りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月15日
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カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ38>




「人が来ないから早めに閉めちゃった。
明日から休みでラッキー。」

ヨシカワは笑顔で、重そうに手提げカバンをドサッと置いた。

「さて、どうするよ?
終電に乗るの?帰る?」

あ、聞かれてない。
ホッとしたような、聞かれてたらどう思うか聞きたかったような、
残念な気持ちと混ざり合って、
複雑な気分になった。

でも、とりあえず、今日は健康センターに泊まろうと思った。
このままここにいると、
どんどん気持ちがおかしくなる。
ズルズルひきずられて、
だらしないヤツになっちゃいそうだ。

「じゃあ、服返してくれる?」

「あれ?帰るんだ?残念。」

でも、ヨシカワはそう言って服を出そうとしない。

「この格好のがイイじゃん。
そのままでいれば?」

「ふざけて無いで返してよ。」

「返さないよ。」

笑ってたと思ったら真面目な顔になって、強引に押し倒してきた。
手首を押さえつけられて、
片手で、ボタンをはずして行く。

「泊まっていきなよ。
最後なんでしょ?」

ヨシカワの囁きが悪魔の囁きに聞こえた。

返事をしようと思うのに、
口を塞がれて、
体に触れられると何も考えられなくなってしまう。

流される。
こういうの、マズイんじゃない…?
そう思うのに力が抜けていく。
思ってた通り、ヨシカワの虜になってしまった気がする。

「ん…
帰らない…」

ヨシカワが満足そうな顔をしたのが見えた。

そのままヨシカワの体に抱かれて、気付くと朝になっていた。
起きると何だか妙に不安な気持ちに包まれた。
本当に私、独りになれるんだろうか?

やっぱり別れたくない。
まだ離れたくない。

そう思うと、まだキチンとしてないのに、
ここに来てしまったことを後悔しないではいられない。
かと言って今更、
やっぱりヨシカワの側にずっといさせて欲しいって、
言って受け入れてもらえるんだろうか?

最後だから、あんなことしたんじゃないのかな…
そんな気持ちが強い。

ヨシカワの気持ちを確かめたいのに、自分で言った言葉で、
自分で首を絞めているような状態。
訂正したら、どうなるんだろう…。

ヨシカワの顔を眺めていたら、
眠そうに目を開けた。

「ん…今…何時?」

「え?えっと10時15分。」

「あ~何かイイ抱き枕があったから、良く眠れた。」

ヨシカワは私を後ろから抱き締める。

「ねえ、今日はいつ帰っちゃうの?」

嫌なこと言うなぁ…。
そんなことつい思ってしまう。

「今日から休みだから送ってってあげるよ。」

本気で言ってるんだろうか?

「いい。一人で帰れるから。」

「そっかぁ。ふーん。」

ヨシカワは起きてTシャツを着ると、
ハラ減ったぁ~と言ってお湯を沸かし始めた。
私はその様子をついボンヤリ見てしまう。

朝ご飯にトーストを焼いてもらって、
コーヒーも淹れてくれた。

「ね、まだいいならバッティングセンター行こうよ!」

何となくヨシカワが楽しそうに見えた。
服もようやく返してもらえた。

着ると、やっぱ実家に帰らなきゃいけないんだよなぁ…
って、名残惜しい気持ちになった。

まあいいか。今日一日位楽しんでも。

以前と同じように遊びまくったら、
やっぱり楽しかった。
日が落ちるにつれて、離れるのが嫌になる。
事情を話せば、置いてくれないかな…。
そんなことを思う。

久しぶりに外で飲みたいとヨシカワが言うので、
初めて会った日に行った居酒屋に行った。

すごく懐かしくて、
あの頃に戻ったみたいなのに、
密着する距離が違う。
話してることは似たようなことだったりするのに、
楽しくて、時間だけが過ぎて行く。
実家に行くなら、もうそろそろ出ないといけない。

でも、まだもう少し、
もう少しだけヨシカワといたい。
そう思うと、
今夜も健康センターに泊まって、
朝に実家へ行けばいいかな…って思った。

「そろそろ行かないと。」

私が言った。

「そっか。じゃあ駅まで送るよ。」

「え?ここでいいよ。」

「いや、最後なんでしょ?送るよ。」

もう、最後最後ってうるさいなぁ~。
やっぱりそう思ってるんだ?
だからこんなに優しいの?

