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みなさん、こんにちは。初の米朝会談が開かれますね。大ニュースです。さて今日もグレアム・グリーン作品を紹介します。事件の核心(ハヤカワepi文庫 グレアム・グリーン・セレクション)The Heart of the Matterグレアム・グリーン会計士として西アフリカの植民地にやってきたウィルソンに、スコービーが紹介される場面から物語は始まる。紹介といっても面と向かってのそれではなく、警察副署長であるスコービーが立場上「当然賄賂をもらっているだろう」と噂を聞かせるものだ。しかしこれは事実無根であり、実際のところシリア人で店を経営しているユーゼフから魅力的な誘いは何度も受けているにも関わらず、スコービーはなびかない。 意志強固な清廉潔白の士かと思われたが、彼もまた弱き葦である。「彼にとって家庭とは、さまざまなものを親しみやすく変わることなき最小限にまで削減することであるとすれば、彼女にとって家庭とは、蓄積することだった。」 とあるように、妻ルイーズとは娘キャロラインの死がなくても全く考えが異なっていた。ルイーズもまた地元の人達の間では自分が浮いていることを感じているのか、しきりに南アフリカに行きたいと訴える。しかし直近でルイーズが病気になり(精神的なものと思われるがはっきりとは書かれていない)金が要り用になったばかりで、賄賂を拒む彼に余分な金はない。妻にせっつかれて、スコービーはとうとう一線を越える。 ルイーズに恋しスコービーとユーゼフとの間を怪しむウィルソン、ルイーズの留守中にスコービーが出会った人妻ヘレン、思惑を持ってスコービーに近づくユーゼフ、スコービーを中心に人間模様が展開される。後から現れたヘレンが救いの神となり、てっきり男性一人に女性二人の三角関係が繰り広げられるのかと思ったが、本当のライヴァルは女性ではなかった。熱心なカソリックであるルイーズに訴えられながら、何度も告解を拒んできたスコービーは、無神論者のように見えて、神を最も信じ、怖れていた。人間の恋愛に神への信仰が絡む展開は、もう一つの名作『情事の終わり』を彷彿とさせる。日本人の感覚から見ると、神を信じない方がスコービーにとっては楽な生き方だったと思える。しかし例え厳しく罰せられたとしても、神が自分を見放すことは、カソリック教徒にとっては死よりも辛いことなのだろう。【はじめての方限定!一冊無料クーポンもれなくプレゼント】事件の核心 【電子書籍】[ グレアム・グリーン ]楽天Kobo電子書籍ストア
March 10, 2018
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みなさん、こんばんは。昨日は雨で寒かったですね。今夜からグレアム・グリーンの小説を紹介します。『第三の男』ほか映像化されている作品が多いですが、こちらも映画化されています。負けた者がみな貰う―グレアム・グリーン・セレクションLoser Takes All and Other Storiesハヤカワepi文庫さえない中年会計係のぼくと若い恋人のケアリーは、つましい結婚式を計画していた。ところが、勤め先の有力者の気まぐれな勧めにさからえず、高級リゾートのモンテ・カルロで式をあげることに。市長立会いの挙式、美しい海、そして豪華ヨットが待つ港町へむかったぼくたちだが、有力者GOM(Grand Old Man)氏は一向に現れない。 タイトルから想像されるのは賭けごとだろうが、ルーレットを回る玉のように、お互いの心がつかめず行き違ってしまう、結婚を控えた男女の心理ドラマがメインだ。「金があればなぁ」と序盤で冗談まじりに言っていたことがさて現実になってみると、お互いの心にわだかまりが生まれ、それが会話をぶつけあうことでどんどん無視できない大きさになっていく様が、軽妙な会話により描かれる。カジノよりもよほど先が見えない賭けの行方にハラハラ。丸谷才一さんの訳が、とてもおしゃれ。 例えばバートランドとGOM(Grand Old Man)氏との会話「この数字のなかには、どんな整いも美もみつかりませんね」「ほう、ボードレールなどを読むんだね、バートランド君」はい」「わが愛誦する詩人だよ「」ぼくはラシーヌのほうが好きです。数字をやるせいだと思いますけど」「ラシーヌの古典主義にあまり重点を置いてはいけないな。バートランド君、ラシーヌには―深淵が口を開く瞬間がある」 これはボードレールの詩『旅への誘い』の一節「そこに全ては整いと美と栄華と悦楽と静けさと。」を踏まえているわけで、こういう言葉が会社の中でさらっと交わせるというのはどういう時代なのだろう。殺伐とした現代では想像がつかない。 ラシーヌ好きなぼくとGOM(Grand Old Man)氏の会話はもう一度出て来る。「明日の晩は、ラシーヌのほうが大詩人だといってもいい。だけど今夜はボードレールのことを考えさせてくれたまえ」4回も結婚したというGOM(Grand Old Man)氏のバートランドに対するアドバイス「あれは善良な女だった。善良な女と別れるのはむずかしい。どうせ結婚しなくちゃならぬなら、悪い女を妻にすることだね」もちょっとひねっていて、これにうんうんと頷ける人達の結婚体験をぜひ聞いてみたいものだ。ちなみにぼくの新妻ケアリーは「他の人と幸せに暮らすより、あなたと不幸に暮らす方がいいもの」なんてバツイチの夫に言う良妻だと思うんだけどなぁ。グレアム・グリーン・セレクション 負けた者がみな貰う / グレアム・グリーン 著 - 早川書房
March 9, 2018
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みなさん、こんばんは。私達はいつも物言わぬ本を読んであれこれと感想を言い合っていますね。では、いろいろ書かれている本はどう思っているのでしょう。そんな本の本音が聞ける書籍を紹介します。わたしの名前は「本」Book:My Autobiographyジョン・アガードフィルムアート社 はじめに神が言った。「光あれ」すると光が出来た。 有名な聖書の一節だ。しかし本は神に言われて出来たわけではない。人間が創ったのだ。そもそも「本」という形ですらなかった。粘土板、羊の皮、パピルス。名前を持たない誰かの想いは、様々なものに刻まれた。想いに文字が加わり、ドラマに出て来る羽根ペン、次にペンがその文字を綴った。やがて印刷技術の発展により、本は多くの人の手元に渡る。私達のよく知る本は、更なる進化を続け、とうとう手のひらサイズの電子書籍になった。 様々な時代、形態を経て来たにも関わらず、語り手は単体だ。ラストに登場する電子書籍のみ「自分とは違う存在」と看做しているようだから、そこだけは人格ならぬ本格が違う設定なのだろう。人間社会では電子書籍か、紙の本かと議論かまびすしいが、本同士は親友だそうで、喜ばしい。但し、あくまで紙の本視点なので、電子書籍がどう思っているのかはわからない。まあ、何事もデジタル思考なのでスマートに割り切っているかもしれない。 常に順風満帆な本生ではなかった。本自身は常に受け身であることしかできず、書かれている内容によって焼かれたり、憎まれたり、果ては焼かれたりもした。それでも人々は本を大切にしてきたし、これからもきっとしていく。だからずっと側にいて欲しい。本が私達を見捨てない限り。私達が本を忘れない限り。【楽天ブックスならいつでも送料無料】わたしの名前は「本」 [ ジョン・アガード ]楽天ブックス
February 16, 2018
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みなさん、こんばんは。そういえば恵方巻もすっかりブームになりましたね。食べましたか?私は食べました。さて、今日もコルム・トビーン作品を紹介します。ヒース燃ゆThe Heather Blazingコルム・トビーン松籟社 これまで読んだトビーン作品の主人公はいずれも女性。結婚や出産によって自分の生き方を変えざるを得ない女性に対して、男性は「どっしり動かず」というイメージが強い。 舞台は作者の故郷エニスコーシー。冒頭は最高裁判事アーモン・レドモンドが判決を言い渡すシーン。判事としてベテランの域にある彼は、判決を言い渡す事で原告や被告がどういう動きをするかまで見えている。そして自分の判決=判断が常に間違いないと確信を持っている。ここまでは予想通り「どっしり動かず」。 ところが、プライベートときたら、からっきし見えていない。長年連れ添った妻には「あなたが何を考えているのかわからない。何も話してくれない。」と詰られ逃げまくっているし、未婚の母となった娘との仲は。ちょうど未婚の母絡みの裁判で厳しい判決を下したばかりというタイミングで、さらにぎくしゃく。そんな時、皆の潤滑油役だった妻に異変が起きる。 愛情はあるがうまく表現できない頑固親父と、どこか遠巻きに見ているようなその他の家族。何だか、どこかで見たような人間関係だ。トビーン作品は本当に日本のホームドラマと親和性がある。父となったアーモンの「現在」と子供時代の「過去」が交互に登場する。その事によって子供の心が分からないアーモンの「現在」と、かつて父とのコミュニケーション不全に悩んだ「過去」が読者の中で響き合い、一度ならず同じ体験をするにも関わらず、常に同じ失敗をしてしまう人の業が映し出される。 トビーンの最近作に比べると、主人公の言葉遣いが年齢に対して少し若いようだ。
February 7, 2018
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みなさん、こんばんは。やっと道端の雪が水たまりに代わりました。でもまだ残ってます。帰宅したら自衛隊のヘリ事故があって驚きました。今日から二日間はコルム・トビーン作品を紹介します。ノーラ・ウェブスターNora Webster新潮社クレストブックスコルム・トビーン46歳のノ―ラ・ウェブスターは、近所の人達から‘先生’と呼ばれ尊敬された夫を亡くしたばかりだ。4人の子供たちのうち、2人の男の子はまだ幼く、娘達は故郷を離れており、夏の別荘を売っても生活費には足りない。そのため20年ぶりに知人の紹介で元の職場に再就職する。ところが始めたばかりの新生活は何かと軋みが出始める。 あの『ブルックリン』のヒロイン、アイリーシュの母親が、ノ―ラを悩ませる人として登場。「夫がいなくなったんだから、夏の別荘は要らないんじゃないの?」と、自分の息子に売ってくれないか打診しに来る。併せて「情緒不安定だったが落ち着いた」アイリーシュのその後がここで紹介される。住む場所は違っても、ノ―ラの過去は、これからアイリーシュが辿る道といくつかは重なる所があるのかもしれない。 著者の『ブルックリン』を「朝の連続ドラマ」と評したが、こちらもやはり朝の連ドラ向き題材だ。「誰々の妻」という肩書きでしか誰も自分を見ていなかった日常が、いきなり何もかも自分が先に立って決めなければならない日々になる。きちんと切り替えて、周囲からもその判断を褒められるソフトランディングなドラマにせず、どうしても自分の物差しで相手を判断しがちになり、言葉に出てこない相手の思惑まで考え込んで、余計な気をもんだりするノ―ラのより道迷い道行きどまりの三年間が綴られる。 離れている長女の事を「フィオナは住みたい場所に住み、やりたいことをして、自分自身の人生を生きはじめていた。フィオナは、そこに住む誰もが彼女のことを知っており、将来がどうなるか細かいところまで丸見えの田舎町へ、列車に乗って帰らなくてもいいのだ。(p37)」などと羨んだり、逆に彼女が連れてきた彼氏の前でノ―ラが新しい服を着ると、長女に羨まれたりする。このようなサザエさんの1エピソードとして登場する日常の些細な事が描かれるかと思えば、ノ―ラの次女が参加する集会ではアイルランドの自主独立が論じられるなど国自身の歴史が登場。カメラに例えればノ―ラの一家からぐんぐんカメラが上に登っていき、最後にアイルランドの国土が映る、といったようにいち個人を通じてアイルランドという国を俯瞰して眺める事のできる作品である。ノーラ・ウェブスター (新潮クレスト・ブックス) [ コルム・トビーン ]楽天ブックスARGO TOKYO初オリジナル!毛玉にならないニット!初回200枚、追加200枚完売!!さらに300枚追加生産中!!ARGニット 秋冬トップス ボトルネック おしゃれ カジュアル リブ 無地シンプルベーシック 保温 ゆったり 体型カバー レディース 新作 秋 あす楽不可
February 6, 2018
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みなさん、こんばんは。今回の雪は長く降っていましたが意外と早くとけてしまいましたね。さて今日紹介するのはアイルランドの作家、ウィリアム・トレヴァーの作品集です。ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)Two Livesウィリアム・トレヴァー「ふたつの人生」というと二通り考えられる。ひとつは「ふたり」の人生。もうひとつは、ひとりの人の「ふたつの人生」。本書のタイトルは、その二つを足した意味になる。 登場するのは二人の女性。一人は年の離れた夫と結婚したメアリー・ルイーズ。もう一人は独身なのになぜかミセスをつけて呼ばれるミセス・デラハンティ。前者は寡黙で、後者は饒舌だ。だからといって後者が正直なわけではない。彼女の饒舌は鎧であり、つまりは前者の寡黙と同じである。 しかし『ツルゲーネフを読む声』のヒロイン、メアリー・ルイーズには、鎧をまとっている自覚がない。むしろ、彼女を遠巻きに見ていた人達が周囲に壁を作ってしまい、それを彼女の鎧だと考えた。少なくとも、彼女の側に立てばそう見える。周囲は彼女を可哀想な人だと憐れむが、酒浸りになっていく夫と敵意を向ける義姉がいる現実よりも、愛する人とその思い出に囲まれたもうひとつの人生の方が幸せなのだ。 『ウンブリアのわたしの家』のヒロインは、両親や兄姉と育ったメアリー・ルイーズよりもスタートが悲惨だった。生みの親に売り飛ばされてからずっと他人の中で生きて来た彼女は、メアリー・ルイーズよりも年齢も上で、多少の事には動じないように見える。ところが乗っていた列車で爆発事故が起こり、ショックから立ち直れない被害者の何人かと生活を共にするようになる。 この短編はイギリスでドラマ化され、キャストも後書きに書かれている。後書きを先に読んでしまったので、ヒロインを脳内変換して読んだらこれがぴったり!「使用人はわきまえるべき」と女主人としての心構えを持ち、決して悪い人間ではないが、饒舌になるあまり意味不明な事を言って相手を混乱させてしまう。作家でもある彼女はもうひとつの人生を自在に紡ぐ事ができるが、それでも本当の人生を全く忘れてしまえるわけではない。 嘘や裏切り、敵意や罪が全てこの世に溢れ出てしまったら、人間はその重みに耐えられない。虚構と現実の二つを足して、自分が支えられる人生になる。トレヴァーは現実を直視して生きるべきだ、とは決して言わない。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション) [ ウィリアム・トレヴァー ]楽天ブックス
February 3, 2018
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みなさん、こんばんは。今日は様々な話が絡み合うまるで組曲のような小説を紹介します。六月の組曲Three Junesジュリア・グラスDHC コリーたちCollies 1989年6月 妻の死後、ポールは思い立ったようにギリシャを訪れる。妻と過ごした半生を振り返り、その思い出を捨て、新たな一歩を踏みだすために。第二章 まっすぐにUpright 1995年6月 父ポールの死後、フェンノは久しぶりに故郷スコットランドに帰る。その旅で、それまで気づかなかった、エイズで亡くなった友人と家族への深い愛に気づかされる。第三章 男の子たちBoys 1999年6月 ファーンは恋人の子供を身ごもっているが、それを伝える勇気がない。しかし、フェンノに勇気づけられて、新たな愛を育てる決心をする。 原題はThree Junes=三つの6月でストーリーそのままの素直なタイトル。しかし邦題もいい線行っている。第一章に旅先でポールが知り合った女性として登場するファーンは、第三章で主人公=主旋律に躍り出るし、回想の中に登場するポールの息子フェンノは、第二章では主人公=主旋律で第二章が三つの中で最もボリュームが多い。フェンノを通じて第一章と第三章の主人公が繋がっているからか。それぞれ独立した作品として読めるが、三つを読み通すと読者の中でそれぞれの楽章の中に、別の楽章のメロディ=登場人物を見つけるかもしれない。 取り立てて派手な事件が起こるわけではない。書かれているのは、親子間や兄弟間の肉親故に分かりあえない想い、大切な人を失った体験をどう乗り越えてゆくか、新しいステージに踏み出す時の不安など、普遍的なテーマばかりだ。後書きを読むと、自信の体験を若干アレンジして登場人物に投影していることがわかる。ストーリーのテンポは総じてゆっくりで丁寧な描写が続く。勢いに乗る事ができれば読み通せると思うが、三章全てに回想が入るので、読み辛いと思う方もいるかもしれない。1999年トバイアス・ウルフ・アウォードを受賞(『コリーたち』)。2002年全米図書賞を受賞。【楽天ブックスならいつでも送料無料】六月の組曲 [ ジュリア・グラス ]楽天ブックス
January 15, 2018
