1
≪この人・この本・この言の葉≫ (12) 夫 婦 (一) 母衣崎 健吾 光太郎と智恵子(2) 著名な彫刻家の長男として生まれ、芸術的自立を望む父に答えられないふがいなさ、新芸術を標榜しながら、父を超えられない焦燥のなか、智恵子との出会いが、芸術家・彫刻家としての光太郎の運命を切り開くことになる。 私にはあなたがある あなたがある そしてあなたの内には大きな愛の世界があります 私は人から離れて孤独になりながら あなたを通じて再び人類の生きた気息に接します すべてから脱却して ただあなたに向ふのです 深い、とほい人間の泉に肌をひたすのです あなたは私のために生まれたのだ 私にはあなたがある あなたがある、あなたがある 高村光太郎 『人間の泉』 退廃との決別。光太郎はそれをこの詩で高らかに宣言した。この詩の本意に触れたときから、その高潔な精神は僕にはなくてはならないものになった。それ以来、この詩は、孤独に沈むとき、居たたまれないほど悲しいとき、一人では乗り越えられないほどの壁に立ち向かうとき、恥ずかしさに打ち震えるとき、僕を励ましてくれる。『智恵子抄』を知ったのは、中学に入ってからだった。最初の読んだときは、なぜ愛する人のことを詩にするのだろう、なぜ愛する人と暮らしていて狂気になったのだろう、という疑問から抜けだせなかった。高校に入ってからも、何度も読んだが深い感銘はなかった。社会人となり成人したとき、思春期を豊かにし、僕の心の支えになってくれた最良の友を失った。 希望から絶望へ、歓喜から悲嘆へ、僕の人生は大きく旋回した。絶望の闇のなかで、母の声を聞いた。《死んではいけない、愛するのです》その声に励まされ、中学の頃から乱読した本を一冊一冊精読した。その内の一冊が『智恵子抄』だった。 詩の一編一編が新鮮だった。どうしてこれまで疎んじていたのか信じられなかった。詩に込められた光太郎の智恵子への深く、清らかな愛の全景をはっきりと合点した。『人間の泉』は光太郎・智恵子にとって、一緒に暮らす決定的動機となる犬吠崎、それに続く上高地行に先立つ大正二年三月に発表された。『智恵子抄』のなかで、ひときわ光輝く一編である
2007年11月13日
閲覧総数 165
2
青空 (27) ラケットを振り上げ君は叫びたり〖青春の日々よありがとう〗きのしたよしみ 撮影:日高アリサ
2019年06月19日
閲覧総数 17