りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月13日
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カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ36>



そろそろランチが終わる時間を見計らって、
ヨシカワの店に行くことにした。

駅前がずいぶん開発されていたことに驚いたので、
とても心配になっていた。
店は、やってるだろうか?
ヨシカワはいるのだろうか?

OPENとランチメニューの看板が出ていた。
あのままだ。
店はそのまま残っている。
えいっ!って気持ちでドアを開けた。

料理を作っていたヨシカワが、
いらっしゃ…
で、一瞬止まる。

バイトの子がヨシカワを怪訝そうに見た。

「こんにちは。」
私はカウンターに座る。

「久しぶりじゃん。
どうしたの?」

明らかに狼狽してるけど、自然になるよう話しかけてる気がした。
ちょっと痩せたかな…。
でも、変わってなかった。
私はどう思われているだろう?

昨日は健康センターに泊まったし、
かなりボロボロかも…。
今更そんなことが気になる。

「近くまで来たから。」

とりあえずそう言っておいた。
何てことは無いというように笑顔を作ったけど、
ぎこちなかったかもしれない。
ランチのAを頼む。

客は昼はこの辺のサラリーマンやOLが多いらしく、
食べたらすぐに席を立った。
2時にはカウンターの私と女の子が二人席にいるだけになった。

「あっちゃん、もう大丈夫だよ。
後は俺だけで何とかなるから。」

ヨシカワが男の子に声をかける。
あっちゃんと言われた高校生か大学生位に見える男の子が、
じゃあ。ってお辞儀して店から出て行った。
看板をcloseにしたらしく、
もう店には誰も入ってこない。

「お昼にはバイトくんがいるんだ?
知らなかったよ。」

私はヨシカワに言った。

「夜しか来たことなかったもんね?
友達の洋服屋で働いてる子。
昼だけうちに手伝いに来ることになってんだ。」

どんな雇用契約がされてるのか興味深いことを言う。
ホントは、まかないをここで食べてから戻るらしいけど、
今日は彼に用事があって、
ちょうど終わったらすぐ帰ることになっていたらしい。

私は食後のコーヒーをゆっくりと一口ずつ飲んだ。

最後の女の子たちが会計を払う。
なので、ようやくヨシカワと二人きりになれた。

「さて…と。
まだいれるの?」

「うん。」

ヨシカワは安心したように、片付けを済ませ、
自分の分のピラフを炒めて、
私の隣に座って食べる。

ようやく一息ついたとばかりに食後はコーヒーを淹れて、
私にもお代わりをくれた。

「近くに用事って、どこかに行くの?
それとも行ってきたのかな?」

タバコに火をつけながらヨシカワが口を開いた。

「うん、もう行ってきたよ。」

何か適当に嘘をつくべきかと思った。
ここに来たことは、ヨシカワにはあまりにも重たくて、いきなり過ぎるだろう。

でも、もうぶっちゃけるべきなのかもしれない。
で、ダメならダメで。
そうじゃないと前に進めない気がする。
独りになるにしても。

「ちょうど良かったよ。
明日から店閉めるとこだったから。
もうこの辺、会社が仕事納めでね、
誰も来ないだろうから年明けまで閉めちゃうとこだったんだ。
タイミングいいね。」

「ホント…。良かった。」

私はこの偶然にホッとしていた。
明日だったら、この店は閉まってたんだ。
そしたら、私はどうしていたんだろう?

顔を上げたら、ヨシカワの顔が近くにあって、
唇が触れた。
そのままキスされて、
ヨシカワに舌を吸われると、気が遠くなりそうになった。

彼の腕の中にすっぽりとくるまれると、
緊張していた気持ちが和らいでいくのがわかった。

ずっとこの腕を想っていた。
この腕に抱かれることを待っていた。

「どうして来たの?」

「会いたかったから。」

力が一層こもった気がした。

「おいで。」

ヨシカワは店を閉めると、店が入ってる雑居ビルの上に私を連れていった。
ここの一室がヨシカワの家らしい。
心臓がさっきから鳴っていてうるさい。

ヨシカワは私をどうする気でいるんだろう?

考えてみれば、私はまだヨシカワの生活のことを何も知らないんだ。
さっきのバイトの子の話といい、
この家のことといい。

本当にいいんだろうか?
理想が膨らんでるかもしれないのに。

部屋の中は雑然としていて、
男の一人暮らしって空気が漂っていた。
物が少ない。
雑誌が転がってる。
でも、キレイに片付けてる方だと思った。

「あ~、さみぃ。」

ヨシカワは暖房を点けた。
コタツを指差す。

「そこ入ってなよ。
どうする?またコーヒー飲む?
って言っても、それか冷たい茶かビールしか無いけど。
あ、コーラならあるか。
ユナ…ちゃん、ビール苦手だったっけ?」

しばらく離れていたとは思えないほど、
ヨシカワとの空気が変わらなくてホッとする。

二人でもう一杯コーヒーを飲むことにした。
ヨシカワが手動のコーヒーミルで豆を挽いた。

「このコーヒー美味しいね。」

「ああ、友達が買ってきてくれたんだよ。
アレグロ・ヴィヴァーチェって店知ってる?
結構、コーヒーが好きなヤツの間では有名なんだけど。」

ヨシカワは、その店やコーヒーの話を楽しそうに語った。
豆のこととか、淹れ方とか。
ヨシカワがそんなにコーヒーにこだわってる人だなんて知らなかった。
店でも常連で知ってる人には出しているらしい。

結構、いろいろ話したりしてたはずなのに、
私はまだまだヨシカワのことで知らないことが多いだろうと思った。

「今日は何時までに帰らなきゃいけないの?」

「うん…?適当に…。」

何も考えてなかった。
夜になったらまた健康ランドに行けばいいかと思ってた。
怖いけど。
着替えはさっき買ってコインロッカーに入れた。
家出少女ならぬ家出女だ。
今更この歳でこんなことするようになるなんてね。

「今どこに住んでるの?」

私は今住んでる所を答えた。
正確には、住んでた…か。
でも、今度は実家の方へ戻ると話した。
嘘はついてない。
実家に帰ろうと思う。

「そっか…。
結構近いとこ住んでたんだな。
まあでも、聞かないでいて良かったかも。」

「何で?」

ヨシカワは一瞬ためらった感じで、コーヒーを飲んで言った。

「会いに行っちゃってそうだったから。」









続きはまた明日

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最終更新日  2009年08月13日 21時56分58秒
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