のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2006.01.08
XML
異邦人改版
アルベール・カミュ(窪田啓作訳)『異邦人』
Albert Camus, L'Etranger
~新潮文庫~

 ずいぶん内容に立ち入ってます。特に文字色も変えていません。また、感想のところでは、いくつか引用もしています。

 ある日、ムルソーのもとに電報が届く。養老院から、彼の母親の死を知らせるものだった。
 暑い日だった。ムルソーは、バスに乗り養老院へ向かい、通夜と葬儀をすませる。彼は母親を見ようとせず、死に際して涙も見せず、母親の年齢も知らなかった。母親を養老院に入れたのは、看護をつけてあげるだけのお金がなかったからだが、そこで母親には仲の良い友人ができたようだった。「許婚」と呼ばれていたというトマ・ペレも、葬儀に立ち会った。
 翌日、ムルソーは女友達のマリイ・カルドナと海水浴を楽しみ、映画を観にいく。その日、二人は関係を持った。
 ムルソーが住むアパルトマンで、彼と話をする人物は二人。皮膚病を患った犬と暮らし、その犬をよく罵っているサラマノ老人。ある日犬がいなくなると、老人はあわてていた。
 また、レエモンとも友人となる。レエモンは、囲っていた女性に裏切られたという話を聞かせてくれた。その兄とけんかをしたことも。彼は、ムルソーに、女性を「懲らしめる」手紙を書くように求めた。やがて、レエモンと女性は大喧嘩し、警察沙汰になるほどだった。
 ある日、ムルソー、マリイ、レエモンは、レエモンの友人マソンの別荘へと遊びに行った。別荘は海辺にあり、彼らは海水浴を楽しむのだが、その道中、レエモンともめていた男-アラビア人-たちと出会う。アラビア人たちは海辺にまでやってきて、レエモンたちは彼らと争うことになる。いったん、レエモンが傷つけられた時点で事はすんだのだが、その際レエモンから拳銃を預かっていたムルソーが一人で散歩に出ると、再びアラビア人と出会った。陽の光が、肌を焼くようだった。ムルソーはアラビア人を撃ち、少し間をおいて、横になったアラビア人に4発銃弾を撃ち込んだ。

 以上、第一部のあらすじを細かく書いてみました。第二部では、ムルソーの刑務所生活、裁判の様子が描かれています。背表紙にも書いてありますが、動機を聞かれたムルソーが、太陽のせいです、と答えるのもここです。
 さて、物語はムルソーの一人称で語られます。数年前に本書を買い、読もうとしたときは、 20頁くらいで挫折していました。読ませない小説だ、と感じていたのですが、これが案外面白く読めました。やっぱり、月日が経つといろいろ変わるものですね。
 面白かったのは、いろんなことに理由がつけられていること。その理由が、あってもなくてもよさそうなものだということ。たとえば、レエモンから手紙を代筆することを頼まれ、手紙を書くときに、「私は手紙を書いた。多少いい加減なところもあったが、それでも、レエモンに満足を与えるように努力した。というのは、彼に満足させないという理由は、別になかったからだ」 (36頁)とあります。以前に挫折したときは、多分ここまで読めなかった(母親の葬儀のあたりで挫折したように思います)とはいえ、こういう描写を以前は読みづらいと思い、いまは面白いと思えるようになっている、ということでしょう。
それから面白かったのは、マリイから結婚してほしいと言われたとき、「それはどっちでもいいことだが、マリイの方でそう望むのなら、結婚してもいい」と答え、彼女から自分を愛しているかと尋ねられると、「それには何の意味もないが、恐らくは君を愛してはいないだろう」と答えている場面です(46頁)。(39頁にも同じような会話があります)マリイが、こういうムルソーの面白いところが好きだが、それと同じ理由で嫌いになるかも知れないと言うところが、印象深かったです。
 刑務所に入ったムルソーは、自分の部屋の細部を思い出すという時間の過ごし方を実践します。家具、小物、その細部の様子など、それは細かく思い出すのです。また引用ですが、「そして、このとき私は、たった一日だけしか生活しなかった人間でも、優に百年は刑務所で生きてゆかれる、ということがわかった。そのひとは、退屈しないで済むだけ、たっぷり思い出をたくわえているだろう。ある意味では、それは一つの強みだった」 (85頁)というところも、印象に残っています。
 有栖川有栖さんがその作中人物に言わしめているように、本書の書き出し「今日、ママンが死んだ」というのは、(ここは文字色を変えましょう) ある人は「痺れたわ」と言い、またある人は「その一文だけで、何やらぐらぐらと不安定な気持ちになりかける」というくらいの (ここまで)、それはネタになる一文だと思います。これはもう、訳者の業績でしょう。母親でもなく、お母さんでもなく、「ママン」という訳語を採用したのは。
 さて、なかなか読まない古典なので、内容も感想も長めに書いてみました。なにより、挫折せずに読了できたことが嬉しいですし、さらに楽しめたので、本当によかったです。

(追記)
画像(アフィリエイト)は改版ですが、私が読んだのは旧版です。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.01.08 10:50:06
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: