気が引き締められたりしそうなナンバーをいくつか取り上げたいと思います。2回に分けての更新予定ですが、よろしくお付き合いください。 まずは、アート・ファーマーがジジ・グライスと組んだ『ホエン・ファーマー・メット・グライス』に収録の「ブルー・ライツ(Blue Lights)」です。 続いては、クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットによる「ダフード(Daahoud)」です。偶然にも上の曲と同じ頃の録音です。個人的な思い入れと言われればそれまでなのかもしれませんが、このブラウニーの演奏を聴くととにかく気が引き締まる感じがします。 さらにもう一つ。ロニー・ロスとアラン・ガンリーのコンボによる演奏で、「ザ・リアル・ファンキー・ブルース」です。破天荒や予想外の展開とは逆にありそうなのでジャズらしくないという声も聞こえてくるかもしれません。でも、この丁寧さは、じっと注目して聴くと、個人的にはついつい引き寄せられてしまうような感覚を抱いています。 次回、後編に続きます。[収録アルバム]Art Farmer / When Farmer Met Gryce(1954~55年録音)Clifford Brown-Max Roach Quintet / Clifford Brown and Max Roach(1954~55年録音)Ronnie Ross and Alan Ganley / The Jazz Makers(1959年録音) ホエン・ファーマー・メット・グライス/アート・ファーマー[SHM-CD]【返品種別A】 JAZZ BEST COLLECTION 1000::ジャズ・メイカーズ [ ロニー・ロス&アラン・ガンリー ] クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ+2/クリフォード・ブラウン[SHM-CD]【返品種別A】 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2018年01月02日
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伝説のフォーク/ブルース・ミュージシャンを取り上げた異色作 クリフォード・ジョーダン(Clifford Jordan)は1931年シカゴ生まれのサックス奏者。そんな彼がフォークおよびブルースのミュージシャン、レッドベリー(Leadbelly, レッド・ベリーと二語で表記されることもある)に関わる楽曲を取り上げたのが、『ジーズ・アー・マイ・ルーツ(These Are My Roots: Clifford Jordan Plays Leadbelly )』という盤である。 収録曲のほとんどはレッドベリーが取り上げていたトラディショナル曲である。その一方、5.「ハイエスト・マウンテン」はジョーダンの自作曲の初演、6.「グッドナイト・アイリーン」はハディ・レッドベター(Huddie Ledbetter)のクレジットがあるが、これはレッドベリーの本名である。ヴォーカルの入った曲も含まれていて、3.「テイク・ディス・ハマー」と8.「ブラック・ガール」は女性ヴォーカル(サンドラ・ダグラス)がフィーチャーされている。 少々話が飛躍するが、“ジャズで聴く〇〇”などというのは何かと怪しいモノが多い。早い話、ジャズとして聴く必要がなさそうなもので溢れている。その一方で、本盤のように“ジャズ・ミュージシャンが演る〇〇”は、時に期待が外れるようなこともあるけれど、本盤のような“大当たり”もある。“これぞ我がルーツ”というアルバム表題が示すように、自身のジャズの血や肉になっている要素を改めて自分のものとして提示する。これをやるのは勇気がいる。そしてうまくいくかどうか(聴き手に受け入れられるかどうか)不安になりそうなものである。筆者としては、大成功したと思う。気に入っている演奏を挙げると、1.「ディックス・ホラー」、4.「ブラック・ベティ」、上述の自作曲5.「ハイエスト・マウンテン」、6.「グッドナイト・アイリーン」、7.「グレイ・グース」、9.「ジョリー・オー・ザ・ランサム」といったところ。 なお、ジョーダンは1993年に61歳で亡くなった。レッドベリーの生年は諸説あるけれど、1888年誕生だとすれば、1949年に死去しており、61歳だったことになる。奇しくもジョーダンはレッドベリーと同年齢で天に召されたということだろうか。[収録曲]1. Dick's Holler2. Silver City Bound3. Take This Hammer4. Black Betty5. The Highest Mountain6. Goodnight Irene7. De Gray Goose8. Black Girl9. Jolly O' the Ransom10. Yellow Gal[パーソネル、録音]Clifford Jordan (ts)Roy Burrowes (tp)Julian Priester (tb)Cedar Walton (p)Chuck Wayne (banjo)Richard Davis (b)Albert Heath (ds)Sandra Douglas (v, 3. & 8.)1965年2月1日(1., 2., 5., 7., 9.)、2月17日(3., 4., 6., 8., 10.)録音。 JAZZ BEST COLLECTION 1000::ジーズ・アー・マイ・ルーツ [ クリフォード・ジョーダン ] 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2017年12月30日
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再評価を切に望む1枚 ジョージ・ラッセル(George Russell, 1923-2009)は、米国オハイオ州出身のジャズ・ピアニストおよび作曲・編曲家。1950年代以降に様々な作品を残しているが、今回取り上げるのはその中でもわりと初期に当たる1959年の『ニューヨークN.Y.(New York, N. Y.)』という盤である。 本盤を酷評する人もいるようなのだけれど、ニューヨークの断片を切り取った、という意味では見事な仕上がりだし、もっと注目されていい盤ではないかと個人的に思ったりもする。ナレーション(ナビゲーター役)を担当しているのは、ジョン・ヘンドリクスで、ヴォーカリーズの創始者と言われたりする人物。この人の存在がメインというわけではないものの、小気味よいテンポで曲を導入しているのは個人的にはいい感じだと思う。もちろん、メインコンテンツはあくまでも演奏それ自体であり、ニューヨークの情景を切り取ったかのような聴き手の想像をかき立てる演奏がテンポよく繰り広げられていく。 確かに、不測の展開というよりは、ある意味で計算ずくの“アレンジ・ジャズ”的であることは否定しがたい。つまるところ、本盤の評価は、この部分を肯定するか否定するかで大きく変わるような気がしてならない。そして、ここまでの文章を読んでいただいた方はきっとご推察のように、筆者はどちらかというと肯定派なわけである。 メンバー一覧(下記参照)を少し見ると気づくように、錚々たる顔ぶれが参加しているのも凄い。アート・ファーマー(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)と、ジャズ愛好者じゃなくても耳にしたことがあるほどのビッグネームが並んでいる。そんな個性豊かな演奏者群をものの見事にまとめているのが、アレンジャーのジョージ・ラッセルというわけである。 そんなわけで、ストーリー性も重要な要素になっているように思える(無論、それを先導するのが上記のジョン・ヘンドリクス)。1.「マンハッタン」で“さあ、ニューヨークへ行こう”みたいなワクワク感が出され、続く2.「ビッグ・シティ・ブルース」では、実際にニューヨークに着いてで会った光景を想起させる。3.