りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年07月30日
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カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ25>




「ちゃんと引継ぎしてから辞めてね。」
エロ予備校長は、あっさりと言った。

「フジサワさん、ついて行くんですねぇ~。
ホント、エライなぁ。
でも、良かったですね。
これでダンナさんは例の女とベタベタすることはないしぃ~。
やっぱ、最後は妻が強いんですよねぇ~。
あ~、私もそんなに一途になれる相手に巡り会いたいですよぉ~。」

悪魔モリタがランチを食べながら言う。
普通ついて行かないのかなぁ…。

ホントにその女とベタベタしてるんだろうか?
結局確認しなかった。
正直、サトシが外で何してても、
もうどうでも良くなっていた。
多分聞いても不機嫌になるだけ。

でも、私だって他の男に気持ちが行ってる。
だから確認できないのかもしれない。
お互い別れ話なんて空気も無く、
老夫婦かのように平和に暮らしてる。
変なんだろうか?

「モリタさん、一応結婚してるじゃないですか~。
それならいっそ離婚しちゃえば?」

もう辞めちゃうからいいかと、
私は思ったことを口に出す。

「え~。だって、離婚しちゃったりしたら、ダンナ可哀想じゃないですかぁ~。」

浮気するのは可哀想じゃないのか?
あはは。と私は力無く笑う。

「でも、そうなんですよねぇ~。
もしも、他に本気になった人ができたら、私そういうの考えちゃうかも。
まあ、今のとこ、
そこまで思わせる男が現れてないってことですよぉ~。」

あはは!と楽しそうにモリタさんが笑う。
モリタさんは元彼と合コンで知り合った彼と、3股をかけている。
あ、こないだもう一人増えたかもしれない。
すごいな…。
彼女はこれからどうなって行くんだろう。
気になるけど、友達として付き合って行くことは無いだろう。

でも、羨ましかった。とても。
自分の欲望に素直なこの人が。
そんなふうにして生きていても、憎めないこの人が。

結局引き継ぎは引越しの直前まですることになった。
最後の日、
私はヨシカワの店に向かった。

「いらっしゃい。あれ?花束なんか持って、どうしたの?」

「仕事最終日なの。今、送別会の帰り。
週末引越すんだ。」

私の言葉にヨシカワが固まる。

「え、あ…。そっか。そうなんだ。」

これで良かったんだと思う。
だって今日、二人きりになったら、
私は何を言い出すかわからない。
ワザと店がやってる時間に最近行っていたのも、そのせいだった。

「ええとね、コレ。」

私は、ヨシカワに包みを渡す。

「シュウさん、来月、誕生日って言ってたよね?
お別れと併せて、ほんの気持ちです。」

何を渡したらいいのかわからなくて、サイフにした。
ボロボロになってたから。
それと、チョコレート。
もうすぐバレンタインデーだった。

「ありがとう…
悪いな。本当は餞別に俺が何か渡したいくらいなのに。」

そう言って、袋の中を覗いていた。

「じゃあさ、せめて今日はここのモノ奢らせてよ。
何飲んでもいいし、ツマミも好きなもの頼んでって。」

「いいの?!うん、じゃあそうするね!」

私は大袈裟に喜んで、
好きなものを頼んで飲んで食べた。
ここを離れるのが名残惜しくて、
ついゆっくりカクテルを飲むと、
次はコレも飲んでみなよ。って、
ヨシカワが次々とカクテルを作る。

「酔っぱらっちゃうよ。もうストップで!」

私がとうとう音をあげた。

グラスを下げながら、ヨシカワが顔を近づけて、小声で言った。

「今日早くラストオーダーにするから、最後までいて。」

他の客のテーブルに、
すみません、今日は早目に閉めちゃうんで~
そう告げて、ラストオーダーを聞きに行く。

そんなことをされると帰るに帰れなくなってしまう。
でも、心のどこかで、
ヨシカワと二人きりになれることが嬉しかった。
やっぱり、ちゃんと二人で話したかった。

入口の看板をcloseにして、
一人一人会計を済ませると、店に二人だけになった。
ヨシカワはタバコを吸った。

「なんだよ。
もっと早く言ってくれれば良かったのに。」

「だって、言ったら、お別れっぽくてイヤじゃない?」

「でも不意打ちはないだろ?
お陰で仕事が手につかなくなった。」

仕事が手につかない?

そんなこと言われるなんて思わなかった。
このままさよならするだけだと思ってたから。
ただ、ヨシカワの顔をもう一度見ておきたかっただけだったから。

「ごめんね…」

それしか言えない。
言葉がみつからない。
何か笑えることでも言えればいいのに…。

二人きりになってしまったら、心臓が音をたて始めたのがわかった。
コレはカクテルの酔いのせいなのか。

ヨシカワがカウンターから出てきて、後ろに立つ。
振り向けない。
顔を見たら、何か言ってしまいそうで。
カウンターを眺める。

「こんなの無いよ…。」

ヨシカワが、私の後ろから、カウンターテーブルに手をついた。
耳元に声といっしょに息がかかる。
タバコの香りがする。
心臓の音がする。

本当にこんなの無いよ。

私はサトシと結婚しなければこの土地には来てなくて、
ヨシカワは奥さんと別居してなければ、
私に声をかけることも無かった。

皮肉な出会い。

そして、
出会っちゃいけなかったのに、
出会ってしまって、
来たらいけなかったのに、
来てしまった。

どうしても、会いたかった。

ヨシカワがギュッと、私を後ろから抱き締めた。

私がずっとこらえていた想いを、
この人もずっと持っていたの?

嬉しいけど、悲しくて、
涙が出てきた。

抱き締める腕に手を重ねる。

私も貴方が好き。

ヨシカワの手が私の頬を包んで、
唇が触れた。
ゆっくり、ゆっくりとキスをする。

ダメだと思った。
心を持って行かれてるのに、体まで許したら、
私はもう戻れなくなってしまう。

結婚と言う現実を知ってしまった私に、
恋の行方を知ってしまった私に、
こんなことが起こるなんて。

怖いと思った。

なのに、体は動けなくて、
彼の舌を受け入れてしまっている。
体が痺れて、
もっと彼を欲しくなってしまっている。

ようやく唇が離れた時には、
ヨシカワの腕に強く抱き締められていた。

このまま、もうずっとこのままでいたい。

そう思うのに、
そうしたいのに、

口から出たのは全く違う言葉だった。

「ごめんね…。」

ヨシカワは返事の代わりに、私の髪を撫でていた。
ずっと。

「もしもさ…」

ヨシカワの声が私の頭の上で聞こえる。

「もしも、俺がずっとこのまま結婚しなくて、
ユナがバーサンになって、独りになったとしたら、
そしたら、ここを訪ねて来いよ。
そしたら…」

そこで言葉が止まった。

「そしたら…?」

ヨシカワの御伽噺の言葉の続きを促す。

「そしたら、いっしょに老人ホームにでも入ろ。」

私は悲しくて涙が止まらないのに笑った。
ようやく笑ったって顔をして、
ホッとしたようにヨシカワも笑顔を見せた。
そして、私の涙を拭う。

淋しそうな笑顔。

私はウン、って頷いた。
そしてもう一度抱き合った。

これで良かったんだと思った。

さよなら…。

その週末、私はこの街から引越した。






続きはまた明日

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最終更新日  2009年07月31日 22時47分37秒
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