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みなさん、こんばんは。この本の作者は有名女優と同姓同名です。紛らわしいですね。エンジェルAngelエリザベス・テイラー小谷野敦訳田舎町ノーリイの食料品屋の一人娘エンジェルは、退屈な毎日をやり過ごすために、「パラダイス・ハウス」という屋敷の物語を自分で作っていた。そこは、叔母のロティが侍女として仕えている屋敷で、「エンジェル」という名前も、叔母が仕える令嬢アンジェリカにあやかったものだった。やがてエンジェルは、想像力と自負を頼りに処女作を書き上げ、若くしてベストセラー作家として成功する。憧れのパラダイス・ハウスを買い取り、思い描いた人生を手にしたかに思えたが、運命の落とし穴は思わぬところにひそんでいた。 フランソワ・オゾン監督により映画化された作品では、まだしも主人公に可愛げがあった。しかし原作はかなり思い込みが激しく、人を傷つけてもその事に気づくこともない、究極のKYに描かれていた。もしかしたら彼女は、夢を叶えなかった方が良かったのかもしれない。いっとき流行作家になり、中途半端に夢が叶ってしまったから、その後の人生でも、現実を見ようとしなくなった。 勧善懲悪ものに慣れている日本人としては、ジコチューヒロインを見て、「いやはや、いくらなんでも最後までこのままでは行かなかろう。いつかどこかで手痛いしっぺ返しを食らうはず」くらいは予測していたのだが、そのしっぺ返しすらも彼女には見えてない。見方を変えれば自分の生きたいように生きているわけで、もう少し羨ましさが湧いてきてもよいのだが、生憎彼女には痛々しさしか感じない。それよりも、彼女に振りまわされた人達―もしかしたら才能があったかもしれないのに、エンジェルの信奉者として尽くすノ―ラや、才能もないのに持ちあげられる彼の兄エズメが被害者に見える。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。 エンジェル/エリザベス・テイラー/小谷野敦【2500円以上送料無料】オンライン書店boox
December 12, 2017
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さてみなさん、『ジェイン・エア』を読んだことがありますか?最近では映画にもなっていますよね。でもジェーンがやっと幸せを掴むハッピーエンドも、別の人から見るととんでもない話だったりするのです。サルガッソーの広い海 ジーン・リース・コレクション1Wild Sargasso Seaジーンリース(著者),小沢瑞穂(訳者) シャーロット・ブロンテの名作『ジェイン・エア』では、まさにジェインとロチェスターが結婚式を挙げようとした所に弁護士が異議を申し立てる。「その婚姻は行われてはなりません。わたしは障害の存在することを断言します」障害の正体は「商人ジョーナス・メイソンおよびその妻、クレオール人アントワネッタの娘なる余の妹バ―サ・アントワネッタ・メイスン」 本編の主人公だ。『ジェイン・エア』では意味不明な叫び声をあげたり、笑ったりはするが、一切台詞を与えられていなかった。、当時の小説では、彼女にはジェインの幸せを阻む者としての役割しか望まれていなかったので、さほどの性格描写は不要だった。 ジェイン・エアは狂った妻を救おうとして失明したことでロチェスターを許したが、今ならば、仇側にもある程度情状酌量の余地がある事を示してジェインに懊悩させ、しかるのちに選択させたかもしれない。 叔母の家、孤児院と世間ずれしてなかったジェインと異なり、もし現代女性なら、かつて愛した妻について「彼女の性質がまったくぼくと相容れぬこと、趣味が不愉快なこと、ものの考え方が卑俗で低級で狭くて、ひと晩でも、一日のうち一時間でもあれと愉快にすごすことはできない」これほど悪口雑言を振りまく男性を信じられるはずがない。 言われっ放しの障害に口を与えたのがジーン・リースだ。三部構成となっており、一部と三部がアントワネット(バ―サ)、二部がロチェスターの一人称になっており、『ジェイン・エア』よりよほどフェアな構成だ。ロチェスターから見たアントワネッタは、とても強い女性だ。彼女の精神はすでにできあがってしまっていた。ロマンティックな小説、心に引っかかって忘れられない言葉、スケッチ、映画、歌、ワルツ、なにかの曲の旋律、そんなもので固定観念ができあがっていた。イギリスについても、ヨーロッパについても。それを変えることはぼくにはできないし、おそらくなにによっても変わらないだろう。現実は彼女を混乱させ、驚愕させ、傷つけるだろうが、それは現実ではないのだ。ただの失敗、不運、道をまちがえただけのことで、彼女の固定観念はけっして変わらないだろう。ぼくの話は彼女になに一つ影響を及ぼさなかった。 貴族の次男坊として財産も伝統も何一つ持たなかったロチェスターに対して、アントワネッタはあまりにもあり過ぎた。彼が優位に立てたのは、イギリス人であることと、男性であったことだけ。だから彼女はアントワネッタを抑えつけようとした。彼女を受け入れる余裕さえあれば、幸せな結婚生活を送ることが出来たのに、自らその道を閉ざしてしまった。故郷からひき離し、母親と同じ名前だというだけで、バ―サという名前を与え、部屋に閉じ込めてグレース・プール以外との接触を禁じ、自分の不幸をひたすら嘆いた男は、ジェイン・エアにやってしまった方がいい。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】 サルガッソーの広い海 ジーン・リース・コレクション1/ジーンリース(著者),小沢瑞穂(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
November 5, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日は地元でもハロウィンのコスプレをした親子連れに何組も会いました。さすがにパパ&子供の組み合わせはなくお母さん&子供のカップリングでしたけどね。でも本当のハロウィンは31日なのに。イベント化してきたなぁ~。さて、今日は健気な犬が主人公の物語です。でもラッシーみたいなのではありませんよ。その犬の歩むところ (文春文庫)GIV The Story of a Dog and Americaボストン・テラン 本作の語り口は少々変わっている。まず最初にディーン・ヒコックという元兵士がギヴという犬について語る。では彼が通しの語り手になるかと思えばそうではなく、次の章からは太文字フォントで示された「その犬をご覧。」というイントロで始まり、語り手は三人称視点になる。「ギヴは9.11とハリケーン・カトリーナとイラクを体験したアメリカを旅した。音楽と映画のアメリカを旅した。犯罪と美、愛と悲哀、神と善意、さらに永遠なる人間の贖罪と癒しのアメリカを旅した。これはギヴがその旅で出会った人々の物語だ。ギヴが触れた人生、それらの人生が互いに与え合い、さらにギヴにも与えたものについて書かれた物語だ。」という冒頭の宣言で明らかなように、作品で描こうとしたのはギヴと共に生きるアメリカの人々だ。犯罪、天災、戦争と様々な困難に襲われる人々に、そっと寄り添い続けたギヴ。「GIVE」=与える、という意味の英語に一語足りない名前は、出会った人々に優しさと癒しを与え続けてきた名残だろうか。 犬好きでなくても、理不尽な暴力を加えられてもちゃんと信じられる人間とそうでない人を見分け、健気なギヴの奮闘ぶりには惚れてしまうかも。【楽天ブックスならいつでも送料無料】その犬の歩むところ (文春文庫) [ ボストン・テラン ]楽天ブックス
October 29, 2017
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みなさん、こんばんは。季節がよくなってきたのかツーデーマーチ、スリーデーマーチなどの地域行事が目立つようになりました。ところで聖書のノアの箱舟を知っていますか?有名ですからご存じですよね!これ、現実じゃないと思うから読み飛ばせますけど、リアルだと思って読むといろいろ変なところあるんですよね。小説 ノアの箱船The Preservationistデイヴィッド・メイン(著者),金原瑞人(訳者) ソニー・マガジンズ 「神に愛されし者」「神に選ばれし者」などと褒め言葉で使われるが、ところで、神に選ばれるのは、果たして光栄な事なのか。 例えばヨナ。アッシリアの首都ニネヴェに行って「ニネヴェの人々が犯す悪のために40日後に滅ぼされる」と告げて来い、と言われて最初は逃げる。そりゃそうだ。イスラエルの敵国に行ってそんな事言うなど自殺行為もいいところ。下手すれば「不吉な事を言う奴だ」と殺されていたかもしれない。 次にモーゼ。イスラエルの民をカナンの地に連れていくためエジプト王に「実行しなければ10の災いをもたらす」と告げるが、こちらも現代なら脅迫罪や扇動罪でアウト。よくその場で殺されなかったものだ。 そして箱舟で有名なノア。「洪水で人間滅ぼすから箱舟作って動物選んでペアで入れて」と神に命じられる。洪水起こす力があるなら、舟作って動物集めて乗せるくらい簡単だろうに、なぜ人間にわざわざやらせるのか。神様はホームセンター礼賛派なのか。 本作は、ノアのみが三人称視点、それ以外は家族それぞれが一人称で語るので、一般的なノア像とはかなり違う。要約すれば、「神から選ばれたのだから特別なんだろうな~と思って周囲は言動を容認しているが、実はかなりの変人に見える人」だ。 たとえばこのエピソードだって、現代感覚で考えれば変人だ。「ノアは500才にして息子3人を儲ける」と聖書にはあるが、こちらも名もなき妻視点で描かれているため、実態は結構生々しい。13才の少女との結婚自体犯罪もので、禁欲の箍が外れたのか、初夜に何度も何度も妻と「それ」をする姿は、思わず目をそむけたくなるくらいえげつない。 特別な人ノアと世間を繋ぐため、家族は涙ぐましい苦労をしている。箱舟を言われた通りの寸法で作るとかなり安定が悪くなるが、ノアは「予言でそう言ったんだから」と譲らない。折衷案を探るのは息子の役目。また、動物達を集めて箱舟の所まで運んでくるのは、名前が与えられていない息子の妻二人の役目。 洪水後も家族の役目はある。長時間動物達と船上生活をするのだから、世話と排泄物の処理が伴う。ノアは大切な役目があるため、それらの作業に携わるのは主に家族。ところが家族の苦労は、本筋では語られない。神の怒りと許しを伝えるために必要なエピソードではないからだ。しかし、語られないからといってそれぞれが何も感じなかったわけではない。 神に選ばれたことで、予言に捉われざるを得なかったノアに対して、自分で感じたことや体験に基づいて得た知識に従って生きる家族達の方が、むしろ人間らしく逞しい。ああ、そうか。ノアの箱舟は一方的な受難の物語ではなく、洪水で一旦神に委ねた運命を、再び人間がその手に取り返した誉れの物語なのだ。【中古】 小説 ノアの箱船 /デイヴィッド・メイン(著者),金原瑞人(訳者) 【中古】afb
September 26, 2017
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みなさんこんばんは。にわかに解散も―ドになってきましたね。ところで皆さんは電車通勤ですか?こちらの小説にも電車通勤が出てきますよ。6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む (ハーパーコリンズ・フィクション)Le Liseur du 6h27ジャン・ポール・ディディエローラン パリ郊外の断裁工場で働くギレンは、「荒唐無稽な」「こけおどしめいた」といった意味の「グラン・ギニョール」と間違えられやすい自分の名前が気に入っていない。 もう一つ気に入っていない事がある。本への愛着が人一倍ありながら、余った本を処分する仕事をしていることだ。その気持ちの埋め合わせのために、彼はこっそり生き延びたページを持ち帰っては翌朝の通勤電車で朗読して往生させていた。しかし彼とは正反対に、本の処分が大好きでたまらない後輩が試験に受かって機械を動かせるのも、そう先の話ではなく、そうなると頁の回収は難しい。 そんな彼が、ある朝、持ち主不明の日記を拾った時から変わり始める。詩のようなタイトルがおしゃれ。機械で足を切断された男性が、自分の足が飲みこまれてしまったであろう本を探すようギレンに頼む件は考えてみればグロテスク。そもそも電車の中でギレンが朗読した時点で日本では変人扱いされてしまうだろうが、これが次々と新たな出会いに繋がっていくところがおフランスなのだろうか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む (ハーパーコリンズ・フィクション) [ ジャン=ポール・ディディエローラン ]楽天ブックス
September 20, 2017
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みなさん、こんばんは。埼玉県の花咲徳栄が優勝しました。めでたい!埼玉県勢の夏の甲子園優勝は初めてです。さて、ちまたでは梨のシーズンだと思いますが、こちらはリンゴの話です。林檎の木から、遠くはなれてAt the Edge of the Orchardトレイシー・シュヴァリエ柏書房 原題は『At the Edge of the Orchard』=果樹園のすみっこで、くらいの意味だが、邦題はわざわざ‘遠くはなれて’となっている。しかし、意味としては邦題の方が合っている。なぜなら、物語の主人公達は、リンゴに恋焦がれながらも、離れなければならない運命だったからだ。そしてまた、底意には「 The apple does not fall far from the tree(リンゴは木から離れた所に落ちない)」という格言に反した、登場人物達の生き方も指していよう。 物語前半はジェームズとサディの若夫婦、後半は彼等の末息子ロバートが主人公だ。彼等の生きた時代は、1850年代のアメリカだ。「自分の努力で土地がいくらでも手に入る」という夢を抱き、多くの人達が、大陸の奥へ奥へと入り込んでいった、ローラ・インガルス・ワイルダーの『大草原の小さな家』シリーズで描かれた大開拓時代だ。しかし全員が成功したわけではない。 リンゴに魅せられたジェームズは果樹園作りを夢見るが、妻サディは彼にも彼との暮らしにもうんざりしている。二人だけならば、よくある夫婦喧嘩の小競り合いで、いつかは解消されたかもしれない。しかし、実在の人物ジョニー・アップルシードが介在した。英語の教科書にも登場した事のある彼が、リンゴの種を売る傍らで、聖書の教えを説いていたことはあまり知られていない。‘挿し木’が自然=神に反する行為だと告げる彼に、サディは共鳴する。ジェームズは三人称、サディの内面描写は一人称で描かれ、通じ合えない夫婦のもどかしさと、やがて訪れる二人の決裂が、登場人物たちよりも先に、読者に分かる仕掛けになっており、緊張感を孕む。 この若夫婦の間に何が起こったか、という事が明かされぬままに、成人して家を離れたロバートの物語が始まる。シュヴァリエは後半も単純な三人称語りを用いず、書簡体を挿入して、なかなか読者に全貌を分からせない。ロバートはジェームズが最も期待をかけていた息子でありながら、やはりリンゴからは遠い人生を歩む。 育てるのは難しいが、その実は甘い、という事を考えても、リンゴは幸せや夢の象徴であるかもしれない。近づこうとすれば遠ざかり、手に入らないからといって遠ざかると、なおさら人の心を引きつける。近づこうとするから人は努力するが、決して手に入らず、無理に手に入れようとすれば悲劇が起こる。あなたは、リンゴを手元に置こうと思いますか?それとも遠くにありて思いますか?【楽天ブックスならいつでも送料無料】林檎の木から、遠くはなれて [ トレイシー・シュヴァリエ ]楽天ブックス
August 23, 2017
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みなさん、こんばんは。週末ですね。ところで卓球といえば中国がイメージされますが、こちらは韓国の小説です。何と卓球が世界を救う話!なのです。ピンポン (エクス・リブリス)Ping Pongパク・ミンギュ毎日、中学校でいじめられている僕のあだ名は「釘」。スプーン曲げができる「モアイ」もいっしょにいじめられ、肉体に加えられる暴力に加えて金をせびられている。 釘もモアイもバカな子ではない。「世の中を率いていくのはニパーセントの人間だ。担任の先生が口癖みたいにそう言ってたけど、ほんとだよねと思う。チスを見てると、そういう人間が確かに存在するんだってわかる。出馬して、演説して、人を抜擢し、ルールを決める―なるほど、納得だ。これだけ人間がいっぱいいたら、誰かが動かさなくちゃならないわけだもんな。認めるしかない。残りの九八パーセントがだまされたり言いなりになったり、命令された通りに動くしかないなんてことは―だってそれ自体、彼らが社会の動力だってことを意味するんだから。問題はまさに僕みたいな人間だ。僕やモアイみたいな人間。」「平凡に生きることだ。いじめにあわず、誰にも迷惑かけずに、多数のふりの世の中を渡っていくことだ。常に一定の適当な順位を保って、人間ならまあそうなるでしょくらいの悩み(個人的な)に陥ったら打ち明けられる程度の友だちがいて、卒業して、目につかない程度に道を歩いたり電車を乗り換えたりして、努力して、勤勉して、何よりも世論に従い、世論を聞き、世論を作り、めんどくさくない奴として世の中に通り、適当な職場でも見つけられれば感謝する、感謝するということを知っていて、信仰をもったり、偶然にホームショッピングですごく良いものを発見するとか購買するとか消費するとかして、適当な時点で免許を取り、ある日突然職場の大切な同僚がおしかけてきたら五分、たったの五分でカルビチムでもてなすことができ、君もまったくなぁ、かなんか言いながらみんなを満足させてさしあげられる人物、僕もそんな人になりたい、でもそんな人になったら、幸せなんだろうか?」 などなど、いじめっ子達よりよほど深く世の中や「あちゃー」されない勝者と看做される多数派、自分の未来をシニカルかつ冷静に見据えている。聡明な子達が物言わぬだけでいじめられなきゃならない韓国社会って歪んでる、などと憤慨していると、そこに突然卓球台が登場する。え、何で卓球台?と悩む読者を置き去りにして、釘とモアイは卓球用品店主「セクラテン」に卓球史を伝授してもらう。「卓球は戦争だったんだよ。世界はいつもジュースポイントなんだ。」うーん、何だか言い得て妙な気も。ちなみにこれはセクラテンの台詞。なんだか、あっちもこっちも哲学者のようだ。そして、こんな誰からも見向きもされない「あちゃー」二人組が地球をインストールしたままにしておくか、それともアンインストールするかを賭けた、大事な大事なアタックチャンスならぬ卓球の試合に挑む。 言葉や小道具を変えれば韓国に限らずどこの国にでも見当たりそうな話材で、韓国の匂いがしない。韓国小説のグローバル化は彼から始まるのか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ピンポン (エクス・リブリス) [ パク・ミンギュ ]楽天ブックス
