まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2018.10.13
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「半分、青い」は、
「何も成し遂げることのない人生」をひたすらに描いた物語でした。

そのことを考えると、
現在放送中の「まんぷく」とは真逆の物語であったことが分かります。

「まんぷく」は、
近代日本でもっとも成功した人物と、それを支えた人々の物語なので、
まぎれもない成功譚になることが約束されています。

それは夢が叶う物語であり、
主題歌は《ドリームズカムトゥルー》であり、
《空腹》だった人々が、最後には《満腹》になっていく物語です。

これは、NHKの朝ドラにとって、
もっとも伝統的な「成功者の一代記」です。

それが古臭くて駄目だというつもりもありませんし、
むしろ、これこそが朝ドラにとって必勝のフォーマットというべきです。

しかし、そこから振り返ると、
「半分、青い」がいかに新しかったのかが、よく見えてくる。

「半分、青い」とは、
半分だけが青空の物語であり、
けっして、すべてが青空にはならない物語であり、
しかしながら、
半分だけ青空である、ということに、
ささやかな希望をもちつづけようとする物語でした。

星野源の主題歌も、
1番が朝で、2番が夜。
光と闇が半分ずつの世界でした。



じつは、
2006年に放送された「純情きらり」も、それと似たような物語でした。

ジャズピアニストを目指しながら、その夢を果たせず、
最後には我が子すら抱くこともできずに死んでいった女性の一代記。

そこに描かれていたのも、まさしく「何も成し遂げることのない人生」でした。

当時、わたしは、
そんな物語を高視聴率のままに描き切った浅野妙子の力技に、
ひたすら感心して称賛したことを、自分で思い出しました。

  ↓もう12年前の日記ですね…。
『純情きらり』 ドラマの遺言 その2

ただし、当時のわたしは、
こんなふうに「何も成し遂げない」物語をドラマティックに描くためには、
戦中・戦後という「激動の時代」が必要だったと考えました。
そうでなければ、いくらなんでも物語の紆余曲折がのっぺりしてしまう。



ところが、今回の「半分、青い」の舞台は、
高度成長以降の、とくに大きな激動は起こらないような時代でした。

そんな時代設定であるにもかかわらず、
北川悦吏子は、浅野妙子と同じようなことをやってのけました。

つまり、時代に動きのない、のっぺりした世界のなかで、
いつまでたっても成功しない紆余曲折の物語を、
高視聴率のままに描き切ってみせた。

その力技は、浅野妙子の「純情きらり」を上回るものだったと思います。

もちろん、ドラマへの関心を持続させるためには、
脚本家自身のTwitterでの炎上商法みたいなものも、
ひとつの手段ではあったのだろうけれど、
はたしてネットの炎上商法なんてものが、
どれほど視聴率に作用するかは疑問だし、
そんなものだけじゃドラマを見続ける要因にならないと思います。

半年間、ドラマを見せ続けるための、
《けっして成就することのない紆余曲折》を、
北川悦吏子は周到に準備したうえで、執筆に臨んだはずです。
その内容についての詳細な分析は、
今後のドラマ制作者にとって、大きな課題になるはずです。



ちなみに、
今回のドラマでは、最終週に東日本大震災が描かれました。

はたして震災まで描く必要があったのかという批判もあるけれど、
大正や昭和初期の人々を描く際に戦争を避けては通れないように、
団塊ジュニア世代の人生を描く場合に、もはや震災は避けて通れません。

とはいえ、
もちろん震災前と震災後を予定調和的に描けるほど、
社会は、まだ、この経験を消化しきれていない。

したがって、
まだ震災の出来事は、
ちょろっと最終週に描くことしかできなかった。

いわば、この物語は、
何も成し遂げられずにいた団塊ジュニア世代の《希望》が、
大震災で打ち砕かれるまでの物語… だったといっていい。

そして、
その大震災で死んだ人もいれば、生き延びた人もいる。
そこまでを描いた物語でした。

そこから先に何があるのか。
これはもう、ドラマの外側の物語としかいいようがありません。

たしかに、最後には、
律と鈴愛が結ばれ、
そよかぜ扇風機の開発にもこぎつけて、
何ごとかが成就したかのようにも見えましたが、

それはけっして《成功》を意味していたのではなく、
あくまでも、ささやかな《希望》を示したにすぎません。

そうしたドラマの紆余曲折と結末をとりあげて、
「何も成し遂げていないじゃないか」「何も成功していないじゃないか」
といった批判は、ほとんど本末転倒です。

そもそも、これは「何も成し遂げることのない人生」を描いた物語ですから。



この長い物語には、
いくつかのキーになる出来事やアイテムがあったのだけれど、
そのひとつが《七夕》です。

この物語は、《七夕》に始まって、《七夕》に終わる。

かつて多くのトレンディドラマが、
「クリスマスまでに何かを成就させる物語」だったとすれば、
今回の朝ドラは、
「七夕にささやかな希望を託しつづける物語」だったといえます。

《クリスマス》から《七夕》へ。
《欧米》から《アジア》へ。
《おわりの冬》から《はじまりの夏》へ。
《成功》から《希望》へ。

この転換は、テレビドラマのフォーマットそのものの転換を象徴しています。










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最終更新日  2020.09.19 12:13:21


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