のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2006.11.26
XML

筒井康隆『時をかける少女』
~角川文庫、2002年(初版、1976年)~

 中編(?)の表題作他、二つの短編が収録された作品集です。以下、それぞれの内容紹介と感想を。

「時をかける少女」
 ある日の放課後。仲の良い深町一夫、朝倉吾郎と三人で理科室の掃除をしていた芳山和子が理科実験室に掃除道具を片付けに行くと、不審な物音が聞こえた。おそるおそる実験室に入ると、ガシャーンとガラスの割れる音がした。机の上に並べてあった試験管の一本が床に落ちて割れており、そこから白い湯気のようなものがたっていた。何者かの影を見たにもかかわらず、結局誰かが部屋から外に出たのを確認していないのに、そこには誰もいなくなっていた。
 それから和子は、体がふわふわと浮いてしまうような、奇妙な感覚を感じるようになる。そして、実験室の事件から数日後の夜、地震が起きた。間もなく、朝倉吾郎の家の隣家で火事が起こる。その火事の現場で、吾郎を心配して見に行った和子は、吾郎と一夫に出会っていた。
 翌朝。地震や火事のことで寝坊してしまった和子は、横断歩道のところで同じく寝坊したらしい吾郎と出会う。そして信号が変わり、急いで二人が渡ろうとしたとき、そこに暴走トラックが突っ込んできて……。
 気付いたら、和子は自室での眠りから覚めたところだった。学校への時間は間に合う。朝のトラックのことは夢と考え、学校へ行った和子が、一夫に昨夜の火事の話をすると、一夫は火事など知らないという。吾郎も火事のことを知らなかった。違和感を感じ始めた和子が決定的に異変に気付いたのは、数学の教師が昨日やった問題を授業中に出したときである。友達に確認すると、それは、その夜に火事が起こったはずの日であった。
   *
 そして、和子さんは、自分に起こっている奇妙な現象を一夫くんたちや理科教師の福島先生と相談し、実験室の事件があった日に戻ることにします。そこで、奇妙な薬を作った人物と出会い、彼女に奇妙な現象が起こるのをやめさせるためです。
 異なる時間に戻ると、その同じ時間に自分が二人いることになるのではないか。疑問に思いながら読みましたが、もちろんそのあたりのことはすぐに解説されました。
 タイトルは聞いたことがありましたが、初めて読みました。とても面白かったです。意外な「犯人」との会話にも泣きそうになりましたし、そしてそれを受けたラストシーンも素敵でした。思い返すとうるっときてしまいます。
 登場人物でいえば、福島先生がかっこよかったです。

「悪夢の正体」
 友人の森本文一の家に遊びに行った昌子は、かつて、その文一の部屋で「怖い」ものを見たことを思い出し、不安にかられる。その「怖い」ものを片付けたという文一の部屋に入るところで、昌子は文一に「怖いもの」で驚かされてしまう。
 昌子の弟も、恐がりだった。夜のトイレにははさみを持った女がいると信じて、夜トイレに行くことができない。あることがきっかけでそれを克服した後は、廊下に血まみれのクビが落ちていると訴えることがあった。
 自分の恐怖心(文一の部屋で見た「怖いもの」や高所恐怖症)にも原因があると考えた昌子は、その恐怖の正体がなんなのか突き止めようと行動する。その過程の中で、彼女は弟の恐怖心も解消することに成功する。
 彼女自身の恐怖心の源は、6歳頃まで住んでいたいなかでの体験に原因があるらしい。気付いた昌子は、文一とともにいなかを訪れる。
   *
 表題作の温かいラストの後だったので、恐怖心を描いた本作の最初の方は、少し怖いと感じながら読みました。恐怖心の原因を探っていって、それを解決することで、いまの恐怖心を解消するというのは、フロイトの活躍などを連想しました。そうそううまくいくものでもないと思っていますが、それはさておいても、恐怖心の原因を探っていくという冒険的な要素はわくわくします。どこか、ミステリの謎解きと通じるものがありますし。弟の恐怖心の原因を暴く過程も面白かったです。
 少し感じたのは、あらゆる恐怖心に、本作のようになにかしらの原因があり、しかしその原因は無意識下に抑圧されていたらどうだろう、ということ。私も高所恐怖症などの傾向がありますが、それらに幼少時の体験が影響しているとすると、とてもその体験のことを考えたくないというか、その体験を思い出してしまったらすごく怖いだろう、と思ったのでした。そんな想像も交えながら読んだので、基本的に怖いと感じながら読み進めたのでした。
 クライマックスも怖いですが、ラストは温かいです。

「果てしなき多元宇宙」
 帰りがけの道でよく出会う他校の不良学生。彼らに怒りを抱いていた暢子が、少し憧れていた史郎と、そこを通ることがあった。そのときも、不良学生たちが待ちかまえていて、暢子たちを中傷し、史郎に殴りかかったりするが、史郎は決して抵抗しようとしなかった。ケンカするのはよくないと分かっていても、それでもそんな史郎に対して暢子は不満を感じた。……帰宅して、史郎に謝ろうと電話しようとした矢先、暢子はパラレルワールドに飛んでしまう。そこでの史郎は、今までの世界の史郎ほど頭はよくなかったが、力が強く、暴力的な性格だった。
   *
 多元宇宙の説明など、興味深く読みました。この手のSF作品はほとんど読まないのですが、大体その設定は、いままでに自分自身想像したりしたことがある世界です。SF的な要素はともかく、本作はどこか教訓話に通じるものがあると思いました。童話のような世界ですね。

ーーー
 「時をかける少女」が、やはり面白かったです。ふとしたときに読み返すと良いかもしれません。
 ところで、昨日風邪をひいてしまい、今日も体調はかんばしくありません。頭痛、鼻づまり、喉の痛み…。ときどき風邪をひくと、やたら慌ててしまいます。
 今日は本来、関田涙さんの『時計仕掛けのイヴ』を読むつもりでしたが、ミステリを読めるほど頭がはたらかなかったので、本作を読むことにしました。とても面白く読めたので、良かったです。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.11.26 19:21:28
コメント(4) | コメントを書く
[本の感想(た行の作家)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: