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2023.12.25
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カテゴリ: 報徳記を読む
鷲山恭平著「報徳開拓者 安居院義道」の現代語訳復刻版クラウドファンディング

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報徳記  巻之八 

【3】先生野州石那田村の堰を堅築す

野州河内郡(かはちごほり)石那田(いしなだ)村は公料(こうれう)にして、隣村徳次郎村は宇都宮領なり。
某年(それとし)に至つて徳次郎村も公料(こうれう)となる。
同村の用水は石那田(いしなだ)村の地に於(おい)て川を堰(せ)き水を引き以(もつ)て田に灌(そゝ)げり。
石那田(いしなだ)村用水も亦(また)此の堰(せき)より分水す。
年々用水足らずして互いに争ひ、徳次郎村へ順水せしむる時は石那田(いしなだ)より之を破り水を引き、徳次郎より又石那田(いしなだ)の用水を塞(ふさ)ぎ、四五月の節(せつ)に至つては、毎夜(まいよ)之が爲(ため)に家々安眠することを得ず。
兩村(りやうそん)仇讐(きうしう)の思ひをなし争論止まず。
加之(しかのみならず)一邑(いふ)中に於(おい)て互(たがひ)に水を争ひ、或(あるひ)は他の用水を塞(ふさ)ぎ己(おのれ)の田に注ぎ、彼又來(き)て之を破り、近隣怨恨(ゑんこん)忿怒(ふんど)を懷き、家業(かげふ)を怠り衰弱困苦に陥り、平年飢渇を免れず、而(しか)して訴訟争論甚し。
縣令(けんれい)之を憂ひ屡々(しばしば)此の堰を見分すといへども、一邑(いふ)をして便ならしむる時は、一村稼穡(かしょく)の道を失ふ。
是を以て至當(したう)の處置(しょち)を下すこと能はず。
縣令(けんれい)先生に問ふて曰く、
兩村(りやうそん)をして争論を止め、平穏に歸(き)せしむるの道あらんか。
先生曰く、
兩村(りやうそん)の患ひ其の本(もと)田水(でんすゐ)の不足に在り。
苟(いやし)くも田水(でんすゐ)餘(あま)りあるときは制せずと雖も必ず平穏に歸(き)せん。
豈(あに)惟(たゞ)平穏のみならん。
兩邑(りやういふ)の廢衰(すゐはい)も亦(また)是(これ)に由つて再興す可(べ)し
 と。
令大いに悦びて此の事を先生に委(まか)す。

是(これ)に於て先生徳次郎石那田(いしなだ)に至りて水理(すゐり)を熟見し、堰の高低を量(はか)り、邑(むら)の父老(ふらう)を招き古來(こらい)の事を尋問し、深く思慮を廻(めぐ)らし兩全(りやうぜん)の道を施さんとし、兩村(りやうそん)の民を諭(さと)して曰く、
數年(すうねん)水を争ひ隣村と敵讐(てきしう)の如くなるは、汝等の心に於て豈(あに)快しとせんや。
我(われ)今此(こ)の用水をして十分ならしむるの道あり。
然れども我が處置(しょち)に任ぜずんば成す事あたはず。
汝等之を欲するか、又從來(じゅうらい)の如く互(たがひ)に相争ふを欲するか。
若し汝等永安の道を求め、互(たがひ)に十分の水を得て兄弟の如く交わらんことを欲せば大幸(たいかう)なるべし。
若し我が處置(しょち)に從(したが)はず、是の如くにして年を經(へ)ば、連年衰廢(すゐはい)に歸(き)し終(つひ)に兩村(りやうそん)の亡滅に至らんこと疑ひなし。
故に官(くわん)我(われ)をして此の憂ひを除かしめんとす。
汝等の心に於て如何(いかん)。


積年用水足らずして耕耘(かううん)の力を盡(つく)すことを得ず。
是を以て是(こ)の如く困窮に陥りたり。
水を争ひ忿恨(ふんこん)を懷く者何ぞ某等(それがしら)の欲する所ならんや。
然りと雖も争はざれば忽(たちま)ち一滴の水をも得ず。
直ちに飢亡に及ばんことを歎き、已むことを得ずして多年の争論に及べり。
今兩村(りやうそん)をして用水十分ならしむるの道を成し玉はゞ、何の幸(さいはぎ)か之に如(し)かんや。
然れども舊來(きうらい)此の如きの堰(せき)にして一方の田地(でんち)を利せんとすれば忽(たちま)ち一方の田地(でんち)水を得る所なく、積年兩全(りやうぜん)の道を得ること能(あた)はず。
若し術(じゅつ)あらば願(ねがは)くは之を施し玉ふべし。
素(もと)より願ふ所なりと云ふ。
退いて互(たがひ)に其の成すべからざるを嘲(あざけ)りたり。

