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『ノートル=ダム・ド・パリ』(下)ユゴー邪恋やら暴動やら、そして可憐な乙女の運命。フランス版時代物、大ロマン小説。ジプシーゆえに魔女狩りというのか、死刑を宣告されるエスメラルダ。その美しい娘はストーカー的に恋する中年の聖職者に追いかけられ、死刑から救ってくれた醜い背むし男にも純愛をささげられるが、娘は娘でちゃらんぽらん美男に恋焦がれるその行き違いの皮肉さ、どうしようもなさ。まあまあと、笑って楽しめたはずなんだけど、今は悠長に物語をたどっていく気がしないリアルの世界情勢。従って感想も何がなし滞ってしまってた。悪夢を見ているようだ、いえ、現実がフィクションを超えてしまった。人間の文明はどこに向かうのだろうか!この『ノートル=ダム・ド・パリ』の結末も救いがないとも言えるし、人間の業の深さは果てしがない。なんか、感想ももうやめたいよ…。
2022年03月28日
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『ぎょらん』町田そのこ読み始め、苦手なファンタジーか?とちょっと引いておりました。亡くなった後に残るその人の思いが「イクラのようなふにゃふにゃした赤い玉」に隠されているそうなのだという。だから「ぎょらん=魚卵」正直、気持ち悪い~~!!ところが、4章の「糸を渡す」にさしかかるとそんなこと吹っ飛んでしまいました。グループホーム利用者の「茂子さん」とスタッフの「七瀬さん」に、ボランティア学生の「菅原美生」がからみ、その母親「佐保子」が登場する場面がなんとも印象的だったのです。内容ははぶきますが、身寄りのない孤独な「茂子さん」の遺品、バラバラになって壊れていたビーズの首飾りをつなぎ直すのが誰か?が感動です。そこで、第1章「ぎょらん」のニート兄「御舟朱鷺」を心配する妹「華子」と母親の様子の唐突さが和らいだのでした。そして2章「夜明けのはて」で「朱鷺」のニート脱出物語に、夫の葬儀でかかわった元保育士「喜代」の事情がまたストーリーを繋げていくのです。3章「冬越しのさくら」5章「あおい落葉」それから6章「玉の向こう側」人と人のつながりのなんとも複雑に、凝り過ぎぐらいからみあう作品です。読み終われば結ぼれている糸の謎がするすると解け、町田そのこという作家の妙味なんだなあと思います。章立ての短編として読んでもいいし「ぎょらん」という「赤い玉の物語」として読んでもいいと思う。そしてこの「玉」は「魂」と読み替えてもいいのではないでしょうか。
2022年03月21日
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『黄昏の彼女たち』(上)1920年代、第一次世界大戦後と第二次世界大戦の間のイギリスが舞台。戦後の喪失と未来への希望が見えない世界への不安。まして西欧といえども女性の地位が低かった。女性の選挙権もまともになかったようだな時代が舞台。戦争で逝ってしまった兄や弟。そして父も借金を残してなくなってしまった、古い大きなお屋敷に母と暮らせば、維持するために、部屋を貸していくしかなかった。お嬢様だった「フランシス」、なのに屋敷を管理するのは当然、お手伝いさんも雇えないので、自分で掃除も何もかもしなければならない変化。26歳の独身、鬱々たる毎日になる。しかも過去に女性問題事件を起こしている秘密があった。貸室に来たのは若いご夫婦。その妻はちょっと変わっていて魅力的だった。自然と親しくなり…。と、ミステリアスというより、危なっかしい展開になる。独特の雰囲気だった『半身』や『荊の城』に続く、サラ・ウォーターズ節なるか?時代背景が前世紀の初め、女性の地位思想は抑えられている。解説にもあるが、ヴァージニア・ウルフの小説と同傾向と思うとうなづけるものがある。上巻はやや普通だね、というところかな。そして下巻事件は起こる。いや。レズビアンの関係がわかってしまったというのではない。三角関係には邪魔者はいなくなってほしいが必須。殺人事件が起こるのか?と思っていたら、その通りになった、さて…ここからが読みどころなのだと思うが、わたしには息詰まるおもしろさというより、息苦しさのほうが強かった。でも、それがサラ・ウォーターズの真骨頂かもしれない。時代背景が前世紀の初め、女性の地位思想は抑えられている。解説にもあるが、ヴァージニア・ウルフの小説と同傾向と思うとうなづけるものがある。
2022年03月10日
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『大統領の最後の恋』アンドレイ・クルコフそもそも「ロシアのウクライナ侵攻」に暗澹たる気持ちになり、せめても「ウクライナの国の小説は?」と検索、もう20年以上前に『ペンギンの憂鬱』でベストセラー作家となっていたクルコフに、たどり着いたのでした。(例によって知らないことのなんとおおいこと!ゴーゴリもウクライナ出身とか)前田和泉氏翻訳の600ページ越えの分厚い本で、複雑なれど一気読みするくらいおもしきユーモアに富んだ物語。複雑というのは、解説にもあるがこの作家が「ロシア語で執筆するウクライナの作家」なるが故にウクライナという国の政治事情や社会情勢における立場が浮き彫りに。そしてこの小説構成の重層化(青年期、中年期、老年期のパートにわかれて章が進む)が、最初は少々ややこしいのですが、慣れてくるとそれがなおおもしろくしているのだとわかる。語り手のセルゲイ・ブーニンという主人公、女好きで吞み助でチャラチャラしているけれども、本当は母子家庭の母親や障害のある弟思いの正直真面目な好青年で、ウクライナという国の歴史に沿って生きていく。ソ連時代から崩壊をへて建国に遭遇、大統領にまでなってしまったのに、身辺の寂寥は埋まらない…というのがストーリー。フィクション好きなら、なるほどウクライナの複雑難儀な事情が解ろう小説だ。そう、おもしろうてかなし。主人公は普通に幸せになりたい。普通に幸せとはなんだ?国があって、食べることが出来て、住む家があって、愛する家族が泣いていないこと。人間は身の丈だけしか要求してはいけない。そうしなければ普通の幸せは来ない。原文もそうなんだろうが、訳文も平明で読みやすく、ストリー展開もよろしくユーモアに溢れている。ただし分厚い本。ネットの古本も高値。文庫化を願う!!*****ところでトルストイは民話もお書きになった。タイトルは忘れたが、一日に歩ける分だけ土地をタダでくれるということで、広大な土地を死に物狂いで歩いたつもりが、力尽きて倒れてしまう「人間に必要な土地は身の丈(身長)だけしか使えないのだ」と。プーチンさんはこのロシアの偉大なる作家の作をお読みになっていらっしゃるのか? どちらかに編集されている
2022年03月07日
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『ノートル=ダム・ド・パリ』ヴィクトル・ユゴー(上)ノートルダム聖堂が火事になった時に、『ノートルダムのせむし男』というタイトルで、子供時代に読んだ記憶があり、原作を読み直したいと思っていました。『レ・ミゼラブル』もそうなんですが、ユゴーは知識豊富で物語の合間に、地理的説明や歴史やはては建築学、印刷機の発明など、薀蓄を滔々と述べる部分が、読み進むのにしんどいです。19世紀文学の特徴ですね。その19世紀から300年さかのぼった、つまり、15世紀のパリを鳥瞰にしたり、ノートル=ダムの建築学的説明や、当時のパリ市政・人事関係や、また一般民衆の風俗や暮らしの仕組みなど、微に入り細を穿つ記述でありまして、なおややこしく感じるのです。そんな合間に「美女と野獣」「富めるものと、どん底の生活者」というような対比を牧歌的に、面白く、もの哀しく流れるように語ってあるのです。登場人物は「カジモド」という(身体に障害があって)姿異様なノートルダムの鐘つき男と、美しい「エスメラルダ」というジプシーの乙女に、捨て子だった「カジモド」を拾って育てた司祭補「クロード・フロロ」がからまり、狂言回しに詩人の「ピエール・グランゴワール」が居て、というのが(上)です。こういう読み物は、今後読まれるのかしらんと思いながら読みました。
2022年02月25日
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『百年と一日』柴崎友香短い小説集なんですが、ショート・ショートともちょっと違う気がするんですよ。ショート・ショートの方はストンと腑に落ちる結末になるか、有り得ない~で終わるのです(私の認識では)。ところが、柴崎友香さんのは腑に落ちない、どこかで何かが曲がってしまって不安感が起こる、そうして読者が「こういう風になるのではないか」と結末を想像してしまえるようなのもある。たしかに人生百年時代、生まれて死ぬまで何が起こるかわかりませんよね。それを圧縮するとこのような小説ができるのでしょう。平凡な日常のようで、どこかでぽっかり穴が開く、しかし何事もなかったようにつづいていく。この長いタイトルのたくさんな短編の内容で、なんですか、何巻もの長編が書けそうな気がしてくる、読後感です。
2022年02月20日
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『戦中闇市日記』山田風太郎昭和22年~23年(1947~48)の風太郎日記。1月元日から12月の大晦日まで一日も欠かさない2年間の記述。26歳の青年が東京新宿の医学校に通い、医学書をたくさん読み、小遣い稼ぎに探偵小説を書き、文学書を山のように読み、映画や演劇も頻繫に行く。しかも戦後の配給制度時代、親族からの仕送りも滞るような状態、闇市で日用品を補いながらの生活なのだ。例えば始まりの昭和22年1月のところ一日(水)曇餅も酒もなき正月。阿部氏、石岡の松葉に手紙出す。午後渋谷東横デパート四階にムーラン・ルージュ見にゆく、くだらなし。(中略)五日(日)晴安西より手紙来る。シオカラ十八円、サツマ揚二十円求む。(中略)二十一日(火)晴大いに寒し。風強し。木々高太郎『文学少女』『永遠の女囚』読。買った食べ物の値段を書き記したのがやたら多いのも、食糧不足のなか若者のひもじさがよく出ている。わたしたちが戦後の古い映像で見る汽車の混みようも、風太郎が故郷八鹿関宮(兵庫県)に帰る汽車旅の活写が圧巻で、網棚に登ったまま一昼夜、目的地に行く苦労など、聞きにしまさるものすごさ。戦後の混迷深き世間を哲学的に思索する青年山田風太郎が居る、そして、アルバイトの小説書きだったのが、新人探偵作家コンクールで一等賞を取り、執筆依頼がどんどん増え、出版社、編集者たちと知り合い、有名作家(江戸川乱歩 横溝正史など)と交じわっていくのが読み取れる。次々と小説の構想を練り執筆、出版社に掲載され、かなりな稿料貰うも、高い医学書を買い勉強に励み、世話になっている知人宅へもお金を渡し、無いないづくしの生活道具(本棚など)を買ったりするところは、真剣に生きている様子に泣けてきます。そうして山田風太郎、まだ医者になるか作家になるかわからないまま、2年間の日記は終わります。この頃のわたしは小学校に上がったばかり、なーんにもわからなかった、知らなかった。こうしてまめに一日一日の記述されているのを読むと、時代風景はこんなだったのだ、見ていて見えなかったものが、手に取るように見えて来て、記憶がよみがえり感動しました。タダの日記なのに、只者ではない風太郎の日記なのだった。
2022年02月18日
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『わたしがいなかった街で』柴崎友香時間を辿って砂羽の行動と心の動きを追う、それは自身の思い出に浸ったり、見聞きしたドキュメンタリのなかのことでもあったりする。近代文学(大正末や昭和の初め)の私小説が戻ってきたのか、と読み始めは思う。語り手平尾砂羽の日常生活が事細かに描写してあり、特に戦争や紛争のドキュメンタリーのビデオを見るのが好きという語りは、なんだかくらい特殊な趣味のようで、鬱屈している昔の文士のようかと、つまり暗らーくて欝々がメインのようなのだ。たしかに現代のある女性の孤独な生きづらさがよくわかるようにうまく描かれている。時々クスリとさせられるユーモアをまじえた、数少ない関わりの人(有子やその父親富士男さんや中井さん)たちとの交流の描写が光る。ほんと、なかなかの筆力だと思う。(わたし期待する)過去の何かあったこと、かかわった人々のことにこだわる生き方は、思いやりがあるようで、なんだかやりきれなさも感じるが、そこでこの小説が大転換してしまうのが、意外だった。主人公がすり替わるってあり!?いやいやそこがメインなのか。葛井夏というもう一人の女性。彼女は砂羽とは正反対の明るい性格だが、それもそこら辺にいそうな人物、学習塾の主任という日常が描かれ、その行動がこの小説の結びとなる。彼女の見る瀬戸内海の風景への賛美はちょっと国木田独歩の「忘れ得ぬ人々」を彷彿させるし、最後の火事の描写は川端康成の「雪国」を思い出す。この小説はこうして読者にも思い起こさせるものを、感じ取らさせるものとなる。
2022年02月14日
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前回の「ある分析したら!?」の詳細編です。ある作家のある作品を読み終わり次に何を読むか選び決めるのは何によってなのか?ネットの情報がなかった時には本屋さんに行って選び買う新聞や雑誌で情報を得る友人や知人、家族に薦められるか、話の中に情報がある学校や教育機関で知る(教科書に出てくるものなど)図書室や図書館に行って選んで借りてくるラジオの朗読の時間に聴き興味をもつ映画やTVドラマの原作に興味を持つTVのブックレビュー(これはネット社会になってから始まった印象)貸本屋はまんがを借りた記憶があるような無いようなこんなところがネット情報に浸る前のわたしの選択情報(アナログ情報)だった。で、物凄く情報が入ってきたネット情報以前とその後よって、読む作家や作品が変化しているのが、読書歴に表れており、また古書店で購入する程マニアではないのに、新中古書店が繁盛しだすと気軽にあれこれ選べて購入してしまい、これまた読書傾向に変化が現れたのだと思います。10~15冊読んだ作家を分けてみるとアナログ情報由来有吉佐和子 10冊井上靖 10冊犬養道子 12冊遠藤周作 12冊幸田文 14冊 メアリ・H・クラーク 15冊立原正秋 10冊高村薫 10冊コナン・ドイル 10冊バルザック 10冊ヘルマン・ヘッセ 10冊デジタル情報由来石田衣良 15冊恩田陸 15冊大沢在昌 12冊パトリシア・コーンウェル 12冊篠田節子 15冊田口ランディ 12冊林真理子 13冊三浦綾子 15冊吉村昭 12冊若竹七海 11冊林真理子さん、三浦綾子さんや吉村昭さんの作品はその前にも読んでいましたが、何冊もとなるとネットの情報や古書店(110円本)の力がありますね。わたしのなかではデジタル化ゆえ、紙の本を読まなくなったというのはありません。むしろ情報が多くなり、しかも瞬時にということと、ブログなどで発信出来る環境とが本好きを増幅させたのでしょう。
2022年02月12日
