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好きです春の雨。こんな日は心静かに過ごせそう。 (この上に目次がないときはこちらから)今回は実夏ちゃんが久々の登場です。―16―実夏 えっ? 塔哉くん?……知ってるわよ。不良だった人でしょ? あんな鈍い人、滅多にいないわ。あたしを追いかけて階段で落ちそうになったから、しょうがない、魔法で助けてやったのに、その事にぜーんぜん気がつかなくって。まるで自分がオリンピック選手になったみたいにあたしの前で威張っちゃって。その後もしばらくの間、みんなに自慢してたって聞いたわ。まるで馬鹿みたい。あとで真矛に相談して、あたし達を怖がらせてくれたお返しに、幻影でも見せてやろうって言ったんだけど、でも真矛、そういうのは良くないって。あたしもそうかなって思ったから、やめておいてあげたわ。あんな人にいつまでも、かまっていられないもの。中学に入ったばかりで、あたし達いろいろ忙しかったしね。でもね、本当に馬鹿なんだから、その塔哉ってひと。真矛にメールで告白したり、屋上に呼び出したりしたくせして、今度はあたしに、付き合ってくれって言いにきたのよ、信じられる?んもう、失礼しちゃうわッ。そりゃあ顔は悪くなかったけど、不良だってことより何よりそもそも魔法のセンスが無い人って、あたし駄目なの。え? 魔法のセンス?それは要するにね、魔法を見たときにそれが魔法だってことが直感できるかどうかってことよ。それってあたし達にとっては重要な問題なの。(つづく)この、春色ジュレパフェたのんでいいですか?
March 20, 2009
目次がトップページにあります。この上に出ていない場合は、ここからも行けます。 今は高校生の塔哉くんパフェを美味しそうに食べながら中三のときのことを話してくれています。このとき真矛と実夏は、あどけなさの残る中学一年生。 ―15―塔哉4 なに笑ってんの?昔の人に知恵を笑うと、バチがあたるぜ。だからとにかくサー、いざって時には、なんつーか体が自然に動いちゃうんだよね。そん時もさ、俺、自分で意識して無いのに勝手に手足がバタバタ動いてさ、まるで鳥みたいだったな、って後から思ったよ。何せそん時俺の頭ん中、実夏のことで一杯だったし、何がどうなってんのか、全然分かんなかったけど、気がついたら普通に真っ直ぐ床に立ってたんだよなー。ねぇ、俺ってスゴクね?だって、結構な高さだったぜ、あの階段。しかも踊り場からまだ二,三段しか降りてなかったはずさ。いや、もしかしたら踊り場から直接だったかも知んねえ。いくら受身の天才だって、あんなとこから飛び降りりゃあ脳シントウ起こすとか、脱臼して骨がやられるとか、なんかあって当然でしょ。マジ、自分でも驚いたね。俺って天才?結局そのあと先公に呼び出されて、説教は聞かされるわ、うちの親に締め出し食わされて、晩飯抜きだったって話だけどよ。なぁ、ひどくね?それ。俺、まだなーんにもしてねえじゃん。店の外ぶらぶらしてたら、ちょうど大工の棟梁が通りかかってさ、そんならうちに泊まってけって言ってくれてよ。お言葉に甘えて行ったらさ、付き合えって言われたから付き合ったんだけど、酒と刺身で豪勢な夕飯になって、そのうち仕事仲間の職人さんが何人かやって来て、 結局朝までずーっと騒いでたな。大人が中学三年に酒飲ませていいのかって話だよな、まったく。あっそうそう、棟梁んとこの奥さん、俺の母親と同い年って言ってたけど、すっげえ美人だったなぁ……。あ、大体こんな感じッスけど、もういいッスか。この後デートなんで。え?あぁ、あれとは別の子ッスよ。そーだ、この真矛の写真、もらってっていいッスか?あっ、言い忘れたけどそのあと、真矛って色々な噂になってたって聞いて、あん時無理に付き合わねーで良かったって思ったっけ。んじゃッ、どーもごちそさまでしたッ! また振られました写真、持ってただけなのに……
March 18, 2009
目次がトップページにあります。この上に出ていない場合は、ここからも行けます。では、ごゆっくりどうぞ 塔哉くん。メニューを開いています。 ―14―塔哉3あッ、ちょっとおねェさん!コーヒーお替りと、(これもいいっすか?) この期間限定イチゴ爛漫パフェってのひとつ、お願いね。*さっきは何だか話ずれちゃって、すんません。なんかいつもそうなんスよね、友人と喋っててもつい色んなこと思い出しちゃって。だからかなぁ、彼女できてもすぐ振られんの。いや一昨日さ、お好み焼きやでデートしたんだけど、ここのあれが旨かったんだよなぁ、って言っただけなのに、彼女怒って帰っちゃったんだぜ。しかもいきなり。なんで?女って、ほんっと、わっかんねェよなァ……。あ、そんでさ俺、階段おっこちそうになったって言ったろ?もうそん時は、目の前の実夏よりチラッと見えたやつのほうが気になっててさ。言いつけられたらマジやばいじゃん?だから落ちるくらいなら思いっきり跳んじゃえって思ったわけよ。跳んだよ、思いっきり。そういう時って、スローモーションなんだよね、リアルにさァ。 実夏の横を通り過ぎるとき、向こうもちょうど振り向こうとしたところでさ、ゆっくりこっち向いてくるのが分かるわけ。可ッ愛い顔しんのよ、これが。中一のくせしてまつげなんかピーッと上向いちゃっててさ、唇がぷくっとおいしそうでさ、俺べつに真矛じゃなくてもいいや、って思ったよ。要するに一目ぼれってヤツ?それから俺って、もともと柔道経験者だし、受身なんかもそれなりに得意なわけよ。やめてから三年経ってたけどさ、よく昔の人が言うじゃん。「カラス百まで盗み忘れず」って。なに笑ってんの? このイチゴ爛漫パフェうまいッスねーも一個頼んじゃおっかな
March 18, 2009
いらっしゃいませ。 憩いのひと時、こえめWorldへようこそ。 塔哉君のお話、続きをどうぞ ―13―塔哉あいつが大声出すから俺、足踏み外しそうになって、そしたらそん時、他の生徒が俺達を見て、右のほうに走って行くのが見えたから、言い付けるつもりだって分かった。だってそっちにあるのは職員室だけっスからね。俺そん時、そうとう勢いついてたし、実夏なんかほっといてこのまま一気に、一番下まで飛び降りちゃおうと考えたわけ。あ、俺ってこう見えて、けっこう運動神経よかったんスよ。柔道の大会で優勝した事もあるくらいだから。ハハ、意外と硬派でしょ?大会ったって、まぁ、小5ん時の地区大会ぐらいっスけどね。だけどあの時は、今度呼び出し喰ったら、今度こそうちの親に、何されるか分かんない、って状況だったし。あ、うち、客商売の店なんスよ。だから俺のこと、人聞きが悪いってウルセーのなんの。まったく親なんて、子どもの事なーんにも解かっちゃいないんだよネ。店が繁盛してるのは俺のおかげだってことがさ、まるっきり分かっちゃいねえんだから。アレ?信じてないって顔?ホントよホント。今度うちの店に来て皆に聞いてみな。明るくて親思いの、しっかりした子だって言ってくれるぜ。鳶職のタカさんなんか、俺が高校でたらコンビ組んで、二人ででっかい現場やりてぇって言ってくれてさ、俺がまだ中学のうちから、あちこちの現場に連れてってくれたんだ。楽しかったけどさぁ。でも俺、大学出て普通の会社に入って、両親を安心させてやりてぇって言って、断った。でもそれ、ホントは嘘。ホントは俺、マスコミ行きてぇの。ADから始めてさ、頑張って看板番組任されるようになったら、新人タレントにもちゃんと優しくしてやってさ、大物女優との秘密の恋なんかもあったりして……とっ、とにかくしっかり将来見据えてるわけだ。この年でそこまで真剣に考えてる奴なんか、あんまり居ねぇだろ?周りの奴はみんな馬鹿ばっかだよ。 なんかさあのど渇かない?(トウヤ)トウヤ君トウヤ君。話がずれていますが?
March 16, 2009
いらっしゃいませ。脳内トリップご案内役のこえめです。本日のメニューは、久々に本編(でいいんですよね?)に戻って、 真矛の友人が登場です。塔哉くん。可愛い名前ですね。 皆様、おやつでも、お茶でもお、酒でも、好きなだけお召し上がりください。もちろん御代はいただきません。自腹ですから。では、どうぞごゆっくり ―12―塔哉あ、ども。俺、塔哉っス。バベルの塔のトウに、幸いなる哉のカナでトウヤっていいます。真矛っすか? 知ってるっつーか、まぁ、最近はあんまりアレだけど。それよか、あんた。真矛のこといまさら聞いてどーすんの? ま、いいか。中学ん時は俺達、そりゃあさー、騒いだわけよ。だって可愛いじゃん? あの顔。もろ俺好みってヤツ?あっ! なんだ、写真持ってんじゃん。ちょっと見せて。あー、そうそう、これこれ。ンー、やっぱ可愛いや。そんでさ、一年生にスッゲー可愛いの入ったってあんまり回りが騒ぐもんでさ、見に行ったわけよ、ダチ連れて。教室のチチくせーガキ……生徒たちの中でも、そこんとこだけ光ってるっつーの?変な話、後光がさすって言うのかな、ああいうの。すぐわかったよ。あんときゃ俺も可愛かったから、まずはお近づきのしるしにと思って、真矛の女友達から聞きだしてメール打ったんよ。でも、返事こねーし。ま、俺もガキじゃねーから、すぐにどうにかしようって訳じゃなかったんだけど、一応このままじゃカッコつかねーから、屋上に呼び出したわけ。普通だろ?すげー普通だよな。俺、ほんとはフツーって大の苦手だったんだけどさ、ま、しゃーねーじゃん。他にねーんだもん。人が来ねーとこなんてさ。そんで、来たわけよ。実夏って子と二人で。っんだよ、一人じゃねーのかよと思った。こっちはちゃんと一人で待ってたのによ。でも俺も一応、先輩なわけだし。怒ったりしねーで、黙って睨んでやったら、その実夏ってのが慌てて階段、駆け降りて行きやがってさ。マジ焦ったよ。先公にいいつけらたら、また親呼び出しだからよ。追いかけてって捉まえようとして、手え伸ばしたら、あいつ、俺がまだ触ってもいないのに大声出しやがって。こっちもビックリして足ふみはず外しそうになってさ。そしたらそん時……(つづく) やっぱ、あんたも押してくれるっすよね?