August 19, 2017
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みなさん、こんばんは。台風が心配ですね。昨日と今日は地元の花火大会で浴衣姿の人達をよく見かけました。みなさんのところではいかがですか?2日続けてサキの短編集を紹介します。四角い卵The Square Egg-A Badger’s eye View of the War mud in the Trenchesサキ・コレクションところでみなさん、「嫌だなぁ」と思う相手に、毎度毎度食事をたかられた事がありますか?もし、あるのでしたら『幻の昼食』で使われた手を使ってみるといいですよ。 ドラクマントン夫人は夫から「スミスリー=ダブス家の人達を昼食に誘ってくれないか」と頼まれて嫌な顔。なぜならいつもダブス家の三姉妹は、夫人にリッツやデュドネなど一流どころの食事を御馳走させるのだ。「彼女達は、選挙の度に熱心に動いてくれるから、ぜひ!」と頼まれて嫌と言わない夫人には、実はそっくりで見分けがつかない妹がいて…。 はい、皆さん、何となく作戦がわかりましたでしょうか?たぶん、当たりです。考えてらっしゃること。 但しこの話、夫人のとんちを讃えるだけではありません。昼食絡みの特典がなくなった時に、ダブス家の三姉妹が取った行動まで追ってみると、サキの人間に対する考え方がわかるでしょう。 オスカー・ワイルドの『幸福の王子』のような始まり方をする作品もあります。大聖堂には沢山の像がありますが、ただ一つ、王冠も光輪もない、表情もさえない像がありました。鳥達は「あれは地獄に落ちた魂の像」と結論づけて、近寄ろうとしません。そんな時、美しい声で鳴く小鳥が疲れた足を休めようと像にやって来る。小鳥が来てからというもの、像からは苦しそうな不幸せそうな表情が消えていくようだった。 さて、ここで終わればハッピーエンドなのですが、『幸福の王子』同様物語は悲劇に向かいます。『幸福の王子』はそれでも燕と王子が奮闘した事だけは讃えられるのですが、サキ版『幸福の王子』では、そこまで理想主義にはなれなかったようです。「幻の昼食The Phantom Luncheon」「警告されてForewarned」「屈辱の顚末Canossa」「ミセス・ペンサビーは特例Excepting Mrs.Pentherby」「地獄に堕ちた魂の像The Image of the Lost Soul」「四角い卵The Square Egg-A Badger’s eye View of the War mud in the Trenches」「西部戦線の鳥たちBirds on the Western Front」「祝典式次第The Gala Programme-An Unrecorded Episode in Roman History」「地獄の議会The Inferno Parliament」「ネコはこうして成功したThe Achievement of the Cat」渡辺育子 訳ce of Business」「東棟The East Wing-A Tragedy in the Manner of the Discursive Dramatists」全12篇を収録。【楽天ブックスならいつでも送料無料】四角い卵 [ サキ ]楽天ブックス
August 6, 2017
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みなさん、こんばんは。改造内閣の顔ぶれが決まりましたね。何かいきなり女体盛り疑惑とか言われてますね。さて、こちらはサキの短編集です。平和の玩具 (白水Uブックス)The Toys of Peaceサキ「平和の玩具The Toys of Peace」「最近の少年達は武器や戦闘機のおもちゃばかり与えられているが、それはよくない」という新聞記事を読んだハーヴェイ・ポープが、姉の頼みで「平和の玩具」なるものをプレゼントに送る。ところが市営ゴミ集積場やら経済学者の人形をもらっても甥達は一向に興味を示さない。少しの間子供達にだけにして様子を見に行ったところ…。「七つのクリーマーThe Seven Creamer Jugs」叔父の死により準男爵になったウィルフリッド・ピジョンコートが自宅を訪問すると聞いて、戦々恐々のピジョンコート夫妻。なぜならばウィルフリッドには‘かっぱらいウィルフリッド’などという在り難くない仇名がついていた。案の定上で大切にしていたクリーマーの一つが彼の部屋にあり、怒った夫妻は…。「ルイーズLouise」買い物に姪のルイーズを連れて行ったはずなのに、帰って来た時には一緒じゃなかった。でも、どこで置き忘れたか覚えてない!置き忘れてきた当人があれこれと無駄話をする一方で、忘れられた姪の親のテンションが段々上がっていく様がおかしい(そりゃそうだ)。 予想外の事態にあたふたする人々を面白おかしく愛情こめて?描いたサキの短編集。他「バターつきパンを探せA Bread and Butter Miss」「バーティの聖夜Bertie’s Christmas Eve」「刷り込まれてForewarned」「邪魔者たちThe Interlopers」「鶉のえさQuail Seed」「謝罪詣Canossa」「脅しThe Threat」「ミセス・ペンサービーは例外Excepting Mrs.Pentherby」「マークMark」「はりねずみThe Hedgehog」「マッピン展示The Mappined Life」「運命Fate」「牡牛The Bull」「モールヴェラMorlvera」「奇襲戦術Shock Tactics」「七つのクリーマーThe Seven Creamer Jugs」「救急庭園The Occasional Garden」「腑抜けThe Sheep」「見落としThe Oversight」「ヒヤシンスHyacinth」「お茶Tea」「浮かばれぬ魂の肖像The Image of the Lost Soul」「バルカン諸王権The Purple of the Balkan Kings」「過去の戸棚The Cupboard of the Yesterdays」「戦局のゆくすえFor the Duration of the War」「クリスピーナ・アムバーリーの失踪The Disappearance of Crispina Umberleigh」「セルノグラツの狼The Wolves of Cernogratz」「ルイスLouis」「泊まり客The Guests」「贖罪The Penance」「まぼろしの接待The Phantom Lancheon」全33篇収録。1916年、一兵卒として第一次大戦の西部戦線にいたサキは敵弾に斃れた。その3年後、姉エセルの意を受けて編まれた短篇集の初の完訳。『四角い卵』と収録作重複あり。サキの生涯を述べた序文を書いたのはG・K・チェスタトン。付録として、オックスフォード大学図書館が所蔵するサキ及び近親者の書簡を収録。【楽天ブックスならいつでも送料無料】平和の玩具 (白水Uブックス) [ サキ ]楽天ブックス
August 5, 2017
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みなさん、こんばんは。ホログラムってご存知ですか?この本は、アラブの王様にホログラムを売ろうとするアメリカのセールスマンの物語です。王様のためのホログラムA Hologram for The Kingデイヴ・エガーズ早川書房舞台はサウジアラビア。王の名を冠した建設中の大都市キングアブドゥッラーエコノミックシティ(KAEC)に、ホログラム技術を売り込むためアメリカから送り込まれたアラン・クレイ。しかし国王陛下の予定はなかなか判明せず、運転手兼ガイドは変人、首にはできものができるし、何もかもが思ったように進まない…崖っぷちのアランは逆転できるのか? アメリカといえば大量消費、大量生産というイメージが一般的だったのはひと昔前のこと。今では中国が世界の工場と言われ、人件費が高くなれば、マレーシアやインドなどアジア諸国が手を上げる。そして日本の高度経済成長と同じく、偉大な国アメリカを支えてきた人達は、道半ばで放り出される。主人公アランもその一人で、未だ世界の工場でいられた時代を知っている父からは猛反発を食らう。とにかく時間だけはあるので、同じように待つ身の人達との交流や、訳ありの運転手兼ガイドとのやり取りがユーモラスに描かれ、時折父との確執を含めた今までの自分の人生が挿入される。それによって読者にもアランの人物像が浮き彫りになる。悪い人ではないけれど運が悪い所になぜか行き当たるというアランは、困り顔の似合うハンクスとそうイメージは違わないように思われる。 売り込みにきたもののなかなか目指す相手に会えないストーリー展開はカフカの『城』やベケット『ゴドーを待ちながら』を彷彿とさせる。アランが売ろうとしているホログラムも実際にはないものであり、アランは幻を売って今はなき威信を取り戻そうとするアメリカの投影にも受け取れる。映画では主人公が前向きな理由で留まることを決めるが、原作のニュアンスはやや異なり「もはやアメリカに戻っても何もないからここで何か見つけねば」という消去法的選択になっている。前向きと取るかは難しいところだ。 原作にほれ込んだトム・ハンクスが発売2日後に作者にコンタクトを取り、彼の主演で映画化。日本でも公開済み。【楽天ブックスならいつでも送料無料】王様のためのホログラム [ デイヴ・エガーズ ]楽天ブックス【天然琥珀】琥珀 こはく チタンピアス・イヤリング【チタンポスト】【スタッドピアス】Sランク【送料無料】【ak5008】
June 29, 2017
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みなさん、こんばんは。PKOで派遣されていた自衛隊が帰ってきましたね。戦闘状態にあったとも聞きます。彼等は体験を皆に語れるのでしょうか?こちらはアメリカの話です。ビリー・リンの永遠の一日 Billy Lynn's Long Halftime Walkベン・ファウンテン新潮社クレストブックス19歳の青年ビリー・リンはサダム・フセインをどうしても倒したかったわけではないし、「何かを成し遂げよう」と志していたわけでもない。テキサス州の田舎町出身で、労働者階級の平凡な家庭で育った、どこにでもいる青年だ。高校を卒業する直前、姉キャスリンを裏切った男の車を叩き壊し、訴追を免れるために軍隊に入っただけだ。 そんな彼が脚光を浴びたのには理由がある。彼が属したブラボー分隊が、イラクのアル・アンサカール運河で戦闘状態にあったところを、偶々フォックスニュースの撮影クルーが撮影していた。仲間と共に、いきなり英雄として祭り上げられたビリーは、イラクに戻される二日前の感謝祭、テキサス州で行われるダラス・カウボーイズの試合に呼ばれる。ハーフタイムショーでビヨンセが歌を歌うとき、一緒にステージに上がって行進し、全国ネットのテレビが放送することになった。ハーフタイムショーでは花火が上がり、高校や大学のマーチングバンド、バトントワラーらが行進し、軍の閲兵行進部隊が銃をくるくると回す、派手なパフォーマンスもある。 兵士たちを戦意高揚に用いる国のやり方は、クリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』を想起させる。大事に世界大戦のあの時も、国内に蔓延した厭戦気分を吹き飛ばし、戦時国債を売るために兵士たちが担ぎ出された。あの時の3人とビリー達との決定的な違いは、3人は帰国できたが、ビリー達はこの後また戦地に戻らなければならないという点である。しかし、非日常という点では、戦場もハーフタイムショ―会場も、さほど変わらない。 ハーフタイムショ―でビリーは様々な人々に出会う。彼等の物語を映画化しようともちかける胡散臭げなプロデューサー、最初は戦争を支持していたものの、ビリーの年齢を聞いて次第にトーンダウンしていくテキサス出身の男性。中でも彼等の映画に出資を考えるものの、一方で出資金を値切るノ―ムの偽善者っぷりはかなりあからさまに描かれていて、離れた安全な場所にいるアメリカ国民が兵士やイラク戦争に対して建前と本音を使い分ける様が皮肉られている。 ビリー役を新進の俳優、ジョー・アルウィンが演じ、クリステン・スチュワートが姉のキャスリン、スティーヴ・マーティンがひと癖あるノームを演じている映画化作品は、日本での公開が延期された。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ビリー・リンの永遠の一日 [ ベン・ファウンテン ]楽天ブックス●感謝SALE/期間限定●ブライダルジュエリーランキング週間/第1位入賞 結婚式 ウェディング ドレス ハワイ 披露宴 花嫁 パーティー 2次会 お呼ばれ 演奏会 発表会 コンサート イベント ダンス ビーズXレース生地一部手編みヘッドドレス 髪飾り 人気 送料無料 あす楽 即納
June 1, 2017
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みなさん、こんばんは。みなさんは不機嫌になることってありますか?この短編集は人が不機嫌になる瞬間を捉えています。キャサリン・マンスフィールド傑作短篇集 不機嫌な女たち The Collected Fiction of Katherine Mansfield(エクス・リブリス・クラシックス)ある日浴室に入っていた女性は、「自分が死んだらこんな感じなのかしらね…」などと夢想する。しかし実際に家の前に柩が来た時には、全力で「間違いだから!」と拒否。 『間違えられた家The Wrong House』はこんな話だ。人は簡単に上機嫌から不機嫌になり、またその逆もしかり。そしてキャサリン・マンスフィールドは、彼や彼女を、決して上機嫌のままにはしておいてくれない。 『幸福Bliss』はもっと残酷だ。夫とラブラブで子供もいて、家で開くパーティにやってくる友達もセレブ。「ああ私って何て幸せなの!」と大喜びのバ―サ。その客の中に、見るからに冴えない女性が一人いた。バ―サがこのまま幸福でいてくれればドラマは起こらない。しかしこの後ある事実が彼女を奈落に突き落とす。 男達にだって不機嫌の波はやって来る。『蠅The Fly』は男が蠅になってしまって不機嫌に…という話ではない。特に楽しい気分ではない知人の相手をしていた会社社長は、彼が亡くなった息子の墓に詣でたと聞いてショックを隠せない。彼はまだ息子の死を引きずっていたのだ。その時彼はインク壺で溺れる蠅を見つける。この後彼が取った行動は…。「不機嫌でいても仕方ない。だから気を取り直して前に向かって行きましょう!」キャサリン・マンスフィールドは、そんな事は一つも言ってくれない。その代わりに言ってくれるのは、これ。「ほうら、あなたにだって、覚えがあるでしょう?」思わずどきりとする極上の微笑みと共に。【楽天ブックスならいつでも送料無料】キャサリン・マンスフィールド傑作短篇集 不機嫌な女たち (エクス・リブリス・クラシックス) [ キャサリン・マンスフィールド ]楽天ブックス
May 16, 2017
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みなさん、こんにちは。今日で長期休暇に入る人もいますね。私もそうです。ゆっくり休んで読書をしたいものです。さて、こちらの本は実際にあった韓国の事件をもとにしています。少年が来る (新しい韓国の文学)Human Actsハンガン/著 井手俊作/訳第二次大戦後、冷戦を経て、北と南、東と西に分かれてしまった国々は、時間をかけて一つになった。だがアジアには、未だ分かれたままの国がある。ノースとサウスにわかれたコリアだ。ただでさえ小さな国が二つに分かれたというのに、そのうちの半分―大韓民国は、たび重なる軍事クーデターにより、国内の争いが絶えなかった。本篇で描かれる光州事件も、そのうちの一つだ。軍事独裁政治に対峙した光州市民の民主化運動を潰したのは、他でもない国―軍部である。 本編の語り手と人称は次々と変わってゆく。『第一章 幼い鳥』の語り手は、トンホ―タイトルロールの‘少年’でもある。そして後の語り手達は、全てこの第一章に登場する。トンホはソンジュ姉さんや女子高生のウンスク姉さんとともに、尚武館で遺体の管理を手伝った。彼は年若いので学生デモをまとめるチンス兄さんに帰るように言われ、母親も迎えに来るが、結局帰るタイミングを逸する。実は彼は、撃たれるのを見たもう一人の‘少年’チョンデを探していた。この時点では生きていたトンホも、別の時間軸、別の語り手の物語の中では、ほどなく命を絶たれる事がわかる。本篇は、事件で死んでしまった者、生き残ったが悲しみ続けた者、罪の意識に苦しめられた者達の叫びで満ちている。 他国に攻め入られた時は、目の前の相手を憎んでも、最後には国という大きな存在を憎めた。しかし自国同士の争いになった時、敵の後ろにいる国は憎めない。自分を生んだ国が、なぜ自分を抹殺しようとするのか? 瞬時に命を亡くした少年達は、後世に何も残せなかった。彼等に代わって思いをぶちまけるのは、最終章『雪に覆われたランプ』で、事件を作品にしようと考えた作家―事件当時はソウルにいた光州出身の著者―だ。「始めるのがあまりにも遅かったと私は思った。(略) しかし今やって来た。どうしようもない」 この小説は来るべくしてこの世に出てきた作品だ。年月をかけて届いた、少年のこの言葉を絞り出すために。「なぜ僕を撃ったんだ、僕をなぜ殺したんだ。」 この問いに、胸を張って答えられる大人はいるのか。【送料無料選択可!】少年が来る (新しい韓国の文学)[本/雑誌] / ハンガン/著 井手俊作/訳CD&DVD NEOWING
April 28, 2017
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みなさん、こんばんは。大臣は辞任しましたが、東北の人達はおさまらないでしょうね。さて、この本にはワルばかりが出てきます。盗みは人のためならず我叫劉躍進劉震雲 劉躍進は怒っていた。「こんなはずではなかった」故郷の河南省で偽酒づくりをしている同級生・李更生のもとに走った妻が息子の養育費を払うというのを「こ汚い人間はその金も汚い。俺たち親子は乞食をしたって、お前の汚い金など受け取らねぇ」故と、カッコ良く啖呵を切って断ったはいいものの、実情は貧しく、李更生が劉に対して書いた6万元(約100万円)の借用書を当てにしていた。「6年間騒がなければ慰謝料として6万元払う」と書かれた借用書のタイムリミットまでは、あとわずかだった。それなのに、街角の雑踏で借用書が入ったウェストポーチを盗られてしまったのだ。 青アザの楊も怒っていた。「こんなはずではなかった」ウェストポーチを盗んだはいいものの、食堂で会った女に声をかけられ、しけこんだところを踏み込まれ、ポーチを盗まれてしまう。美人局にあったのだ。青アザはまた、縄張りの外で盗みを働いて泥棒の頭目・曹兄貴に捕まり、高級別荘地区に盗みに入るよう命じられる。ところが盗みに入った別荘で青アザは人に見つかり、ハンドバッグを盗む。青アザを尾行していた劉と鉢合わせした青アザはハンドバッグを放り投げ、劉はハンドバッグを拾う。そこには金目のものはなく、USBが入っていただけ。だが、そのUSBを必死になって追うグループがいた。 このように、あれこれと計画を練るものの、肝心なところで「こんなはずではなかった」のドミノ現象(作中の表現では「せっかく煮たアヒルがまたもや飛んで行ってしまった」→これっておかしくないか?煮られたら死ぬよね、アヒル?)を引き起こす&巻き込まれていく人々を描く。政府高官と秘書、成り上がりの不動産ディベロッパーとその妻、建設現場の監督とコック、泥棒の元締めのアヒル商、偽酒づくり、私立探偵、スリなど、ありとあらゆる階層の人々が欲に駆られてなりふり構わず右往左往する様に加えて、随所に登場する比喩が面白い。例えば、こんな言葉。「曲がろうと思っても曲がり角が見つからず、ほとんど絶望しかけた時に、目の前に道が開けたりする。」 いかにも「をを、挫折続きの人生が報われたか!(感動)」みたいだが、この文言は、ずっと性的不能だった青アザの楊が、泥棒に入った時に見つかった女性を見て性的不能が改善した時に使われているのだ。いや、道は開けただろうけど、別の道は閉ざされてるよ! 堅苦しい小説ばかりと先入観で中国小説を排除してきた読者の方たちにこそ読んでほしい。【楽天ブックスならいつでも送料無料】盗みは人のためならず [ 劉震雲 ]楽天ブックス
April 27, 2017
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みなさん、こんばんは。みなさんにもかけがえのない友人がいますか?本作はそんな友人達のことを思い出すきっかけになるかもしれません。新しい韓国の文学 13アンダー、サンダー、テンダーunder,thunder,tenderチョンセラン吉川凪タイトルの「アンダー」「サンダー」「テンダー」にはそれぞれ「エイジ」という語がついてくる。アンダーエイジ=未成年、テンダーエイジ=未熟な年齢、サンダーエイジは著者の造語だが、疾風怒濤の青春時代を想定してもらうとちょうどいいかもしれない。 三十代になった私は、かつて同じバスで学校に通った友達の画像を撮りためている。叔父をはじめとして、家庭内で暴力が当たり前になっているスミ。地元のアイドル的存在ミヌン。丸々していて、休み時間も勉強している優等生チャンギョム。流行の先端を走っていて、クラスメイトにも韓国にも馴染めないソンイ。そして双子の兄ジュワンと暮らしていたジュヨン。6人は、北朝鮮との国境沿いの町・坡州市で青春時代を過ごした。 年頃になれば、グループ内でも恋の一つや二つは生まれる。まず、辛い家庭環境をすぱっと言いきってくれたミヌンにスミが思いを寄せる。私は学校に来ようとしないジュワンと親密になる。グループ外に恋人を求めるソンイのようなパターンもある。ずっと続く仲になるか、それとも短い間になるか。大人になれば「そういうことがあったねぇ」と笑いながら話せるネタが、いくつも生まれた。だが、一つのネタだけはどうしても話せなかった。 そのネタのせいで、一人は家族を失い、一人は恋人を失い、一人は友も今までの環境も全て失った。それでも彼等は生き続ける。そこに至る道は決して簡単ではないけれど、時に当たり障りのない言葉で、時にきっぱりした言葉で、同じ時代を過ごした友達を気遣いながら、彼等は嵐をくぐり抜けていく。「いるのかいないのかわからないみたいに生きて亡くなった人、いたけれどいなくなった人、いてもいなくても構わない人、いなくてもいるみたいに感じる人、いたりいなくなったりする人、いてくれたらいいなと思う人、いなくなってくれればいいのにと思う人、いないよりましだとも思えない人、いるべき時はいる人、いないと思っていたのにいた人、どこにでもいた人、どこにもいなかった人、いると同時にいない人、ひたすら存在する人、全然いない人、存在を認めさせてくれる人、いないことを認めさせてくれる人、いるべき所にいない人、いてはならない所にいる人」と出会い、そして別れながら。 それぞれのくぐり抜けて来た嵐を思い起こさせるような、少しほろ苦い、そして懐かしい作品。新しい韓国の文学 13アンダー、サンダー、テンダー/チョンセラン/吉川凪【2500円以上送料無料】オンライン書店boox(長野県産コシヒカリ 新米)【平成28年産 新米】【長野県産コシヒカリ 5kg 送料無料】[お米 お祝い]全国・米食味コンクール金賞受賞米。平成13年皇室献上米。長野県飯山産 金崎さんちのお米【楽ギフ_包装】【楽ギフ_のし】【楽ギフ_のし宛書】
April 23, 2017
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みなさん、こんばんは。私の上司は年下なのですが、時々高慢に思える物言いをします。残念だなぁと思います。言葉は人そのものを表現する手段なのに、誤解を受けがちです。この短編集も人々の心のすれ違いについて書かれています。レンブラントの帽子Rembrandt’s Hatバーナード・マラマッド夏葉社美術史家のアーキンは、職場の美術学校の同僚で彼よりも一回り年上の彫刻家ル―ビンが帽子を被っていたのを見て帽子を誉めたあとに、こう言う。私が気に入っているわけは、レンブラントの帽子そっくりなんですよ。中年ころの自画像は、どれもすばらしい。あれがかぶっている帽子に似ているんですよ。あの絵はたしかアムステルダムの王立美術館にあると思いますがね。お仕事のご成功を祈りますよ。 途端にル―ビンは表情を変えてアーキンを睨みつけ、彼を避けるようになる。もちろん帽子も姿を消した。訳がわからないアーキンはあれこれと思い悩むが、自分は褒めたつもりなので段々むかむかしてくる。 表題作「レンブラントの帽子Rembrandt’s Hat」は二人の男性の間に行き交う感情と言葉の物語だ。「行き交う」と書いたがル―ビンの内面は一切描かれず、そのため読者も理由のわからないアーキン同様「彼は一体何に不快になったのか?」を思い悩む。これと同じ事は日常でもある。ちょっとした言葉の行き違いで、相手がふと黙ってしまったり、声の調子が変わったりする。余裕があればふと立ち止まって「あれ、何か悪い事言ったかな?」と考えることができるが、忙しいと相手の様子だけが残ってかえってこっちに澱みが残る。なかったことにして日々が過ぎていくのを待つか、相手と話してリセットするか。どちらでもうまくいく場合があるが、後者は関係を繋ごうとする気持ちがより強く出ている。 「引出しの中の人間Man in the Drawer」は、冷戦時代のソ連にやってきたアメリカ人のフリーライターと、作家を夢見るユダヤ系ロシア人運転手の話だ。運転手が自分が書いている作品を出版して欲しいと執拗に迫るのに対して、アメリカ人は関わり合いになるまいと防戦一方―一方的な関係で始まる。最初は大したことないだろうと思っていた運転手の作品に見込みがあることがわかっても、やはりアメリカ人は逃げ腰だ。偽善者であることは百も承知で「自分に出来ることは何もない」と突っぱねるが、やはり途中で心がぐらぐらと揺れて来る。心は一人の時には揺れない。他者と関わることで揺れ動き、変化する。 「わが子に、殺されるMy Son The Murderer」はタイトルこそぎょっとするが、内容はさほど過激ではない。ひきこもりで何もしようとしない息子と、彼を心配する父親の物語だが、父親の切実な思いがタイトルに込められたのか。 感情が一方向にしか進まない関係は苦しくて出られない迷宮のようだ。皆そこから出たくてもがき、周囲を傷つけ、自分も傷つく。人とコミュニケーションを取るということは、傷を抜きには成立しない。それでも必要なことである、といずれの短編も伝えている。【中古】 レンブラントの帽子 /バーナード・マラマッド(著者),小島信夫(訳者),浜本武雄(訳者),井上謙治(訳者) 【中古】afb
April 21, 2017
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みなさん、こんばんは。今日で2月も終わりですね。いろいろあってあっという間でした。これから暖かくなるのでしょうか。今日紹介するのは美人女優のファン・ビンビンが主演して映画化された作品の原作です。わたしは潘金蓮じゃない我不是潘金蓮劉 震雲李雪蓮は怒っていた。「こんなはずではなかった」二度目の妊娠で出来た子を生むために夫・泰玉河と「やむをえず」偽装離婚したにもかかわらず、夫はちゃっかり別の女性と再婚したからだ。李雪蓮は、まず裁判官に訴える。ところが彼女の目的が泰玉河との結婚でないと知って、裁判官はいぶかしむ。李雪蓮はもう一度泰玉河と正式に離婚するため、再婚をやり直したいという。裁判官は「嘘だろうが本当だろうがいずれ離婚するのなら、もう離婚しているのだから、もう一度復縁する手間をかける必要などないだろう。」とけんもほろろ。彼女が要求しているのは「ことをひっくり返すのではない。ひっくり返っていたことを元に戻す」ことだ。やってしまった皆が集い「みな、間違えてしまいましたね。では一度正しい方向に戻してからリセットしましょ。」をやりたかっただけだ。 しかし、今のままで何の問題もない夫も、面倒な事をやりたくない裁判官も取り合わない。気持ちがおさまらない李雪蓮は、今度は裁判専属委員へ訴え、彼が願いを叶えてくれなければ、またその上役へと訴える。そしてついに夫に、言われてしまう。「おまえの名は李雪蓮じゃなくて、潘金蓮じゃないのか」ここに彼女はブチ切れた! 少し説明が必要だろう。潘金蓮とは『水滸伝』『金瓶梅』に登場する架空の女性だ。絶世の美女だが性欲・物欲・向上心が強く、夫を殺して情事に耽る典型的な悪女とされている。 離婚の真偽よりも潘金蓮と言われた事の方に皆の注目が集まってしまう。「これではだめだ。物事が本質とはどんどん別の方向に逸れていってしまう。」そこで彼女は考えた。北京の全人代で訴えよう! 周囲の思惑を乗り越えて、自分の信念を通すためにどこまでも突っ走るヒロインと言えば、コン・リーが主役を演じた『秋菊の物語』があるが、今回の李雪蓮は秋菊よりかなりパワフルだ。じっさい彼女は男にモテる。公式な手続きがうまくいかなかった時、彼女に気がある男に夫殺害を命じるシーンなどがあり、正直ここは潘金蓮と似ている。しかし『金瓶梅』の大金持ちの趣味人で色事師の西門慶とは程遠い、度胸のないだめんずばかりにモテるのだ。まったく何回「殺る(やる)ならやる」「やるなら殺る(やる)」という言葉の応酬を訊いた事か。 そもそも彼女が偽装離婚する羽目になったのは、一人っ子政策を強いる国家が原因であり、その国家を動かしているのは主に男性だ。登場する男達のネーミングが、王公道=裁判官 裁判専属委員=薫憲法、裁判所長=筍正義、県長=史為民=鄭重、市長=蔡富邦と、見事に名が体を表さないものばかり。小ネタも含めて笑い所は随所にあるが、笑った後に残るのは揶揄されている現実の中国だ。「いろんなものがひっくり返ったまま」になっている中国が、将来大きく変わるとするなら、やはり、いい加減な所で留まる事を知らない女性のパワーに負う所が大きいのではないか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】わたしは潘金蓮じゃない [ 劉 震雲 ]楽天ブックス
February 28, 2017
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みなさん、こんばんは。雪は夜にみぞれになりましたが寒いです。今日も寒いのかな…。教会の鐘って厳かなイメージですよね。でもこの小説に登場する鐘は善にもなり、悪にもなります。天使の鐘 The Bellsリチャード・ハーヴェル柏書房『道化と王』『ブレイクの隣人』に続くヨーロッパ歴史ノベル・セレクション第三弾。『道化と王』でチャールズ2世、『ブレイクの隣人』でウィリアム・ブレイクと歴史上の有名人を必ず登場させているこのシリーズ、今回は作曲家グルックと実在のカストラート、ガエタノ・グァダーニが主人公と出会う重要なキャラクターとして登場する。物語はニコライが世界的に有名な歌手である父の死後、彼の手紙を見つけた場面から始まる。ニコライは途中で感想を差し挟むことはなく、あくまで読者を物語に導く案内人としての役割しか果たさない。主役は彼の「父にして父でない」モーゼス・フローベンだ。 モーゼスの回りには常に鐘がつきまとう。物ごころついた時に母がついていたのも鐘であり、母が死んだ時に鳴っていたのも鐘、そして寂しい彼の幼年時代を彩る唯一の音も鐘だった。鐘の音は神の恩寵をもたらす一方で、その凄まじい音は人の鼓膜を破る凶器ともなる。つまりは、使う人間次第で善にも悪にもなる。人もそうだ。出会う人によって運命を変えられる。 モーゼスは、絶対音感と美しい声を持つが故に、多くのものを失ってきた。最初は愛する母、そして故郷、次に愛する人との間に子供を作るというささやかな夢。失われたものは二度と取り戻すことは、普通はできない。だが、ギリシア神話の中には死んだ妻を取り戻そうとする男の逸話がある。オルフェウスだ。1.恋人がモーゼスを「オルフェオ」と呼ぶ。2.恋人と再会する時モーゼスは彼女に目隠しをするオルフェウスでは決して後ろを振り返らない(見ない)でいれば、妻を取り戻せるという条件がついている3.劇場で演奏されるのが音楽家の「オルフェオとエウリデーチェ」など、オルフェウスはこの作品のモチーフとして様々な所に使われる。また、失われたものを取り戻そうとするモーゼス自身にオルフェウスが仮託されている。18世紀のスイスとウィーンを舞台に描かれる現代のオルフェウスの道行きの顛末を、ぜひ見届けて頂きたい。【楽天ブックスならいつでも送料無料】天使の鐘 [ リチャード・ハーヴェル ]楽天ブックス
February 10, 2017
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みなさん、こんばんは。おいしいものを毎日食べられる仕事ってよさそうですよね?でもいろいろと苦労もあるようで…。この本のヒロインはそんな羨ましい立場にあるのですがさて、彼女は幸せになれるのでしょうか?美食と嘘と、ニューヨーク:おいしいもののためなら、何でもするわFood Whoreジェシカ・トム 訳 小西 敦子原題はFood Whore。FoodはともかくWhoreというのは、ちょっと口にするのもはばかられる意味を持っている。さて、本作のヒロインはこんな風に呼ばれてしまった。ではなぜそんな事に? ニューヨーク大学の大学院へ進学するためマンハッタンにやってきたティアは、ニューヨーク・タイムズに大きく取り上げられたこともあり、ライターと食に関する知識については一定の自信を持っていた。ところが目指していた「有名なフードライターのもとでアシスタントのもとで働く」という第一目標が叶わず、レストランのクローク係になってしまう。そこで決して正体を明かさない著名なレストラン批評家マイケル・サルツと闇取引を行い、互いの秘密と利益を共有する同盟を結ぶのだが…。 ティアは頭もよくて健全な家庭に育ち、性格のいいBFもいる、いわゆるフツーの女の子。そんな彼女がカリスマ性のある上司に密かに仕えることで、今まで知らなかった世界の扉を開く。今まで行ったことのなかった豪華なレストラン、そこに入るためのそれなりの衣装、華麗なる料理をサービスする名物シェフ等々、フツーから程遠い生活に出会ってあっという間にふらふらっと…と、まるであの映画にもなった『プラダを着た悪魔』のようなストーリーだなと思っていたら、その後の展開もほぼ予想通り。良心&正義&友情か、或いは虚飾にまみれた名声か。正解を選んだ場合はそれなりの報いが待っている予定調和の世界。成長を描くためにヒロインがあまりにも浅はかに描かれていて、やや気の毒。【楽天ブックスならいつでも送料無料】美食と嘘と、ニューヨーク [ 小西 敦子 ]楽天ブックス