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物心がついたら本好きになっていて、趣味というよりは習い性のようなものでずうっと本を読むのをやめなかっただけ、それでどうするつもりもない。いったいわたしは何を読んできたのだろう?なんていう疑問がわいたこともなかったが、ある作家の作品を10冊以上読んでいるなら、その作家に興味を持ったのだろうということで、こんな風に初めて調べてみた。10~15冊有吉佐和子 10冊井上靖 10冊犬養道子 12冊石田衣良 15冊遠藤周作 12冊恩田陸 15冊大沢在昌 12冊幸田文 14冊 メアリ・H・クラーク 15冊パトリシア・コーンウェル 12冊篠田節子 15冊立原正秋 10冊高村薫 10冊田口ランディ 12冊コナン・ドイル 10冊林真理子 13冊バルザック 10冊ヘルマン・ヘッセ 10冊三浦綾子 15冊吉村昭 12冊若竹七海 11冊16~20冊五木寛之 18冊江國香織 17冊北村薫 17冊倉橋由美子 16冊 桜木紫乃 17冊瀬戸内晴美 16冊曾野綾子 20冊ドロシー・L・セイヤーズ 16冊田辺聖子 18冊葉室麟 17冊三島由紀夫 18冊宮部みゆき 16冊山崎豊子 18冊21~30冊 司馬遼太郎 23冊夏目漱石 23冊藤沢周平 22冊モンゴメリー 24冊31~40冊桐野夏生 37冊41~50冊山本周五郎 43冊 (すべて読んだはず)51~池波正太郎 55冊アガサ・クリスティー 57冊 (ポアロものなどに未読作品がまだある)松本清張 80冊早世され、生涯作品が限定される作家もあるし、書きまくり大量生産型の作家の作品に、わたしがつい波に乗ったのもあり、一概には比べられないけど、こんなところ。でも、面白いなあ、大好きな作品の作家を、必ずしも多く読んでいるとは限らないことがわかったのだ。今度は好きな作品を調べてみようかな。今年の冬はベランダ花壇で楽しんでいます
2022年02月11日
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『リビング』重松清おかしな言い方ですが、安心して読めましたよ。夫婦や家族の諸問題、あるいはゆくたてを、平明で運びが矛盾なく描かれていて、なんてうまい作家さん、と今さら感心しながらね。小説の主人公たち登場人物は、翻弄され真剣に悩み生きているのですけど。だからこそ著書も多く、いつも本屋さんに山積み、つまり(よく売れて)よく読まれているのですね。この作品は芥川賞の『ビタミンF』と同じころということですので、わたしが横目で見ているうちに、どのように進化されているのでしょうかと気にもなりました。ミステリアスな作品、熱狂するような嚙み応えのある作品、回りくどいような重厚な作品好みのわたくしですが、寄る年波でそれが疲れるというか、敵わないなあという心地もするこれからは、重松清ワールドもいいかなって、勝手ながらに思いました。
2022年02月09日
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『奴隷小説』桐野夏生文庫本になってから読む利点は解説があるから、それがいいのか、邪魔なのか。この文庫版の政治学者白井聡の解説は、なるほどなあと思う。桐野夏生さんの作品が現代の(平成の)新しいプロレタリア文学ではないか、というところはおもしろい。ここに集められている7短編は、何かに隷属させられて藻掻くか、打ち破れる人間たちだ。現代見聞きするありがちな事情あり、昔の時代にさかのぼったのや、もっとおとぎ話的なのもあるが、それぞれが救われないどうしようもない状態なのは一緒で、作者は怒りに満ちて描いている。デストピアの世界といっても、人間たちが構成している世界だから、そこに矛盾が生じるのは当たり前、前向きに、個人の努力で、なんて言うのんきさからくる希望のかけらもないのである。作者の小説はいつも「放っぽりぱなし」の結びなのだが、ことさらこの短編たちは途切れて、漂ってしまうようだ、令和の世に。
2022年02月08日
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『あひる』今村夏子「あひる」を読んで親と子の関係は、そんなものだとつよく納得。アヒルを飼っていると、珍しいのか近所の子供たちが集まってくるのが楽しい両親。運悪くアヒルが死んでしまったら、すぐに代わりのアヒルを用意してしまい、何食わぬ顔で子供たちと遊び楽しむ両親。それを傍から冷静に見ている、資格取得中居候娘との関係が、なんとなくよそよそしくなるのもしかたがない。親子が暗黙の了解をし親子を演じているようだ。童話のような平明な文脈から立ち上ってくる怖さのようなものを感じるのは、親子関係も年月とともに変化していくのは自然、いつまでもひなを可愛がる親はどうなんだろう、とこういう読み方。「おばあちゃんの家」「森の兄弟」の連作も大人になってから子供時代の真相が「ああそうだったのか」とわかってくる、やはりぞわっとするお話。しかし、作者の心地よい文章は、なにげないようでいてすごい筆力。
2022年02月06日
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『父と私の桜尾通り商店街』今村夏子ざわつくもののざわめきが絶え間なく聴こえる世界。作者3冊目なのですが、特にこの短編の集まりを次々と読み進むうちに、だんだんと定評になって来てしまいました。人々の暮らし、日常の何気ない生活に潜む段落。くるりとひっくり返ってしまう情景の描写。読み終わると誰もが脳内にそれを自覚しているものなのじゃないかと、思ってぞわっとするのだ。作者が何処へ向かうのか、どう表象するのか、ますます興味惹かれます。
2022年02月04日
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『星の子』今村夏子ちいちゃんは小さい頃体が弱くて、両親は育てるのに苦労したという。湿疹で痒くて夜中に泣き止まないちいちゃん。夜泣きは続き両親は困り果て一緒泣いてしまうくらい。父親はの会社の同僚に悩みを打ち明けたの。そうしたらそれはお水が悪いと。聖なる「お水」を勧められ、それで身体を清め拭くといいと。もらってきて、拭いてあげてそして何か月かが経ち、湿疹が治り、あれよあれよという間に元気になったちいちゃん。大喜びの両親はお水のとりこになり、会からお水を買い、食料を買い、すっかり生活を会に頼るようになったのでした。ちいちゃんの両親はいい人たちなんだけど、これはなかなか悩ましいことよね。両親がそうでも親類やこどもたちまでが一緒に信じるとは限りません。ちいちゃんが成長していく中で、いろいろ事件が起こります。疑問を感じながらもお父さんとお母さんから、離れられない中学生のやさしいちいちゃんの愛と哀しみ。と、作者の筆は滑らかに、なめらかに優しいまなざしで語っています。そうです、傍から見ればわかりますね。そんなひとが知り合いにいるからわかるんです。ほんとにいい人たちなんですよ。
2022年01月29日
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『ゴルディアスの結び目』小松左京SFというより哲学小説、とても興深い作品。作者は渾身の力を込めている。「岬にて」孤島の岬で人生の終盤を迎える人々の姿に、宇宙とのつながりを見られるのか。「ゴルディアスの結び目」恐ろしいほどねじれてしまった心の闇、その固く複雑な結び目をほどくにはどうするのか、時間をかけてほどいていくのか、刃物で断ち切ってしまうのか。そこも宇宙のひとつなら、行ってみるしかない。「すぺるむ・さぴえんすの冒険」全地球の人々の生命を犠牲にすれば、絶対一人に授けるという「宇宙とは何かの悟り」どちらを選ぶのか、するとどうなっていくのか。「あなろぐ・らう”」人間に備わっていると思われる「実在意識」はどこから来たのか?宇宙からなのか。茫漠広大な宇宙の中の銀河系の中ののひとつ太陽系にある地球がいずれ滅びるとき。この最後の章のカップルの様子と景色の描写が美しい。しばらくおいて再読することにしたい。
2022年01月27日
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『むらさきのスカートの女』今村夏子むむむ、文章うま!すらすらっと読めてしまった。このごろの新進作家の文章は読み始め(あくまでわたしが)読み滞るような気がするのだから。しかし、ストーリー展開はすらすらとはいかない。「なに、これ!?」だいたい「むらさきのスカート」が「むらさきのストーカー」と読めてしまう困惑。わたしとて常識ガチガチの人間ではない。けれども得体の知れない行動にそうのは難しい。なんなんだ、なんなんだ?と読み進むうちに、やがてやって来る、じんわりとした寂しさ、人恋しさ。「むらさきのスカートの女」さん「黄色いカーデガンの女」さんお元気ですか?