「マンハッタン・リコ」は、少々間延びした感じがなくはないのだけれども、この町の華やかさと成功せずに消えていく人々の対比が描き出される。そして、メドレーになった4.「イーストサイド・メドレー」では、そういう喧騒とは少しかけ離れたイメージのニューヨークが演出される。でもって、最後の5.「ア・ヘルヴァ・タウン」では、冒頭のモチーフに戻り、“さあニューヨークへ”のイメージが繰り返される。少々長文になってしまったけれど、何ともよく出来たストーリー性ではないだろうか。[収録曲]1. Manhattan2. Big City Blues3. Manhattan Rico4. East Side Medley: Autumn in New York/How About You?5. A Helluva Town[パーソネル、録音]George Russell (arr, conductor)Art Farmer (tp)Doc Severinson, Ernie Royal, Joe Wilder, Joe Ferrante, Bob Brookmeyer (tb)Frank Rehak, Tom Mitchell, Jimmy Cleveland, Hal McKusick, Phil Woods (as)John Coltrane, Al Cohn, Benny Golson (ts)Sol Schlinger, Gene Allen (bs)Bill Evans (p)Barry Galbraith (g)George Duvivier, Milt Hinton (b)Charlie Persip, Max Roach, Don Lamond (ds)Al Epstein (bongos)Jon Hendricks (vo, narration)1958年9月12日~1959年3月25日録音。 ニューヨーク、N.Y./ジョージ・ラッセル[SHM-CD]【返品種別A】下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2017年12月16日
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最初に聴いてよかった盤の一つ ランディ・ウェストン(Randy Weston)は、1926年ニューヨーク生まれ(御年91歳!で存命中)のジャズ・ピアニスト。彼が紹介される時によく目にする気ワードとして二つあるように思う。一つは、“アフリカ”、そしてもう一つが“セロニアス・モンク”である。 前者については、アフリカ音楽を知り尽くしたとか、アフリカ音楽への回帰を目指した、などといった言い方がよく用いられる。つまりは、ピアニストであるものの、リズムやパーカッションといった方面の意識が強く、ジャズの中でもアフリカン・ルーツへの志向が強いイメージである。他方、後者の“モンク”の方は、作曲のセンスという文脈で、変人セロニアス・モンク並みだった(あるいはモンクの流れをくむ)というような評価を目にする。よくよく考えれば、これら二つの側面は半分くらいは重なり合っている。というのも、モンクのピアノは奏でるというよりは“叩いている”という要素が強いためである。 ともあれ、筆者はそういう背景をよく知らぬまま、最初にこの作品を聴いた。結果として、それはよかったのだと思う。後者の“モンク的”な部分は多少感じたが、変にアフリカンな先入観を持たずに聴けたのはラッキーだった。管楽器がケニー・ドーハム(トランペット、4.以外)、コールマン・ホーキンス(テナー)という馴染みのメンツだったのも入りやすかったのかもしれない。 多少ヘンテコな感じのするピアノに、バップ/ハード・バップを代表する感じの奏者が絡む。結果、一人の聴き手としては、何ともワクワクする演奏が楽しめる。トランペットやテナーがなければ、入りづらいし、このピアノがなければありきたりに終わっていたかもしれない、そんな微妙なバランスの上に楽しめる盤に仕上がっているのではないだろうか。 私的なお気に入りは、ジャズ界の名曲になった1.「ハイ・フライ」、そして、ビリー・ストレイホーン作の5.「スター・クロスト・ラヴァーズ」。あと、6.「リサ・ラヴリー」は上で述べたような、ヘンテコな部分とモダン・ジャズらしさとのバランスが抜群によい1曲だと思う。 正直、この盤の感想や評価をうまく言葉にできているか自信はない。けれども、まだ聴いたことのない聴き手には、妙に勧めたくなる(それも他の盤もいくつか聴いたけれども、なぜか最初の1枚にはこれを勧めたくなる)、そんな1枚だったりする。[収録曲]1. Hi-Fly2. Beef Blues Stew3. Where4. Star Crossed Lovers5. Spot Five Blues6. Lisa Lovely[パーソネル、録音]Randy Weston (p)Kenny Dorham (tp, 4.を除く)Coleman Hawkins (ts)Wilbur Little (b)Clifford Jarvis (ds, 6.のみ)Roy Haynes (ds)Brock Peters (v, 3.のみ)Melba Liston (arr)1959年10月26日録音。 ランディ・ウェストン|フォー・クラシック・アルバムズ・プラス [ ランディ・ウェストン ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年12月07日
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品のよさが際立つ初リーダー作 MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)のピアニストであり、音楽監督としての役割を担ったジョン・ルイス(John Lewis)。MJQ解散後に吹き込んだ彼にとって“初リーダー作”となったが『グランド・エンカウンター(Grand Encounter)』という作品である。同じMJQでも、ミルト・ジャクソンのソロ作はMJQの活動中か否かを問わず多数存在し、名盤としてよく見かけるものも多い一方で、ジョン・ルイスの方は枚数も決して多くなく、注目度もはるかに低い。 彼の作り出す音楽は“室内楽”、“ヨーロッパのクラシック音楽”などのタームで解説されることが多い。MJQのそういう部分は確かに彼の志向性だし、本盤でもその色合いは強く出ている。演奏メンバーにMJQ当初のベーシストだったパーシー・ヒースがおり、ギターにジム・ホールが招かれているあたりは、その辺の意図が的中しているように思う。 他方、本盤のもう一つのテーマは、ルイス自身のペンによる4.「2度東3度西(2ディグリーズ・イースト、3ディグリーズ・ウェスト)」に象徴される“東西の構図”である。当時、“ウェスト・コースト(西海岸)・ジャズ”という言葉が普及し、これに対する“イースト・コースト(東海岸)”という言い方もなされたが、これに準えて、“東側2人”(ジョン・ルイスとパーシー・ヒース)、“西側3人”(ビル・パーキンス、チコ・ハミルトン、ジム・ホール)とジャケットに大きく表示されている。この問題は、何が西で何が東かと突き詰めると実態は訳がわからなくなるように思うのだけれど、“西側”のビル・パーキンスの特色が上記のルイスの特色にうまく組み合わされているように感じる。 結局のところ、アルバム表題の“偉大なる邂逅”というのは、売り込み方としては“東/西”だったのかもしれないが、“黒人的/白人的”(演奏者が黒人か白人化というのにはとらわれない)、“クール・ジャズ的/クラシック的”など複数の側面での“エンカウンター”だったのではないか。そしてそれはジョン・ルイスがMJQの時から試みてきたことの延長線上にあり、MJQとソロでスタンスがしばしば変わるミルト・ジャクソンとは大きく対照をなしていたということなのかもしれない。[収録曲]1. Love Me or Leave Me2. I Can't Get Started3. Easy Living4. Two Degrees East - Three Degrees West5. Skylark6. Almost Like Being in Love[パーソネル、録音]John Lewis (p)Bill Perkins (ts)Jim Hall (g)Percy Heath (b)Chico Hamilton (ds)1956年2月10日録音。 【中古】グランド・エンカウンター/ジョン・ルイスCDアルバム/ジャズ/フュージョン 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2017年12月05日