January 24, 2017
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みなさん、こんばんは。来年は大きく欧米が変わりそうですね。そしてお隣の国も。こちらは韓国の作家の短編集です。アンニョン、エレナ 金 仁 淑 韓国は激しい。怒る時も、喜ぶ時も、嘆く時も。恨という概念はよく知られているが、小さな領土に生きる彼等は、いつでも自分をせいいっぱいアピールしている。翻ってみると日本国民は農耕民族そのもので、天気という自分の力ではどうにもならないものと長年つきあってきた経験から、落とし所を心得ている。同じ喪失感を味わっても、おそらく日本人の方が根に持たない。だが、韓国人は違う。 また、彼等には、かつて一つだったにもかかわらず、分かれてしまった半身の国がある。目の前にあるのだから、執着しないことも忘れることも難しい。だから韓国が描く喪失感は、日本のそれよりしつこく、必ず喪われたものは満たされるはずだと信じる気持ちが日本より強い。『アンニョン、エレナ』の、父の言い残した言葉一つに拘って世界中のエレナを追い求める娘や、『息―悪夢』のぎょっとする語り手に感じるのは、強すぎるほどの喪失感もそうだが、同じくらいに強い「満たされたい」という彼等の願いだった。だが、この人は違った。李氏朝鮮末期の高宗に仕え、日韓併合の立役者として大韓民国の総理大臣に就任した李完用である。 七篇中唯一、実在の人物―李完用―が登場する短編が『その日』だ。「その日」とは、彼が刺客・李在明に襲われた1909年12月22日のことを指す。 物語は、刺されて重傷を負った李完用が、これまでの来し方を回想する形式になっている。物語に書かれているように、功績を認められ日本の侯爵位をもらった李完用の国内での評判はすこぶる悪い。だが、彼には彼の言い分があった。皇帝と国を愛していなかったわけではないのに、結果的には彼でなくても誰かがしなければならないことだったが、彼以外の誰にも許されていない行為に手を染め執着心を断ち切った李完用。母なる国の人々から敵意と恐怖を抱かれ、自分自身以外誰も信じていない李完用の深い孤独が沁みる良編であり、多少センチメンタルな気はあるものの、若い作者がここまで老成した実在の人物の内面に踏み込める洞察力を持っている事は、驚きであり、喜びであった。ほか『ある晴れやかな日の午後に』『チョ・ドンオク、パビアンヌ』『めまい』『山の向こうの南村には』の全七篇収録。【楽天ブックスならいつでも送料無料】アンニョン、エレナ [ 金 仁 淑 ]楽天ブックス
December 5, 2016
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みなさん、こんばんは。トランプ氏のブレインが着々と決まっていますね。一方隣の韓国では大統領弾劾が始まりそうな勢いです。国が乱れると国民が苦しみます。かつてこの国も苦しみました。サラエボのチェリストThe Cellist of Sarajevo武田ランダムハウスジャパンスティーヴン ギャロウェイ 「サラエボは何があった街?」と聞かれ、歴史を学んだ学生ならば、その場所がどの国にあるのかは答えられなくても、ある事件については答えられる。小さな町で起こった皇太子狙撃事件から、世界中を巻き込む大戦の一つ―第一次大戦―が始まった。しかしこの町を襲う戦火はそれだけでは済まなかった。第二次大戦後、ユーゴスラビアという国になっていたその場所は、チトー大統領の死後、ボスニア・ヘルツェゴビナとして独立しようとした勢力と、セルビア人国家を造ろうとする側との武力衝突が繰り返された。その中で、水を汲むために並んでいた22人の市民がテロにより亡くなった現場で、『アルビノーニのアダージョ』を死者の数だけ演奏し続けるチェリストがいた。 映画『戦場のピアニスト』にも戦場でピアノを弾く演奏家が登場したが、今回のチェリストはピアニストとは立ち位置が異なる。彼は何も語らず、従って背景や心情は何一つ紹介されない。むしろその方が良い。彼は演奏で、その立ち姿で語っている。 本作は史実に材を取った作品である。実在のチェリストは、取材にやってきたCNNのクルーが「あなたは気は確かですか?」と尋ねると、「私に気が確かかどうか聞く前にサラエボを砲撃した人々に訊いたらどうですか」と答えたそうだ。著者は特に取材をせずに、彼をモデルにチェリストを作り上げた。 章毎に視点が変わり、チェリストは冒頭に登場するのみで、それ以降は彼は物語の遠景になる。近景として登場するのは、丘の上に陣取って狙撃するセルビア軍に対応するスナイパーのアロー、家族と口やかましいアパートの住人のために水汲みに通うケナン、妻子を疎開させて妹の家に住むドラガンの三人で、彼等の動向が時系列に沿って描かれる。奇しくも実在の演奏家と小説の中の彼は、ぴたりと重なる。いつ自分が砲撃を受けてもおかしくない場所で演奏を続けるその姿勢に、上述の三人が影響を受け、或いは何かを仮託して、日々を生きていく。 どんな状況下であっても、人の命が無残にも奪われることはあってはならない。これは大前提だ。しかしこれほど頻繁に世界でテロ行為がおこなわれてしまうと、大前提に対する執着を失う。戦争なら仕方がない、と。「仕方がない」と思うから、「なんでこんな時にこんな場所で演奏を」と、客観的な視点を持つジャーナリストまでが尋ねてしまう。しかし逆に尋ねよう。「人が亡くなった場所で悼んで音楽を演奏することは、当たり前のことではないのか」と。来る日も来る日も身をすり減らして、狙撃の恐怖に怯えているのは非日常で、本来あるべき姿は、妙なる音楽に耳を澄ませて人を思いやる余裕を持って生きられる日常だ。荒廃した戦場で響く音色は、どんな雄弁な演説よりも、本来はそうあるべきなのだ、という日常を、人々に呼び起こす。 出版社 武田ランダムハウスジャパン 著者・翻訳者 スティーヴン ギャロウェイ (著) 初版発行日 2009-01-22【中古】サラエボのチェリストKSC
November 18, 2016
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みなさん、こんばんは。広島の黒田投手が改めて引退会見をしましたね。広島ひとすじ。羨ましいような、苦労もあったような。さて、こちらも5日間に渡って紹介してきた小説の最終章です。ふたりの世界 5 ウェールズの家族ジョアン・リンガードHostages to Fortune晶文社前作でセイディーもケヴィンも温厚な農場主に雇ってもらい、やっと安住の地を見つけたと思ったのもつかの間、本作冒頭でいきなり農場主が亡くなっていた。農場主に子供はおらず、土地を買ったのは開発業者で、雇われて間もないケヴィン&セイディー夫妻は首になる。セイディーは妊娠が発覚。更に奔放なケヴィンの妹クロダが持てあまされてケヴィンの所へやってくる。 ケヴィンとセイディー物語もとうとう最終章に。定職を持たないセイディー達の苦境は、非正規雇用者が多い現代日本にも通じる。次から次へと問題を起こす弟妹を、長男とはいえ独立して暮らしているケヴィンの所へ送り込むのは、現代感覚では違和感があるかもしれない。しかし、当時は家長が家族の面倒をみるのが当たり前だったので、父の死後、家を仕切れない母親がケヴィンに依存するのは違和感のない流れだったのだろう。 口数が少なく何を考えているのかわからない。その場限りで適当な事を言い、何度謝っても悪事をやめられず、誰の事も信用していない。前作のジェラルドの合わせ鏡のようなキャラクター・クロダを登場させることで、辛い環境に身を置いても、立ち直れる人と立ち直れない人がいることを示している。どんなに他人が手を差し伸べても、最後は自分の意志が強いかどうか。家族の情愛が全ての人を救えるわけではない現実を、しっかり見据えたストーリー展開になっている。 原題は「 hostages to fortune」。これに一語を加えれば、「give hostages to fortune」となり、「いつ失うかわからないものを抱え込む」という意味になり、しばしば「妻子をもつ=家庭を築く」事を意味する。結婚するだけならば、二人は既に第二作で結婚している。だが、誰かが加わり、或いは去り、または状況が変わった時にも、家の屋台骨がぐらつかない―そんな家族になるまでには、長い年月や辛い経験が必要だった。そして本作のラストで、やっと二人は、本当の意味での家庭を築く事ができた。口煩い母親をうっとうしがっていたはねっ返り娘が立派な母親になり、喧嘩っ早かった少年が家族を守ろうと奮闘する父親かつしっかりした家長になるまでを見届けられて本当に良かった。
November 5, 2016
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みなさん、こんばんは。今日もいい天気でしたね。そういえばいつも年末に猫のカレンダーを頼んでいるクアトロギャッツが閉店したとのこと、びっくりしました。猫カレンダーは今年はないのですね。岐阜猫を救う会のボランティアに賛同していたのに…。今日紹介する本はシリーズ作の第四弾です。ふたりの世界 4 チェシャーの農園A Proper Placeジョアン・リンガード晶文社前作で、父の死を機に、帰郷して家族と一緒に住むよう勧められたにもかかわらず、それを蹴ってしまったケヴィン。セイディーと共に新天地リヴァプールで暮らすことを選び、長男ブレンダンが生まれて、貧しいながらも穏やかに暮らしていた。そこへセイディーの母が訪ねて来るという報せが届き…。 セイディーと母の親子喧嘩が始まると、バツの悪い婿どのケヴィンは酒場に入り浸って遅くまで帰ってこない…という、日本の橋田寿賀子ドラマでもお目にかかりそうな、ちょっと笑えるシーンがこれに続く。母親訪問シーンにおいても、他作でも描かれてきたセイディーとケヴィンの生育環境の違いが明らかになる。中絶を禁じているカソリックの家庭はおしなべて子だくさんで、それ故に貧乏だ。一方セイディーの母親は紫のコートに紫の帽子という派手な身なりで登場する。そして二人の住んでいる街を「スラム街」と言ってはばからず「プロテスタントとして恥ずかしくない育て方をしたのに」と二間暮らしのセイディーを非難する。セイディーの方がかなりお嬢様暮らしだったことがうかがえる。ケヴィンとの結婚は彼女にとって、かなり思い切った決断でもあったのだ。 原題は「A Proper Place」適切な場所という意味だが、これはケヴィンとセイディーだけに向けられた言葉ではない。前巻までが「ふたりの世界」を形作るまでの物語で、本巻と次巻はその世界に他人が入って来た時に、果たして安泰でいられるか?という点が見どころである。ケヴィンの弟でテロにも関わっているジェラルドが、早速リヴァプールにやって来て騒動を起こす。今でいうPTSDに悩まされており、テロで父親を亡くした辛さからまだ立ち直れていない。年齢からいってもまだケアが必要なのだが、生憎この時代にそのような手厚い看護は望めない。自分と同じ子だくさんの家で暮らす黒人の女性マリアと知り合った事が、彼の再生の契機となる。「自分に相応しい場所は自分で見つけ、自分で作っていくものだ」という、著者の厳しくも暖かい登場人物達への眼差しが見えるようだ。ポイント5倍【1か月 ■度なし/■度あり 送料無料!即日発送!最安値挑戦中!期間限定特別価格!】14.2mm ナチュラル ブラウン カラコン FLOAT LEAF(フロートリーフ)1箱2枚入 着け心地、発色抜群!
November 4, 2016
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みなさん、こんばんは。今日はお休み。ハッピーマンデーでやたら月曜日の休みが増えてますがたまにはこんな中休みもいいですね。さて、こちらは2日間紹介している五部作の三作目です。ふたりの世界 3 ロンドンの生活ジョアン・リンガードInto Exile駆け落ち同然にベルファストからロンドンにやってきたケヴィンとセイディーは、夢と希望でキラキラしていた。大都会なら仕事はいくらでもあり、狭い世界の故郷ではとやかく言われた交際も、ここなら誰にも気兼ねなくオープンにできるはず、と勢いで結婚もする。ところが、そんな楽しい時間はあっという間に消え失せる。こぞって家族に反対されるからこそ、燃え上がって新生活に飛びこむ勇気が持てたものの、周囲の反対という動機自体が消えうせてしまうと、後に残るは惰性で続く日常と、こまごまと生じるトラブルだけだ。 まず、都会は物価が高い。特にセイディーは裕福なプロテスタントの家で育ったため、ローンで高い買い物をするなど、暮らしぶりはすぐには変えられない。ましてや職場で付き合う友達は独身だから、彼女達にあわせていれば、自然と暮らしも派手になる。一方のケヴィンは学歴もなく縁故もないため、工事現場の作業員くらいしか仕事がない。何か手に職をつけようと思えば、学校に通わなければならず、こちらも金が必要だ。現実は、ガラスの靴では乗り越えられない。 更に、例え離れていたとしても家族の事は気にかかり、今回遂にケヴィンの父が爆発テロの犠牲になる。家長でもあるケヴィンは、故郷に残した家族への責任と、これから始まるセイディーとの暮らしの間で懊悩する。もし、おれたちがあきらめていれば、ああいうことすべてに対して、ゆずってしまうことになる。あの偏見と憎しみ、暴力と愚かさに対して。 五部作のちょうど真ん中にあたる本作の原題は「Into Exile」。文字通りなら「国外放浪」でまさに二人の置かれた境遇を刺しているが、彷徨っているのは体だけではない。結婚の理想と現実のギャップから生じる夫婦の危機と、今までは家族に面倒を見てもらう側だった二人が、面倒をみる側へとシフトする過渡期の真っただ中で、どう生きるべきか迷っている。互いの愛情が試される最初の試練をどう乗り越えるか、若きカップルの格闘をぜひ読んで頂きたい。
November 3, 2016
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みなさん、おはようございます。明日はお休みですね。嬉しいです。中休みなのでゆっくりしたいです。さて、こちらは昨日紹介した本の続編です。ふたりの世界2バリケードの恋愛Across the Barricadesジョアン・リンガード晶文社第二作では、第一作から三年が経過している。セイディーはデパートの売り子として働き、ケヴィンは彼に気がある少女ケ―トの父親の職場で、クズ鉄回収の仕事をしている。前作でケヴィンの妹ブレーデが怪我をして、憎み合うことに疑問を持った二人は、お互いに好意を抱くようになる。ところが家族をはじめとする周囲の目は二人に厳しくて…。 前作では仲の良い子供として見逃されていた二人が、思春期に突入した事でにわかに周囲から注目される。二人を見た周囲の反応は反応は、単なる嫌悪感情を向けられるにとどまらない。ケヴィンに至っては職場を失ったり濡れ衣を着せられたり、リンチにあったり…という、実害を伴うものになってゆく。特に二人に対して風当たりがきついのではなく、ベルファストの街全体が、爆発騒ぎがあったりIRAの爆弾テロがあったりと、前作に比べてかなりきな臭くなっている。人々が知らぬうちに日常の暴力に慣らされている所以であり、恐ろしい。 セイディーも職場でカソリックの男性とつきあっていることをあてこすられ、かっとなって仕事を辞めてしまう。喧嘩っ早くて何事も決めたら早い、直情的なセイディー。彼女ほどではないものの、すぐかっとなる性格のケヴィン。似た者同士に見える二人でも、前作より増えた一家を支える責任感をひしひしと感じ取っているケヴィンの方が、兄がいるセイディーよりも様々な所で感じる圧力は強い。タイトルの‘バリケード’はプロテスタントVsカソリックの両者の間を隔てる壁の事でもあり、家族を含める周囲が若き恋人達に向ける世間の壁でもある。だが本作の原題がAcross the Barricades―バリケードを越えて―であることからも、彼等はこの壁の前で立ちすくむのではなく、乗り越えていくことが期待されているのは明らかだ。 そうはいっても、彼等はまだ非力な十代であり、二人で壁は越えられない。そこで越える助けとなってくれるのが、セイディーの中学時代の恩師であるブレーク先生だ。無職になったセイディーに仕事を与え、カソリックとプロテスタントの夫婦を支援するなど、広い心の持ち主だ。家族や友人とは異なる立場の大人に出会えた事で、セイディーとケヴィンは「考え方は一つではない」事を学ぶ。ようやく居場所を見つけて落ち付くかに見えた二人だが、前作同様、ここでもある事件が起こり、二人が行動を起こすきっかけを与える。 生まれついての価値感と、相手に抱く愛情の板挟みになった現代のロミオとジュリエットは、幸せな未来を掴むことが出来るのか?
