5月14日(火)
近藤芳美著「新しき短歌の規定」より (1947・8)
岩波書店近藤芳美集第六巻「新しい短歌の規定」よりの転載です。
「短歌の救い」(3)
戦争とそれにつづく敗戦の現実にこづきまわされて居るような世代が、現実を正視して行くことは耐え難いと言う気持も理解出来るし、短歌と言うものを、何かそれによって救われようとする如く考えて取って居ることも理解しよう。又もし、短歌、或いは広く芸術が、吾々の気持に何らかの意味で救いをもたらさないなら、吾々は苦しんでそんなものに取り付きはしないだろう。
しかし、短歌に救いを求めようとする気持と、だから救いは現実正視、現実追求の別の所にあると言う考えとは別個である。
吾々は救いを安易な路に求めてはならない。この事を吾々は明治以後の短歌史に見て行かなければならぬ。たれが残りたれが堕ちたかを知らなければならぬ。安易に歌のたのしさを希求する態度が、月並みに至った経路を図表の上に知らなければならなぬ。
又この救いは芸術派乃至新風と称する一個の心理のデフォーメーションにもない。芸術のバロック化が歴史の何処で起るかを知れば、自ら知ってバロックに入ることが、自慰的行為にすぎない事は理解出来よう。
(つづく)
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