つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2008.12.21
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カテゴリ: Book



緊迫した場面なのに,敵方の「囲み手」という技術を見て,今は遠くに居る新(あらた)も囲み手が上手だったことを不意に思い出す千早。新の手もこんなに大きくなってるのかな,と突然その場に居ない人の存在,しかも手のひらという体の一部分から思い出すというのが,なんつうか色っぽいのね。

また,天才がその感覚を取り戻す覚醒の場面というのは何しろ「見せ場」なわけですが,その描き方も悶絶するほどかっこ良いです。

「耳」の良いのが強みの千早が,重圧で押しつぶされてしまっているのを,太一が機転を利かせて声をかけます。おまえは息をすれば勝てる,という科白で緊張がほどけた瞬間,聞こえてくるのが会場の外の何でもない音,野球部の練習するバットの音や,車の排気音,そして鳥のはばたき。大げさでなくて,リアルで,ほんっと上手いよなあ。

そしてもちろん百人一首にまつわるネタもあるのですが,古典おたくの奏(かなで)ちゃんがいい味を出してます。それがまた,蘊蓄ぽくならずに実にさりげなくて,たまーに大事なところで「せをはやみ…」とかって,ぽつりと出てくるのがいいねえ。この漫画には奥床しさがあるのです。

巻末の,中腰で五人並んで対戦相手と頭を突き合わせて闘う情景描写には,背筋がぞくりとします。せりふを入れず,会場を斜め上から,そして真上から,作者は描きます。かるたという馴染みのない競技の臨場感が,これで私の脳と肌に生々しく届きます。

ここには(スポーツ+文芸)の領域横断的な面白さと,勝負事の緊迫感があり,爽やかさにあふれ,しかも少女漫画らしい典雅さに彩られて,なにしろ惚れ惚れします。装丁がまた毎巻奇麗だし,いやもう,たまらんですわ。



『ちはやふる』1巻の感想





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Last updated  2008.12.21 22:33:01
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
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ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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