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200万アクセス記念 いま聴きたいあのナンバー~拡大版(30/30) 200万アクセス記念として“いま聴きたい曲”を30回にわたって取り上げてきました。最後を飾るのは、リー・モーガン(Lee Morgan)による美しいこのナンバーです。 動画なしの頃に一度取り上げて(過去記事はこちら)いますが、この「クリフォードの想い出(I Remember Clifford)」は、ベニー・ゴルソン(参考過去記事)の作曲です。それを演奏したのは、デビューしたての19歳だったリー・モーガン(参考過去記事)。天才的トランぺッターだったクリフォード・ブラウンと入れ替わるように登場した天才的トランぺッターによる演奏です。 リー・モーガンが生で動く映像もということで、下記の動画も載せておきたいと思います。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの1958年、ベルギーでの演奏とのことです。 さらに今回は追加の動画です。少し新しめの世代による「クリフォードの想い出」をと思い、いろいろと考えてみたところ、以下の2つということになりました。1つめは、アルトゥーロ・サンドバル(アルトゥーロ・サンドヴァル)、2つめはライアン・カイザーによる「クリフォードの想い出」です。 長丁場でしたが、30回までお付き合いいただきありがとうございました。今後ともよろしくお付き合いください。[収録アルバム]Lee Morgan / Lee Morgan Vol. 3(1957年録音)Arturo Sandoval / I Remember Clifford(1992年リリース)Ryan Kisor / Kisor(1999年録音) リー・モーガン Vol.3+1 [ リー・モーガン ] 【中古】 【輸入盤】I Remember Clifford /アルトゥーロ・サンドヴァル 【中古】afb カイザー [オンデマンドCD][CD] / ライアン・カイザー ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年11月28日
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200万アクセス記念 いま聴きたいあのナンバー~拡大版(25/30) ジャズ/フュージョン系のヒット曲で、お気に入りナンバーながらこれまで取り上げる機会のなかった曲をこのあたりで取り上げてみたいと思います。 チャック・マンジョーネ(チャック・マンジオーネ、Chuck Mangione)は、イタリア(シチリア)系アメリカ人のトランペット、フリューゲルホルン奏者。ラテン風味のフュージョン系の演奏で人気を博した彼の代表曲がこの「フィールズ・ソー・グッド(Feels So Good,なぜか日本語表記はフィール・ソー・グッドで通用しています)」で、この曲は1978年にビルボード4位、これを収録したアルバムもビルボード2位という異例のヒットを記録しています。 この曲のヒットは1978年のことでしたが、以下は後年の演奏です。1989年、フランスのカンヌでの、ヴォーカル・パートも含む演奏シーンをどうぞ。 ジャズ愛好者からは“こんなのはジャズじゃない”との声も聞こえてきそうですが、これはこれで個人的には結構好きなのです。この軽やかさと親しみやすさは、ジャズかポップスか、はたまたフュージョンかというジャンル分けを越えて多くのリスナーを獲得しただけの理由が十分あるようにも思ったりする次第です。[収録アルバム]Chuck Mangione / Feels So Good(1977年) 【メール便送料無料】チャック・マンジョーネ / フィール・ソー・グッド[CD]【K2016/11/23発売】 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年11月20日
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200万アクセス記念 いま聴きたいあのナンバー~拡大版(24/30) ジャズ・スタンダードとなっている「枯葉(Autumn Leaves)」は、これまでこの秋が深まる頃の時期に何度か取り上げています(例えば、マイルス・デイヴィス、アート・ペッパー、チェット・ベイカー、カーティス・フラー、ブッカー・アーヴィンなど)。 これらに加えて、今回は2つばかり、「枯葉」をお聴きいただこうと思います。まずは、筆者お気に入りのテナー奏者、ベン・ウェブスター(Ben Webster)の1965年の演奏です。ピアノはケニー・ドリュー、ベースはニール・ペデルセン、ドラムはアレックス・リールによる、コペンハーゲンでの演奏です。 人によって好みは分かれると思いますが、このカスレ具合、そしていくぶん大仰なこのサックスの音が個人的には好みだったりします。 さて、同じく大物のテナー奏者による「枯葉」をもう一つ。コールマン・ホーキンス(Coleman Hawkins)の『ザ・ギルデッド・ホーク』(1956~57年録音)に所収の「枯葉」です。 こちらもウィズ・ストリングス盤ということで、人によって好みが分かれるかもしれません。ともあれ、街へ出ると、気が早いクリスマスソングすら聞こえてくる季節になってきて、秋ももうおしまいといったところでしょうか。[収録アルバム]Ben Webster / In Copenhagen(1965年録音)Coleman Hawkins / The Gilded Hawk(1956~57年録音) 【輸入盤】In Copenhagen [ Ben Webster ] 以下のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーを“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2017年11月19日
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200万アクセス記念 いま聴きたいあのナンバー~拡大版(19/30) さて、今回はジャズです。爽やかで軽快なテーマとソロが展開されるジョニー・グリフィン(Johnny Griffin)のお気に入り曲、「ザ・ケリー・ダンサーズ」です。同名の盤に収められた表題曲です。 この曲を含め『ザ・ケリー・ダンサーズ』には民謡やトラディショナル曲が多く含まれていますが、この表題曲もクレジットでは“トラディショナル”となっています。でもって、元はどんな感じの歌だったのか、2つほどご覧ください。 上はイギリスの女優・シンガーのジュリー・アンドリュース(Julie Andrews、1935年生まれ)の若き日の歌唱で表題は「オ・ザ・デイズ・オブ・ザ・ケリー・ダンシング」、下はアイルランド出身のテナー、ジョン・マコーマック(John McCormack、1884年生まれ1945年死去)の歌で、「ザ・ケリー・ダンス」が表題になっています。 [収録アルバム]Johnny Griffin Quartet / The Kerry Dancers(1961~62年録音) ザ・ケリー・ダンサーズ/ジョニー・グリフィン[SHM-CD]【返品種別A】 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2017年11月11日