2022年01月26日
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『アクロイド殺し』アガサ・クリスティー山田風太郎『戦中派闇市日記』を読んでいて、昭和22年5月30日の箇所にクリスティーの『アクロイド殺し』を読んだ感想があり、昔読んだがすっかりストリーを忘れていたので、この箇所の日記を味わうには必須、と急遽再読した。まず、クリスティーの作品は忘れているといっても、わたしも謎解き慣れしているので(長年ミステリーを読んでいるので)、すぐにネタがわかってしまい、ちょっと肩透かしをされたようで残念。きっと昔に読んだときにはだまされたのかも(忘れましたが 笑)そして風太郎の日記を読んだのですが、彼の感想も厳しめでしたね。さすすがはイギリスでも賛否両論、喧々諤々、フェアかアンフェアかの問題作だったのだと、納得でした。
2022年01月25日
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『坂下あたると、しじょうの宇宙』町屋良平文学のジャンル中で詩が苦手なわたくしは、厳粛な気持ちで読みまして、やっぱりわからなくなりましたけど。高校生たちの4人の友情(恋愛感情)はとてもよく描かれて、これぞ現代のライトノベル風傑作だと、いえ、ラノベをそんなに知りませんが(無責任だ)つまりそこはすらすらとおもしろく、自分たちをしか見ていない高校二年生の文学志向たちの青春は、微苦笑を誘い好もしい。世界を成立させているもののほとんどを、いつもは気にとめていない。ほとんどの事物に関して人間は無頓着で大人になる。文学とか詩とかもそうなのかな、・・・(P87)そんな若さがヴァージニア・ウルフを読んで批評して、人生すべてわかったつもり。でも、わかるなあ(笑)さて、現代は小説を書く、詩を書くのはパソコンで入力ソフトを使い、ウエブサイト上に発表も当たり前、そこにAIがかかわってきてという展開は、真面目な小説執筆や詩作をコケにしてしまうのか、というスリルもあって「しじょうの宇宙」の詩情はどうなってしまうのか。思うんだけどこうして感想メモしていて、これも入力ソフト、言葉選びにけっこうAI入って来て、なんか打たされてる感じがあるんだなあと。でも、この便利さは手放せないし、ほんと、どうなって行くんでしょう、文学。
2022年01月20日
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『羊は安らかに草を食み』宇佐美まこと俳句仲間の86、80、77歳の「老婆3人旅」今どきありそうな話ですね。だだし番年長の益恵は認知症、80のアイは高血圧症と腰痛ひざ痛、77の若い(?)富士子は大量の薬を飲まなければならない病気持ち、仲良しが気楽な旅行をしに行くわけではない。と、すべりだしがうまい!興味そそられます。登場人物のひとこまひとこまの行動がさりげない描写なんですが、生き生きしているのです。好感をもちましたね。行く先も大津、松山、長崎の海は離れ島と、広範囲。その土地、土地は認知症の益恵が人生を送ったところですが、何があったんだろうか?とますますミステリアスです。訪ねた土地で益恵の知人に再会し、そして益恵の自費出版の句集から俳句がとりだされ、物語が進み益恵の過去が明らかになって行くのです。満蒙開拓団家族の子供としての体験。益恵の満蒙引き上げの物語は聞き知っているつもりでも、改めて考え込まされます。戦後生まれの作者は参考文献にて書き上げたと思われますが、繰り返し小説にして戦争の負の部分を明らかにしないといけないことですね。物語は旅の道連れの富士子やアイの過去事情も明かされ、3人に忍び寄ってくる老いが切ないのですが、しかし、そこは強靭な婆たち、驚く結末になります。ミステリー部分は弱い気がしますが、人生の酸いも甘いも嚙み分けた言ってみれば強い老婆たち(作者がはっきり命名してる)の描写力は素晴らしいですね。乞う期待の作家さんです。
2022年01月15日
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『播州平野』宮本百合子『伸子』『二つの庭』に続けて「作者分身」の歩みをたどる作品。小説は「ひろ子」(作者分身)が、網走に収監されている思想犯の夫の近くに行こうと、北海道に渡るため福島の弟の家でその機会を待ちながら、1945年8月15日をむかえ、天皇のラジオ放送を聴くところから始まる。戦争が終わったと喜びに沸くのではなく「その時村中が寂莫として音無し」という描写があり、さそぞかし複雑な気持ちだったろうと、わたしのように当時幼児だった者にとって臨場感を感じる。「無条件降伏」の占領下でどうなっていくのか、ひろ子が夫のためにどう行動するのか。もちろん事実(宮本顕治と百合子)は周知のことだからそれを頭に入れて読むのだが。終戦直後の混乱状況の中で、「ひろ子」と周りの家族や知り合いたちがどんな風に暮らしたか、ごくごく庶民的な日常の様子には、資料として目が見開かれる思い。夫の実家を訪ねるため、当時女性が群馬県から山口県まで列車に乗って旅をする描写は圧巻だ。人がぶら下がって走るあの混みようの列車はわたしたち古い映像で見るが、実際列車が途中で止まってしまうのは当たり前、一駅を歩いたり、宿に泊まったりで乗り継いでいくのだが、臨機応変交渉次第で、たくましく生きた人々の姿に感心する。戦後すぐ(1945年の秋!)の焼け野原のなかを列車が動いているというのもびっくりだ。旅の道ずれの人々の姿(物資不足の貧しい姿や戦傷者)の描写もリアル、暢気さもあるけれども、現実の厳しさ、そして辛辣さもありでおもしろいというか、読みごたえがある。ひとりの女性が自立して生きていくだけではなく、精神的に自律していく過程が『播州平野』の主題、同時に人間としての矜持、その屹立に感動する。作者が文学として表す人間への洞察力はさすが、文章は平明なんだけど。
2022年01月09日
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『馬を売る女』松本清張「馬を売る女」「式場の微笑」「駆ける男」「山峡の湯村」の4編娯楽読み物ミステリー、となると清張さんかクリスティーというのがわたしのお定まり。これは読んでないぞ、と暮れに本屋さんで手に取った文庫本。ちょっと贅沢な(余裕の=無駄な)選択でしたか。というのはこれらは清張さんが60代の終わりのごろの作で、この頃から古代史関係の作品に移行しつつあった時代ということで、まあ、清張味満載ではありますが、普通の味、気が抜けているような感じは仕方がない。ひとつ「式場の微笑」は味があり期待通りだったが、これは前に宮部みゆきコレクションで読んでます。ま、忘れてしまっていましたけど。でも、お正月ですからゆとりで…。
2022年01月07日
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なんでこう毎日が忙しいんだろう?とぼやいていたら、同い年友人の年賀状に「私達もう傘寿を迎えてしまいましたネ 1年が早い!!」とあり「おんなじだ!!」と笑ってしまいましたなぜって早い1年は、早く過ぎ去る1日の重なりなりですなんのことはない動作がゆっくりになって日々の暮らしのタツキがはかばかしく進んで行かないんですね特にコロナ以降は朝食が済んだら、昼食、お茶したと思ったら夕食の支度時間になり、食べたらあっという間にお風呂の時間で病院の消灯時間並みの就寝そして、その間に名もない家事やら本読んで、ブログをアップして…つまり全てにおいて、ちゃっちゃと出来なくなったというわけで若いときの「1年が早い」とは違うんだってば!去年のオリンピック ブルーインパルス ベランダ(5F)から今日いま、このベランダの外は雪降りしきり、白い景色です*****追記東京では珍しい、4年ぶりの大雪になりましたこういう時、家から出る必要ない身にはありがたいことになります2018年の東京大雪の時は用事があって東京にいて、朝外出20㎝の積雪(雪解け状態だった)にブーツがはまり、ぐしょぐしょなって難儀しました雪になれている土地からしたら、大げさだけど明日は最大の注意ですねビル群が見えなくなりました
2022年01月06日
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『からくり写楽』野口卓特徴ある浮世絵デフォルメ満載の「役者絵」の作者「写楽」が何者か、謎に包まれていたのですね。その謎を逆手に取って、謎をますます深めたフィクションです。江戸時代中期、「出版社」の蔦屋重三郎がある人の絵の芸術性に惚れ込んで、役者絵を描かせて売り出そうと画策しました。その人とは身分高き元藩主。江戸時代、お殿様の趣味となれば、匿名希望はもちろん、プロ意識はどうだろうかとか、身分への遠慮など障害がたくさんあったでしょうけど、側近を巻き込んで「東洲斎写楽」という名で世に出そうとします。果たして成功するのか、という趣向です。これは浮世絵の話ですが「読み物」とて同じでしょう。趣味が高じだ人の作品を売りに出すのはリスクを伴います、並大抵ではありません。浮世絵や江戸時代の出版事情(版画ですもんね)が作者の豊富な知識の語りで解ったり、物語の謎と駆け引きがなかなか面白かったです。ちょっと説明が饒舌すぎたところもありますが。ある作品が売れ、もてはやされるか、真に芸術的価値があるもか、興味尽きないものです。時代を経てしまうと作者が誰だろうと、作品が光っていれば永遠に残っていくものだなあと思いました。*****あけましておめでとうございますいつもこの拙いブログを読んでくださりありがとうございますことしも相変わらず、読んでは感想メモをアップしていきたいと思っております時々めんどくさくなる時がありますがそれこそ「それが老いなのだ」と鞭打っていきたいですねどうぞよろしくお願いいたします
2022年01月02日
