映画「The Greatest」主題歌。捨て身で飛び込んだ音楽の世界で幸運なスタートを切り、成功を手に入れた。しかしそれは多くの作曲依頼をこなすことに追われ消耗する日々の始まりでもあった。彼は疑念を抱き、リフレッシュするために旅に出る。向かった先はエルサレム。ユダヤ系である自らのアイデンティティを再確認し、そして他人の考えではなく自らの考えで行動し何よりも自分自身を愛さなければならないことに気付く。オリンピックで金メダルを獲得しても故郷のケンタッキーでは黒人であるというだけで差別されることに怒りメダルを川に投げ捨て、ベトナム徴兵を拒否したためにヘビー級チャンピオンの座とプロボクサーのライセンスを剥奪されても自らをグレイトの中のグレイト「ザ・グレイテスト」と呼び戦い続け王者に返り咲いたモハメド・アリ。マイケル・マッサーから作詞の依頼を受けたリンダ・クリードは、アリの生き方とマイケル・マッサーがイスラエルで得た考えを重ね合わせる。一方で、70年代前半にスタイリスティックスの「誓い(You Make Me Feel Brand New)」「You Are Everything」をはじめとするフィリーソウルの若き作詞家として成功を収めた彼女は、この直前に当時まだ20代で乳癌を告知される。残り少ないかもしれない人生への決意、あるいは残していく家族へのメッセージとも読み取れる。
1984年。アリスタ・レコードは契約した大型新人を業界関係者にお披露目するためのライブを拠点とするニューヨークでおこなう。そこに招かれたマイケル・マッサーは、自らが作った曲を耳にする。ホイットニー・ヒューストンが歌う「The Greatest Love Of All」に強い感銘を受けプロデュースを引き受ける。新人ホイットニー・ヒューストンのバージョン(The の取れた)「Greatest Love Of All」は、彼が手がけた中で最大のヒット曲となる。ホイットニーのミュージックビデオの舞台はニューヨーク、ハーレムにあるアポロ・シアター。黒人ミュージシャン(特にNY郊外と言っていいニュージャージー州出身のホイットニーにとっては)憧れの舞台。スターとしてその舞台に立った現在のホイットニーが夢に向かって走っていた幼い頃を回想するという筋書き。実の母親であるシシー・ヒューストンが温かく見守る母親役を演じている。
5.Saving All My Love For You (すべてをあなたに) / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. (1978) → Whitney Houston (1985) 作詞:Gerry Goffin レーベル:Columbia→Arista
60年代に人気を博した5人組男女混合コーラスグループ、フィフス・ディメンションから夫婦そろって脱退したマリリン・マックーとビリー・デイビス・ジュニアのデュオに提供した、ジャズの要素の強い曲。しかし脚光を浴びたのは1985年のホイットニー・ヒューストンのカバー。この曲から7曲連続ビルボード1位という快進撃となる。家族のいる男性との不倫を歌うには35歳のマリリン・マックーよりも22歳のホイットニーの方が当然インパクトがあるのだが、イメージ悪化という親族の懸念を跳ね飛ばすほどのホイットニーの歌唱(グラミー賞 Best Female Pop Vocal Performance 部門を受賞)が、この流麗なメロディーを不朽のものとした。
6.Some Changes Are For Good / Dionne Warwick (1981) 作詞:Carole Bayer Sager レーベル:Arista
8.Hold Me / Teddy Pendergrass (duet with Whitney Houston) (1984, 1985) ← "In Your Arms" / Diana Ross (1982) 作詞:Linda Creed レーベル:"In Your Arms" / RCA, "Hold Me" / Asylum→Arista
9.You're Still My Man / Whitney Houston (1987) 作詞:Gerry Goffin レーベル:Arista
デビュー・アルバム『Whitney Houston(そよ風の贈りもの)』では10曲中もっとも多い4曲の作曲・プロデュースを担当。セカンド・アルバム『Whitney(ホイットニーII〜すてきなSomebody)』は11曲中7曲を担当したナラダ・マイケル・ウォルデンが中心となりますが、マイケル・マッサーも質の高い2曲を提供。より高い評価を受けたのは通算5曲目の1位となりグラミー賞の最優秀楽曲にノミネートされた「Didn't We Almost Have It All」ですが、個人的な好みで、シングル・カットされていないこちらを選曲。楽曲は小粒な感じだが、どこまでも伸びて行くようなホイットニーの素晴らしい歌声は彼女のレコーディング作品でのベスト。
10. Nothing Gonna Change My Love For You (変わらぬ想い) / Glenn Medeiros (1986,1987) ← George Benson (1984) 作詞:Gerry Goffin レーベル:Warner→Mercury
12. Greatest Love of All ("That's What Friends Are For : Arista Records 15th Anniversary Concert") / Whitney Houston (1990) 作詞:Linda Creed レーベル:Arista
エイズ・チャリティを兼ねたアリスタ・レコード創設15周年記念イベントにおける圧倒的な歌唱。イベント名はエイズ基金へのチャリティーとして1985年にアリスタから発売された<ディオンヌ&フレンズ>名義(ディオンヌ・ワーウィック,エルトン・ジョン,グラディス・ナイト,スティービー・ワンダー)の「That's What Friends Are For (愛のハーモニー)」に由来(ビルボード4週1位・年間1位,グラミー賞最優秀デュオ/グループ部門受賞)。(それだけの逸材だったからではあるが)周囲のお膳立てで一気に大スターになったせいか、ホイットニーのライブの出来にはムラがある。しかしそうやって手塩にかけて育てられたレーベルへの恩返しの場であり、なおかつチャリティという最高の舞台での超本気モードは圧巻。原曲にちなんで例えるならばスポーツ選手のタイトルマッチのような、抜きん出た才能を持つ若者のみが放つ輝きに満ちた(そして短い後半生を考えると、なんと儚い)7分間です。
エピローグ
リンダ・クリード…1986年4月、37歳で死去。ホイットニー「Greatest Love Of All」はアルバムが1985年、シングル・カットされたのが1986年の3月。リンダ・クリードが作詞した曲として初のビルボード1位になったのは亡くなった翌月の5月。