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イギリス発の双頭コンボ ロニー・ロス(Ronnie Ross)は、1933年にインドのカルカッタ(コルカタ)でスコットランド人の両親のもとに生まれ、やがてイギリスに移って1950年代に入って活動を開始したバリトン・サックス奏者。一方のアラン・ガンリー(Allan Ganley)は1931年生まれのイギリス人ドラマーで、同じく1950年代に活動を始めていた。そんな二人が出会い、双頭コンボを結成する。1958年に結成され、翌年にはニューヨークでアトランティックに本盤を吹き込み、米国と欧州の双方でツアーを行なっている。 イギリス人双頭バンドの作品ということで珍しがられるが、スタイルとしては、1950年代の西海岸の影響が相対的に強い。よく言われるのは、ロニー・ロスのバリトンはジェリー・マリガン的で、アート・エルフソンのテナーはズート・シムズからの影響が大きい。さらに、ジャック・モントローズ(テナー)とボブ・ゴードン(バリトン)のクインテットを範としていたらしい。 そのようなわけで、ピアノの入る曲もあるけれど、基本的にはバリトンとテナーをフロントに据えたカルテット編成で演奏されている。収録された全8曲のほとんどはメンバーの自作曲。聴きどころとしては、まず、2本のサックス(バリトンとテナー)の絡みで、1.「ザ・カントリー・スクエア」や3.「ザ・ムーンベイザー」なんかはその典型例と言える。他にはロニー・ロスによる、バリトンならではの音遣いが随所に聴かれるのも楽しめる。特に4.「ザ・リアル・ファンキー・ブルース」の長く伸びるバリトンの音は印象的だったりする。あと、個人的に聴き逃せない演奏としては、まったりとした2.「ピティフル・パール」、ピアノも入って小気味よいテンポで演奏される6.「ブルース・フォーザ・ファイヴ・オブ・アス」がある。 上で西海岸(ウェストコースト)の影響が強いと書いたが、やっぱりどこか“西海岸的”であって、そのまま同じな感じはしない。その答えは自分の中では明確に見つからないのだけれど、“イギリス人だから”としか言いようがないのだろうか…。いや、何となく随所で“懐かしい感じ”がメロディと演奏に見られるところがその理由の一端だったりするのかもしれない。[収録曲]1. The Country Squire 2. Pitiful Pearl 3. The Moonbather 4. The Real Funky Blues 5. It's a Big Wide Wonderful World 6. Blues for the Five of Us 7. I Won't Fret if I Don't Get the Blues Anymore 8. How Long Has This Been Going on[パーソネル、録音]Ronnie Ross (bs)Allan Ganley (ds)Art Ellefson (ts)Stan Jones (p, 3.)Stan Wasser (b)1959年9月23日録音。 JAZZ BEST COLLECTION 1000::ジャズ・メイカーズ [ ロニー・ロス&アラン・ガンリー ] 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、“ぽちっと”クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2017年10月07日
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活動初期の“クールな”名盤 MJQことモダン・ジャズ・カルテット(Modern Jazz Quartet)が結成されたのは、1951年。当初は、ミルト・ジャクソン・カルテット(どのみち略称はMJQ)といい、ディジー・ガレスピーのビッグ・バンドから派生したグループだった。 1955年にはドラムスがコニー・ケイになり、メンバーが固まったが、本盤『ジャンゴ(Django)』は、1953年半ば~1955年初頭の間に吹き込まれ、ケニー・クラークがドラムを務めていた時期の録音である。とはいえ、MJQの代表作の一つとしてよく名前が挙げられる盤でもある。 よく言われるように、クラシックの室内楽のような演奏の作品である。クラシカルな部分はジョン・ルイス、逆に黒っぽいフィーリングを展開するミルト・ジャクソンの絶妙なバランス、これに尽きる。“クール・ジャズ”というとまったく違う種類の音楽が想像されてしまいそうだけれど、本盤で展開される彼らの音楽は二重の意味で“クール”と言えるように思う。いわゆる“カッコいい”の意味のクールと、“飄々としてどこか涼しげな感じさえする”という意味でのクールだと思う次第である。 個人的に注目したい曲をいくつか挙げておきたい。ジャンゴ・ラインハルトに捧げられたルイス作の表題曲(1.「ジャンゴ」)は、後に演奏されているものの、これが初演。2.「ワン・ベース・ヒット」は、パーシー・ヒースのベースが聴きどころ。あと、6.「ニューヨークの秋」や7.「バット・ノット・フォー・ミー」あたりは、繰り返し演奏されている有名ナンバーだが、逆にこうした演奏を聴くと、本盤の、さらにはMJQ自体の目指したところがよく見てとられるんじゃないだろうか。上で述べた“白人的”でクラシック的な部分と、“黒人的”でジャズ的な部分の融合は、偶発的に生まれてきたのではなく、ある意味ではしっかり計算されていたのだろうと想像できるように思う。[収録曲]1. Django2. One Bass Hit3. La Ronde Suite4. The Queen's Fancy5. Delauney's Dilemma6. Autumn In New York7. But Not for Me8. Milano[パーソネル・録音]Milt Jackson (vib),John Lewis (p),Percy Heath (b),Kenny Clarke (ds)1953年6月25日(4.~7.)、1954年12月23日(1.,2.,8.)、1955年1月9日(3.)録音。 ジャンゴ/モダン・ジャズ・カルテット[SHM-CD]【返品種別A】 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2017年09月22日
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ホット&クールのテナー共演盤 ピート・クリストリーブ(Pete Christlieb)は、1945年ロサンゼルス生まれのサックス奏者。ウッディ・ハーマンやカウント・ベイシーとの共演歴で知られる一方、セッション・ミュージシャンとしてトム・ウェイツ(こちらの盤やこちらの盤)やスティーリー・ダン(こちらの盤)への参加でも知られる。 一方のウォーン・マーシュ(Warne Marsh)は1927年同じくロス生まれで、レニー・トリスターノの教えを受け継ぐサックス奏者(参考過去記事)。この二人の組み合わせによる本盤の実現は、上述のスティーリー・ダンのアルバムの成功によると思われる。1977年に録音・リリースされたスティーリー・ダンの『彩~エイジャ』はヒット・チャートを駆け上り、グラミー賞も受賞するに至った。同盤からシングルカットされた「ディーコン・ブルース」で印象に残るソロを吹いたクリストリーブは、スティーリー・ダンのウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンのプロデュースにより、本盤を吹き込むことになったというわけだ。 同郷の先輩テナー奏者ウォーン・マーシュ、さらには既にベテラン奏者であったルー・レヴィー(ピアノ)といった面々からすると、演奏メンバーの人選はピート・クリストリーブによるものではないかと想像する。