March 15, 2009
いらっしゃいませ。こえめWorldへようこそ 今回も引き続き、彩葉さんにお話をうかがいましょう。では彩葉さん、お願いします。(前のお話) (総合目次) ―11―彩葉 山本君が学校に出てきて、とりあえずホッとしました。彼が休んでいたのは別に、わたしのせいじゃないですけど。でも彼、明らかに様子が変なんです。いつもだったら、絶対に、わたしに足を蹴られて怪我をした、って、言いふらすような奴なんですよ。当事の山本は成績の事で、わたしに対して一方的に敵対意識を持っていて、それで何かと突っかかってきていました。それが、急におとなしくなっちゃったんですから、わたしじゃなくても変だって気づきますよ。 それで、思ったんです。あの実験の後、真矛と山本の間で、何かあったに違いない、って。真矛に聞いても良かったんですけど、ほら、実験の次の日、真矛に、まるでわたしが魔法を使って色を変えたみたいに言われた事もあって、それ以来なんとなくね……。だから直接、山本に聞こうって思ったんです。 それから数日たって、山本が日直で帰りが遅い日でした。放課後みんなはいつものように体育館の裏で、魔法ごっこをやっていましたが、わたしはおなかの具合が悪いとか何とか、適当な事を言って、先に帰りました。校門で校舎を振り返ると、山本が窓から身を乗り出して黒板消しをはたいているのが見えました。わたしは少しさきの田んぼのあぜ道で四つ葉探しをしながら、山本が通りかかるのを待っていました。 宿題の笛を吹きながら山本が角を曲がってきたとき、わたしに気づいてビクッとしたように見えました。笛を吹くのをやめ、わたしを無視して通り過ぎようとしたので、ちょっとムッとしながら話しかけました。「ねぇ、山本君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」そしたら山本のやつ、急に走り出したので、わたしも追いかけました。彼は野球もサッカーも全くへたくそだったけど、走るのだけは早かったんです。それでもその時は、なんとか追いつけそうでした。その先の曲がりくねった住宅街の道をわたし達は、わき目も振らず走りました。今思い出しても、危ない事したなと思います。近くには、当事新しく出きたばかりの大型スーパーがあって、そこが抜け道になっていたんです。その時間帯はいつも、自転車や歩行者が、引っ切りなしに通るんです。いつ何にぶつかっても、おかしくない状況でした。でも、そんな事は起きなかった……。誰もまわりにいなかったんです。 とにかくわたしは、早くこんな馬鹿げた追いかけっこやめようと、目の前にせまった山本のランドセルを思いっきり引っ張りました。その勢いで彼の横を通り過ぎるとき、バランスを崩したのが見えました。 「ごめん! 大丈夫?」 立ち止まって振り返ると、彼はしりもちを付いたまま腕組みして座り込んで怪我でもしたように顔が歪んで、とても苦しそうでした。理科室で蹴飛ばしたときとは違う、なんだか後ろめたい、いやな気持ちになりました。 またいつもの癇癪が始まるぞと覚悟していたら、「お、お前……魔女なんだろ?」小さいけれど、はっきり聞こえました。 なに? 何言ってるの? それを言うなら真矛でしょ?でも、言葉が出ませんでした。その時の山本の声が、怯えていたんです。「オレ、し、知ってるんだからなッ」 山本は普段、大人の前では《ぼく》って言ってるくせにそうじゃない時には急に威張って《オレ》になるんです。 「あの後オレ、真矛から聞いたんだからなッ」 真矛! 真矛がそう言ったの?! そんな……。 わたしは、彼がわたしを怖がっていることと、さらに信じていた友達から裏切られたショックで、立っているのが精一杯でした。 山本がランドセルを抱えて走り去るときも、言いたいこと何一つ、声を出していえませんでした。 このままでは何だか大変な事になるぞ、と思いながらとぼとぼ歩きはじめると、さっきまでしんとしていた通りが何時の間にか日常の賑わいを取り戻していました。 (つづく) (次のお話)ランキングでーす→ 楽天ブログって、携帯で投票が出来なかったんですね。←ブログをお持ちの方。足跡残してね。後でこえめが遊びに行くんだからっ。
March 8, 2009
会いたかったの。こえめです 実際には、一番会いたい人って、もう会えない存在だったりするんですけどね……。でも、彩葉は会えたようですよ。 よかったね。―10―彩葉 理科室を飛び出して家の前まで走って帰ると、既にエンジンの掛かった乗用車の窓から母と弟が手を振っているのが見えました。 ランドセルごとどさりと乗り込むと、いつもは泣きべそばかりかいている弟がその時ばかりは真っ赤な顔で何か言っていたけど、 なぜかわたしの耳にはひと言も入ってきませんでした。 出迎えた私たちに気付いたときの父の驚いた顔や、そのあと皆で食事をしたことや、抱き上げられてぐるぐる回って、弟の新しい靴が脱げて広いロビーを滑っていったこととか……。皆な笑顔で嬉しそうで、わたしも確かに一緒に笑っているのに、それを見ているもう一人の自分が、ずっと違う事を考えていたんです。 あれは真矛がやった事なんじゃないかって……。 次の日、山本君は学校を休んでいました。彼もまた、余程ショックだったんだと思います。昨日去り際に、倒れていた彼の足をわざと蹴っていった事を思い出して、少し反省しました。自分から言い出した居残り実験に失敗したうえに、おかしな現象を見てしまったわけですから。もっとも先生の山本びいきは、その後もずっと続いていましたけどね。 授業の始まる前、誰もいない階段の上で、真矛に、恐るおそる聞いてみました。「あのぉ、昨日の実験の事だけど。あれ、真矛も……見た、よね?」 「じゃ、やっぱりそうだったのね? 私もビックリしたわ。あれ、彩葉よね。すごいわ」「えっ? まさか。わたしは真矛がやったのかと……」「ううん、私にはあんなこと出来ないわ。あれは、彩葉よ」 そんなふうに決め付けられても、わたし困るって言いました。でも、あのきらきらした大きな瞳で、自信たっぷりに見つめられると、その言葉を信じたくなるって言うか、本当にそうだったらいいな、なんて思っちゃうんですよね。 いくら魔法ごっこで修行と称して色々やったって、「ごっこ」は「ごっこ」、真似事でしかないんですから。本当に魔法があるかどうかぐらい、分かってるつもりでした。だからあの実験は、混ぜる液体を間違えたとか、何かの光が反射して、見間違えたんだって、考えればいいんです。 でも、そう思えば思うほど、でもあの液体は先生が用意してくれたものだから、間違いない、この手で混ぜたし、 確かに何度も色が変わった、全部この目で見たじゃないかって、変に確信みたいのが出てきちゃって。こんど山本君が登校してきて、何か聞かれても、どう言ったらいいのか、さっぱり分かりませんでした。そんなのもう、シラを切るしかないって感じです。 それから二、三日して、山本君が学校に出てきましたが、意外にも、何も聞いてきませんでした。それどころか、どうやらわたしの事を避けているみたいなんです。 まるで怖いものを見るような目つきで。 (つづく) (次のお話)ランキングでーす→ ←ブログをお持ちの方。足跡残してね。後でこえめが遊びに行くんだからっ。
March 2, 2009
不思議って楽しいね。こえめですさて今回から、もうひとりの友人彩葉にお話してもらいます。どんなことが聞けるかな? ―9―彩葉彩葉です。小三の時から、真矛たちと一緒に、魔法ごっこやってました。 あの頃は毎日、放課後になるとお掃除用の竹箒で、飛ぶ練習でした。皆なそれなりに真剣で、そのうち誰かが思いついて、鉄棒にまたがってバランスを取ったりして。意外に難しくて、落ちて肩を脱臼した人も出ましたけどね。 今だったら、何て馬鹿らしい事って思うけど、わたし達、その時はただ、真矛と一緒にいるのが楽しくって……。あの頃は良かったなぁ。だって毎日、その日の事だけ考えていれば良かったんですからね。 わたしの初めての魔法体験、って言われても、今思い出すと、本当に他愛の無い、本当にそうだったかどうか、よく分からないような事なんです。それでもいいですか? 理科の授業で彼女と同じグループになったのは、二学期になってからだったと思います。一度、薬品を混ぜ合わせる実験で、 意外な結果を出した事があったんですけど。 あれは確か、ビーカーの液体に違う液体を少しずつ足していって、酸性とかアルカリ性で、色がどう変わるか、という実験でした。他のグループが、次々と結果を出していく中で、色が一回も変化していないのは、わたし達だけになっていました。ビーカーは、スポイトで注ぎ足された液体で溢れそうになっているのに、液体は緑色のまま……。その授業では結局、まともま成果を出せませんでした。 ところが、医者の息子の山本君が、「先生! ボク、どうしてもちゃんと、結果を出したいんです!」などと余計な事を言ったので、わたし達だけ特別に、放課後残って、実験のやり直しをする事になりました。 放課後の理科室でわたし達が見守る中、 山本君が一滴いってき慎重に、透明の薬液をビーカーに落としていきました。液体の淵が、振るえながら盛り上がっていくのを、わたしは机に肘をついて、イライラしながら見ていましたが、一向に、色の変化は表れませんでした。 実はその日わたしは、早く帰りたかったんです。単身赴任の父が久し振りに帰ってくる予定だったから。 いつもなら家で待っているのですが、その時はたまたま父の誕生日が近かったので、先に空港で待っていてビックリさせてやろう、という計画があったんです。だから、先生が色の変わらないビーカーを見て、山本の顔色を窺がうように、「山本君。もう一度だけ、やってみましょうか」と言った時には、つい舌打ちしてしまった程です。山本にすごい目で睨まれました。 今度こそ成功するから、と言い張る山本から、わたしはちょっとだけ強引にスポイトを奪い取って、あたらしく緑色の液体が半分入ったビーカーに向って、(変われ……変われ……) と念じながら、どんどん注ぎ入れました。あーあ、そんなに急いじゃダメなんだとか、ちゃんとかき混ぜなきゃとか、横から山本がごちゃごちゃ言ってましたが、そんなの無視しました。 (お願い! 何でもいいから早く変わって!)と、一瞬特に強く念じたかも知れません。その時なんです。色が変わったんですよ。緑、透明、赤。大成功!!先生を呼ぼうと吸ったその息を、わたしはそのまま呑み込んで黙ってしまいました。ビーカーの中身が、赤から更に紫へと色を変え更に鮮やかなオレンジ、茶色へと変化を続けています。山本は馬鹿みたく、口をあんぐりと開けて、「……あ、あ……あ」と、悲鳴のような変な声で、後ずさり、「せっ、せんせーッ!色が変わりましたーッ!」と床に倒れこみながら、テストの採点をしていた先生に渾身の報告してくれました。驚いた先生が 「どうしたの山本君?」と言いながら立ち上がり、ビーカーの中身を見たときには、それはいつの間にか、元の緑色の液体に戻っていました。 わたしは「先生、わたし、家の用があるので帰ります!」と言って、山本の足元を飛び越えるときに、「あっ、ゴメン山本君」と言いながら、向うずねを蹴飛ばして理科室を飛び出しました。あの時は、約束の時間が気になるというよりも、見たことが何だったのかを考えるのが恐ろしくて一刻も早くその場から逃げ出したかったんです。 (つづく) (次のお話)ランキングでーす→ ←ブログをお持ちの方。足跡残してね。後でこえめが遊びに行くんだからっ。
March 1, 2009
小枝チョコレートおいしいね。こえめです さくさくの粒がいいんですよね、あれ。一度でいいから、ジャンボな小枝チョコをガジガジしてみたいんですけど、なぜかお店で見かけても手が出せない。そんな小心者です。(前のお話) (総合目次) ―8― 実夏 「ぴぃー、ぴぃー、ぴー」森に入ったところで、あたしたちは一所懸命に、小鳥の鳴きまねをしていたの。「だめだね、ちっとも寄って来ないね」「実夏ったら。まだはじめたばかりよ。これからこれから」真矛が、もっと小鳥の声をよく聞いてお手本にしようと言うので、耳をすませてみたけど、 アタシ達がくる前まで、うるさいくらい鳴いていたはずの小鳥たちは、みんなどこかに隠れちゃって、さやさやと風に揺れる木々のはずれの音だけだった。 ちょうどそこへさんが、出来立てのアイスクリームを持ってきてくれたので、三人で木陰のベンチに座って、一緒に食べた。くるみや酸っぱい赤い実なんかが混ざった、少し溶けかけたアイスは、濃いミルクの味がして、木苺が口の中でぷちって弾けると、普通のイチゴなんかよりずっと大人の味がした。 何時の間にか 小鳥たちが戻ってきていたのであたしたちは耳を澄ませた。それからまた、小鳥の呼び寄せの修行をしに森に戻ったけど、結局その日は何事もおこらなかった。 あれは何日目だったかしら。また今日もどうせ同じよ、他の事やろうよ、と言い出そうとして、思いとどまった。 ついに小鳥が、頭の上の枝に止まったのよ! 