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コロナパンデミック2年目が過ぎゆきます。旅行無し用事のみ外出以外おさえるという居宅生活において、読書好きというのはむしろ良いのか。家の中の用事が増えてしまい、時間があるようでないのですけどもね。というわけで、年間68冊(上下巻もいれて)でした。わたしの独断で部門別オススメ年間ベスト・スリーを作ってみました。大作の部では『血脈上中下』佐藤愛子(文春文庫)『シンセミア上下』阿部和重(講談社文庫)『怒りの葡萄上下』スタインベック(新潮文庫)思い出のほんわか再読は『秘密の花園』バーネット(新潮文庫)『浜田廣介童話集』(世界文化社)名作は何度でも再読の価値あり『日本婦道記』山本周五郎(新潮文庫)『復活の日』小松左京(角川文庫)『濹東綺譚』永井荷風(新潮文庫)サスペンスミステリシリーズは『子供たちはどこにいる』メアリ・H・クラーク(新潮文庫)『揺りかごが落ちる』メアリ・H・クラーク(新潮文庫)『冷血上下』高村薫(新潮文庫)啓発された本は『私のスイス』犬養道子(中央公論社)『アンネの日記』アンネ・フランク(文藝春秋)『挑発する少女小説』斎藤美奈子(河出新書)クスリと笑ったのは『終わった人』内館牧子(講談社文庫)『すぐ死ぬんだから』内館牧子(講談社文庫)『カクテル・ウェイトレス』ジェームス・M・ケイン(新潮文庫)初読みの期待作家作品は『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ(新潮文庫)『乳と卵』川上未映子(文春文庫)『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』松田青子(中央公論社)なお、68冊中14冊が再読でした。繰り返し読むのも好きなんです♪
2021年12月29日
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『カクテル・ウェイトレス』ジェームス・M・ケインうーむ、再読してみればわかる、奥深さ過去(2014年12月)の感想はこうだったカバーの絵がキュートなジェームス・M・ケインの小説有名なベストセラー『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を初読なるほど生きのいい面白さ!ところがケインの幻の遺作というので一緒に購入した『カクテル・ウエイトレス』がなんとも面白い子持ちのうら若き未亡人が初老の富豪に見初められておさだまり、貧乏なハンサム青年にも心惹かれさてどうすのるか?っていう通俗が、あら、あら、あーららなまなかな女ではないのよね、でも、最後が...という簡便な感想だったが再読してみると、奥深いメッセージがわかってくる。DV夫が酔った末自動車事故で死んで、幼子と無一文で残された21歳のジョーン・メドフォードは、恵まれた容姿(すらりとした脚、金髪碧眼)を生かして、カクテル・ウェイトレスをすることにハンサム貧乏青年や初老の富豪に巡り合う機会があるのは当然、ハンサムに惹かれ、見るもの嫌なのにそのお金持ち老人に屈服してしまうその展開はさもありなん。さて、どうするのか、手に汗握る展開なんだけれど、ヒロインが語ることによって味わいあり秘密めく。計算高い利口な女が揺動し、聖女(ぶってるのか)の品性が明滅するようでいて、とんでもない悪女か?賢い女性の品格もほのあるような、最後まで分からない、そのミステリーアスなところ、女性は少なからず、こういうところがあるのだ、と言っていい。
2021年12月25日
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『揺りかごが落ちる』メアリ・H・クラークメアリ・H・クラークの傑作3作品と思う、再読シリーズ、最後の一冊。ケイティ・ディメイオはヴァリー郡の検事補で、日々起こる犯罪の刑罰に力を注いでいるのですが、新婚間もなく愛する夫をガンで亡くし後精神的に不安定、さらに月経過多による貧血めまいなどの身体的ダメージもあり、力量が発揮できません。その治療のために手術もしてもらうウェストレイク産婦人科病院での鬼気迫る描写がすごいのです。次々と殺人が起こり、独善的な産科の医師が犯人とわかっているのですが、ヒロインの貧血とめまいと痛みを読者も一緒に感じてしまうほどの痛みを伴うサスペンスです。と、記憶していたのですが、今回読んでヒロイン・ケイティがあまりにも弱弱しく思われ、その後の女性ヒーローもの(例えばパトリシア・コーンウェル『検屍官』のスカーペッタなど)の強さに慣れてしまってきているので、拍子抜けしてしまったのもほんとう。しかし、一時期サスペンスミステリを凌駕したことは事実ですよね。
2021年12月20日
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『濹東綺譚』永井荷風昭和初めころの向島、お雪という身をひさぐ女性に惹かれる「わたくし」という小説家が、出会いから別れるまでを詩情豊かに描く。と、いくら文学的に言っても、映画となると扇情的。山本富士子さん出演のポスターも、小説から受ける雰囲気とはめっぽう違うなあ、とネット検索してて思う。そしてまだ行ってないスカイツリーにのぼってみながら、想いを馳せてもいいかな、と不埒な考えも。そう、描写されている当時廃線になった東武鉄道の「玉ノ井駅」あたりは、今やスカイツリーラインの「東向島駅」の辺らしい。そんな無粋なことはさておき、江戸情緒好きでフランス帰りの洒落者が、枯れたような枯れないような風情でお雪のもとへ通う夏から秋にかけてを、情味豊かな詩的文脈を楽しめばいい。
2021年12月15日
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『吶喊』魯迅(『魯迅作品集 1』竹内 好訳 筑摩書房1966年発行より)「自序」「狂人日記」「孔乙巳」「薬」「明日」「小さな出来事」「髪の話」「風波」「故郷」「阿Q正伝」「端午の季節」「白光」「兎と猫」「あひるの喜劇」「宮芝居」の14短編が収めてある昔、教科書で習ったのは「狂人日記」「阿Q正伝」魯迅が漢方医学に疑問を感じ日本に留学、医学を目指していたのが、なぜ文学に道を変えたのか、という「自序」に始まり、「自国の窮状を憂え、なんとかしたい」というような短編が、冷静な描写だが叫びの迸るような作品群になっている。中でも中編「阿Q正伝」の内容は、現代のデストピア小説にも通じるものがあっておもしろい。たしかトルストイの民話風の作品にも、短いのがあった気がする。短絡的かもしれないが両雄とも、小説の気風として大陸的なものを感じる。悲惨だけれどもおかしみがあるようなところが。光文社文庫新訳(「明日」「髪の話」「風波」「白光」「宮芝居」はない)
2021年12月12日
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『シンセミア』阿部和重実際に存在する山形は東根市の神町を舞台に、信じられないくらいの登場人物の多さに(解説によると60名だそう)入り組んだ相関関係を、戦後の混乱期から現代まで、町史的に描いているフィクション。構成も年代記であっても、ただ年代を追っているのではなくて、手法が凝らしてあるのもよい。ところどころ臭気ふんぷんの場面が参るし、そんなのありか?という漫画的なドタバタ展開があるが、それが妙味になり、効いてきておもしろくてやがて深く考えさせられる。なるほど現代はそういう戦後のどさくさの上に成り立っているのだと。この町の創造の出来事は架空であって架空でない、日本中がそうなんだ、今でも、と言うような。上下巻合わせて1000ページ、ぴっしりと活字が並んでいるけど、文章は平易。長編の世界文学を(例えば『カラマーゾフの兄弟』など)スイスイ読んでいた高校時代を思い出した既視感。こういう作品が世界に通じる文学じゃないかと思う。解説によるとフランス語には訳されて好評だったとか。ノーベル文学賞が目的ではなくても、英語訳は必須アイテムなんだね。
2021年12月11日
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『シンセミア(上)』阿部和重やっと巡り合えた気がする、インタレストな日本の小説。つねづね日本には19世紀ヨーロッパの近代文学的な、例えばフランスのゾラ、バルザックそしてユゴーの書いたような小説がないのか?と思っていた。ロシア帝国時代のドストエフスキーやトルストイのような重厚粘着質な小説もないなあ、と(わたしの浅学かもしれないが、知る限り)残念に思っていた。そう、時代と土地と人間群像を俯瞰した小説。その人物に深く入りこんで、冷徹に描いているのだけどその実客観性が色濃く、外側から見ているようでいてその人物に執着したような描き方の小説。わたしが好きな桐野夏生さんの小説がそういうところあるとは思っている。けれども阿部和重さんの小説のように重層構造ではなく、時代や人間を俯瞰したようではない。もちろん作風なのでいいわるいではない。まだ上巻読了だけなので感想完了ではないが、年代記的なおもしろさと人間模様がエネルギッシュに描かれているし、土地の歴史と時代のなせるわざと人間の雑駁なバカらしさとが満載でおもしろい。
2021年12月06日
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『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ偉そうにいうと、すごい作家が現れた!わたしが遅れただけで、知る人は知っていたのね。解説にもあるけれど構成力といい、文章力といい素晴らしい。オムニバス形式短編と言ってしまうには、そのつながりがドキリとする。こんぐらがった糸の塊をほぐすような感じ、わたしとしては好きなシチュエーション。今、生き生きとしている情景なのに昔語りのような。つまり、もういちど若き日を生き直すような。熱帯魚がこんな触媒をするとは!