内容としては、サックス2人によるいわゆる“テナー・バトル”であるが、“バトル(戦い)”という言葉から想像するであろう雰囲気とは大きく異なる。先輩たちを前にクリストリーブには緊張もあったのかもしれないが、演奏スタイルそのものは実に生き生きと、そして和気あいあいとしたものになっている。2人のテナーがぶつかり合うというよりは、ユニゾンを、ハーモニーを奏で、力強いクリストリーブのテナーとクールなマーシュのテナーという対比が違った個性となって耳に入ってくるのがいい。 注目曲は、4.「テナーズ・オブ・ザ・タイム」とチャーリー・パーカーの有名曲の5.「ドナ・リー」。前者は早いテンポでテナー共演が楽しめるのに対し、後者は心地よいスウィング感の中で両サックス奏者の対比を聴くことができる。あと聴いていて面白いのは、3.「ラプンツェル」。プロデュースを担当したスティーリー・ダンの2人によるナンバーで、当時のベッカー&フェイゲンがもろにジャズの枠組のなかで曲を手掛けたらこういうのがやりたかったのか、なんて考えながら聴くとそれはそれでなかなか興味深い。[収録曲]1. Magna-tism2. 317 E. 32nd3. Rapunzel4. Tenors of the Time5. Donna Lee6. I'm Old Fashioned~以下、CDボーナス曲~7. Lunarcy8. Love Me9. How About You? [パーソネル、録音]Pete Christlieb (ts)Warne Marsh (ts)Lou Levy (p)Jim Hughart (b)Nick Ceroli (ds)Joe Roccisano (arr., 1.-4.)1978年5月17~21日、同6月3日。 JAZZ BEST COLLECTION 1000::アポジー [ ピート・クリストリーブ&ウォーン・マーシュ ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年09月12日
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忘れ去られた奏者のベツレヘム盤 ハル・マクーシック(Hal McKusick,ハル・マクシックまたはハル・マキュージックと表記される)は、1924年マサチューセッツ州生まれのアルトサックス、クラリネット、フルート奏者。2012年に87才で亡くなっている。1940年代から活動し、50年代にはジョージ・ラッセル、ビル・エヴァンス、リー・コニッツ、ジョン・コルトレーンなどと共演している。けれども、生涯を第一線の奏者として過ごしたわけではなく、彼のリーダー作は50年代後半の一時期に限られる。聴き手からすれば、“あっという間に消えた幻の奏者”かもしれないが、本人にとってはもっと多様な人生を楽しんだ結果だったのかもしれない。 今回の盤は彼がベツレヘムに残した吹込みによるもの。『イースト・コースト・ジャズ・シリーズ・8』というタイトルがついているものの、彼の演奏は、“東海岸(イースト・コースト)”と“西海岸(ウェスト・コースト)”という分け型では何ともつかみがたい部分がある。言うならば、本盤は、西の白人系クールジャズのイメージを東に持ってきて演奏したという感じだろうか。 彼の代表盤としてよく名の挙がる『トリプル・エクスポージャー』(1957年録音)は既にこのブログで取り上げているが、そちらとは違って、本盤ではギター(ガリー・バルブレイス)の存在感が大きい。このギタリストは、1955~56年当時、マクーシックと行動を共にしカルテット演奏をしていた。マクーシックによれば、ジェリー・マリガンがトランペットと絡み合う演奏(こちらの過去記事を参照)を聴いて、それを自身の演奏とギターの組み合わせに置き換えたらどうなるだろうか、と考えていたとのこと。なるほど、ピアノレスのカルテットで、このアルトサックスの演奏の雰囲気(さらには、上から撮影したアングルのジャケット写真)も合点がいくだろう。 筆者のお気に入りの演奏を少し挙げておきたい。サックスに力点を置いて選ぶと、一押しは7.「バイ・イアン」。ギターのソロや掛け合いもあるけれど、哀愁いっぱいのこのアルトが何とも言えない美しさと抒情性を醸し出す。同じような観点からは、2.「恋の味をご存知ないのね(ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ)」、5.「マイナー・マターズ」など、聴き逃せない曲が並ぶ。同時に、ギターの存在感という観点から気に入っているのは、6.「ブルー・フー」や8.「ホワッツ・ニュー」といったところ。“マリガンの東海岸的展開”とも言える本盤は、二番煎じではなく、サックス(およびクラリネット)とギターに置き換わったことで、その事情が分かると実に楽しめる盤ということになるのではないかという気がしている。[収録曲]1. Taylor Made2. You Don't Know What Love Is3. They Can't Take That Away from Me4. Lullaby for Leslie5. Minor Matters6. Blue-Who7. By-Ian8. What's New9. Interwoven10. Give 'Em Hal[パーソネル、録音]Hal McKusick (as,cl), Barry Galbraith (g), Osie Johnson (ds), Milt Hinton (b)1955年2月17日 録音。 イースト・コースト・ジャズ・シリーズ NO.8 [ ハル・マキュージック ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年08月17日
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スペインの天才ピアニスト×ラテンの名曲たち テテ・モントリュー(Tete Montoliu)は、スペイン、カタルーニャ(カタロニア)地方のバルセロナ出身の盲目のピアノ奏者。スペイン人として最初に世界的名声を得ることになったジャズ奏者である。 彼の主な吹込みは、1960年代から本格化し、亡くなる1990年代までにまたがっているが、本盤『ボレロス(Boleros,邦盤ではテテ・プレイズ・ボレロと表記されている)』は、1970年代後半に録音されたもの。 上記のように、テテ・モントリューはスペイン人だけれども、取り上げている楽曲は、ラテン系の曲が中心である。したがって、それら楽曲の作者もメキシコ人(2.と6.のアルマンド・マンサネーロ、4.や9.のアルバロ・カリージョ)、キューバ人(5.のエルネスト・レクオナ)、プエルトリコ人(8.のボビー・カポー)などとなっている。また、表題にあるように“ボレロ集”なので、ラテンといっても、ジャズ・サンバ的な(ブラジリアンな)ノリを期待すると裏切られる。パーカッションこそ入っているものの、あくまで落ち着いたボレロがメインの作品で、それらの曲のスペイン人的(あるいはカタルーニャ人的)解釈が繰り広げられているというのが正確だろう。 アルバム全体の特徴はというと、収録曲の美しい演奏につきるが、何と言っても聴き逃せないのは、マンサネロの代表曲でもある2.「アドーロ(Adoro)」。この美しさは本盤随一だと思う。他に注目の演奏としては、これまたメキシコ人のアルベルト・ドミンゲスによる3.「ミエンテメ(Miénteme)」。冒頭のアルゼンチン人作曲家マリオ・クラベルによる1.「ソモス(Somos, 邦盤ではメイビー)」。トリオ・ロス・パンチョスで知られる9.「サボール・ア・ミ(Sabor a mí, 邦盤ではビー・トゥルー・トゥ・ミー)」は上記2.に次ぐ名演。7.「ポル・エル・アモール・デ・ウナ・ムヘール(Por el amor de una mujer,邦題は、愛ゆえに)」も本盤収録曲中ではかなり上位に来る美しい演奏。アルバム締めくくりの10.「ポインシアーナ(Poinciana)」(日本語では鳳凰木と呼ばれる木のこと)は、アメリカ人の作曲によるスタンダードだけれども、キューバのフォークソング(「ラ・カンシオン・デル・アルボル(La canción del árbol)」)が元曲だとのこと。 テテ・モントリューが初めての人も、そうでない人も、美しさに傾いたジャズ・ピアノが好きな向きには一聴の価値がある名演奏盤だと思う。[収録曲]1. Somos2. Adoro3. Miénteme4. Sabrá Dios5. Siboney6. Somos novios7. Por el amor de una mujer8. Piel canela9. Sabor a mí10. Poinciana[パーソネル、録音]Tete Montoliu (p), Manuel Elías (b), Peer Wyboris (ds), Rogelio Juárez (perc)1977年5月録音。 【メール便送料無料】テテ・モントリュー / テテ・プレイズ・ボレロ[CD] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年08月16日
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円熟味に溢れたピアノ・トリオの楽しみ方とは? トミー・フラナガン(Tommy Flanagan)は、かつてサイドマンとしての活躍が多かった(といっても、『オーバーシーズ』をはじめとする彼の名義盤には名盤もあるけれど)。だが、ある段階からリーダー作が中心の活動へと移っていった。若い頃の“名盤請負人”的なイメージそのままに、リーダー作でも外れがなく、安定した好演奏を披露するといったのが、一般的なこの人のイメージと言えるだろうか。 もう一つ、80年代以降のトミー・フラナガンの特徴と言えそうなのは、“円熟”だと思う。キレや勢いがなくなったというわけではない。若い頃からのよさはそのままに保ったまま、味が深くなったというのが特徴だと言えるのではないかと思う。そんなわけで、1989年のピアノ・トリオでの録音盤が今回の『ジャズ・ポエット(Jazz Poet)』であるが、この盤を取り上げてみたのには、さらに別の理由もある。 いきなり大きな話になってしまうのだけれど、ジャズを聴くときに“覚悟を決めて聴くか”、“BGMにしてよいか”、換言すれば、“気負いいっぱいに聴くか”、“頭からっぽでさらりと聴いてもよいか”という問題がある。円熟のフラナガンはそんなことも考えさせてくれるというのが、そのもう一つの理由である。そして、結論から言うと、覚悟を決めて聴く必要も、気負って聴く必要もどこにもないんじゃないだろうか、という気がする。コアなジャズ・ファンからは叱られるかもしれないことは承知の上であえて述べると、こういう盤を聴くと、どちらの聴き方も正解という気にさせられてしまう。じっくりと聴けば集中して楽しめるし、さらりと流してしまえば、それはそれで“美しい音楽”の体験となり得る、といった具合である。本盤がそういうことを考えさせてくれるというのは、何よりもトミー・フラナガンという人の“腕前”にあるのだろう。 さらに本盤で聴き逃せないのは、ベースのジョージ・ムラツである。レギュラー・トリオとしてフラナガンと演奏をしていたので、本盤でもメンバーに入っているわけだが、この人のベースは何とも魅力的な音を出す。ピアニストが優れたベーシストと組んだら素晴らしい音楽ができ上がるなどと言われたりするけれども、本盤はそのお手本のような盤でもあるように感じる。 おすすめ曲をいくつか挙げておきたい。1.「レインチェック」は奇をてらわない小気味よさが心地よい。3.「柳よ泣いておくれ」は上で触れたジョージ・ムラツの良さが光る曲の一つ。7.「セント・ルイス・ブルース」の演奏はブルースらしさと抒情感がいっぱいで個人的にもお気に入り。他には、淡々とした雰囲気がなぜか気になって仕方ないのが、10.「ボセ・アブソ」。これら以外の曲も含め、通した聴いた後にはアルバム表題の意味がはっきりと浮かんでくる。そう、トミー・フラナガンの多彩な演奏は、いろんなアプローチから演奏する曲を“語る”ことのできる詩人(ポエット)なのだと思う。[収録曲]1. Raincheck2. Lament3. Willow Weep For Me4. Caravan5. That Tired Routine Called Love6. Glad To Be Unhappy7. St. Louis Blues8. Mean Streets9. I'm Old Fashioned10. Voce Abuso[パーソネル、録音]Tommy Flanagan (p)George Mraz (b)Kenny Washington (ds)1989年1月録音。 ジャズ・ポエット [ トミー・フラナガン ]下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2017年08月14日
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スティット、本領発揮のアルト・ワンホーン盤 本盤『ソニー・スティット・ウィズ・ザ・ニューヨーカーズ(Sonny Stitt with the New Yorkers)』は、1957年に吹き込まれたもの。本盤を含めこの時期のスティットのルースト盤は安定感があると言われ、長いスティットのキャリアの中でも評価が高く、絶頂期などと評される(他にはこちらの盤などもルーストだったりする)。 実際、このアルバムは安定感と安心度の高い盤だと言える。アルトのワン・ホーン盤で、パーカー死去が1955年だからもちろんその後の吹き込みということになる。上述の安定感・安心感の背景としては、ハンク・ジョーンズのピアノが一役買っている点も聴き逃せない。 1.「ザ・ベスト・シングス・イン・ライフ・アー・フリー」の軽快さ、3.「春の如く(イット・マイト・アズ・ウェル・ビー・スプリング)」の威風堂々とした構え、4.「チェロキー」の勢いあるフレージング、6.「ボディ&ソウル」のメロディを生かした伸びのある演奏…と曲ごとに見ていくと、意外といろんな曲調の演奏が収められている。けれども、すべてを結ぶ1本の軸が“雄弁さ”であると言ってもいいだろう。バピッシュなスタイルがどうこうとか、パーカーとの比較がどうこうとか、そういう聴き方がある一方で、この“雄弁さ”にただ圧倒されるという聴き方もあっていいように思う。いろんなタイプの曲があり、ノリのいいものから落ち着いたものまで、一つの色に染まったアルトが語り歌う、その演奏をただ聴く。邪念を払って(?)そんな風に聴くのも心地よいのではないかと思ってみたりする。[収録曲]1. The Best Things in Life Are Free2. Engos, the Bloos3. It Might As Well Be Spring4. Cherokee5. I Didn't Know What Time It Was6. Body and Soul7. People Will Say We're In Love8. Bloosey9. Birds' Eye[パーソネル・録音]Sonny Stitt (as)Hank Jones (p)Wendell Marshall (b)Shadow Wilson (ds)1957年8月30日録音。 ソニー・スティット/ソニー・スティット&ザ・ニューヨーカーズ[SHM-CD] 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーを“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2017年08月12日