真矛が小声で「続けて」って言って、あたし達は顔だけで大喜びしながら、小鳥の声を出し続けた。そうしたら本当に、きれいな色の小鳥たちが、一列に並んだの!しかも枝にぎっしり!魔法だ!って直感した。 今度はこっちの枝、次はあっちというふうに小鳥をどんどん止まらせていった。気が付くとまわりの枝という枝が、にぎやかに歌うカラフルな鳥たちで埋め尽くされていたわ。オレンジ色のくちばしの、枝がたわむくらい大きな鳥や、尾羽が地面に届きそうなくらい長いのや。キーキー、クルルルル、ピョーロロロ、もう、うるさいくらい。それに負けないように、あたしたちも声が続く限りさえずり続けて、とうとう声が枯れて調子が狂ったと思った瞬間、うそのように消えちゃった。あとには、いつもの可愛らしい小鳥の声だけ。 あたしたち、出来たのよ! それから手をつないで、ジュースの乗ったお盆を持ってこっちをにこにこ見ているリカさんに向って、駆け出した。 (つづく) 実夏のお話はひとまず終了。次回から、彩葉が語ります。(次のお話)ランキングでーす置き手紙はじめました。←足跡残してね。後でお伺いさせていただきます。
February 28, 2009
おやつはチョコパイ。こえめです にきび、え? もう吹き出物と呼べって?どっちでもいいけど、気をつけなくちゃー(笑) 大きなおうちの秘密の部屋。(前のお話)一度わかってしまえば、秘密でもなんでもなくなってしまうのです。 (総合目次) ―7―実夏 お化けだと思っていたのが、実は真矛のママの、ウエディングドレスだった訳だけど、それ以来、鬼ごっこは、しばらくしなかった。 その部屋はそれ以来、カギが掛けられることはなくなり、いつでも入れた。でも、あたしは真矛と一緒の時しか、その部屋には入らなかった。なんだか、人の秘密をだまって覗き見するみたいなに思えて。この家にはまだ他にも、カギが掛かっている部屋がいくつかあったけれど、開けてみたいとは思わなかった。あたしがもっと寂しくなるようなものが、それらの部屋には、ありそうな気がしたから。 あれは確か、真矛の部屋で、真矛のパパから航空便で届けられてきた、珍しいしかけの飛び出す絵本を、夢中になって見ていたときだった。彼女が急に、真面目な声で、「あたしね、本当は魔法使いかもしれない」って言ったの。 あたしはもう少しで、動く白鳥の翼をもぎ取ってしまいそうになったわ。 もちろん本気で魔法使いがいるとは、思ってなかったけど、その声があまりに真剣で、大人びて聞こえたから。 あたしも「いつか絶対、宇宙で大活躍するヒロインになるんだ」って決めて、息を止める練習をしたりしていたわ。だから真矛が、「これから毎日二人で、魔法使いになる修行をしない?」って聞いてきたときに、すぐ賛成したの。だって魔法使って空をとんだり、欲しいものがなんでも出せるのって、宇宙のヒロインの次に、魅力的でしょ? それから真矛が、夢の話をしてくれた。それはずうっと小さいから、時々見ていた夢で、顔が見えない綺麗な女の人が出てきて、あなたは本当は魔法使いだ、早く魔法を使えるようになって、こっちの世界に来て欲しい、って言うんだって。 もしも他の子が、同じこと話したら、このうそつき、て思ったに違いないけど。それどころか私、なんだかとっても真矛が羨ましくなっちゃった。だってそれって、本物の魔女ってことじゃない? すごいよ。もしかしたら彼女、魔法の国の王女様だったりして。なんて、あたしも結構本気になりかけてた。真矛の、青っぽく光る瞳を見ていると、真矛だったら、そういうのが似合うな、なんてね。 それから、どうして顔が見えないのに綺麗かどうかがわかるのかって聞いたら、その声や、その時の感じで、綺麗に違いない、って。その声はママとは違うけど、差し出される手が、おぼろげに覚えているママの手に似てるって。なんか説得力無いけど、分かるような気もする。 「信じる?」って聞かれたから「うん」って答えた。読みかけの絵本を放り出して、さっそくあたしたちは、森に入っていったの。(つづく) (次のお話)楽しんでもらえた? ランキングでーす。楽天以外の方、足跡残してもいいよという方←ここで足跡つけられます。後ほどお伺いいたしますね
February 26, 2009
待ってたもんね。こえめです かくれんぼで恐い思いをした実夏。(前のお話)あの部屋にはいったい何が?その正体、知りたいような知りたくないような……。 ―6―実夏 あたし達、二人羽織するのをやめてさっきのお化けの話をこわごわしながら、また真矛の家に戻っていったの。 あたし、リカさんのこと、真矛の本当のおばあちゃんだって、ずうっと思っていた。最初の頃、ママに聞いたら、 「まだ若いから、おばあちゃんって呼ばれるのが嫌なんじゃないの?」って言ってたし、そういうものかと子供心に納得して、それきり聞かなかったの。 だから、リカさんが真矛の家の、住み込みのお手伝いさんだったなんて、二年以上も知らなかったのよ。ほとんど毎日会ってたのに。 ねぇ、よく知ってるはずの人のことを、実は全く勘違いしていたなんて、みんなもよく、あることなの? 真矛の家に着いたとき、リカさんはまだいなかった。家に入る勇気なんて二人ともないから、お庭のベンチを道路側に寄せて、座って待っていたの。 そのうち リカさんが帰ってきたので、お化けの話をしたらちょっと考えてから何かに気づいたみたいで、あたしが何を見間違えたのか、わかったって言うの。「ばれたんじゃ仕方ないわね」って少し困ったように笑っていたわ。 何のことかさっぱり分からないないあたし達はそれから、リカさんに背中を押されて、例の部屋の前に連れて行かれたの。あの部屋の掃除をした後、カギをかけるのを忘れたんだって。 リカさんが一緒だと、さっきの廊下も、安全な場所に思えたわ。それでも、もし何かいたら、今度こそ悲鳴を上げてやるつもりでいたのに、明かりをつけた部屋の真ん中には、仕立て屋さんみたいに、胴体だけのマネキンが純白のドレスを着て立っていた。 とも綺麗な、ううん、小学生のあたしでさえ「美しい」って感じたほど素敵なドレスよ。 「ねぇ、これ誰の?」って真矛が聞いたらリカさんは、その質問に答える代わりに「真矛も着てみたい?」って聞きかえしたの、とっても優しく。 その時わかった。あぁ、これは真矛のママのドレスだったんだ、って。 でも多分その時は、もう、真矛のもの。それから、リカさんはあたしにも優しいけど、彼女もやっぱり、真矛のものなの。 ドレスを見上げている二人を見て、 あたし何だか、ちょっとさびしかったな。 (つづく) (次のお話)楽しんでもらえた?