2021年11月29日
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『ふたりぐらし』桜木紫乃桜木紫乃節と言いたい、きらりと光る文が、りばめられた連続短編集。言葉のあや(とり)に心地よくくすぐられるような、あやされるような、うまいんですね。主人公たちの「ふたり」夫婦も、その親たちの「ふたり」夫婦も、ご近所の、職場の夫婦の「ふたり」も日常はいろいろ事情が様々なんですよ。そこから教訓を得ようが、等身大と思おうが、何気なく安心してしまおうがいいんです。どちら様もおなじ、夫婦は所詮他人と思えば、大概のことは過ぎていく。突き放しているわけではなく、「ひとりぐらし」も「自立心をもって、頑張って、大丈夫!」と自信満々大きな声で言えないときがあるでしょう。
2021年11月26日
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『仇討検校』乾緑郎読まなければ知らなかった歴史上の実在人物も、空想と創造によって物語にされると、わかったような気がしてきておもしろい。菅鍼法(鍼を管に通して打つ)というのを編み出して有名な(当然知らなかったけど)杉山和一(杉山検校)という盲目の鍼灸師の一生を描いているのだが、伝記的に描いてはつまらなかっただろう。その人物はある時ある事情から別人にすり替わっている、という物語にしてしまったのだ。そしてそのすり替わった人物柘植定十郎は、目が健常なのだからまたまた複雑になる。目が見えていて白い杖を突いて、胡散臭いのだけど、鍼灸の修行を成し遂げ、開業して人気が出て将軍まで診てしまう出世街道まっしぐら。それだけでなく、勝新太郎も真っ青な仇討活劇と運命とに翻弄されるストーリー展開。ところでわたしは鍼・灸・指圧が苦手というか、その効果を信じていないところがあるが、ちょっと考え直した。この作者が鍼灸師の資格をお持ちで、このような小説を創るその情熱が伝わってくるので。
2021年11月21日
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ベストセラーの『終わった人』失礼ながら意外とおもしろくてためになってスカッとしましたよ。さすがは売れている脚本家、うまいストーリー展開です。一昔前は田辺聖子さんの『姥ざかり』がおもしろうて斬新と思い、今は内館牧子さんのこれですね。そして『終わった人』を終わったら、これをすぐ読みたくなるんだから、というわけで。『すぐ死ぬんだから』今度は主人公が女性版。でも、夫婦間のやり取りは健在なり。そしてファッショナブル&ミステリアス。うーむ、鋭い、うまい。二匹目のどじょうは完全に居ましたわ。
2021年11月18日
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『梟の来る庭』野口卓現代ぽい会話なのに話題は江戸時代。しかもユーモアのセンス抜群かつシニカル。さながら江戸の「かわら版」「戯作」はこうだった?それとも講談本?クスリとさせる会話多々。ホロリ、ジーンとなる場面も忘れていない。主人公信吾の「よろず相談屋」波乃と結婚して「めおと相談屋」シリーズ物の最新版。キャッチフレーズの「どこから読んでもOK」は本当。短編4つ。特に表題作「梟が来る庭」はお江戸の趣味世界「鳥」シリーズになっていて博覧強記。土地勘(江戸切絵図参照)、料理献立、神社仏閣、行儀作法、階級論、恋愛論と盛りだくさんなのに嫌味がないんだなあ。「蚤の涎」は痛快だった、ほんとすっきりした。「泣いた塑像」の最後モトさんに贈った百人一首は次作で明かされるのかな、なんて期待している。
2021年11月10日
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『鎌倉殿争乱』菊池仁【編】平家を倒して鎌倉に幕府を立てた源頼朝亡き後の権力抗争をに題材をとった短編集。安西篤子、内村幹子、桜田晋也、篠綾子、高橋直樹、新田次郎の各氏短編が選ばれている。来年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の前宣伝の本らしい、まあ、ミーハーって言われてもしょうがないが、収録されてあるそれぞれの短編は、読みごたえのあるなかなかのものでした。ある人物が成し遂げた権力機構を引き継ぐのは、いつの時代の世界のどこであろうと血みどろの戦いになる、人間の我執はすさまじく恐ろしい。小説という創造もあるだろうが、あぶり出される臨場感あふれる鎌倉争乱。親子兄弟だろうと、親戚だろうと智謀の限りを尽くし殺し合う、心底気持ち悪くなりながら読みました。歴史小説ってこんなだっけ、剣劇のある時代小説が生ぬるいなと感じました。歴史小説といわゆる時代物とを、どこで区別をするのか?例えば吉川英治『新平家物語』は歴史小説で、『宮本武蔵』は時代物なのかしら。歴史事実といわれているものを小説というかたちで創作して、こんなにも読ませるのは鎌倉時代だからこそか?筆者たちが素晴らしいのか?と思いつつ。
2021年11月09日
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『江戸切絵図散歩』池波正太郎(平成元年発行)東京が江戸だった頃を江戸時代の区分版画図を見ながら、失われた景観やものに思いめぐらす、東京が昭和だった頃の作家散歩録。そう、その昭和だったころから平成30年も過ぎて令和にいたり、ますます変わってしまう東京を感じながら読んだ。池波氏が江戸なら、わたしは昭和の東京を懐かしむ。個人経営の商店街が住宅地になり、ちょっと大きい家は更地になり分割されて小さな三階建て、大きい通り沿いには10階以上の小マンションか、物凄い階数のタワーマンションが出来上がっていく街の変化を見ていると、昔どんな景色だったか思い出せなくなる。そうは言っても自分を振り返れば、高齢者となって自立した生活をするには都会の方がしやすいなどと、それぞれの事情があって集まってしまうのだから、住居も増えるのだろう。嘆けばいいというものでもない。結局、池波正太郎氏の『剣客商売』『鬼平犯科帳』などの創作種本はこれだったのだと納得し、そういえば『仕掛人・藤枝梅安』はまだ読んでいなかったなと。
2021年10月31日
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『さよなら ドビュッシー』中山七里あーあ、この本を読んでいれば中学の音楽授業「クラシック曲を聴いて情景・感想を述べよ」がいい成績に…、なんていけませんね。例えばドビュッシーの「月光」への、言葉の氾濫のような音曲の静寂かつ流麗な、感性を駆使した文章に驚かされました。もうひとつ、所々にさしはさまれる哲学的な人間洞察は「うん、うん」とうなずいてしまいますね。それに加わってミステリーです、推理ゲームです。ま、謎解きの方はすぐわかってしまう嫌な予感が的中だったのですが。しかし、さすがに「このミステリーがすごい」大賞で作者登場作品、濃厚です。わたしはウイキペディアの作家紹介文がとても面白かったので、まず手に取ったのがこの本でした。