元來(ぐわんらい)石那田(いしなだ)の田面(でんめん)は土地至つて卑下(ひか)なり。
唯(たゞ)分水口(ぶんすゐぐち)の傍(かたはら)の田地(でんぢ)三反歩(たんぶ)、高地(かうち)にして水利に便ならず。
故に堰高からざれば此の田に灌(そゝ)ぐことあたはず。
堰の高きが爲(ため)に屡々(しなしば)破れて保たず。
是(これ)を以て徳次郎村年々渇水に及べり。
且(かつ)石那田の地に水を引く時は、土地卑下(ひか)なるが故に忽(たちま)ち水落て、徳次郎村に至らず。
其の難場(なんば)なること斯(かく)の如し。
先生此の事實(じじつ)を以て縣令(けんれい)に達し、然る後土功(どこう)を起こし自ら指揮して力を盡(つく)せり。
先づ堰を立(た)つるに石枠を三段に据(す)ゑ、如何(いか)なる洪水といへども破損(はそん)の憂ひなからしめ、次に徳次郎用水口に石の水門を据(す)ゑ、出水の節(せつ)といへども流水限りありて用水路破壊の害なからしめ、次に石那田(いしなだ)の分水口をも石垣を以てし、分水限りあらしめ、高地の田地(でんち)三反歩(さんたんぶ)の土を他に運搬(うんぱん)して之を卑下(ひか)ならしむること或(あるひ)は三尺(じやく)より二尺一尺に及べり。
故に舊來(きうらい)の堰の高さを減ずること三尺にして、順水せしむ。
數日(すうじつ)にして全く功を成す。
是に於(おい)て用水兩邑(りやういふ)に餘(あま)りあり。
下流(かりう)他村に潤澤(じゆんたく)す。
兩村(りやうそん)男女共に先生の深智(しんち)を感じ、永世不朽の寳(たから)を得たりと大いに悦び、年來(ねんらい)の争論忿心(ふんしん)一時に解散せり。
是より後(のち)水餘(あま)り有りて稼穡(かしょく)の道に力を盡(つく)すことを得(う)。
人心(じんしん)平和にして貧困の憂ひを免る。
又徳次郎村古來(こらい)の用水路廢棄(はいき)するあり。
是をも再興す。
長(ながさ)千有餘間(いうよけん)渇水の邑(むら)十分の田水(でんすゐ)を得、積年の憂患(いうくわん)を去り永安の道を得せしむ。
人皆感歎止まず。

或(あるひと)問て曰く、
兩村(りやうそん)用水足らずして、貧苦のみならず争奪の心盛んにして、更に推讓(すゐじやう)の道を知らず。
鶏犬(けいけん)相闘(あひたゝか)ふが如し。
先生一度(たび)手を下すに及びて積恨(せきこん)頓(とみ)に消(せう)し、互(たがひ)に分水口(ぶんすゐぐち)に板を施し、水をして己(おのれ)が邑(むら)に多く至らざらしめんとす。
何ぞ人情の向背(かうはい)是(こ)の如く速かなるや。
先生曰く、
凡そ人心の道(みち)心を害する者困窮より甚しきはなし。
飢渇の憂ひ旦夕(たんせき)にあり。
何を以て良心を存(そん)することを得ん。
兩村(りやうそん)の民素(もと)より暴(ぼう)なるに非ず
困苦の爲(ため)に相争ふに至れり。
困苦の本(もと)水の足らざるにあり、
今其の本を優(ゆた)かにす。
是れ教へを待たずして相和(あひわ)する所以(ゆゑん)なり。
然して多年水の足らざるを憂ふるもの誠に川流(せんりう)の不足なるにはあらず。
水の大いに費(つい)ゆるが故なり。
其の費(つい)ゆるところを塞(ふさ)ぎ、之を田地に注ぐのみ。
源水(げんすゐ)の増加するにあらずして兩村(りやうそん)水に飽くものは、只(たゞ)費水(ひすゐ)を止むるが故なり。
何ぞ水而已(みづのみ)ならんや。
百姓貧窮に苦しむ者も又猶(なほ)是の如し。
天下の米財空乏(くうばふ)なるには非ず。
米財あまりありといへども、大小各其の分を忘れ財を費やすが故に、常に貧困を免れず。
一旦(たん)其の分度を明らかにして其の無用の散財を止むる時は、米財餘(あま)りありて富優(ふいふ)に至ること、一度(たび)此の堰を堅築して用水十分なるが如し。
萬物(ばんぶつ)の理一にして別なるにあらず。
只(たゞ)其の處置(しょち)に依(よつ)て或(あるひ)は富盛となり或は衰貧となること、推して知るべし 
と諭(さと)せり。
或人(あるひと)先生の深智を感ず。





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最終更新日  2023.12.25 00:00:19


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