February 24, 2009
お話の国へようこそ。こえめです すっかり兄弟のように仲良くなった真矛と実夏。(前のお話)さあ、どんなかくれんぼになるのでしょうか。 ―5―真矛の家は、昔、どこかの大金持ちのおじさんが、外国人に頼んで造ったんだって。持ち主が何回か変わって、真矛のパパで、何人目っていったかな......?とにかく何度も、建て増ししてあるの。 だから、長い廊下の真ん中にいきなり坂があるとか、階段の踊り場が畳敷きだったり。あと、急な階段で上がったかと思うと、その向こう側は、そのまま降りる階段がつながっていたりね。 おかしな家でしょ。でも大好き。それで、その家とお庭でかくれんぼするわけ。やる事は、スケールが大きいほうが、楽しいじゃない?それであたしたちは、鬼なんて決めずに、ただ、「れでぃーっ、ごお!」でお互いの反対側に向って、走り出すの。 その日も、暑いくらい良いお天気で、またあたし達、庭の真ん中から、背中合わせにスタートしたの。開けたままの玄関に飛び込む寸前に、真矛が建物の角の向こう側に走って消えるのが、ちらっと見えたわ。外から薄暗い玄関に入って目がくらんだ。 目を凝らすと真っ暗な中に、あの変な階段がぼうっと見えたから、走って上ってまた降りて、最後の三段は飛び降りた。足がジーンと痺れたけど関係ない。そのまま廊下を左に曲がって何番目かのドアを押し開けた瞬間、あたしは固まった。 誰かいる!どっ、どどどおしよう!真矛が裏口から入ったにしちゃ早すぎるし、リカさんはさっきお買い物に行ったばかり。 逃げなきゃ! 怖いものにつかまらない様に両手を思いっきり振り回しながら、相手に、あたしが怖がっていると思われたらもっと怖いことになるような気がして、「キャー」じゃなくて「オーッ」て低い声で言いながら、突き当たりの明かりに向って走った。 ガシャンとドアにぶつかって、ノブに手をかけた。カギが閉まっているかも――背中が ヒヤッとした。勢いよく回しすぎて、手首が痛い。木枠のドアはあたしの体重で何の抵抗もなく開いて、寄りかかっていたあたしは、ドアノブにつかまったまま地面に投げ出されそうになって、半分ぶら下がった格好……。 たすかったぁ……。ドアノブの金属の表面が手の平にこすれて熱かった。 暖かい外は、相変らず小鳥の声がしていて平和そのものだった。 ちょうどその時、真矛が「あっ実夏ミッケ!」って向こうから走ってくるのが見えた。あたしは「出たあ!」って言って立としたんだけどなんだか足に力が入らない。変な気持ちで、とにかくドアをバンッて閉めて、すりガラスに何も映らないか、こわごわ確かめた。そこには廊下の暗がりが灰色に映っているだけだった。 「どおしたの!大丈夫?出たって何が?」真矛が驚いて聞いた。何か答えたと思うけど、よく覚えていない。 あたしその時、よっぽどひどい顔していたんだと思う。真矛があたしを抱えるようにして、木陰に連れて行ってくれて、背中をさすってくれたの。 でもこうしている間にも、木枠のドアが開いて何かが飛び出して来そうで、気が気じゃなかった。 今はただ、おうちに帰りたい。そう言ったら、真矛がおんぶしてあげるって、背中向けたから、うん、て手を回したら、リカさんと同じにおいがした。真矛は一所懸命がんばって何度も背負いなおしてくれたけど、だんだんずり落ちてきて、真矛のほうが背が低いからそのうちまるであたしが真矛のこと羽交い絞めにしてるみたいになっちゃって、 それがなんだか可笑しくて。おかげであたしはとっくに元気になってたけど、そのままあたしの家まで二人でくすくす笑いながら二人羽織みたいになって歩いて行ったの。 家に着いてカギを開けようとしたとき、ランドセルを真矛の家においてきちゃった事に気づいて、石の下を探ったけどここにもカギが無い!ママ、戻し忘れたんだ。ママは暗くなるまでお仕事している。仕方ないからまた真矛の家に戻る事にした。リカさんがそのうち帰ってくるだろうし。 さっき歩いてきた道をまた二人羽織で歩いても、さっきみたいに笑えなかった。 「真矛はおばあちゃんがいて、いいね」って言ったら、真矛が不思議そうな顔をした。「えっ? おばあちゃんはいないよ」「だって、いるじゃない、リカさんが」「リカさんは、あたしのおばあちゃんじゃないよ」「えぇ!じゃ、誰の?」 リカさんは、真矛が生まれる前から、住み込みのお手伝いさんとして、ずっとあの家にいたんだって。 「パパが言ってたけど、リカさんはママにとって、すごーく大切な人だったんだって。ママは死んじゃったけど、今はパパと私にとって、すごーく大切な人なのよ」何だかよく分からなかったけど、すごく大切な人。それだけはよく分かった。でもどっちかって言うと、真矛のほうが、リカさんにすごーく大事にされてるみたいだけど。真矛の家の森が見えてきた。 (つづく) (次のお話)
February 23, 2009
まってたよ。こえめです 友人の実夏が語る幼稚園時代の真矛とリカさんとの思い出。初めての真矛の家では、いやな思いをして泣きながら帰った実夏。次の日、真矛から声をかけられ、仲直りできてよかったね。 (前のお話) ―4― 実夏 幼稚園じゃ相変らず、彼女は表情に乏しかったけれど、二度目に行った真矛の家は、この前と打って変わって、とっても楽しかったわ。 その時はリカさんお手製のプリンを食べながら、スプーンをくわえた顔を、見合わせて笑ったり、裏庭の二人乗りブランコに乗ったり、とにかく一緒に遊べるようになったんだから。飼い猫パールのフワフワな背中にも、さわれたしね。 それ以来、あたしたちは毎日のように遊んだの。もちろん真矛の家で。だって、狭いあたしのうちじゃ、全然、面白くも何とも無いもん。ママが、たまにはうちに来て貰いなさいって言うからそうしたけど、スゴロクなんかで遊んでも、ちっとも盛り上がらなくて。 彼女の家は、とっても自由で、やりたい事はほとんど何でも、させてもらえたわ。リカさんの見ている前でなら、ナイフで木を削ったり、包丁でりんごを切ったりしてよかったんだもの。それに、どんなに騒いだって走り回ったって、リカさんは、笑っているだけで叱らないし。 お庭も家の中も、大抵の場所は入れたのよ。