5月17日(金)
近藤芳美『短歌と人生」語録』
作歌机辺私記(83年3月)
「作歌とは」(2)
同じ意味で、もっとていねいに、大事に考えて歌を作ってほしい。作りっぱなしの作品、書きなぐりの作品と思われるものが多い。自分のことをいうので具合悪いが、わたしはたとえば「未来」の毎月十首の作品を作る場合、作り替え、書き替え、2百字詰の原稿用紙のほとんど一帳を使いきってしまうのを例としている。一つの文字、一つの言葉への配慮の過程である。そうして、制作とはそういうことではないか。
乱暴な歌稿の例として、作者の名前のないのがある。あとから歌が出ていないなどと文句を言って来られる。わたしも困るのである。
作品の高低、深浅は、最終的にはその作品の作者の持っている世界の高低、深浅に関わろう。その作者の内面の世界、精神世界と言えよう。作品の高さ、深さを求めるには究極には作者が自身の内部においてそれを高め、深める生涯の営為を重ねていく以外にはない。取敢えず出来ることは何か。少なくとも、みなさんはもっと本を読まなければならない。あまりにも心が貧しく、世界が狭くはないか、と選歌をしなが
らふと思うことがある。
この「机辺私記」を書き始めて、いろいろと言いたいことがあるに気付くようになった。わたしが老年になったためかもしれない。筆の走り過ぎはお許し願いたい。
(つづく)
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