ヨシカワが駅までついて来る。
うあ~。
どうしよう。
来ないで!

いやもう、意地を張らなきゃいいのか。
でもでも、何て言ったらいいんだろう?

私はちゃんとしてからまた会いたいと思ってる。
そう言えば、いいのか?
そしたら重たくない?
いや、かえって重いか?
でもでも、このまま別れていいの?
とりあえず言ってみる?
そうだよ。それが大事じゃん。

「あの…さ。」

「ね、やっぱ送ってあげるよ。
切符買ってこようか?」

ヨシカワが言う。

「いや、いい。いいから。ホント。」

いや、そうじゃなくて…
ああ、もう!
言えばいいのよ!

「ごめんなさい!
ホントは、家を出てきちゃいました。
だから、送らなくていいの。ホント。
あ、引いたよね?
うん、引くよね。
いいの、ホントに。
私重たいの嫌いだし、
でも、シュウさんに軽く付き合われちゃうのも嫌だし、
いい思い出にさせてもらいます。
だからここで帰って!」

ヨシカワがポカンとしている。

「あ、でも、私がちゃんとしたら、
またここに来るから。
その時にちゃんと付き合ってもらえるなら、付き合って下さい。
付き合って欲しいです!
ああもう、何言ってるんだか…。
それじゃあ。
それじゃあね。」

恥ずかしい。
もう逃げたい。
私は後ずさりしながら、
コインロッカーに行こうと思った。

すると、ヨシカワが私の腕を掴んで、
笑い出した。

「待ってよ…ちょっと…
ハラ痛ぇ~!」

ヨシカワがオナカを抱えて笑いだした。

「ごめん、知ってた。
昨日電話聞いちゃった。
ドコに帰ろうとしてんのかな~って思って。
オマエ何考えてんだか、わかんないんだもん。
ずーっと後ついってってやろうと思ってた。
そしたら観念するかな~って。」

「嘘!
信じらんない!
何で聞いてないフリなんてするのよ!
めちゃくちゃ意地悪じゃない!
うっわ、カッコ悪。
消えてなくなりたい!!!」

私は地面にしゃがみこんだ。

「これ位イジワルしないと気が済まないよ。
何でも勝手に決めて、
勝手にやってきて、
勝手に出て行こうとするんだから。
で?これからどこに行こうとしてたの?」

「健康センター…」

ヨシカワがまた爆笑する。

「やるねえ。
戻ってきたって、今度こそ俺に誰か相手がいたらどうすんだよ?」

「その時は…
あきらめる。
でも、老人ホームにいっしょに行くって言ったじゃない?」

「バッカじゃないの~。
今決心したんだから、俺のとこいればいいじゃん。
大体、そんなに簡単にあきらめが付くなら、今更来んなよ。」

「だって、まだちゃんと離婚できてないし、
そんなの失礼だし、
そういうの、嫌だと思ったし、
でも…」

「でも…?何?」

「あきらめられなかったんだもん。」

「早くそう言えばいいのに。」

ヨシカワが笑って私を立ち上がらせて、
ギュッと抱き締めた。

「オマエ真面目過ぎんだよ。
バカじゃねぇの。」

「もう!バカバカ言わないでよ。
だって、そういう女イヤでしょ?嫌いでしょ?
真面目だったらココにいないよ。
私は悪い女なの!」

ヨシカワがまた笑い出した。
悪い女だって!悪い女!
って、ヒーヒー笑ってる。

「イヤな男!
ムカツク!」

私がヨシカワの腕から逃れようとしたら、
痛いだろって更に強く抱き締めた。

「オマエってほんとバカ…。」

ヨシカワの息遣いが聞こえる。
温かい腕の中で、私ももう何も言えなくなって、
そのまま涙が出てきた。

ヨシカワが帰ろうって言ったので、頷いた。

何とかなるよ。
何とかするから。

ヨシカワがそう呟いた。
幸せ過ぎて、めまいがしそうだ。
私は思い出して、コインロッカーから荷物を出す。

ヨシカワは片手でその荷物を持って、
もう片方の手で私と手を繋いだ。

この手をもう離さなくていい?
明日目が覚めたら、夢じゃないよね?

空から雪が降ってきた。











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最終更新日  2009年08月15日 21時00分22秒
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