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ルバルカバとの共演による暖かさとジャズ的展開に溢れたアルバム チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden,1937年生まれ、2014年死去)は、アメリカ合衆国出身のベーシスト。狭義のジャズの枠組に捉われず、様々なミュージシャンと共演したことでも知られる。本盤『ランド・オブ・ザ・サン(Land of the Sun(La Tierra del Sol))』は、キューバ出身のピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバ(Gonzalo Rubalcaba)を迎えて2003年に録音された作品。ヘイデンとルバルカバは1990年代に何度も共演し、長らく温めた企画のボレロ集(『ノクターン』)を2000年に録音している。同作は2001年に発売されて2002年にはグラミー賞の最優秀ラテン・ジャズ・アルバムを受賞したが、さらにその翌年に録音されたのが本盤ということになる。 表題の『ランド・オブ・ザ・サン』にはスペイン語表題も添えられており、“ラ・ティエラ・デル・ソル”(同じく“太陽の地”の意味)とある。収録曲に目を向けると、楽曲のタイトルはいずれもスペイン語で、カッコ書きで英訳が示されている(なお、日本盤では英語に基づいたカタカナの楽曲名になってしまっている)。このことからもわかるように、演奏されているのはいずれもラテン系の楽曲である。 では、『ノクターン』の続編のような作品化と言われると、半分は続編であって半分はそうではないというのが正確だと思う。ヘイデン自身の言葉によると“『ノクターン2』みたいなものにはしたくなかった”という。確かにその通りで、“第二弾”もしくは“二番煎じ”とは違う。同じラテン系ピアニストと組んでやっているのだけれど、取り上げている楽曲は同じラテン系でも先のボレロ集という側面が前面に出たものとは異なる、まったく別種のバラード集である。事の始まりは、メキシコの作曲家ホセ・サブレ・マロキン(José Sabre Marroquín, 1995年没)の作品に触れたヘイデンがルバルカバに声をかけたところからスタートしたとのこと。つまりは、メキシコのポピュラー音楽を出発点として、インプロヴィゼーションを生かせるようなアレンジを加えていき、ジャズの世界を広げようというのが、本盤の試みとなった。 取り上げられた曲のほとんどは、上記のホセ・サブレ・マロキンのもの。個人的お気に入りをいくつか挙げると、1.「フイステ・トゥ」、6.「デ・シエンプレ」、10.「カンシオン・ア・パオラ」などがおすすめ。それ以外では、アグスティン・ララ(Agustín Lara)の4.「ソラメンテ・ウナ・ベス」、アルマンド・マンサネロ(Armando Manzanero)の9.「エスタ・タルデ・ビ・ジョベール(雨のつぶやき)」という、いずれもメキシコの有名作曲家による有名曲が取り上げられている。上で触れたコンセプトは、多くの聴き手にも当てはまるのだろう。メキシコ音楽という普段聴くのとは少し違う独自世界を持った楽曲群がジャズ奏者たちの演奏可能性を押し広げているところが聴きどころになる。こういう抽象的な言い方しかできないけれど、この部分が演奏している本人たちだけでなく、聴き手にとっても本盤の鍵になっているように思う。そんなわけで、“こんな曲なんだ”などと言いながら(多くの人にとって)未知のメキシコの楽曲をさらりと楽しめそうでありつつ、その先にあるジャズ的な演奏の展開が広がっていくという、“一粒で二度おいしい”的な聴き方のできる盤だと思う。[収録曲]1. Fuiste tú (It Was You)2. Sueño sólo con tu amor (I Only Dream of Your Love)3. Canción de cuna a Patricia (Lullaby for Patricia)4. Solamente una vez (You Belong to My Heart)5. Nostalgia6. De siempre (Forever)7. Añoranza (Longing)8. Cuando te podré olvidar (When Will I Forget You)9. Esta tarde vi llover (Yesterday I Heard the Rain) 10. Canción a Paola (Paola's Song)[パーソネル・録音]Charlie Haden (b)Gonzalo Rubalcaba (p, perc, arr)Ignacio Berroa (ds, per)Joe Lovano (ts)Miguel Zenon (as)Michael Rodriquez (tp, flh)Oriente Lopez (fl)Larry Koonse (g)Lionel Loueke (g)Juan De La Cruz (bongo) 2003年12月19~22日録音。 【輸入盤】CHARLIE HADEN / RUBALCABA チャーリー・ヘイデン/ルバルカバ/LAND OF THE SUN(CD) 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、“ぽちっと”クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2017年07月05日
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“黄金メンバー”によるワン・ホーン盤 少し前に取り上げた『ファースト・プレース』と同じく、1957年に吹き込まれたセッションから編まれたのが本盤『ブルー・トロンボーン(Blue Trombone)』である。前者は同年4月11日と12日のセッションを中心に(1曲のみ4月26日のものも含む)集められたのに対し、本盤は、その4月26日とさらに5月3日の吹込みを併せたものとなっている。基本となるメンバーは、後世から見るとまさしく“黄金メンバー”である。J・J・ジョンソンのトロンボーンに加えて、トミー・フラナガン(ピアノ)、ポール・チャンバース(ベース)、マックス・ローチ(ドラムス)が各演奏を担っている。ただし、7.のみベースがウィルバー・リトル、ドラムスがエルヴィン・ジョーンズである。 『ファースト・プレース』と同様、これぞトロンボーン奏者の盤ということで、“ジャズにおけるフロント楽器としてのトロンボーン”のお手本のような作品と言える。ブルーノートの盤で“エミネント”という形容がなされたが、まさしく“卓越した”トロンボーン演奏と言える。トロンボーン自体、何だか“トロい”印象もある楽器だけれども、これを聴けばその先入観は吹っ飛んでしまう。特別派手にやっているわけでもなく、当たり前のようにそれを演じているJ・J・ジョンソンはすごいということだろう。 そんなことを言いつつも、初めてジャズ・トロンボーンというものに触れる人にとって、上記の『ファースト・プレース』と本盤『ブルー・トロンボーン』は最良の入口になり得ると思う。初めてジャズ・トロンボーンに触れる人への最大のお薦めは表題曲の4.と5.(「ブルー・トロンボーン」のパート1およびパート2)。少し慣れてきた向きには、有名なスタンダード曲の3.「ホワッツ・ニュー」、それから7.「100プルーフ」を薦めたい。派手さや華のある演奏というわけでは必ずしもないのだけれど、こういうのを聴いているときっとトロンボーンを好きになる人はもっと増えるに違いない、そんなことを思わせてくれるという意味ではやはり名盤の類いなのだろう。[収録曲]1. Hello, Young Lovers2. Kev3. What's New 4. Blue Trombone (Part 1)5. Blue Trombone (Part 2)6. Gone with the Wind7. 100 Proof[パーソネル、録音]J.J. Johnson (tb)Tommy Flanagan (p., 1-7) Paul Chambers (b., 1-6)Max Roach (ds,1-6)Wilbur Little (b., 7.)Elvin Jones (ds., 7.)1957年4月26日(1., 3., 7.)1957年5月3日(2., 4., 5., 6.) J.J.ジョンソン/ブルー・トロンボーン 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、“ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2017年07月03日
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軽快で心地よいワン・ホーン盤 1924年、インディアナ出身のジェイ・ジェイ・ジョンソン(Jay JayもしくはJ. J. Johnson)は、1940年代からビッグ・バンド等で活躍し始め、1950年代にかけてジャズ・トロンボーンの地位を確立したトロンボーン奏者である。ソロの名義ではおもに 1950年代~60年代のものが親しまれているが、本盤『ファースト・プレイス(First Place)』は1950年代後半から1960年代初頭にかけての、コロンビア所属期のアルバムのうちの1枚である。 1957年録音の本盤では、J・J・ジョンソンは軽快かつ歌心いっぱいにワンホーンでの演奏を繰り広げる。もともとトランペットやサキソフォンに比べて地味だったトロンボーンの地位を押し上げたのは彼の役割が大きかったわけで、その意味で、決して数多くないトロンボーンのワンホーン盤として貴重かつ内容充実の1枚であると言える。 録音メンバーは、当時はまだ20代~30代前半だったとはいえ、今となってはゴールデン・メンバーといったメンツである。収録曲はスタンダード曲が中心だが、特徴としては超有名曲のオンパレードといった風情ではなく、J・Jのオリジナルを混ぜつつもおとなしめの選曲と言える。 お気に入りをいくつか挙げてみたい。まずは、ソニー・ロリンズ作の2.「ポールズ・パル」。元のサックス奏者的メロディがありありではあるのだけれど、これをトロンボーンで料理するとどうなるか、J・Jの腕前が発揮された1曲である。軽快な7.「ビー・マイ・ラヴ」は、トロンボーンで演奏するのが何とも心地よいさりげない名演。9.「ニッケルズ・アンド・ダイムス」は、せわしない雰囲気ではあるが、こういう曲調こそトロンボーンの魅力が伝わりやすいように思う。他にスロウ・ナンバー(例えば3.や8.など)では、じっくり聴かせる、ある種、予定通りのトロンボーンの魅力がよく伝わってくる。J・J・ジョンソンに何らかの親しみがある人にもお薦めだけれど、何よりも、“ジャズ・トロンボーン”なるものを初めて聴く人にぜひこの手の盤は早いうちに聴いていただきたいと思ってみたりする。[収録曲]1. It's Only a Paper Moon2. Paul's Pal3. For Heaven's Sake4. Commutation5. Harvey's House6. That Tired Routine Called Love7. Be My Love8. Cry Me a River9. Nickels and Dimes[パーソネル、録音]J. J. Johnson (tb)Tommy Flanagan (p)Paul Chambers (b)Max Roach (ds)1957年4月11日録音(2., 3., 5., 6., 9.)同4月12日録音(1., 4., 7.)同4月26日録音(8.) [期間限定][限定盤]ファースト・プレイス/J.J.ジョンソン[CD]【返品種別A】 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2017年06月17日
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奇才ピアニストが才能に満ちたアレンジャーと出会った結果は… よく“無人島へ持っていきたい盤”(無人島に行ってもレコードプレーヤーやCDプレーヤーがあるわけではないので、どうせ聴けないとは思うが)という言い方をすることがある。でも、“それほどじゃないんだけど、やっぱたまには聴きたくなるんだよね~”という感じのアルバムも、その一方にたくさんある。セロニアス・モンク(Thelonious Monk)の『モンクス・ブルース(Monk’s Blues)』は、そんな盤の代表的1枚なのではないかと個人的に思ったりする。 実際のところ、モンク盤を1枚だけ選べと言われると、『ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック』や『ブリリアント・コーナーズ』、『モンクス・ミュージック』や『セロニアス・モンク・トリオ』など他の代表盤がいくらでもあって、迷ってしまう。そんな時に本盤は話題にすら上らない。ジャズの入門書でも同じことが起きていて、この盤が取り上げられることはほぼないけれど、やっぱりどこか外せない感が残ってしまうのである。 さて、セロニアス・モンクのピアノが普通ではないのは周知の通りである。型破りで自由奔放なマイペースの独自世界、それを真に満喫するならばソロ盤(例えばこちらやこちら)で聴くのがいいかもしれない。けれども、大きな編成の中でモンクの独自世界がどうなるのかというのも、これまた面白いのである。そして、この盤の仕上がりの立役者は、アレンジャーとしても素晴らしい業績を残したオリヴァー・ネルソンであった。 そのようなわけで、聴きどころは代表曲や有名曲にネルソンのアレンジが施されているという点。そして、それをモンクが飄々と弾くというところが興味深い。そのようなわけで、5.「ブリリアント・コーナーズ」や9.「ストレート、ノー・チェイサー」といった代表曲が特に面白い。しかもCDでは10.「ブルー・モンク」と11.「ラウンド・ミッドナイト」が収録されていて、本編の仕上がりには及ばないとはいえこれらのテイクが聴けるのも有難い。 だいぶ前に“バップの高僧”というニックネームなど、セロニアス・モンクの“近づき難さ”という話題について書いたことがあったのだけれど、こうした作品を聴くとますます“実は近づき難くはなかったのだ”というイメージが膨らむんじゃないかと思う。最終的にこれが代表作や最高作であるかと言われると決してそうではない。けれども、こういう“近づきやすい”盤はもっと聴かれてしかるべきであるとも思ったりする。[収録曲]1. Let's Cool One2. Reflections3. Little Rootie Tootie4. Just a Glance at Love5. Brilliant Corners6. Consecutive Seconds7. Monk's Point8. Trinkle, Tinkle9. Straight, No Chaser10. Blue Monk11. Round Midnight[パーソネル、録音]カルテット:Thelonious Sphere Monk (p), Charlie Rouse (ts), Larry Gales (b), Ben Riley (ds)追加ミュージシャン:Buddy Collette, Tom Scott, Gene Cipriano, Ernie Small (sax)Bobby Bryant, Conte Candoli, Freddie Hill (tp)Lou Blackburn, Bob Bralinger, Billy Byers, Mike Wimberly (tb)Howard Roberts (g)John Guerin (ds)1968年録音。 モンクス・ブルース +2 [ セロニアス・モンク ] 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2017年06月09日
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