のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2007.02.02
XML
国境線は遠かった
筒井康隆『国境線は遠かった』
~集英社文庫、1978年~

 七編の短編が収録されています。以下、簡単に内容紹介と感想を。

「穴」精神科病院の医師である「俺」は、二人の患者とともに、失踪した虚言癖のある患者を捜しに行く。しかし、外で出会う人々も奇妙な人ばかりで、なんやかんやで患者の一人がパーティーで挨拶をすることになる。同行していた患者の一人は、過去に宝箱を埋めたことがあるといって、それらしい場所があると、とにかく穴を掘り始める。
   *
 冒頭から不快な気分にさせられました。一人称の人物がけっこうとんでもない言動をするからなのですが、最終的には、そうした設定が、痛烈な風刺に生きてくるように思いました。

「夜を走る」大阪の街で、タクシー運転手をつとめている男性の一人称で語られます。客を乗せるごとに、客への不満をつのらせ、心の中でひどく毒づく彼は、もともとアル中で苦しい目にあっていて、いまは医者からも酒を一切禁じられているのですが、あまりに不満がつのるので飲んでしまいます。と、ですます体で紹介までしましたが、印象に残っているのは、教師(教授)を批判する学生と運転手の会話です。話が通じないという苛立ちは、ニュースや新聞で感じていますが、自分自身を振り返る必要もあるなと常に感じます。

「たぬきの方程式」宇宙船に乗っていた一人の女性。パイロットのおれは、彼女は積み荷のたぬきが化けた女だと考えた。二人は押し問答をした上で、妥協にいたるが、果たして女はたぬきなのか、たぬきではないのか。
   *
 これは面白かったです。パイロットの上司が腹立たしいですが、その他、特にきつい風刺というのは感じませんでした。全体的に危機感が迫りつつもユーモラスな感じがあるのですが、ホラーということになるでしょうか…。

「欠陥バスの突撃」18人の乗客を乗せた欠陥バスは、全員の合意のもとで走っていた。行き先は、乗客たちがもめながらも決まっていく。乗客は、<色情><サラリーマン根性><気障><計算機>など…。彼らは、ある男性がどのように行動するかを決めていた。
   *
 読んでいてうすうす気付くのですが、多重人格というか、人間誰しもいろんな「自分」がいると思いますが、それらの「自分」に名前を与えて区別して、そのせめぎあいを描いているという感じです。蛇足のようですが、なにか行動を決めるときに悪魔と天使が囁くという図式の、複雑(より現実に近い?)なバージョンですね。かなりどたばたな物語ですが、どこか笑えない感じがあります。

「ビタミン」ビタミンAから最後まで、それぞれのビタミンに関わる記事、逸話、一言を紹介する形式です。既に読んでいる『農協 月へ行く』に収録された「ホルモン」と同じ形式です。「ビタミン」には、「ああ疲れた」(筒井康隆)という一節があり、面白かったです。

「フル・ネルソン」ひたすら会話文です。…ついていけなかったので、私には紹介できません。

「国境線は遠かった」マンションに入っているレストランで食事をしていたおれは、ヌートリア王国の王妃という女性と出会った。二人は彼女の部屋で情事にふけろうとするが、彼女の部屋の衣装ダンスは、空間のねじれでヌートリア王国と通じていた。そこから激怒した王様が現れ、おれを捕まえようとする。おれは逃れるが、国王はどんどんマンションを買い取り、ヌートリア王国の国境が広がっていく。さらに、マンションの空間はどんどん歪み、混沌としていく。
   *
 これは面白かったです。空間のねじれはともかく、国境について考察する部分が(短いですが)興味深く、その一節が全体を読むときに生きていたように思います。

   *   *   *

 「穴」は風刺がどきついですが、その他の作品は、それほど(既読の筒井さんの短編に比べ)風刺がやわらかいように感じました。「夜を走る」もなかなか鋭いですが。そのためもあるのでしょう、「穴」と「夜を走る」が特に印象に残っています。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.12.05 06:55:46
コメント(1) | コメントを書く
[本の感想(た行の作家)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 脳科学に…
のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: