5月23日(木)
近藤芳美『短歌と人生」語録』
作歌机辺私記 (84年7月)
憲吉の五十年忌(3)
墓参を終え、河村君に伴われてやや離れた丘にある歌碑を訪れた。「満月は暮るる空より須臾に出てむかひの山を照りてあかるし」の歌が彫られている。わたしたちを見たのかひとりの老人がどこからか近付いて来て話しかける。広島からやはり憲吉研究の高校の先生かなにかが歌碑を訪れて来て、「須臾」とはどの山の名かと聞いたという。村人が碑を立てようとしたとき、未亡人はこの歌とするのをあまり賛成されなかったとも老人は告げた。五月の空の澄む新緑の山々に、おそい山桜がなお咲き残っていた。会では十分ほど、憲吉の思い出を語ったが、あとで、言い残したものがあるのが気になった。すなわち、憲吉にはもっと別な読み方があるのではないかということである。わたしの遠い文学の出発の日の師であり、わたし自身の文学のこととしてもさらに考えてみたい。(84年7月)
(つづく)
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