みやび

みやび

2008.03.09
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カテゴリ: 物語



「菜の花物語」

「菜の花物語2 ~ミチルとカナ~」

「菜の花物語3 ~コウキ~」





 あの日・・・

 そうだあの朝、どうしてもあのセーターを着たくなったんだ。

 あのセーターを着なきゃいけな気分になったんだ。

 今、思えば言葉で説明できない不思議な空気に囲まれた、そんな朝だったんだ。


 誰もが名前を聞けば、ああ!と名前を知っている全国チェーンのスーパーに勤めているコウキは、

 休みが不定だ。事務職だと言ってもそれは変わりなかった。

 土曜・日曜が決まって休めるわけではない。

 だから、その朝も確か土曜日だったが、コウキにとっては、いつものローテーションで

 回ってくる休みの一日でしかなかった。

 なんとはなしにテレビを付けてみると、いつもとは違った番組をやっているので、

 あっ、そうか今日は平日じゃないんだ、そう気がつく始末だ。

 テレビの画面は、週末のお出かけ情報なるものをやっている。

 「ふうん、もうそろそろ菜の花か。そんなところがあるんだな。こっちは」

 「なんだ、まだつぼみじゃないか、見ごろは来週ってとこかな。一人で行ってもなあ」

 一人暮らしで独り言。

 別段とりたてて予定もない。いつも休日はこうして、ただ漫然と時間が過ぎていくだけだった。

 そうだ、今日は昼間にスポーツクラブでも行くか。

 そう、重い腰をあげた時、ふと黄色いあの菜の花色と同じ色が目に入った。

 黄色キャラクターがついている。

 あ、これこの前、売れ残りっていって、無理やりおしつけられたやつだ。

 これでも着て行くか。だけど、なんか恥ずかしいな。

 だが、無意識のうちにそれを着ると、コウキはスポーツクラブへと向かった。


 コウキにとって、そんないつもと変わらない休日だったはずだ。

 だけど、スポーツクラブのフロントで、それは間違いで、特別な休日になることを知る。

 ミチルがいた。

 あの後ろ姿はいつも見慣れたスポーツウエアの姿ではないけれどわかる。

 コウキは小躍りしたい気持ちを、抑えながらその横をすり抜けようとした。

 そして、どうか不自然ではありませんようにと、柄にもなく願いながら。


 その時、ミチルの声が聞こえた。

 「わぁ~!かわいい。それ、どうしたんですか?私、ウッドストック大好きなんです。」

 コウキは、ビックリして、振り返った。

 隠そうとしても、満面の笑みがこぼれてしまう。

 コウキは言った「これ、売れ残りなんですよ。お店の。好きなんですか。」

 ミチルの声がまた聞こえた「はい。とっても好き。」

 コウキはさらに言った「私も大好きです。」


 コウキは知らない。このセーターのキャラクターがなんだかなんて。

 コウキは知らない。これから起こることを。

 でも、コウキは知っている。本能的に知っている。

 “今日”が、一生忘れられない日になるってこと。




        (いよいよ続きが つづかないような 気がする)






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Last updated  2008.03.09 21:04:52


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