November 2, 2016
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みなさん、こんばんは。職場の同僚はハロウィンを楽しんだようです。みなさんはいかがですか?ハロウィンが終わるとクリスマスでしょうか。さて、こちらは5部作になっている一組の男女の物語です。ふたりの世界 1 ベルファストの発端The Twelfth day of Julyジョアン・リンガード晶文社イギリスとアイルランドの対立については、IRAのテロがニュースになった事があるのでよく知られている。しかし同じアイルランドの中でも、プロテスタントとカソリックの対立が起こっていたことは、さほど注目されていない。 10代の少年少女を主人公に据えた五部作の第一作目。同じ年の七月七日から七月十二日までの6日間の出来事を描く。黙っていれば金髪の美少女で通るセイディー・ジャクソンはプロテスタントで、兄トミーと両親の4人家族だ。黒髪の少年ケヴィン・マッコイは、大人しくて優しい妹ブレーデの他に兄弟が5人もいる、典型的な貧乏な子だくさん家庭の一員で、カソリックだ。 生まれた時から家族と同じ宗教観の中で育ったために、自分がカソリック/プロテスタントで在る事を疑ったことがない。そして相手が悪者であることを疑いもしない。そんな二人のボーイ・ミ―ツ・ガールは、「相手が大切にしているものにペンキを塗ろう」というたわいもない喧嘩から始まった。争いを始めたら、どちらかが止めるというまでやめられない。そしてたいがい、やられたままでは終わりたくない。そんな子供どうしの争いが、やがて大人も巻き込んだ争いに拡大していく。この構図は、現在世界で起こっている紛争にも言えることだ。 だが二人の男女が周囲と異なっていたのは、自分達のやっている事を、ふと立ち止まって振り返れたことだ。相手憎しの一念で凝り固まっていた頃は見えなかったものを見たことで、二人は根本的な問題に立ちかえる。「そもそも、なぜ相手を憎まなければならないの?」 主役二人以外も、彼等の家族のキャラクターがしっかり立っていてシリーズを支えている。平易な言葉で書かれているので、読者は子供だけに限定するともったいない。
November 1, 2016
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みなさん、こんばんは。日本シリーズ、黒田選手も大谷選手も大活躍でしたね。また広島に戻ってくるんですね。さて、こちらはあの有名人と同じ名前の小説です。ナイチンゲール上下The Nightingaleクリスティン・ハナファースト・シーンは、ホームに入ろうとする老女が、懐かしい書類の中にあるコードネームを見つける。この時点では老女の名は明かされておらず、「彼女が何をしたのか」「老女は姉妹のうちどちらか」という謎はラストまで明かされない。 第一次大戦に従軍し、心に傷を負った父親は、妻の死後、二人の娘に背を向けた。姉のヴィアンヌは慰めを求めて十六歳で妊娠、翌年結婚するが流産。妹のイザベルは姉にも見捨てられ、寄宿学校に入れられるが、成長とともに反抗的になり学校を転々とする。やがて第二次大戦が始まり、フランスはドイツに屈服する。ヴィアンヌの住む町にもドイツ軍が侵攻、出征した夫を待つヴィアンヌは、ドイツ軍大尉との同居を強いられる。一方、寄宿学校を退学させられたイザベルは姉のもとに身を寄せるが、途上ドイツ軍の暴虐を目の当たりにし、怒りに震え、パリのレジスタンス組織を目指す。娘の命を守るため、屈辱的な仕打ちに耐え続けるヴィアンヌ。イザベルはパリで、暗号名〈ナイチンゲール〉として、連合軍航空兵を国外へ逃亡させる秘密活動を開始する。 ミニシリーズテレビドラマの原作にぴったりの波乱万丈のストーリー展開で、戦争をどちらかと言えば女性側から描いた作品。優等生タイプ(にしてはできちゃった婚しちゃったけど)の姉と、父親は無関心だわ、構ってくれる母親不在だわで、存在を主張するために常にとんがっていた妹という、対照的なキャラクターに設定されている。彼等の恋人もこれまた対照的で、妹が恋するのは危険な香りのするレジスタンス、姉の夫は善良な父親かつ夫で、妊娠がわかったヴィアンヌを父親から守り抜いた過去もあり、夫婦としての歴史もある。それ以外の善人と悪役はわかりやすく分けられているので、先の展開は比較的見えやすい。イレーヌ・ネミロフスキーの「フランス組曲」同様に、温厚なナチス兵士が登場する。今後「ナチスドイツは皆悪」というステレオタイプに囚われないキャラクターも登場してくるのかもしれない。上巻表紙は妹、下巻表紙は姉。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ナイチンゲール 上 [ クリスティン・ハナ ]【楽天ブックスならいつでも送料無料】ナイチンゲール 下 [ クリスティン・ハナ ]楽天ブックス
October 26, 2016
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みなさん、イーヴリン・ウォーってご存知ですか?最近になって立て続けに著作が刊行されています。この本の表紙は若き頃の彼の写真なのですが、なかなかイケ面です。イーヴリン・ウォー傑作短篇集イーヴリン・ウォー高儀進 『大転落』『ブライズヘッド再び』などの著作で20世紀のイギリス文学を代表する小説家と目されているイーヴリン・ウォーは、今年没後50年を迎える。記念として今後4年間に亘り著作や日記が出版予定。『良家の人々A House of Gentleforks』ひどく不名誉な状況でオックスフォード大学を退学になったヴォーンに、ある仕事が舞い込む。それは、さる公爵の孫息子の大陸遊学に、チューターとして1年ほど同行するというものだった。どうせぶらぶらしているし、悪い話ではない。そう思い引き受けたヴォーンだったが…。『ディケンズ好きの男The Man Who Liked Dickens』アマゾンに60年近く住んでいるマクマスター氏の元に、病気の白人男性ポールが担ぎ込まれる。アマゾン探検隊を組んだが、一人減り、二人減りしてとうとう一人になってしまったのだ。回復して故郷に帰ろうとするポールに、マクマスター氏はディケンズ作品を読むよう強要し…。ディケンズファンなら知っている『荒涼館』などのタイトルが登場。『ラヴデイ氏のちょっとした遠出Mr.Loveday’s Little Outing』自殺を図った父を精神病院に見舞いに来て、その世話係をしているラヴディ氏の事が気になった娘は、「できたらいいなあと思うことが一つあり、それが出来たら死んでもいい」という彼の願いを叶えようとする。ところがその願いとは…。などの「狂気と正気の境目ってなんだろう?」と言うテーマが多く扱われている。特に『ラヴデイ氏のちょっとした遠出』は女性ファッション誌「ハーパーズ・バザー」に掲載予定になっていたが、あまりの不気味さに断られてしまったといういわくつきの作品だ。『勝った者がみな貰うWinner Takes All』貴族のケント=カンバランド家の当主が第一次世界大戦で戦死、未亡人が家を取り仕切っている。長男はオックスフォード大学に進学させるが、節約のため、次男は無名のパブリックスクールに進学させる。やがて次男はオーストラリアに追いやられ、そこで大富豪の牧場主の娘と恋仲になる。未亡人は長男とその娘を結婚させようと画策するが……。父親が長兄ばかり可愛がったウォーの体験が色濃く反映された短編。これもまた狂気と正気ではあるのだけれど、突き詰めると「ある一つの考えに固執した人は、不特定多数の他人から見ると狂気に見えることもある。それが病という形ではっきり外に出ていないだけだ。」ということなのかもしれない。他『の支配人The Manager of “The Kremlin”』『不況期の恋Love in the Slump』『お人好しToo Much Tolerance』『現実への短い旅Excursion in Reality』『アザニア島事件Incident Azania』『ベラ・フリース パーティを開くBella Fleace Gave a Party』『ディケンズ好きの男The Man Who Liked Dickens』『昔の話Period Piece』『見張りOn Guard』『イギリス人の家An Emglishman’s House』『気の合う同乗者The Sympathetic Passenger』『戦術演習Tactical Exercise』などブラックユーモアと皮肉が炸裂する15篇厳選。初訳4篇ほかすべて新訳、自筆の挿絵6点掲載。挿絵はヘタウマっぽい。【今だけポイント6倍!】イーヴリン・ウォー傑作短篇集/イーヴリン・ウォー/高儀進【2500円以上送料無料】オンライン書店boox
October 7, 2016
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みなさん、おはようございます。だれでも 一人は本を書くと言われていますね。圧倒的に多いのが自分史です。この物語の中には、自分史を書いてもらいたい人達が登場しますよ。あなたの自伝、お書きしますLoitering with Intent ミュリエル・スパーク 原題「Loitering with Intent」は、1950年6月末日、20世紀のちょうど中間にあたる日に、小説家フラーが墓石に腰かけて詩作に耽っていたことに由来する。彼女を不審に思った警官に「この墓石に座っているだけで罪になるとしたらどんな罪になるのか」と聞いたら、「礼拝所を冒瀆する罪か、公務の執行を不当に妨害する罪、犯罪を目的として徘徊する罪(原題)」と言われた。その時のフラーに犯罪行為をしている自覚はなかったが、かつての彼女は…と、物語はここで過去に遡る。 処女作『ウォレンダー・チェイス』を売りこんでいたが一向に目が出ないフラーに友人が紹介したのは、自伝協会という組織で会員の自伝執筆を手伝う仕事。慇懃無礼な依頼主サ―・クウェンティン、失禁してクウェンティンを悩ませるが、フラーにはまともな言動をチラ見せするその母エドウィーナ、叙勲されたにも関わらず態度が控え目な製糖業者、ロシアの元貴族、足を怪我した女性など、周りはひと癖もふた癖もありそうな登場人物ばかり。しかしフラーも負けてはおらず、会員達の書いた原稿がつまらないからといって、脚色を加えたり、浮気相手の妻に勝手な事を言ったりと、かなり自己チュー。そんな時、フラーの原稿が消え、出版社から「処女作出版は見合わせたい」と言われてしまう。 物語は作家となったフラーの回想といった形で語られ、現在と過去が交錯する。「既に起こってしまったこと」をフラーが書いているわけだが、そもそもフラーは作家である。つまり虚構を現実にするプロなのだから、全て本当の事を書いているとは限らない。ご丁寧に「フラーの小説に書いたことが現実に起こった」という出来事も挿入されているので、現実と虚構の境は曖昧になり、「この中の一体どれが事実なのか?」と混沌は深まる。更に言うなら、著者ミュリエル・スパークもフラーと同じく不倫体験があり、作中人物の一人のように薬に嵌っていたそうだ。この物語の中には「フラーの書いた現実(実は虚構)」+「スパークの現実を脚色した虚構」+「自伝協会の会員が脚色した虚構」など、幾重にも虚構が重なっていることになる。真実を知っているのは神ならぬミュリエル・スパークのみ。そんな彼女の姿は作中で全てをコントロールしたがるフラーやサ―・クエンティンに投影されている。それにしても「ただでは起きるか!」とばかりに、自身の辛かった経験をもネタにしてしまうスパーク、恐るべし。1981年度ブッカー賞候補作品。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。あなたの自伝、お書きします [ ミュリエル・スパーク ]楽天ブックスウォールシェルフ 木製 棚【アイアンガード付きシェルフ L】アンティーク 壁掛け ウォールシェルフ 木製シェルフ 壁掛け飾り棚 ナチュラルな木の風合いが人気 おしゃれなアンティークウッドラック 可愛い棚 キッチン ウォールラック02P06Aug16価格:2160円(税込、送料別) (2016/8/12時点)
October 5, 2016
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みなさんこんばんは。みなさんは、ディズニーの『101匹わんちゃん大行進』を見たことがありますか?今日紹介するのは、その原作者が書いた自伝的小説です。カサンドラの城I Capture the Castleドディ―・スミス 「ヤコブの闘い」という本を書いて以来、沈黙を続ける作家の父ジェイムズ。元モデルの継母トパーズ。美人のお転婆娘、長女ローズ。学校に通う弟トーマス。お城の雑用を一人でこなす青年スティーヴン。そして物語の主人公、次女カサンドラ。「六ペンスのノート」「一シリングのノート」「二ギニーのノート」という3つのノートに書かれたカサンドラの日記には、総勢6人、イギリスの古城に住むモートメイン家の日常が綴られる。 椅子や皿の有無も確認せず、平気で客をディナーに招くジェイムズ。父を盲目的に熱愛し、時には夜に裸で外を闊歩するトパーズ。綺麗にしたいお年頃ゆえ、貧乏に最も嫌悪感を抱くが、自他共に認める労働者には不向きなローズ。城を吹き抜ける寒い風に、貧乏を嘆いた次の瞬間に「外に降る雨がベールのように塔を覆っている」とロマンティックにひたるカサンドラ。唯一、学校という社会と接する場を持っているトーマスを除いて、彼等は、一風変わった暢気もの。 そんな人が1人いるだけでも大変なのに、家族の中に4人も揃ってしまったものだから、毎日がボードヴィル・ショーか、シットコム。またそれを、カサンドラがウィットをきかせた文章で、面白可笑しく描くものだから、読んでいるこちらは、笑いを堪えるのが大変。さらに、類は友を呼ぶのか、一家よりも働いているのに、一銭も給料を貰わず、逆に他で働いた給料で、一家に食べ物や贈り物を買う、究極のいい人スティーヴンや、ジェイムズのファンで、本を届けてくれる司書のミス・マーシーまで、彼等のまわりには、いい人が集まってくる。そんな、物語の中にしか存在しないような別世界は、城と近所の屋敷の持ち主である二人の裕福なアメリカ人ニールとサイモン兄弟の登場により、にわかに変化し始める。 イギリスの城や姉妹達に惹かれる金持ちのアメリカ人兄弟は、ヘンリー・ジェイムズの「金色の盃」「鳩の翼」にも描かれた、湯水のように金を使って、憧れのヨーロッパの美術品を収集するアメリカ人の姿と重なる。そして本書では、モートメイン家に現実を持ち込む存在だ。ジェイン・オースティンの「高慢と偏見」「分別と多感」(映画『ある晴れた日に』原作)等の一連の小説に描かれる、年頃の女性達の近所に男性が現れるシチュエーションは、物語の一節をしょっちゅう引用するローズとカサンドラにとって、正にバイブル。当然これらの小説を読んでいて、小説のヒロインに自分をなぞらえる。小説に書かれた恋の手練手管を実践するが、所詮架空の悲しさ、あえなく失敗する。物語より遥かに厄介な本当の恋愛によってローズとカサンドラは、嫉妬や切なさ、胸の痛みを体験する。そしてカサンドラは、自分の子供時代の終わりをも、痛みと共に実感する。 二人の他、彼等の両親や、スティーヴン、彼に思いを寄せる女性、それぞれの人生が、一人も疎かにされていない。だから、物語世界から現実世界に移行して後も、誰一人として心底から嫌いな人物が登場しない。作者の登場人物への豊かな愛情が感じられる。「101(ワン・オー・ワン)」の原作者の、自伝的要素の強い作品。今まで翻訳されたのが不思議なくらい。もっと早く世に出てもよかった。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。2003年映画公開。日本未公開。カサンドラの城ぐるぐる王国DS 楽天市場店
September 4, 2016
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みなさん、こんばんは。毎日メダルラッシュですね。朝出社する時に湯の中を歩くようです。みなさんの街はいかがですか?さて、こちらは罪を償うというテーマの小説です。贖罪Atonementイアン・マキューアン第一部の舞台は、1935年夏、イギリス。良家の娘ブライオニー・タリスは、帰省する最愛の兄のために自作のロマンス劇を上演しようと意気込んでいた。家族、兄の知人であるチョコレートバー長者、掃除婦の息子ロビー、全ての登場人物がタリス邸に集まって来る。 第一部は、それぞれの視点で物語が描かれ、登場人物の内なる焦燥感や苛立ちが明らかにされる。何やら事件が起こりそうな予感をはらませる、上々の滑り出しだ。架空のロマンスにおいては寛容だったブライオニーが、姉とロビーの現実の性愛を目撃した時に、激しい嫌悪感を抱き、嘘をついて、二人の仲を引き裂いてしまう。 第一部の幕切れは、ブライオニーの少女時代の終わりを象徴し、ロビーの母親の「嘘つき!」という叫びが、その後の彼女の人生を支配する。 第二部、第三部では、戦時下のブライオニーと姉、ロビーが描かれ、最後に「贖罪」というタイトルで、一九九九年、小説家となったブライオニーの現状が綴られる。実はこのラストの章がキイであり、「小説家だけができる贖罪のかたち」について、考えさせられる作品だった。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】 贖罪 /イアン・マキューアン(著者),小山太一(訳者) 【中古】afb価格:748円(税込、送料別)
August 11, 2016
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みなさん、こんにちは。ロシアの選手のオリンピック参加が条件付きで認められましたね。また甲子園の怪物と言われた清宮くんが今年は出場できませんでした。いよいよオリンピックまであと少しですね。こちらは聖十字架に纏わる話です。イーヴリン・ウォー ヘレナHelena文遊社 本作は、イーヴリン・ウォー作品には珍しく前書きがついており、本書執筆に至るきっかけが紹介されている。とあるイギリス人女性が、「イギリス女性がキリストの十字架を発見したなんて嘘よ。インベンション(=本当は発明だが女性は偽作と間違っている)なんて書いてあるのよ」と言った事に奮起して書いたそうだ。だが皮肉屋ウォーのことだから、どこまで本当の事を言っているのやら。 トロイア戦争で火種の元となったファム・ファタールと同名の女性は、現在のイギリスで生まれた。旅館の娘説もあるが、本作ではジェフリ―・オブ・モンマスによって流布された、王女という地位の高い女性に設定されている。そんな彼女が後のローマ皇帝コンスタンティウスと恋に落ち、妻になる。まさに順風満帆だが、ここから彼女の人生は変わり始める。皇帝になるために有力者の娘と結婚することになったコンスタンティウスはヘレナと離婚。息子コンスタンティヌス(後の皇帝、大帝と呼ばれる)とも引き離されたヘレナは、嫁のファウスタから敵視されて孫たちともなかなか会わせてもらえない。やがてキリスト教に帰依した彼女は、キリストが磔刑にかかったという十字架を発見し、聖ヘレナと呼ばれる。 人生をざっと書くと、波乱万丈でメロドラマ的であり、かつ、この時代は東と西に皇帝がおり、コンスタンティヌスの代でやっと統一されたというほど、ローマ混迷の時代であった。ウォー自身は歴史小説のつもりで書いたと述べているが、歴史小説につきもののドラマティック性とは逆の方へ、逆の方へとベクトルが向いているようにしか見えない。筆致は随分と抑えめだ。ヘレナに対する後世の評価「世俗の幸せよりもキリスト教を選んだ女性」は、いかにも「キリスト教は素晴らしい!」と言いたげで、いくらカトリック教徒であっても、あまり彼女を持ちあげすぎるのは違和感があったのかもしれない。また、キリスト教=宗教に関する皮肉が随所にみられた。 例えば、コンスタンティヌス大帝の息子クリスプスは、「戦ったのは別に神のためではないのに、なぜか神のために戦ったことになっている」と、キリスト教への不信を隠さない。また、後に母ヘレナと共に聖人に列せられるコンスタンティヌスが、妻ファウスタが呼びこんだ怪しげな巫女の一言で、息子二人の名をデスノートに書き込み、流刑即刻死刑に処する。その当時公的にはキリスト教を支援していたのだから、宗教に対する為政者の本心が透けて見える。国や権力者に擁護される宗教と、純粋な神への信仰を持つ宗教―本質は同じはずなのに、なぜこうも違ってしまうのか。信仰や宗教の本質を問いかける作品。