真矛の家を取り囲んでいる、あの、お化けが出そうな森だって、足元に光が届く所までなら、入っても良かった。うちのママだったら絶対、一歩だって許さなかったでしょうけど。 なんでも何年か前に、真夜中その森で、銀色に光ったな大きな蛇がバキバキ音を立てて人間を食べてたのを見た人がいるっていう、うわさがあったんだって。でも真矛と遊んでいるときは、いつも小鳥の声がしてたし、リスだって見たことあるわ。大蛇なんて、全然出てきそうじゃなかったけど。 もし何かあっても、大声で呼べばいつもリカさんが来てくれたし、ちょっとした虫刺され程度なら、リカさん秘伝のお薬であっという間に治っちゃうのよ。えっ? 大蛇と虫じゃ食われ方が違う?うは、本当だ。 だけど、あたしがこうして真矛の話をしているんだから 、少なくともあたし達にとっては、その森は安全だったってことじゃない? それとね、真矛の家で、もうひとつの楽しみは、何といっても、お・や・つ!食い意地が張ってるとでも何とでも、思ってくれて結構よ。だって、真矛のパパが時々帰国するとき買ってきてくれる珍しい外国のお菓子、それにもちろんリカさんが作ってくれる、魔法がかけられたみたいに美味しいお菓子。そりゃあもう、世界中探したってこんなに素晴らしいものは他に無いってくらいよ。 一度ママに、アップルパイの話をしたら、お礼にって、変な柄の、もらい物のハンカチを出されて、仕方ないから、リカさんに手渡したけど、子どもとしては、なぜかママに裏切られた気がしたのよね。それ以来ママには真矛の家のことは、あんまりしゃべらなくなっちゃった。 あたし達、小学校に入ってからも、いつも一緒だった。ほとんど姉妹みたいだったわ。その頃は、真矛もたくさん笑うようになっていた。学校が終わると、そのまま二人で手をつないで、うちの前を通り過ぎて、真矛の家に「ただいま」って入っていくの。 一緒に宿題やって、おやつ食べて。 あっ、ねぇ、広いお庭と大きな家、そこで二人っきりでかくれんぼしたら、どうなると思う?さっきも言ったけど、大抵の場所は入れたわけ。カギがかかってなければ何処でもね。 (つづく) (次のお話)おしていただきたい ランキングです
February 22, 2009
いらっしゃいませ。こえめです 真矛の家は森の中の大きなお屋敷。(前のお話)実夏と真矛は仲良く遊べるのでしょうか? ―3―あたしは目の前の、ふっくらぎっしりのパイに夢中で、ほっぺたが膨らみっぱなしだったから、真矛とは、とくに話すこともなかったけど、ときどき出されるリカさんからの質問には、首をたてか横に振ることで、返事の代わりにしたの。 「お母様はいつもおうちにいるの?」首は横。「動物、好き?」たてにうなずく。「何の動物が好きなの?」もぐもぐしながら困っていたら、真矛が「きりん!」って叫んだ。真矛のそんなに大きい声を聞いて、ちょっとビックリしたわ。だって幼稚園では物静かで、自由時間でも、スカートを花のように広げて、ひとりでお絵かきしている姿しか知らなかったんだもの。 そしたら急にさっきの、真矛のクルクルを思い出しちゃって、またあたしは、目の前のパイをさっさと平らげて帰りたくなったの。最後の一口を、かまずに呑み込んだらつっかえちゃって、苦しくって涙目になっちゃった。ジュースを飲まされ背中を叩かれしながら、思っていたのは、 なんで真矛、あたしと同じキリンが好きなのよ!もうやだ!ってこと その後、わあわあ泣きじゃくっていたあたしはまた来たときと同じように、リカさんに手を引かれて、泣きながら帰ったんだけど、玄関に向うとき、反対側の廊下の先に真っ白な猫が見えた。騒がしいからきっと、何事かと様子を見に来たのね。 猫飼ってるなら、好きな動物は猫って言えばいいのに! って、また頭にきた。うちは家が留守になることがあったから、どんなにねだっても、動物は飼ってもらえなかったのよ。 家まで歩いていくうちにあぁ、もうこれで、あの家に行くことは無いんだと思ったらせめてあの猫さわりたかったな、なんて思ったりして、どうしようもなく悲しくなって、またまた泣いた。リカさん、困ってたよねきっと。 家に着いたら、うちのママは留守だった。いくらなんでもこんなに早く帰ってくるとは、思ってなかったんだろうけど。あたしが門のかげの大きな石を、両手で転がそうとしていたら後ろからリカさんが手伝ってくれたの。また良いにおいがした。 石の下のカギを取って、玄関を開けて入るとき、リカさんが、「実夏ちゃん、また来てね」って言ってくれたので、あたし本当にホッとして、あした幼稚園で真矛をさそって、ブランコに乗ろうって、決めたの。 次の日、ひまわり色のスカートの真ん中で画用紙に真っ赤なクレヨンをグイグイ塗りたくっている真矛の前に立ったまま、その手元を見ながら、モジモジしてたら、真矛が急に手を止めて、あたしを見上げてきたの。一瞬怒られるのかと、ビクッとして固まっちゃった。 あのときの真矛の瞳、宝石みたいにきらっと光って、きれいって思った。 真矛の声がした。「ねぇ、またおうちに遊びにきて?」 すっごく嬉しかった。なんだ、本当はいい子なんだって思った。あたしって小さいときから単純だったのかな。それからちゃんと、一緒にブランコにも乗ったわよ。しかも二人乗り。 そんなわけで、あたしはまた、ママにおめかしさせられて、真矛の家に遊びに行くことになったの、迎えに来たリカさんの手をしっかりにぎって。だけど今度はピンクのリボン無しで、ポニーテールにしてもらったわ。 (つづく) (次のお話)押していただきたい ランキングです
February 20, 2009
