つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2009.05.27
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テーマ: 本日の1冊(3697)
カテゴリ: Book
(2008,小学館,ガガガ文庫)

昨夏ごろには多くのブログで紹介され,総じて絶賛でした。その中に,宮崎駿アニメに雰囲気が似てるとのコメントが複数あったので興味を持ち,読んでみました。アマゾンへのコメントを読んでも,読者の盛り上がりようがうかがえます。




主人公の少年は軍命により,皇太子の妃となる少女を,大洋を隔てた本国に送り届ける任務を命じられます。しかしあえなく敵艦隊に見つかり,武装をほとんど持たぬ二人の飛行機は,ひたすら逃げつづけることになります。

少年は,軍には失望しているのに,それでもその中でしか生きられない自分の立場を受け入れます。しかし,その手枷足枷を嵌められた立場を超えることなく,彼は物語に爽快な幕を引いてみせるのです。そのラストのすごさに,全国のラノベファンが涙しました。




真っ向やり合う戦闘シーンはありません。とにかくひたすら,逃げて逃げて逃げまくります。この制約が,物語をギュッと引き締めます。その逃走シーンの間ずっと,物理法則に押しつぶされるような息苦しさを感じます。

そして切ないのは,敵が去った後に,彼らは自国の組織の前でふたたび無力感に陥るのです。

読者はおそらく考えます。誰も踏みにじることなく,自分の感謝と誇りを彼女に伝えるために,しかも限られた時間内で,そこで一体何ができたというのだろうと。彼が見せた機知と反骨とその優雅さに,ひれふしたくなるラストがあります。

おそらく読者は単純な喜びにも,単純な悲しみにも落ち着けない。だからこそこのラストはすばらしい。せつなさとほほえましさ,無念さと爽快さといった,豊かなアンビバレンスがそこには満ちています。


fraxinus_cloud



この感想文に手をつけてから一年くらい経ってしまいましたが,そうしてぼやぼやしてるうちに,本作の番外編的な作品まで出ちゃいました(「とある飛空士への恋歌」)。これからもこんなかんじで旧作の感想文を「いまごろ?」みたいなタイミングで書くことになりそうです。ちなみに今ごろ,涼宮ハルヒシリーズ読んで盛り上がってます。







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Last updated  2009.05.27 11:23:39
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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