July 26, 2016
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みなさん、こんばんは。今日は七夕ですね。晴れるかな?さて、こちらは実在の人物とフィクションの人物を混在させた小説です。ブレイクの隣人Burning Bright トレイシー・シュヴァリエ 『真珠の耳飾りの少女』で実在の画家フェルメールと虚構の少女フリートの物語を書いたシュヴァリエが、再び現実と虚構を引き合わせた。今回の現実はウィリアム・ブレイク。知る人ぞ知る詩人で、ロイヤル・ウェディングでも歌われた『エルサレム』の詩を作った。画家でもあり、彼の描いたThe Great Red Dragon(偉大なる紅き竜)はハンニバル・レクター博士の登場する『レッド・ドラゴン』にも登場。 …というように、現代にも影響を与えているが、その反面生きていた時代にはさっぱり受けず、かえって反発を喰らっていた。そんな彼にシュヴァリエがぶつけた虚構は、ジェムとマギーというロンドンで暮らすどこにでもいる少年少女だ。ジェムはド―セットシャーから大都会にやってきた田舎のネズミ、マギーはロンドンの裏も表も知り尽くした街のネズミといった態。ジェムの父親トマスが上京を決めたのは、息子を亡くした辛い過去を忘れるためと、興業主フィリップ・アストリー(これも実在)に誘われた(と思った)からだ。マギーは最初とっぽいジェムを馬鹿にしていたが、次第に彼の素朴な優しさに惹かれていく。 …と書くと、ティーンのラブストーリーで読者層はもしかしたら小学生高学年あたりか?とも思えるが、中学生以上の方がいいのではないか。というのは、二人とウィリアム・ブレイクの初対面シーンがかなりショッキングだからだ。自由奔放で形に囚われないブレイクらしいが、お子ちゃまにはちょっと刺激が強い。但しブレイク、ただのヘンなヒトではなく、イギリス国内では否定的だったフランス革命に共鳴し、弱き者への共感・優しさを忘れない好人物として描かれている。一方的な見方にならないように、ちょっと擦れたマギー、擦れていないジェムという両極端のキャラクターが必要だったのだろう。十八世紀イギリスの当時の風俗や街並みが目に浮かぶようだ。【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【10倍】ブレイクの隣人 [ トレイシー・シュヴァリエ ]楽天ブックス
July 7, 2016
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みなさん、おはようございます。昨日は藤原竜也さんと吉田鋼太郎さんのミュージュックポートレートを見ました。年が20くらい離れていても仲が良くていいなぁと思いました。さて、こちらはアーサー・コナン・ドイルが主人公の小説です。ノンフィクションも交えた作品になっています。アーサーとジョージArthur & Georgeジュリアン・バーンズ 引退して養蜂と読書の隠退生活を送っていたにも関わらず、晩年のシャーロック・ホームズは盟友ワトソンと共に国家の一大事に駆りだされた。しかし彼の生みの親であるアーサー・コナン・ドイルは心霊主義にのめりこんだり、コティングリー妖精事件で偽造写真にころりと騙されたりと、晩年は嘲笑と共に語られる事が多い。そんな彼が『コナン・ドイル シャーロック・ホームズの代理人』で語られた冤罪事件で救おうとした一人が、この物語のもう一人の主人公であるジョージ・エイダルジだ。 本編は、アーサーとジョージの人生を時系列に沿って交互に紹介し、両者の違いを浮き彫りにする。祖母の死体を見ながら「途轍もない変化が生じ、あとに「物」だけが残されるとき、いったい何が起こるのか」と目に見えぬものについても考察を深めるアーサーに対して「物語を理解する能力は十全に備わっているものの、みずから創作する力はないに等しい」ジョージは目に見えるものしか信じない。しかしその事は同時に、肌の色が異なるボンベイ出身のパールシーである父や自分に向けられた見えない悪意を感じ取れないことにも繋がり、冤罪に問われる連続家畜殺害事件の前にもあった、数々の嫌がらせを見過ごしてしまう。自信も法律家であり法の下の平等を信じていたジョージが、陪審員の心証や警察の見込み捜査など、法とは異なる人間の情の部分―つまりはこれも見えない部分―で追い詰められてゆく過程が何とも皮肉である。 冒頭に掲げた台詞を言い絶体絶命のジョージを救おうと奔走するアーサーは、名探偵ホームズさながらのカッコよさだ。しかしこの後ジョージ視点から描かれるアーサーはヒーローには程遠い。むしろあのシャーロック・ホームズの作者としては皮肉にも、かなり恣意的な思考に囚われ暴走する様が描かれる。 他の点で様々に異なっていたアーサーとジョージが「ジョージが無実である事が見えていた」時点でいっとき心が繋がり、また離れていく。それでも、少なくともジョージにとっては、繋がった瞬間が一生の思い出として残る。登場人物それぞれによって、また同じ人物であっても時期によって、「見えること」「見えないこと」は異なる。だからこそ「見えること」=見解が一致する瞬間は稀有であり、何ものにも変え難い。読者はそれぞれに問いかけてみるといい。何が自分には見えて、何が見えていないのか。何を信じて、何を信じないのか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】アーサーとジョージ [ ジュリアン・バーンズ ]楽天ブックス
June 17, 2016
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みなさん、こんばんは。日曜日は新しい韓国ドラマも海外ドラマも始まって忙しい!さて、こちらはドイツが舞台の小説です。片手の郵便配達人DER EINHÄNDIGE BRIEFTRÄGERグードルン・パウゼヴァング 中国映画『山の郵便配達』は、疎遠だった父と息子が、山岳地帯への郵便配達を通じて心を通わせていくほのぼのとした作品だった。本作の主人公ヨハンも、山間の村で郵便配達人として働いている。異なるのは、物語の舞台が第二次大戦末期だということと、ヨハンが戦争で片腕を失っていること、いわゆる黒い手紙と言われる戦死の知らせを届けなければならない点である。 手紙を受け取る村人たちの考えも様々で、未だナチスドイツの勝利を信じて疑わない者もいれば、戦争とヒトラーに批判的な者もいる。若くて仕事熱心で優しいヨハンは、彼等の哀しみや苦しみをそのまま受け止める。自分を戦死した孫だと間違える老女に対しても、ぞんざいな態度を取らない。物語の定石ならば、善人は救われ、悪人は為した事の報いを受ける。さしずめヨハンは、戦争が終われば真っ先に新たなドイツで活躍を期待される存在だ。しかし、それも平和な時ならではだ。なぜならば、我々の戦争を思い浮かべてみればいい。爆弾が善人と悪人を選り分けて降って来たか。そして、戦争が終わった後も、国と人には深い傷跡が残る―勿論こちらも、善人と悪人を選り分けない。だから戦争は、始めてしまったら終わりなのだ。 本編の、特に淡々としたラストに比べて、『日本のみなさんへ』と題された作者のメッセージは熱い。書かれているひとこと、ひとことが、日本で進みつつあるきな臭い動きへの警鐘と言ってよいだろう。「ヒトラーの独裁政治は誘惑的でした。自分が何をすべきか自ら判断する必要はなかったからです。命令されていればよかったのです。従うことは簡単でした。最上の方法を探ったり、他人に対して寛容であるように努めたり、自分の責任においてものごとを決断する必要はないのですから。私たちはその誘惑に負けたのです」「人は誠実であるべきです。個人も、国も、謙虚になる必要があります。いかなる場合も、過ちを否定したり、事実をもみ消したり、隠そうとしてはなりません。罪を認め、心から詫び、できるかぎりの償いをして、共生していく努力が大切です。そうして初めて、近隣の人々とよい関係を築くことができるように思います。それは垣根を隔てた隣家の人でも、隣国の人でも同じです。」 戦後七十年を過ごしてきた同じ敗戦国として、我々はドイツに、同じくらい熱い言葉を贈れるほど、過去と真摯に向き合えているだろうか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】片手の郵便配達人 [ グードルン・パウゼヴァング ]楽天ブックス
April 4, 2016
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みなさん、こんばんは。今週は人疲れ、気疲れなど、いろいろ疲れました。今回はニューヨーカーに掲載された短編のアンソロジーを様々な翻訳者によって読める短編集を紹介します。ベスト・ストーリーズ1 ぴょんぴょんウサギ球編:若島正 昨今の出版不況で雑誌の存続自体も危うい中、未だ健在のニューヨーカー。短編集は、翻訳者を編者若島さんが指名した形で編まれたため、今までにない組み合わせが登場。小説ばかりではなくエッセイも収録。一度は目にしたことのある翻訳者たちがいるのでは?「Six Feet of the Countryこの国の六フィート ナディン・ゴーディマー著 中村和恵訳.」“シックス・フィート・アンダー”は、アメリカの葬儀社一家が主役を務めるアメリカのテレビシリーズだ。北米で土葬を行う際に棺桶を地上から6フィート(182cm)の深さに埋める、という慣例に基づいている。がイギリスにも似たような諺がある。「六フィートの土はすべての人間を平等にする」=冥途の道に王なし、という意味だが、埋葬に際しても平等ではないという現実がある。ヨハネスブルグに暮らす白人一家の主は、黒人の使用人を使っているが、日頃から自分は他の差別主義者とは違うと思っている。だが我々読者は彼の物言い「彼等の面倒を見てやっている」などに、胡散臭さを感じながら読み進める。さてそんな彼に持ちこまれた難題とは…。最後まで白人にとっては他愛のない話だ、と言いたげな口ぶりで書かれているので、読者にはよけいに彼の欺瞞が鼻についてくる。読者の感情を動かす過程が絶妙。 とある手紙に励まされた女性ミセス・ガーデンが助けを求めて差出人の女性ミセス・アメリア・ホープの元を訪ねるが、会話が全然噛みあわない。ミセス・アメリアの無責任な善意がかえって逆効果となる「When Things Get Dark世界が闇に包まれたとき シャーリイ・ジャクスン著 谷崎由依訳.」は同じジャクソンの短編『悪の可能性』と同じテーマ―自分本位の善意は悪に転じることもある―を扱っている。アメリアが手紙を出したうちの一人は歴史上の有名人という設定も恐怖を煽る。父親と再婚相手の父の秘書と過ごす初めての夏季休暇…とくればサガンの『悲しみよこんにちは』を想起させて、思春期のヒロインがどこに向かっていくのかとハラハラ。梯子はそのものずばりの意味ともう一つ、どうやっても実の父娘の間に入れない後妻を梯子を外された状態に例えたと思われる「The Ladder梯子 V.S.プリチェット著 桃尾美佳訳.」他収録作「Br’er Rabbit Ballぴょんぴょんウサギ球 リング・ラードナー著 森慎一郎訳」「The Little Hours深夜考 ドロシー・パーカー著 岸本佐知子訳.」「The Supremacy of Uruguayウルグアイの世界制覇 E.B.ホワイト著 柴田元幸訳.」「The Gables Mystery破風荘の怪事件 ジョン・コリア著 若島正訳.」「Why We Laugh Or Do We?(Let’s Get This Thing Settled,Mr.Eastman)人はなぜ笑うのか-そもそもほんとに笑うのか? ロバート・ベンチリー著 柴田元幸訳.」「Graven Imageいかにもいかめしく ジョン・オハラ著 片岡義男訳.」「The Weeds雑草 メアリー・マッカーシー著 谷崎由依訳.」「Mr.Holmes,They Were the Footprints of Gigantic Hound!ホームズさん、あれは巨大な犬の足跡でした! エドマンド・ウィルソン著 佐々木徹訳.」「The Drunkard飲んだくれ フランク・オコナー著 桃尾美佳訳.」「Teacher’s Pet先生のお気に入り ジェイムズ・サーバー著 柴田元幸訳.」「The Ladder梯子 V.S.プリチェット著 桃尾美佳訳.」「Profiles:How Do You Like It Now,Gentlemen?ヘミングウェイの横顔-「さあ、皆さんのご意見はいかがですか?」 リリアン・ロス著 木原善彦訳.」「Instrument of Salvation救命具 アーウィン・ショー著 佐々木徹訳.」「The Housebreaker of Shady Hillシェイディ・ヒルのこそこそ泥棒 ジョン・チーヴァー著 森慎一郎訳.」「The Oak and the Axe楢の木と斧 エリザベス・ハードウィック著 古屋美登里訳.」「Parthenope パルテノペ レベッカ・ウェスト著 藤井光訳」【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】ベスト・ストーリーズ1 ぴょんぴょんウサギ球 [ 若島正 ]楽天ブックス
March 19, 2016
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今日は寒かったですね~。さて、紹介するのはアンソニー・ホプキンス&ニコール・キッドマンで映画化された小説です。ヒュ-マン・ステインThe Human Stainフィリップ・ロス ユダヤ系アメリカ人コールマン・シルクは古典学の教授だったが、授業に出席しない二人の学生を「幽霊(spook)」と言ったことから人種差別主義者として非難され退職する。作家であり彼の友人のネイサン・ザッカーマンは、妻の死に怒るコールマンから糾弾本を書いてくれと頼まれて、この問題に関わることになる。しかしある日コールマンは、若い恋人が出来たと打ち明ける。 初老の男性と年の離れた女性の恋愛というモチーフはロスの『ダイング・アニマル』(『エレジー』として映画化)と共通している。『ダイング・アニマル』においても若いコンスエラの方が教養高き大学教授のケペシュよりも遥かに大人であったが、本作においても学のないフォーニアの方が、迷いあるコールマンよりも全てにおいて吹っ切れている。 人に育てられたカラスが野生のカラスに溶け込もうとしても排除されるように、コールマンには、もし人に知られたら排斥される恐れのある穢れがあった。小説は早い段階でこの秘密は明かしているが、これは秘密がいつ明かされるかが問題なのではなく、その秘密を抱えながらコールマンがどのように生きてきたかがテーマであるからだ。にも関わらず、目先の正しさに囚われ、人間の本質を見ようとしない風潮の中では、コールマンの苦悩は顧みられない。 コールマン、フォーニア、フォーニアの暴力的な夫レスター、コールマン排除の先頭に立ったフランス人教授デルフィ―ヌの四人が中心となった人間関係が描かれる。映画では後者二人の描写が少なかったが、原作ではベトナム帰りでPTSDで社会と折り合っていけないレスター、名門家系のプレッシャーから逃れるために新天地にやってきたにも関わらず、大学で求められている役割とのギャップに苦しむデルフィ―ヌ、それぞれの穢れが描かれており、誰もが罪人に迷うことなく石を投げられる善人でもなければ、生粋の悪人でもない姿を晒している。そしてそれぞれが抱える問題―黒人差別、戦争後遺症、DV、大学の荒廃―がアメリカが抱える問題に繋がり、それらを穢れとして排除してひたすら浄化に進むアメリカ社会への批判ともなっている。折しもこの夏、クリントン大統領のスキャンダルが起こり、ポリティカル・コレクトネスが必要以上に強要された。 作者の分身・ユダヤ系作家のネーサン・ザッカーマンが語り手を務める、アメリカ三部作の最後を飾る作品。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。 ヒュ-マン・ステイン [ フィリップ・ロス ]価格:2,376円(税込、送料込)
March 11, 2016