2021年10月30日
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『生き上手 死に上手』遠藤周作随時集は短文の集まりでも、その作家なり人となりがにじみでるのだけれど、この集はちゃんと人生論になって、上手く一冊の本にまとめられている。作家があちらこちらにお書きになるとき、そうしようとてその意識がおありだったのかも。老年というのはふしぎなもので若い折の肉体や壮年時代の知性はたしかにおとろえていくが、ある種の触覚・感覚はとぎすまされていく。そのとぎすまされていく間隔をシュタイナーは次なる世界への媒介感覚といった。氏60代ころの文だけど、わたしの年齢でちょうどいい、よくわかる。としをとるほど見えてくる、もう一つの世界への旅立ちの準備。「自分の救いは自分のなかにある」「余白のなかの完成」「生活の挫折は人生のプラス」「よく学び よく遊ぶ」「すべてのものには時季がある」目次を並べればなるほど、ごもっとも、なにしろ文章がうまいから。氏ほど病に苦しまず、世間にも知られていないけど、この心境は共感できる。「死ぬときは死ぬがよし(良寛)」の言葉がお好きだそう。
2021年10月24日
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『せき越えぬ』西條奈加箱根関所をめぐる人間模様という時代物を読んだ。しかも、作者はついこの前に『心淋し川』で直木賞を受賞なさった西條奈加さんです。箱根の関所は幕府管轄とはいえ小田原藩に丸投げだったのです。そりゃそう、箱根峠は小田原しか登れない。そこで小田原藩の上級・下級武士たちが関所の役目につくのですが、組織有ればパワハラあり、仲間意識もうまれてくる。若き青年「武藤一之介(たけとういちのすけ=ぶいち)」は熱きこころもて親友との交流に、初恋のやるせなさに身をゆだね、日々悩みながら成長していくのだった。筆運びよし、いろいろよく調べてあって、はぎれがいいですね。『せき越えぬ』の意味深だこと!小さな章立ての「凉暮れ撫子(すずくれなでしこ)」なんて逸品。
2021年10月19日
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小松左京『復活の日』が話題に…、実は映画化されたとき観てるし、その頃に本の方も読んでいる。でも、ほとんど忘れていたので30年ぶりに。SFとしての迫力空想が売りなのに、今は切実になってしまってるところが何と言うか…。ウイルスや細菌などの化学的なこともよく調べて詳しく描かれてあるのは、前ならちんぷんかんぷんで飛ばし読みしていたと思うが、今や違和感なくよくわかるようなのがちょっと怖い。小説のおもしろさはもちろんだが、作者の述べたかった思索、哲学的な部分も奥深く、メッセージも厚みのある力作。1964年(半世紀以上前だ!)に書かれたとは思えないというか、空想予言力に満ちていて、読み継がれているわけだ。
2021年10月13日
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10年ぶりにバーネット『秘密の花園』子供の頃は村岡花子訳を、10年前は光文社古典新訳文庫の土屋京子訳、今度は新潮文庫の黒柳和代訳。12歳の時からの長い付き合いだけど、何度読んでも奥深さがある。両親が亡くなって義理の伯父に引き取られるメアリ。インドとはまるで違う本土イギリスへ。暗鬱で荒涼としたヒースばかりの野中に建つ古いお屋敷へ住むことに…そうして見つけた秘密の花園。そう、読む少女たちにとっては秘密がワクワクドキドキ請け合い。まして可愛くない性格がゆがんでる、っていうこのヒロインですから興味そそられ、そうして輪をかけたわがまま少年コリンが登場してくるので、面白くなってくる。まるでコリンが主人公のような雰囲気。ところが野性的で植物や動物に対する知識豊富さや、おおらかさ、優しさあふれるディコンという少年が、間に入っていろいろ進展する、彼が主人公なのか?彼のその魔法的な性格は、生い立ち、貧しい大家族、それを束ねる彼のお母さんからの影響らしい。また、登場人物皆が尊敬し、いろいろ影響を受ける、そのおっかさんの「スーザン・サワビー」が素晴らしい。この人こそヒロイン、作者の分身なのだとわかった今回の再読。
2021年10月07日
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『日本アパッチ族』(小松左京)まずこの表紙絵に度肝を抜かれた。鉄色のアパッチ人みたいなのが腰かけた洋便器からパチンコ玉みたいなもの(鉄)が流れて・・・印象は気持ち悪い。けれども読み進むとそれが思いもかけない展開でだんだん面白くなってくるのだ。警察に失業罪(働かざる者食うべからずの社会か)という変な追放罪で広大な囲い地に放り出された主人公。そこは瓦礫累々の廃墟、人っ子一人いない。犬に食われそうになったりいろいろあって、もう野垂れ死にかと思いきや、アパッチ族という食鉄人(鉄を主食とする)に助けられ、仲間に入るところから始まるのであった。まあね、初めて鉄を食べるところの描写は、いい気持ちしないんだけど。それからの奇想天外のお話というより、現代社会機構の矛盾を突く運びにつれて、辛辣になってくるのが古びていないテーマなのだ。国家権力、マスコミの仕組み、民主主義の煩雑さ、裏社会、底辺の人々の抜け目なさ等々、筆運びはユーモアに富んだ掛け合いで、なかなかのもの。鉄がらみで、鉄の成分とか、鉄鋼業界とか、微に入り細を穿つ説明もわたしには半分しかわからなかったが、『日本沈没』より『復活の日』より前にかかれた初長編ということ、並び称される作品だと思う。
2021年10月01日
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辻堂魁さんの日暮し同心始末帖6、7『縁切り坂』と『父子の峠』この夏、ゆるく沸かしたふろ水にハマっている。汗の噴出した熱い肌に気持ちいいから。このシリーズもそんな風に読み進んでいる。背景を江戸時代にとっての平同心龍平の家庭生活は穏やかで平和だ。そして現代でもよく起こるような事件を担当する。例えば、娘が無謀な結婚に走った困惑する親とか、家庭内暴力に悩む妻の悩みや、詐欺にあって老夫婦を自殺に追い込む事件。そう、主人公の解決はクールではあるけれども、いったん家庭にかえればホッとするという仕掛け。ところが『父子の峠』は遂に自家に災難が、息子が誘拐されてしまうのだ。懊悩と憤怒は想像通り、解決するのだが。主人公龍平が得意の剣劇で決着をつけるその情景は凄絶なんだわ、むかし男友達に借りた白戸三平さんの漫画『カムイ外伝』などのすごい場面もどきを想像してしまう。いつも思う、穏やかな多くを語らない文面から「ぶわっ」と噴き出す汗を感じるのはなぜだろう?
