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2007.04.05
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加納朋子『ガラスの麒麟』
~講談社文庫、2000年~

 6編の短編からなる、連作短編集です。以下、簡単にそれぞれの内容紹介を。

「ガラスの麒麟」2月。女子校である花沢高校の二年生、安藤麻衣子が殺された。警察は、通り魔の犯行とみて調査をはじめる。麻衣子が殺された日から、つとに私―野間の娘、直子の様子がおかしくなった。吸うはずのなかったタバコを吸ったりする彼女は、自分が安藤麻衣子だと言う。
 麻衣子の葬儀で知り合った、花沢高校の養護教諭・神野菜生子と話をする機会をもった私は、娘のことを相談した。神野は、直子の「奇行」の裏にある事実を指摘する。
「三月の兎」花沢高校に、老婦人から苦情が届いた。花沢高校では、リボンの色で生徒の学年が分かるようになっている。老婦人は、えんじ色のリボン―二年生―の生徒に駅でぶつかられ、持ち歩いていた高価な壺が割れてしまったという。直子や故・麻衣子の担任の小幡康子は、事件の知らせを緊急会議で聞いた後、自分のクラスの生徒が、老婦人にぶつかったなどと生徒が話しているのを聞き、事件のことを言いよどんでしまう。
「ダックスフントの憂鬱」大宮高志のもとに、幼なじみの三田村美弥から電話があった。二人で拾った猫―ミアが、足を傷つけているというのだ。美弥のもとにかけつけ、二人は獣医のもとへミアを連れて行った。鋭利な刃物で、足を切られているということだった。獣医は、他にも同様の事件があったという。
「鏡の国のペンギン」麻衣子の幽霊が出る―そういう噂が広まり始めた頃、トイレに落書きが書かれていた。それは、個室で振り返ると麻衣子に連れて行かれる、という内容だった。不安を感じた小幡は、養護教諭の神野のもとへ相談に行く。その頃、小幡のクラスに、とても不安定になっている生徒がいた。
「暗闇の鴉」恋人の窪田由利枝にプロポーズをした伸也は、彼女から思わない一言を聞くことになる。「私は誰とも結婚しちゃいけないの。だって、人を一人、殺しているんですもの」。6月に由利枝に届いた、安藤麻衣子からの手紙。麻衣子は既に死んでいるため、麻衣子が出したはずのない手紙。事件は、由利枝の高校時代の出来事にさかのぼる。
「お終いのネメゲトサウルス」野間は、安藤麻衣子がかいた童話『ガラスの麒麟』に、自分の絵を付して出版したいと、麻衣子の母親にお願いする。母親は、さらにもう一編の童話『お終いのネメゲトサウルス』も出版してほしいと言う。いずれの童話も、主人公は麻衣子自身を連想させた。
 母親に話を通してもらうため、たまたま出会った神野先生の力を借りた野間。二人の話は、まだ犯人がつかまっていない麻衣子の事件のことになる。そして―事態は最悪の方向へ動くのではないかと、野間は焦ることになる。

 一人の少女・安藤麻衣子と、その周辺の人々が関わるいくつかの事件。神野先生が、いわゆる探偵役なのですが、彼女自身もまた、事件の渦中にいるともいえます。これは、山口雅也さんによる解説であらためて感じたことです。
 加納さんの作品はときどき読み返したくなるのですが、本作はなかなかその候補に挙がりません。それは、この第一話が殺人事件で、より重たいものがあるからです。「より」というのは、加納さんのその他の作品は、いわゆる「日常の謎」ミステリで、殺人事件とは直接的には関わりのない謎が解決されます。その中でも、痛ましいことが描かれるからです。
 それでも、本作でもとても感動できます。それは、きれいな謎解きを読んでの感動でもありますし、物語自体の美しさ、というか。私が特に感動したのは「三月の兎」です。物語の中で明かされるタイトルの意味も、それと物語との関わりも鮮やかですし(胸が痛くもなりますが)、さらに、ラストのシーンがとても素敵なのです。一年の終わりに、生徒たちが見せてくれた感謝の気持ち。それに惑わされるものかと必死に自分に言い聞かせるところで、涙がおさえられなくなってきました。職場の休憩室で(もちろん休憩時間に!)このシーンを読んでいたので、誰か入ってきたらとちょっと焦ったとか…。
 文庫の表紙がとても素敵です。





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Last updated  2007.04.05 12:46:13
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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