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みなさん、こんばんは。今日は土手に土筆つみに行ったのに、河川工事をしていてすっかり予定が狂ってしまいました。以前は今ぐらいの季節に野焼きをしていて土筆を見つけるのも比較的簡単だったのですが…家の近所の線路のそばにちょっと見つけました。こうして自然がなくなっていくんですね。さて、こちらはちょっと癖のあるラテンアメリカの作家の作品です。文学会議El congreso de literaturaセサル・アイラ セサル・アイラは確信犯だ。前作『わたしの物語』においても、「わたしの物語、というのはわたしがどのように修道女になったかと言う物語」と宣言したのであれば、まず1.わたしはどのような人物か2.なぜ修道女になりたいのか3.そのために何が必要で何が試練なのかを明らかにして物語を先に進めるのがセオリーというもの。それなのに主人公は延々と「苺アイスクリームがまずい!」と言い続ける。 はっ!もしや苺アイスクリームに毒を入れて人類絶滅を?いやいや、そもそも苺アイスクリームが嫌いな人には無効だから、それ! では他人と違う「わたし」を差別化したいとか?延々と悩み続けた挙句「苺アイスクリームは本当にまずかった」というオチで「修道女どうした!」とツッコミたくなったころには別の騒動が起こっていた。つまり彼の作品は、普通の小説で見るようなストーリーの進み方をしていない。 『試練』も、一言で言ってしまえば、主人公が女性から「ねえ、やらない?(やるその一)」と言われて「やる(やるその二)」話だ。「あら、他愛もない」と思うかもしれないが、実は(やるその一)と(やるその二)の中身は違っている。主人公が別の事に気を取られてスル―した時に、(やるその一)から(やるその二)への論理のすり替えが行われてしまった。『わたしの物語』同様に、「メインと関係あるのかこれ?」という話が次から次へと挿入される水面下で、すい、と主題のスライドが行われ、「あれ、何でこんな事に?」と首をかしげるラストへ突入する構造になっている。 『文学会議』も、とことんスベっていく構成だ。世界的に有名な文豪カルロス・フエンテス(なんだかスヌーピーみたいだ World Famous…)のクローンを作ろうと企んだ作家の企みの前に、まるまる一章使って「なぜ彼がお金持ちになったか」という話が出て来る(全二章しかないのに!)。新人作家のデビュー作なら「本筋に関係ないストーリーは伏線に生かそうとしない限り短くすべし!」と寸評出してつき返されるところだ。ともあれ1.なぜクローンを作ろうと思ったか2.誰をターゲットにするのか3.どうやってクローンを作ったのかというメインの要素はわりと早めに出て来るのでやれやれ、と思ったが、こちらもまた話が進まない。フツーならば、計画が成功するのかどうかハラハラする主人公の心理描写と、周囲の様子を交錯させながクライマックスへと緊張感を高めていくのが定石だが、作者の自分語り+翻訳(「いや、実はこういうことではなくて…」)のリフレインを読んでいるうちに、これまたクライマックスがやって来る。 セサル・アイラ小説はいずれも一人称小説だ。他に語り手がいない、つまり読者が物語から逃げられない状況に陥ったこの形式でしか「うねうねする構成の小説」は成り立たない。三人称小説にすれば、複数登場人物がいる場合「こんな考え方はしない」という人物が独りは現れる。そうすれば「どこかおかしいよ、これ」というポイントが指摘されてしまい、ラストまで続かない。そうかといって「登場人物がみなうねうねした思考パターン」というのもご都合主義と指摘されかねない。 「定石通りでない」ということは「いつどのように変化するかわからない」という事でもあり、別の緊張感がある。但し、緊張した分、その後の脱力感もハンパない。なので同じ事をやっていると、飽きられる可能性、或いは早々に見切られる可能性もある。 こんな読者の推測を見切った上で、三作以降も同じスタイルで行くとするなら、セサル・アイラは間違いなく確信犯だ。 おや?今回のレビューも、えらくうねうねしたような。伝染ったかな(いやーん)。【楽天ブックスならいつでも送料無料】文学会議 [ セサル・アイラ ]楽天ブックス
March 9, 2016
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何だか今夜雪が降るという予測が出てました。毎年この時期は忙しくて、土日も休めません。さて、こちらの小説にはある有名な探偵が脇役で登場します。ブリキの馬 The Tin Horseジャニス・スタインバーグ 人権擁護派の弁護士として活躍したエレインも、80代になり、老人ホームに入る事が決まる。引っ越しの準備をしていた彼女は、母の遺品の中にある人物の名前が書かれている探偵の名刺を見つけて愕然とする。なぜ母がこれを持っていたのか? 書籍を左右に開くと、右を振りむく女性と、左を振りむく女性が左右対称に描かれている。同じ女性を別の側から描いたのか、とも思えるが、表紙に書かれた女性の口紅の色がやや濃い。物語のヒロイン、エレインの双子の姉バーバラがこちらだと考えてもいいだろう。双子といっても似ていたのは外見だけで、興味を持つものも考え方も、全く違っていた。1.エレインが失踪した姉バーバラを探す現在2.探す過程でエレインが回想するバーバラとの過去 物語は二つの時制を行き来しながら姉妹の物語を縦軸に、アメリカに渡ってきたユダヤ人がどのように生きたかを横軸に進む。姉妹の物語のテーマはずばり、シブリングライバリー。一見、優等生のエレインが家族の希望の星で、バーバラは何をしでかすか分からない落ちこぼれに見える。しかし、母や幼馴染みなど、エレインが愛して欲しいと願う人はバーバラに惹かれていき、同じ顔をしているだけに、エレインは優しくされても「彼女の予備なんじゃないか」と悩む。ただ単純に出来事を喜べずいろいろ考えてしまう優等生ならではのジレンマだ。ただ、これはあくまでエレインの主観に過ぎず、他の姉妹や家族達は二人をどう見ていたかという第三者的な視点がもっと欲しい。 ところが自身もユダヤ系出身である作者は「ユダヤ人社会の変遷」という横軸の方に焦点を絞り過ぎて、肝心の一家のドラマを描き切れていなかったように感じた。バーバラがこれまでどうしていたか、どう感じていたかが「自分のとった行動の理由なんて、あたしにだってほとんどわらないんだもの」とという彼女のエクスキューズつきで駆け足で紹介され、「それを聞いてこれは赦すとか赦さないとかの問題ではない」とえらくあっさり納得してしまうヒロインのようには、すんなり受け入れられなかった。「年を取って亡くなってしまったのだから、その人達の気持ちは推し量れない。生きている者同士仲良く暮らそう」が着地点として相応しい考えであるとしても、そこに至るまでの登場人物の心の流れが、着地点ありきで進んでいるようで、あれほど探すことや会う事に葛藤した割には不自然だった。ある有名小説の脇役を主役に据えたアイデアは面白い。【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】ブリキの馬 [ ジャニス・スタインバーグ ]楽天ブックスもつ鍋 セット / もつ鍋セット 味噌味 2〜3人前 (野菜付き) 【10P07Nov15】価格:4,957円(税込、送料別)
February 2, 2016
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みなさん、こんばんは。雪大変でしたね~。電車も遅れがちでした。明日は地面が凍りそうですべらないように行かなくちゃ。さて、今日紹介するのはミュリエル・スパークの学園が舞台の小説です。ブロディ先生の青春 The Prime of Miss Jean Brodieミュリエル・セーラ・スパーク 河出書房新社スコットランドの首都エディンバラには、いわゆる花嫁修業の学び舎―マーシア・ブレイン女子学院があった。そこの名物先生ミス・ブロディの口癖ときたら、「また言われたの。もっと進歩的な学校に勤めたらって。先生の教え方が合いそうなところね。でも、怪しげな学校はまっぴら。この教育工場で頑張るつもりよ。聖書の文句ではないけど、パンを作るにもタネがなければだめ。心豊かな年頃の子を任せてもらえたら、最後まで育ててみせるわ。」 校長先生に睨まれつつもお気に入りの生徒達を課外授業と称して外に連れ出すなど自己流の授業を行うミス・ブロディ。未来の良妻賢母を作らんと意気込む校長先生は、彼女取り巻き―ひと呼んでブロディ組―の女生徒を呼び出しては、追い出す口実を見つけようと網を張るが…。 おっ、さては、保守派校長Vs革命思想の持ち主で熱血女教師&生徒の攻防戦が繰り広げられる痛快学園コメディ?いえいえ、あの、意地ワルなことでは人後に落ちないミュリエル・スパークが、そんな素直な、夕陽に向かって皆がわーっと走って「♪青春は太陽がくれた季節」だなんて歌う健全な話なんて、書くもんですか。 ただ、青春を彼女が好きなのは本当だ。なぜなら彼女のもう一つの口癖は「人は青春を謳歌するために生まれてくるの。先生の青春は始まったばかり」 素晴らしい。でもねセンセ、最高の時(The Prime)なんて、青春のほんの一瞬ですわよ。だが彼女、これを本心から信じている。それが証拠に、性の事に興味深々な女生徒の前で、過去の恋愛話を授業で話したり、想いを寄せられている先生に自分の似姿として女生徒を派遣。えっ。それって教育者としてあるべき姿? この物語はブロディ組と呼ばれる女生徒達が中等部から高等部、果ては社会人になるまでの過程が描かれる。それも時系列に沿うなんて丁寧なものではなく、学生時代の彼女達の描写の後に、いきなり「火災で死ぬ」なんて思いっきりネタばれが入って来る錯時法が用いられ、「えっそんな事、物語の途中で知りたくなかったよぅ」と涙目の読者をよそに、再び筆は、何事もなかったかのように、死を予告された彼女の学生時代に戻るのだ。そんな仕打ちをされた日にゃ、「ここだけの話、読者のことなんて、ぜんっぜん、考えてないでしょう?」と思いっきり胸倉掴んで聞きたくなるのは私だけか。 ブロディのモデルがスパークの知り合いだと聞けば半自伝小説とも言えるし、あまりに盛り沢山のエピソードで、ここには書き切れなかった超個性的な教師や生徒達の学園コメディの要素もある。1930年代のエディンバラを活写した社会派小説でもあり、自分の事が見えているようで見えなかった、ある一人の哀れな女性をしんみりと偲ぶ趣もある。こう様々な顔を持っていると、作品のジャンル分けをしようという気さえ失せてしまう。だが、ジャンル分けなどしない方がいいのかもしれない。マグリットの絵を模した表紙のように、ミス・ブロディも生徒達も、ふわふわと気持ち良さげに浮いていて、小説に何らかの意味を見出そうとしたり、ジャンルを定義づけようとすると、不敵な笑みを浮かべてどこかへ飛んでいってしまいそうな気がするのだ。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ブロディ先生の青春 [ ミュリエル・セーラ・スパーク ]楽天ブックス
January 19, 2016
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みなさん、おはようございます。今年の正月はずっと天気でしたね。ただ短かったのが玉にきず。明日から仕事です。さて、こちらは実在の人物を主人公に据えたフィクションです。世界収集家Der Weltensammlerイリヤ・トロヤノフ東インド会社の士官リチャード・フランシス・バートンに仕えたナウカラムが、次の勤め先への推薦状を書いてもらいに代書屋ラヒヤの所にやって来る。主人の命を救ったと公言するナウカラムの証言が正しいならば、バートン自ら推薦状を認めるはずなのに、なぜ貰えなかったのか。疑問は残るが、ラヒヤはナウカラムのこれまでの経歴を聞き書きする。 【英国領インド】の章におけるナウカラムとラヒヤの件は会話調の文章になっており、「話したい事を書いて欲しいナウカラム」と「職務経歴の詳細として書くために必要な事を話して欲しいラヒヤ」の、時に噛みあわない問答は、まるで落語のようで笑いを誘う。口承文学のような両者の会話と対比されるのが、バートン視点で描かれる箇所だ。活き活きした二人の会話に比べると平板であるが、理路整然としていて描写力に優れ読み易いという記載文学の良さを持っている。 同じ時の同じ出来事を書いていても、ナウカラムとバートンの見ているもの、感じる事は異なり、バートンが気付かないことをナウカラムは知っている。だが、その全てをナウカラムはラヒヤに話しているわけではない。長年の経験で彼が何かを隠していることに気付いたラヒヤは、彼の話に自分の想像を加え始める。フィクションともノンフィクションとも区別がつけられない曖昧さを持つ「物語」が生まれるのはまさにこういう瞬間だ。そういえば、バートンが翻訳した『千夜一夜物語』も、底本がないゆえにどんどん新しい物語が加えられ、さらにヨーロッパと中東という二つの文明の間を行ったり来たりするうちに変形が進んだ「物語」だ。まるで、英国=ヨーロッパに属しながらインド、アラビア、アフリカへ旅したバートンその人をも思わせる。 口承文学は、バートンがナイルの源を「発見」にゆく旅で道案内人として雇ったボンベイが、家族達に冒険行を語る【東アフリカ】の章で再度登場する。この件も【英国領インド】の章同様に、聞き手からツッコミが入ったり、同じ体験をした妻から訂正が入ったりとユーモアたっぷりの描写が続く。しかしそんな中にシリアスな色が混じるのは、ボンベイが自らの出自を語る件だ。「ボンベイ」という名前に違和感を抱いた読者が想像する通り、彼はアフリカから連れてこられた奴隷で、彼の辿った道筋は、アレックス・ヘイリーの『ルーツ』の冒頭を飾ったクンタ・キンテを彷彿とさせる。 また、ボンベイの語りでは、「バートン視点で描かれた物語」には決して見えてこなかった、バートンの姿が見えて来る。言葉を習得し、宗教の枠も飛び越えて、コスモポリタンとして生きることができたにもかかわらず、祖国の名誉と終身年金に拘り、既にある場所を「発見」し、現地人の生活を「改善する」という西欧的視点から逃れることができなかった男。探検家、人類学者、作家、言語学者、翻訳家、軍人、外交官、数え切れない肩書と、願っていたサ―の称号も手にした彼の人生は、望んでいたものを手にした満足すべきものだったのか。それとも、どちらの世界にも属することができない中途半端なものだったのか。あなたは、彼から、どんな物語を紡ぎますか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】世界収集家 [ イリヤ・トロヤノフ ]楽天ブックス魅惑のクロワッサン!クリームフロマージュ(4個入)価格:1,296円(税込、送料別)
January 3, 2016
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みなさま、あけましておめでとうございます。昼寝ならぬ夕寝をちょっとしたので目が冴えてます。除夜の鐘が聞こえてもいいのになぁ…。静かです。さて紹介第一弾はアイルランドの話です。若者の住めない国No Country For Young Menジュリア・オフェイロン 冒頭は、アメリカからやってきた救国の英雄が20世紀初頭に非業の死を遂げたことを悼む記事である。てっきり本編が始まる前の単なる前振りなのだと思っていたこの記事が、実は作中のある人物と関わっている。 50年間修道院にいたジュディスが、「社会に向かって開かれるべき」という修道院の方針変更により、俗世に放り出される。唯一の身内であるジュディスの大姪と大甥にあたるグローニャとマイケルが彼女を引き取る。しかし彼女の言っていることがどこまで本当なのか、本人にすらわからない。酒に溺れたマイケルに嫌気が差したグローニャはアメリカから当時の事を取材に来たジェイムズと関係を持つが…。 アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』は一人の人間に焦点を合わせ、その焦点となった人物が次々変わってゆく「意識の流れ」方式で書かれている。本作も同様に、ジュディス、グローニャ、その息子、ジェイムズなど、同じ章の中で焦点の当たる人物が次々変わり、二家族四世代の歴史が綴られていく。焦点となる人物が変わる事によってそれ以外の人達をどう見ているかも描かれるため、それぞれが善悪の観念ではっきり分けられていないキャラクターに仕上がっている。 一人だけ二つの時間軸を持った語り手が登場する。ジュディスだ。50年前の真相を知る唯一の人物である彼女が物語の肝であり、永の内戦で傷ついたアイルランドを体現する存在でもある。内戦の歴史に人生を潰された彼女と対照的に描かれるのが、負の連鎖渦巻く一族からも国からも出ていこうとするグローニャだ。 50年前のジュディスは筋金入りの愛国少女だ。アメリカからアイルランドを支援するためにやってきた青年に姉が惹かれているのを知ると、闘争を闘っている姉の恋人を思って彼を遠ざけようとする。彼女には揺らがぬ信念があるが、世の中を知らない。 一方、現在のジュディスは修道院にこもっていて世の中の動きを全て知っているわけではないが、少女の頃のように独立闘争を無条件で礼賛しないだけの分別はある。但し、過去に電気ショックを受けたこともあり、彼女の思考がどこまで正常で、記憶がどこまで正確なのか曖昧だ。だから彼女が話す事が全て真実とは限らない。一方、現在において、彼女以外で当時を知る者が、ストレートに真実を語ってくれるわけではない。彼等には真実を隠さなければならない理由があった。 このように、本作は全編通して信頼できる語り手というのがいない、誠に不安定な作品である。よって読者はどこかに緊張感を持って「これはどっちの言っていることが真実なのか?」とあれこれ推測しながら物語を読み進めていくことになる。冒頭に掲げた謎を探るミステリの要素もあれば、ウィリアム・トレヴァーお得意の恋愛要素もある。また、一族のサ―ガを描きつつ遠方には半世紀にわたるアイルランドの歴史も見えて来る。かなり読む力を試される、盛りだくさんの作品である。 章の中で登場人物が変わる時には行開けが為されており、巻末には丁寧な脚注がついているので、アイルランドの歴史に詳しくなくても読み進めることは可能である。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】若者の住めない国 [ ジュリア・オフェイロン ]楽天ブックス
January 1, 2016
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みなさん、こんばんは。忘年会シーズンですが具合を悪くしていないですか?今朝電車に乗り換えたら何だか皆がスペースをあけていました。混雑している時間帯なのにおかしいな、と思ったら駅員さんがおがくずみたいなのを床に捲いているのです。朝から具合が悪くなった人がいたらしく、電車が遅れてしまいました。皆さま、飲み過ぎには御用心を。さて、こちらはノンフィクションをベースにしたフィクションです。密告La Clienteピエール・アスリーヌある日偶然、著者は、自分の親戚一家をアウシュヴィッツに送り込んだ「密告」の手紙を発見した。それを書いたのは、近所の人のよい老婦人セシルだった。世界で高い評価を得ている伝記作家が、ノンフィクションとしては書けない事実にぶつかったため初めて小説として書き上げたのが本書である。 真実を突きとめて欲しいとは告げたものの、アウシュヴィッツで亡くなった一家の末裔であるフランソワは、そうと知ってもセシルを断罪しようとはしない。ところが事実を暴いた主人公は、鏡の光を彼女にあてようとしたり、衆人環視のバスの中で糾弾したりと、単に「真実を追求する使命感」と言いきるには常軌を逸した行動を繰り返す。彼の目的はただ一つ、彼女に罪を悔いて、謝って欲しいのだ。しかしたとえ動機がそうであっても「行き過ぎだ」と感じる読者もいよう。 セシルは行為を悔いてはいないのか。いや、彼女は「仕事だからやった」と今でも自分のやった事を後悔していない刑事とも、信念を持ってナチスドイツに同調していった『火葬人』のコップフルキングルとも違う。セシルが密告した理由が明かされると、更に彼女に対する同情は深まる。自分の大切な身内と、どんなに親しくしていたとしても他人と、二つの命を秤にかけろと言われたら、私達のうち何人が、「こうあるべき」とされる行動が取れるか。正義感から彼女を断罪したい主人公の気持ちもわかるが、傀儡政権が密告を奨励―むしろ強制―していたような中で彼女一人を裁くのは、懲らしめられる手手近な相手をただ虐めることにならないか。本当に責められるべきは、そのような行動を強いた国家であり、ドイツの圧力に屈した政府ではないか。 邦題ではタイトルが「密告者」ではなく「密告」という行為に訳されているが、原題は『得意客La Cliente』と、特定の個人をはっきりと指している。「罪を憎んで人を憎まず」という境地に至れなかった著者の苦悩を物語るかのようだ。【中古】 密告 /ピエールアスリーヌ(著者),白井成雄(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
December 17, 2015
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