2021年09月24日
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「日暮し同心始末帖」を1~5巻と読み進んでいる。「逃れ道」(5)のあらすじは日暮龍平の愛息俊太郎が、茶店で無頼にいじめられているのを救ってくれたお篠には、秘密めいたものが漂っていた。お篠にお礼を親子でして近しくなったものの、平同心で雑用係の龍平が、押し付けられた事件捜査にもかかわりがありそうな気配。絵師の夫と幸せに暮らしたい彼女の行く先には何が待ち受けているのか・・・。江戸情緒ならぬ現代にも通じる、ねじれにねじれた世の中の事情。そして、やがてスーパー龍平がばっさ、ばっさ(小野派一刀流)と悪退治。というパターンが健在なシリーズだけど、「天地の蛍」(4)の司馬中也と母の親子関係、「冬の風鈴」(3)の林(りん)と夫との夫婦関係、「花ふぶき」(2)の女義太夫姉妹(楓姉妹)と育ての親との関係。のそれぞれにしても現実の煩雑複雑な世間が彷彿されて、スーパー日暮龍平がこの世に居たらねえ、とため息をつくのであった。んなわけはなくて、粛々と前向きな気持ちを搔き立ててゆき、気晴らしにこれを読むのでいいか。
2021年09月17日
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このところ、読書感想やメモが少ないのは、読んでいるものが本ではないから。何を読んでいるかと言うと、わたしの過去の読書感想やメモを、なのだ。実は「ブクログ」というアプリに、この楽天ブログにアップした過去の読書データを転載している。当然読みながらの作業になる。なにしろこの楽天も長い(2003年の晩秋から)感想ブログ量もすごい、始めたころの今から思えば拙いブログだったり、おお、よく書いている、というのだったりおもしろいから、その作業に時間がかかるというわけ。たくさんの読了本を本箱に整理していたのを、東京へ腰を据えたきっかけに断捨離。けれども読んだ本を並べるという魅力を棄てることは辛い。本が本棚にあるという楽しみ、これは本好きならではの趣味。そこで見つけたブクログのアプリはバーチャルな本棚なのだ。なかよくできているアプリケーションだと思う。本の表紙写真があり、本のウエブ通販に連動しているから、新刊本や再版、改版、電子図書と進化していっている。過去の紙版もかなり網羅されているが、これからは紙の媒体がどうなるのか、わからない。そこで、わたしの読んだ本が紙の媒体から電子図書になってしまう前に、入れておこうとも思って急いでいることもある。スマホにもアプリがあるからいつでもわたしの読了本がわかる楽しみも増えた。読んでいない読みたい本も登録できるし、本の分類もできる。HPを作って自分の好きなように編集するのは大変な人に、ひとつのおすすめ。ブクログ「ばあチャルの本棚」わたしは「カテゴリ」を読んだ年代別に、「タグ」は作家名に分類しております。あと2003年の少しと2004年分の読了感想アップで作業が終わる予定。お借りしているこの画像!懐かしいこと
2021年09月14日
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小さな趣味の会の幹事をしている。先生90歳を囲んで、生徒の平均年齢は約78歳。幹事のわたしが80歳というなんというか、おそろしいような会なのだ。月2回のペースで集まっていた。コロナ感染症蔓延状況のため、今年に入って開いた会合は1月と4月のみ。まあ、仕方がないことだ。ワクチンが高齢者に行き渡ったことで、9月は集まってみた。もちろん変異株が次々と現れて不安定ではあるけれども黙ってやる作業だから、マスクをして、換気をして、人数も10人を超えないし、と。確かに、集まれば楽しいし、励みになる。でも平均78を考えると皆自身で不安を覚えるのも本当だ。「やはり、集まるのは控えようか」この9月は1回だけにしようとの意見がまとまる。それも仕方がない。だけれども、だけれども集まった皆さまたちのお顔を見て(自分の顔は見えないから言うが)なんというか、おそろしく疲れ気味の「孤独の痛み」に押しつぶされていってるのが、わかってしまうのだった。会えない、集えない、会食できない、旅行できないが「明日何か予定がある」ということを無くす。懸命なる趣味人たちだから、それなりに努力工夫はしているのだろうとは思う。それでもなお足りないものが出てきてしまうのだと深く心にとめた。
2021年09月09日
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優れた、読み継がれる時代小説は、その書かれた時代にシンクロ・フィットすると思っています。同時代に影響された思想や、ありたい世の中への希望や、そこはかとない懐かしみを盛り合わせて創造するのです。 山本周五郎の生真面目な剛直とまで言える精神(戦後復興期)、池波正太郎の洒脱さにくるまれた暖かい人間観察(高度経済成長期)、藤沢周平の哀愁こもった深い情緒(安定成長期)が今までのわたしをとらえました。 辻堂魁さんはまた、異なった方向から時代小説に切り取ってくれます。 北町奉行所平同心日暮さんの「事件簿」ではないのです。「始末帖」なのです。でてくる事件はありふれています、けれども事件を単に解決することだけではなく、収めどころが憎いのです。「悪いことは悪いばかりじゃない」「法に反しているがお目こぼしがあっていい」大げさに言えば多様性のように思えます。今の時代にとても必要なことですね。 3話収録してあるのですが、「序」の章もありましてそれが「親のしつけ」ですよ、現代における耳に痛い話じゃないですか、1話2話がそう。 (いまのところ)シリーズ7巻まであるので、いろいろの提起があるのではないかと思っております。 余談ですが、事件の舞台として江戸の町名が、うるさいくらい詳しく出てきます(よく調べてあります)。そりゃそうでしょう、江戸時代は歩くのが当たり前なんですから、人物が動けば、この町からあの町までとなる。 今では東京の街はすっかり郵便住所表示になってしまいましたけど、昭和時代、旧町名で成長したわたしなどにはとても、とても懐かしいものです。そういうところでも時代物はいいですね。
2021年08月16日
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子供のころ読んだいわゆる少女向きの小説はわたくしの「読書趣味」の原点であるし、いまだにその「少女小説」たちを読み返したい。でも、この年齢になってもそんなのは恥ずかしいのではないかと思ってもいるので、「ああ、それでもいいんだ」と認めてもらったようなのが、この斎藤美奈子さんの「少女小説」考察「あの名作には何が書かれていたのかー!?」です。取り上げてある「少女小説」は『小公女』『若草物語』『ハイジ』『赤毛のアン』『あしながおじさん』『秘密の花園』『大草原の小さな家』『二人のロッテ』『長くつ下のピッピ』はい全部読んでおります(という自慢?はさておき)わたしが魅力に取りつかれていたのは「こんなわけもあったのか」という示唆ですっきりしました。深く読む、一歩引いて見る、諧謔的な、皮肉な見方をしてみる、その小説の時代を見てみる、これこそ読書究極の魅力ですね。9章のタイトルは魔法使いと決別すること バーネット『小公女』男の子になりたいと思うこと オルコット『若草物語』資本主義で生きること シュピール『ハイジ』女の子らしさを肯定すること モンゴメリ『赤毛のアン』自分の部屋を持つこと ウェブスター『あしながおじさん』健康を取り戻すこと バーネット『秘密の花園』制約を乗り越えること ワイルダー『大草原の小さな家』冒険に踏み出すこと ケストナー『二人のロッテ』常識を逸脱すること リンドグレーン『長くつ下のピッピ』ちょっと意表をつかれますし、何が何だかわからないでしょうけどね。そして結論はこのように結んであります。シンデレラ物語を脱構築する 『小公女』異性愛至上主義に抵抗する 『若草物語』出稼ぎ少女に希望を与える 『ハイジ』生存をかけた就活小説だった 『赤毛のアン』初回改革の意思を秘めた 『あしながおじさん』肉体労働を通じて少女が少年を救う 『秘密の花園』父母の抑圧をラストで破る 『大草原の小さな家』正攻法の冒険小説だった 『二人のロッテ』世界一強い女の子の孤独を描いた 『長くつ下のピッピ』なんて現代的!考察を読むとおもしろくわかります。いつもながら斎藤さんの読み解きはユニーク、なかなかのもの。そうです、大人にも読み耐えられる小説たちだったのですね。
2021年08月12日
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