9月24日(火)
近藤芳美著「新しき短歌の規定」より(42)
岩波書店近藤芳美集第六巻「新しい短歌の規定」よりの転載です。
(注)表現を少し変えたり、省略したりしています。
「短歌の作り方に就て」(5)
(四)
先ず生活を歌へ。之は作歌の初歩であり同時に一生の仕事だとも云えます。生活と言う言葉は或る場合は生命とも、自然とも、拡張して考えることが出来ます。しかし少なくとも自己の生活、狭義の生活の立場から作歌すべきだと思います。作歌の生活とは一生かかって吾々の生活の其の時どきうたい一個の私小説を一生かかって書いて行く事だと思います。
しかしそのために、具体的にはどうすればよいのであろうか、生活を歌うと言うことを、どのようにして作品一首にすればよいのでしょうか。問題は作歌技術に移って行きます。吾々の生活には、一見平坦に流れ去る如くにして、実は常に屈曲があるものです。之は必ずしも生活にかぎりません。吾々の四囲の自然、吾々の共にある人生人事、更に吾々の心の中に生じ消えて行く思惟の如きものの中にすら、凝視すれば必ず或る屈曲を持つ一瞬があるものです。吾々はこの屈曲の一点を機敏に把えて短歌の
素材にして行くのです。之が作歌の技術なのです。成立した一首がどれ程強い感動を持ち得るかと言う鍵は、どれ程の感動を持って対象の屈曲点を鋭く把んだかと言う点にあるのです。だがこの言い方はまだ不明確です。では生活の中に見出すべき屈曲とは例えれば如何なるものでしょうか。具体的に考えてみましょう。
(つづく)
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