ようこそ。こえめですちょっと変わった女の子、真矛。 彼女の家に遊びに行くことになった実夏。さあ、どんなことが起こるのでしょう。(前のお話) ―2―実夏 リカさんが森の入り口で立ち止まったので、あたしは少しほっとしたわ。それからつないでいた手を離して、スカートで手の汗をぬぐった。 五月の陽気で、小さなあたしの身体は汗ばんでいた。緊張してたのかも知れないけど。リカさんが、ポケットからハンカチを出して、おでこの汗をそっと拭いてくれたの。良いにおいがフワッとして、間近で見るリカさんは、なんだか思っていたよりずっと若かった。若いおばあちゃんなんだと思った。 「もうすぐよ」って、また手をつがれた時にはもうさっきまでの怖いって言う気持ちはすっかり消えていた。通りから入った森の細道は、思っていたより明るくて、森の木が黄緑色に光っていて、風が気持ちよくて、あたし、急にスキップしたくなっちゃったけど手を離さないでうまくスキップできるかなとか考えて……やだ、あたしったら自分のことばかり話してるごめん、真矛(まほこ)のことよね。 それから森の奥にの空き地に、大きなお屋敷があったの。洋館、って言うんだよね、ああいうの。真矛は玄関の前に立って待っててくれた。いつものむすっとした顔で。その顔を見たら、 リカさんは好きだけどこの子は嫌い、て思っちゃった。 白い襟付きの、シンプルな水色のワンピース着てた。 本当はいつもよりもっとすごいドレス姿で出てくると思っていたんだけど、はずれてがっかりしたんじゃなくて、ああ良かったって思った。 それからさっき家を出る前にママが結んでくれたピンクのリボンが眼の端にひらひら見えたからこれでやっと同じだって思った。馬鹿みたいでしょ? 全然違うのにね。 広い玄関を通って通されたリビングの豪華な食器棚の中にはうちのママがデパートで、ため息つきながら眺めていたような食器が、ずらっと並んでいて、反対側の本棚には 分厚い緑色の背表紙に、金色の外国の文字。 あたし思わず聞いちゃった、「ここって外国なの?」って。リカさんが優しい声で「こういう家、この辺りでは珍しいでしょう?」って、あたしと真矛の背中をそっと押して明るい廊下へ連れ出したの。 その時あたし、見ちゃった。真矛が頭の横に人差し指でくるくるって、うずを描いたのを! 馬鹿にされたんだと思ったら、今すぐ帰りたくなっちゃった。でも、なんていえばいいの?こんな立派な、彼女の家の中で、優しいリカさんに向ってこの子があたしを馬鹿にした、なんて言えないよ。 廊下の突き当たりのサンルームにはリカさんが焼いてくれたアップルパイが、丸いガラスケースの中でピカピカ光っていた、今思い出してみても、あれは確かに光ってたわ。 (つづく) (次のお話)こえめに愛の応援を
February 19, 2009
***『魔法の真矛ちゃん』***「 魔法の真矛ちゃん」と呼ばれる少女がいた。頭に「魔法」付けて呼ばれて喜ぶのは一体いくつまでだろう。何を隠そうこの真矛花も恥らう14歳。 ―1―あたし、実夏。よろしく。真矛の話を聞きたいんでしょ。彼女とは、幼稚園の頃からの友達なの。だからって彼女の事は誰よりも知っているってわけじゃないけど、これでも一応、彼女の一番の理解者のつもりよ。 真矛は、中学生の今でこそ変人扱いされてるけど、前からそうだったわけじゃない。可愛くて、勉強も出来たし、思ったことはちゃんと言えてそれが嫌味にならない、要するにみんなの人気者だったのよ。以前の私たちは、真矛を中心にしていつも一緒に遊んでた。私たちが一番盛り上がってたのが魔法ごっこ。 え?その話の前に、真矛のパパやママの事? いいわよ。そうねぇ、真矛のパパは、外交官でいつも留守なんだけど、何度か会ったことはあるわ。大通りの商店街を、車で信号待ちしているところとか前の道を車で通るところとか。でも、それって会ったんじゃなくて、見かけた、だよね。 ママのことも、本当はあまりよく知らないの。だって、彼女がまだ四歳のクリスマスに、列車事故に巻き込まれて死んじゃったんだって。でも、死体が見つからなかったって。何人もの人が、真矛のママが駅の改札に向ったところを見たって言うし、一緒にお買い物に出かけたお友達は、その事故で亡くなっていたし、電車に乗ったのは間違いないだろうってことになったんだって。 だけど真矛のパパは今でも、奥さんがどこかで生きているって信じてるらしいよ。そのあと、幾つもきた再婚話、写真も見ずに全部断ったんだって。ま、みんなうちの親から聞いた話だけどね。あんなにハンサムなのに勿体無いって、うちのママが言ってた。真矛のママ、美人で有名だったらしいよ。私は写真でしか見たことないけど、きっと道ですれ違えば、だれでも思わず振り返るわね。真矛はママ似なのよ。 それから真矛は、次の年の春、「リカさん」ていう若いおばあちゃんに連れられて私たちより一年遅れて、ナメタケ幼稚園に来るようになったの。 目立ってたなぁ、彼女。当事は誰も着てないようなゴージャスなレースが付いた、まるでドレスのすそだけ短くしたみたいなワンピースとか、袖が大きく膨らんだブラウスとか。とにかく普通の幼稚園児が着る服じゃないわよね。今で言うゴスロリとか多分そんな感じ。まるで生きたお人形みたいだったわ。子どもなんて単純だから、最初は珍しがって、彼女をお姫様扱い。すぐに飽きたけど。みんな子どもながらに、住む世界が違うと思ったのか、そのうち段々彼女に近寄らなくなって。 その頃の真矛は母親が亡くなって間もなかったせいかあまり喋らない子で、私もおとなしいほうだったから、あ、今笑ったでしょ。その頃は今ほどお喋りじゃなかったの! とにかく、その「リカさん」が私を彼女の遊び友達にちょうど良いと思ったのかな、うちのおばあちゃんよりは若そうなリカさんに誘われるままに、家に遊びに行くことになったの。 お姫様みたいな彼女の住む家なんて、そりゃあもう、興味津々でしょ? お互いの家が近かったっていうのも良かったのね。うちの親なんて、何だか喜んじゃって、いつもよりいい洋服着せてくれて、その日、真矛の家に遊びに行くときはあたしもちょっとしたお姫様気分だったわ。 迎えに来てくれたリカさんに手を引かれて、歩いていったの。その土地は当時のあたしにとって、暗くて怖い森、だった。 何だか怖いところに連れて行かれそうで、リカさんの手を振り切って逃げちゃおうかと思ったくらい。つないだ手が、汗ばんで滑りそうだったけど、 リカさんはそんなあたしの様子に気づかないのかどんどん進んで、とうとう森の入り口まで来てしまった。 (つづく) (次のお話へ)おうえんしてね
February 19, 2009
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